【コラム】 |
●Netscape身売り話は本当か?
先週後半の最大の話題は、なんと言っても米Netscape Communications社身売りのウワサ。Netscape買収のウワサはこれまでも数回流れたことがあった。今回口火を切ったのは買収関係の株情報専門のWebサイト「Wall Street Strategies」だったようで、先週水曜日には報じている。しかし、本格的にニュースとなったのはThe Wall Street Journalが木曜日にレポートしてから。同サイトで第1報となった「Netscape Considers Sale Of Whole or Part of Firm」(The Wall Street Journal,2/5、有料サイト、http://www.wsj.com/から検索)では、Netscapeが米AOL社、米Sun Microsystems社、米Oracle社、米IBM社と「重大な討議(serious discussions)」を行なっていると伝えている。
しかし、情報源はこの件に詳しい人々とあるだけで、それ以上の裏付けはまだ得ていないようだ。また、WSJのあと、各ニュースサイトもこのスクープを報じたが、どこもこれ以上の情報を得ていない。そのため、Netscapeの株価は高騰したものの、ほとんどは、このウワサを真剣に受け止めていないか、あるいはすぐに買収交渉が成立するとは見ていないようだ。「Netscape Up 17% On Rumor Co. For Sale; Few Expect Deal Soon」(The Wall Street Journal,2/5、有料サイト、http://www.wsj.com/から検索)。もっとも、「Top Execs Diminish Stake In Netscape」(COMPUTER RESELLER NEWS、2/9)は、Netscapeのトップであるジム・バーカスデールCEOとジム・クラーク会長の自社株の持ち分が昨年より減少していると伝えている。トップによる株売却をにおわせているわけだ。
●IntelのPentium II価格攻勢
米Intel社は今年中に全部で16種類のPentium IIをリリースする。こう報じているのは「Intel to make 16 kinds of Pentium II」(CNET NEWS.COM,2/6)だ。16種類という数でぎょっとなったが、キャッシュの容量やスロットの違いなどを考えると、確かに16種類ある。前からこのコラムではIntelが'98年に大攻勢に出ることを伝えてきたが、それが実感できる。また、今年のIntelの大攻勢ですごいのは、その数だけでなくアグレッシブな価格戦略だ。Intelの価格戦略は「Intel Price Cuts, New Processors Proliferate」(Computer Retail Week,1/27)や「Correction: Intel Price Cuts」(Computer Retail Week,2/4)、「Chip Chop: Processor Prices Plummet」(COMPUTER RESELLER NEWS,1/26)などがレポートしているが、これらの記事の価格情報を総合すると下のような表になる。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
400MHz | - | - | $810 | - | - | $710 | $580 |
350MHz | - | - | $610 | - | - | $510 | $415 |
333MHz | $710 | - | $570 | $480 | - | $400 | - |
300MHz | $530 | - | - | $370 | - | $300 | $200 |
266MHz | $375 | - | - | $242 | - | $195 | $155 |
233MHz | $268 | - | - | $195 | - | - | - |
266MHz(キャッシュレス版) | - | - | - | - | - | - | $150 |
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
233MHz | $193 | - | - | $130 | - | - | $105 |
200MHz | $123 | - | - | $92 | - | - | $92 |
166MHz | $95 | - | - | $92 | - | - | 終了 |
もちろん、これはIntelが正式に一般にオープンにした情報ではなく、あくまでも報道情報だが、昨秋のPentium IIをサブ1,000ドル市場に送り込むという宣言を考えると納得できる内容だ。これが本当なら、今回のIntelの価格攻勢はこれまでになく激しいものになりそうだ。
●Intelのチップセット戦略
IntelはMPUに合わせて、チップセットも強化するつもりだ。「Intel Revises Desktop Chipset Rollouts」(Electronic Buyer's News,2/9)によるともうすぐ登場する「440BX」の後には、メモリアドレス空間を2GBに拡張した「440GX」が第3四半期に登場という。また、キャッシュレスPentium II「Covington」(コード名)用の「440EX」も登場するそうだ。440EXは、これまでマザーボードメーカーなどが「440LXR」と呼んでいたチップセットだと思われる。さらに、'99年早期にはIEEE 1394インターフェイスを新しいサウスブリッジチップ「PIIX6」に取り込んだ「440JX」も出るという。ほとんどが、これまで報道されたり業界筋でウワサされていたもので、新しい要素はあまりないが、正式名称が決まったようだ。
●Intelのグラフィックスチップ戦略
また、Intelはグラフィックスチップ市場にも参入する。「Intel, 3DLabs collaborate on graphics chip」(CNET NEWS.COM,2/4)によると、同社はかねてから開発してきた3Dグラフィックスチップ「i740」を正式に2月17日に発表するという。また、ノートパソコン用のチップもやるつもりらしい。グラフィックスチップメーカーにとっては戦々恐々といったところかも知れない。ただ、3Dの性能を高めても、ゲーム以外のアプリケーションがほとんどないのも確かで、3Dグラフィックスの行方を疑問視する声もある。例えば、「Intel's i740 processor may upend 3-D graphics chip market」(Electronic Engineering Times,2/5)では、「たったふたつ(種類)の3Dアプリケーションしかない。ひとつはゲーム、もうひとつは3D Winbenchだ」というジョークを披露している。3D Winbenchばかり取っているこの業界にいると、このコメントはかなりリアリティがある。Intelが言うビジュアルコンピューティング時代が明けるには、まだ時間がかかりそうだ。
●Katmaiは2チップを1モジュールに入れたバージョンも?
しかし、Intelの攻勢は'98年で終わるわけではない。'99年にはMMX2とこれまで呼ばれてきた浮動小数点演算版のMMXを搭載した「Katmai」(コード名)が登場する。「Intel To Pack Two Processors Inside Pentium II Module」(Electronic Buyer's News,2/6)は、Intelが早くもKatmaiベースのワークステーションの推奨仕様などを明らかにし始めたことをレポートしている。そのなかで目を引くのは、Intelが2つのKatmaiチップをシングルモジュールに収めたパッケージも用意すると報じていることだ。
●ゲイツ氏、自分のクローンは欲しくないと発言
Microsoft関連の話題に行こう。Microsoftネタでは、先週紹介した米3大TVネット局のひとつABCの人気ニュース/インタビュー番組「20/20」でのビル・ゲイツ氏インタビューのトランスクリプト「The Mind of Bill Gates」(ABC,1/30)がアップされた。こういう番組のインタビューは、突っ込むというパターンではないが、コンピュータ系メディアとテイストが違っていてそれなりに面白い。「クローンを作りたいと思いませんか?」「神を信じますか?」「あなたの奥さんのことを聞かせて?」「あなたの究極の野望は?」「なにかほかの仕事をしていたあなた自身を想像できます?」といった質問が連続。それなりに笑える。ただし、司法省との裁判についての鋭い突っ込みを期待していると外れるのでご注意。
●Windows CE電話も計画中
Microsoftと言えば、Windows CE戦略をこのところ熱心に進めている。「Windows CE Grows Ears」(Windows Magazine,2/2)もその新情報のひとつ。この記事には、これまで知られていたプロジェクト以外に「Camaro」(コード名)というインターネット電話が登場する。もっとも、Windows CEの開発には、今ではWindows CE電話を試作していた米Navitel社のスタッフが加わっているのだからこれも当然の展開だろう。これもAuto PCと同様に音声コマンド制御ができるようになるらしい。
Microsoftは、相変わらず不振のオンラインサービスもテコ入れするらしい。「Microsoft to revamp Web offering」(InfoWorld,2/3)によると、従来のMSN Premierとは別のサービスとして、サーチエンジン+無料Webメールのサービス「Microsoft Start」(コード名)を始めるらしい。考えてみれば、Microsoftはつい最近、無料電子メールサービスの先駆Hotmail社の買収を発表しているわけで、こういう展開も当然かも知れない。
●Windows NT Consumer(NTC)がタイムテーブルに
Microsoftは、すでに昨年9月に開催したソフトウェア開発者向けカンファレンスPDC(Professional Developers Conference)で、Windows 98の次はコンシューマ向けOSにもWindows NTを持ってくることを明らかにした。そして、「Microsoft Plans NT Consumer Version」(COMPUTER RESELLER NEWS,2/4)では、その計画についてもう少し詳細をレポートしている。それによると、このバージョンは非公式に「Windows NT Consumer(NTC)」と呼ばれており、まだ2年かそれ以上かかるらしい。Windows 95とのコードの共通化をさらに進めたものになるようだ。
●韓国経済大ダメージの余波がこんなところにも?
ところで、先週は半導体のオリンピック「ISSCC (IEEE国際固体回路会議)」が開催され、IBMが1.1GHzの試作MPUの発表をしたり、東芝がMPEG4のデコーダを発表したりと、また盛り上がった。しかし、華やかな発表の影では、ひっそりと取り下げられた論文もあった。「Two papers pulled from ISSCC」(Electronic Engineering Times,2/6)によると、韓国LG Corporate Institute of Technologyは、予定していたワンチップHDTVデコーダの発表を取りやめたという。LGと言えば、昨年11月のCOMDEXの時にすでにHDTVデコーダを出展、業界をリードすると鼻息が荒かった。あれから何が起きたのか? もちろん、そこには韓国の厳しいリセッションがあるわけで、この“事件”もそれに関連している可能性が高い。韓国半導体産業の受けたダメージの余波は、今後いたるところに現れそうだ。
('98/2/10)
[Reported by 後藤 弘茂]