【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース

家電とコンピュータの狭間で揺れるIEEE 1394


●NECがプラスチック光ファイバIEEE 1394の家庭内LANを展示

NEC NEC ちょっと古い話になるが、昨年11月のCOMDEX Fall 97のIEEE 1394ルームにひときわ目を引く展示があった。NECによるプラスチック光ファイバとIRワイヤレスを使った、IEEE 1394による家庭内LANのデモだ。ブース自体は地味なのだけれど、展示の内容はなかなかインプレッシブだった。

 IEEE 1394は、USBと異なりPCのようなホストなしで家電同士を直結できる。そこで、IEEE 1394を家電版LANに使おうという話は以前からあった。しかし、これまでのメタルケーブルベースのIEEE 1394では、電磁輻射や信号の減衰のために伝送距離が4.5mまでと限られてしまい、現実にはそういった用途には使いにくかった。そこで、プラスチック光ファイバを使ってIEEE 1394で最大70mまでの伝送を可能にしようというアプローチが浮上してきた。

 NECの展示ブースでは、壁にIEEE 1394のコンセントを埋め込み、そこにプラグを差し込むだけでホームネットワークにディジタルビデオカメラを接続できるところを展示していた。コンセントの裏にはプラスチック光ファイバのインターフェイスがあり、そこから壁の裏に張り巡らされたプラスチック光ファイバが、各部屋のIEEE 1394コンセントを結ぶというわけだ。エンドユーザーにしてみれば、壁にはごく当たり前のIEEE 1394のインターフェイスがあるだけで、プラスチック光ファイバやそのインターフェイスなどは一切意識しなくていい。

 一方、もうひとつの新技術、IRワイヤレスリンクは、部屋の中のデバイス同士を接続するという想定だ。COMDEXでは、10m離れたリンクを通じて、ディジタル動画を伝送するデモをしていた。こちらの利点は、4.5mの制約を気にせず、しかもケーブルを引き回すことなく接続できることだ。


●コンバージェンスが進む家電とコンピュータをIEEE 1394が結ぶ

 家庭内LAN構想では、電力線を使う方式とか無線を使う方式とか、いろいろな技術が名乗りを上げている。しかし、ディジタル時代のビジュアルとオーディオという話では、IEEE 1394がいちばん支持されているのは間違いがない。米国では今年から登場するディジタルTVやディジタルSTBでも、メーカーによってはIEEE 1394インターフェイスを検討しているという話がちらほら聞こえる。PCよりも、むしろ家電の世界の方がIEEE 1394に期待を寄せている風情だ。

 IEEE 1394による家庭内LAN構想で典型的な図は、リビングルームにディジタルSTBやディジタルTVがあって、それがDVDプレイヤーやデジタルカメラ、ディジタルビデオレコーダ、ディジタルステレオとつながるというものだ。もちろん、こうした家電と書斎のPCやプリンタの間もIEEE 1394が結ぶ。そして、IEEE 1394で結ばれたデバイス間で、自在にディジタルデータがやりとりされるという将来構想だ。

 米国では、コンピュータと家電(コンシューマ)、それに通信(コミュニケーション)という3つのCがひとつに重なる「コンバージェンス(収れん、Convergence)」という波への期待が盛り上がっている。ところが、コンバージェンス時代のディジタルデバイス同士を接続するとなると標準インターフェイスがない。そこへ、IEEE 1394を持ち込もうというわけだ。低コスト(NECによるとプラスチック光ファイバのコストは1mあたり10セントにまで下がるという)で長距離伝送が可能なプラスチック光ファイバと、コードレス化ができるIRワイヤレスがあれば、IEEE 1394による家庭内LANが実現できるというNECの主張は、それなりに説得力がある。

 もちろん、現実にはIEEE 1394を実装するコストやディジタルデータのコピー防止措置の問題があるわけだが、それも解決できない問題ではない。IEEE 1394コアがASICやASSPで普通に用意されるようになれば、IEEE 1394インターフェイスを実装するコストは下がる。コピー防止の問題も、電子透かし技術などで解決できる。

 現在、IEEEは、IEEE 1394.b委員会でこうした長距離版IEEE 1394の規格の策定を進めている。100Mbps~400Mbpsのプラスチック光ファイバも、ここで討議されている規格だ。しかし、IEEE 1394.bの描く将来像はまだかなり不鮮明で、部外者には状況があまり見えてこない。これには、ふたつの勢力による綱引きも関係しているらしい。実際、IEEE 1394.bは2つのグループに分かれて作業を進めている。ひとつは、ローコストで長距離伝送を可能にしようというグループで、日本の家電メーカーなどが中心になっている。コストを下げるために、プラスチック光ファイバやより対線などを使うという。一方、もうひとつのグループは、米国系PCメーカーが中心になっているという。こちらは高速化に重点を置いており、そのためにガラス光ファイバを使う予定だ。800Mbpsと1.6Gbpsの規格を策定しているが、その先の3.2Gbpsも見据えた規格にしようとしているという。

 このように、次世代IEEE 1394が2分化しているところは、IEEE 1394をかつぐ2つの文化、2つの産業の対立も反映しているようで面白い。

●PC周辺機器のIEEE 1394化はどうなる?

デバイスベイ(デスクトップ) デバイスベイ(ノート)  では、PC上のIEEE 1394はどうなるのか。米Intel社は、今年後半に投入するサウスブリッジチップPIIX6で、IEEE 1394 400Mbpsをサポートする。さらに、来年後半には800Mbpsもサポートするとウワサされている。チップセットにインテグレートされてしまえば、IEEE 1394のサポートは比較的低コストにできるようになる。しかし、IEEE1394のコネクタが装備されたとして、それにつながるデバイスはどうなるのだろう。コンバージェンス化が進む家電とのインターフェイスになるのか、それともPC用周辺機器もどんどんつくようになるのか。

 Intelの資料では、同社はパソコン内部のディスク類のインターフェイスにもIEEE1394を推進してゆくという。'99年頃には標準的なハードディスクの転送レートは、ATA 33(Ultra DMA)のレートを超えてしまうと見られており、その段階でIntelはチップセットでATA 66をサポートせず、IEEE 1394を後継インターフェイスとしようとしている。しかし、低コスト競争にされているハードディスクメーカーの多くは現状ではまだIEEE 1394への移行を積極的に表明はしていない(SeagateだけはIEEE 1394にネイティブ対応したハードディスクをCOMDEXに出展していた)。また、その他の周辺機器の動向とはさらに未知数だ。
 そこで、IEEE 1394への移行を促すキーになると見られていたのが「デバイスベイ(Device Bay)」だ。周辺機器をモジュールに収め、差し込むだけで手軽にパソコンに装着できるようにするデバイスベイでは、IEEE1394とUSBがインターフェイスとなっている。つまり、高速な周辺機器のデバイスベイの普及が進めば、自然とIEEE 1394対応も進むというわけだ。

 ところが、そこへAdaptecがIEEE 1394の推進を止めるというニュースが流れてきた。クエスチョンマークが突然ともり始めたわけだ。じつは、デバイスベイへの対応はコストがかかるため、あまり気乗りがしないという声は、この規格が発表されたころから周辺機器メーカーから出ていた。さて、IEEE 1394の展開は、どうなって行くのだろう。

□参考記事
【'97/11/21】COMDEX Fall '97レポート インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971121/comdex.htm

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('98/2/5)

[Reported by 後藤 弘茂 ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp