年末のお決まりネタですが、今年一年を秋葉原のパソコンショップにいる店員として振り返ってみたいと思います。
今年はパソコン業界全体が浮き沈みの激しい年でした。3月は消費税引き上げ前の駆け込み需要もあり、どの商品もよく売れました。ところが翌4月からは予想していた以上に消費が冷え込み、景気は悪くなっていきました。また商品の価格も急激に値下がりしていくものが多かったです。'97年を先に総括してしまうと、ノートパソコンの躍進と商品の値下がりが目立った年と言えます。
1月7日のLibretto50の発売をはじめとして、1年を通してよく売れた商品や、話題になった商品、値下げ幅の大きかった商品などを商品分野別に見ていきます。なお、筆者のショップではDOS/Vパソコン及びパーツが取扱商品の中心となっていますので、以下はDOS/Vパソコンについて見ていきます。また、売れ行きに関してはパソコンショップにての実績、つまりコンシューマー市場について述べています。企業向けの販売数を含めると変わるかもしれません。
年間で話題に出やすかった商品はLibrettoを筆頭としたミニノート及びサブノートと呼ばれる、基本的に小さい・軽いノートパソコンではないかと思います。
まず年が明けてすぐの1月7日にLibretto50が発売されました。これが「ノートパソコンの年 1997年」を予感させる最初の出来事でした。そして数あるノートパソコンの中で今年一年ショップの販売数が一番多く、また多くの人が注目したのが、この東芝Librettoシリーズです。
1月7日に発表されたLibretto50は、それまでのLibrettoシリーズの欠点であったCPUをPentiumにするなど大幅なパワーアップを図ったため、年初から話題をさらい、人気を集めました。在庫があればあるだけ売れる、東芝の生産が追いつかずにショップはバックオーダーを山ほど抱えるという、うれしい悲鳴を上げていました。
一貫して20万円前後という買いやすい値段だったことが1年を通じて人気があった理由ではないかと思います。また、後継機種のLibretto60、70、NTTブランドで販売されたセット商品であるLibrettoモバイルパックI、IIなどが出たのも人気の一因として挙げられるでしょう。
また東芝では、筆者のショップの販売数データを眺めていて、東芝のその他の本体が実はたくさん売れていたということに驚かされました。SatelliteシリーズやTecraシリーズ等が年間通してみるとコンスタントに売れています。表だって目立つのはLibrettoシリーズだけなのですが、ノートパソコンでは世界のシェアがNo.1という力をまざまざと見せられた気がします。
また、'97年のノートパソコンを語る上でSONYのVAIOシリーズは外せません。SONYが満を持して発売したパソコンであるVAIOシリーズは、そのオリジナリティに富んだコンセプトと魅力的なスペックにより、一気にユーザーの支持を集め、そして売れました。値段は決して安いとは言えませんが、それを補って余りある魅力があったということでしょう。SONYという会社の力をまざまざと見せつけられたような気がします。
その他のノートパソコンも比較的堅調に売れました。IBMのThinkPadシリーズは安定した人気を誇り、常に売れ筋商品になっていました。ThinkPadシリーズは製品寿命が長いのが特徴で、同じ機種が長い間売れます。製品寿命が長いということは、製品の完成度が非常に高いということでもあります。新製品が出て悔しがるということが少なく、実は一番おすすめできるノートパソコンでした。
PanasonicのLet's noteシリーズも今年前半を中心に高い人気を誇りました。今年の前半だけで見れば、販売数は一番かもしれませんが、後半やや失速した感があります。ただし、11月から出荷されたLet's note miniは人気が高く、売れ数ではLibrettoがやはり一番ではあるものの、Librettoの対抗機種としてよく売れました。
また今年は、当初は幻と言われたチャンドラノートも話題になりました。最初から通常の形で発売され、広告等をたくさん打てばもっと売れたのではと思います。日立・Caravell等というメーカーから発売されたものの、やや時期を逸した感があり、年末は投げ売りされている状況。非常に残念です。
'98年もノートパソコンが主流になっていく可能性はあります。もちろんデスクトップパソコンが売れないわけでは無いのですが、ノートパソコンはヘビーユーザーでも簡単に自作することは無いですからね(^^;('98年は自作が当たり前になるかも?)
今年はIntelのCPUもMMX Pentium、Pentium IIと2種類発表されましたが、なんといっても一番注目を集めたのがAMD K6でしょう。Intelの独占状況だったCPU市場に登場したAMD K6は発表上最速のCPUを一時的に奪い話題となり、価格と性能の両面から市場を揺さぶったと言えます。Cyrix 6x86MXも登場し、年末にはぎりぎりIDT C6も間に合いました。MMX Pentium互換CPUが非常に目立った年とも言えます。
パーツ系の販売が多い筆者のショップではAMD K6が一日の販売数トップになることも珍しくなく、自作・アップグレードユーザーへの浸透度は高かったのではないかと思います。年間の累計販売数はもちろん生産力のあるIntelが上ですが、'98年からは互換CPU時代になるかもしれないという予感を感じさせる結果で、楽しみです。
ユーザーとしては互換CPUという選択肢ができて嬉しいのですが、ショップとしては好ましくない価格競争が激しくなったのも確かです。AMDが急激にシェアを高め、メーカー製パソコンにも採用されたことが影響し、Intelは値下げ攻勢に出てきました。特にMMX Pentiumは値下がりがすごかったと思います。1月4日のMMX Pentium 200MHzの最安値が74,800円。12月20日時点の最安値が26,800円。10万以下の価格帯の商品で、1年で5万円近くも価格差が出るというのは、パソコン関連パーツくらいしか無いのでは? と思ったものです。
現在、どのタイミングでCPUを買えばいいのかわからない状況となってきており、CPU市場は混沌としています。この傾向は今後も続き、CPU市場はさらにスピードを増して進化及び値下がりしていくでしょう。
1月時点のEDO SIMM 32MB 60ns最安値が13,700円。その後18,000円前後まで値上がりしました。ところが、12月20日の最安値は5,280円。通年で振り返ってみると実に3分の1以下の価格になっているのです!
当初は1万円より下がることは無いとは思っていたのですが、今や5千円の壁を年内に破るかどうかという恐ろしい状況です。2枚買っても1万円を切るという日も近いかもしれません。
もうひとつ、'97年のメモリ市場での変化として、SDRAMの台頭が挙げられます。SDRAM対応となるチップセットばかりになり、一気にSDRAMが普及しました。こちらも値下がりがすごくて、3月末の時点で26,000円前後だったのが現在は7,000円前後。3分の1以下どころか、4分の1の価格も近づいてきました。異常とも言えるこのメモリの値下がり。どこまでいくのやら。ショップの店員としてはすでに、呆れている状態。商品の単価の値下がりを象徴する商品かもしれません。
また値下がりに影響されて売れ筋商品にも変化が出ています。SIMMは8MBと16MBの販売数が激減し、32MBばかり売れるようになりました。SDRAMは売れ筋商品が32MBから64MBに移行しつつあります。来年はSIMMとSDRAMの32MBは売れ筋から外れ、SDRAMでしかも64MBが主流となっていくのはほぼ確実ではないかと思います。
特に、AGPバスが出てきた9月以降はnVIDIAのRIVA128chipを使用したビデオカードが爆発的に売り上げが伸びていったのですが、Millenium IIは安定した売れ行きを見せていました。実際にパソコンを使うユーザーのうちビジネス用途では2Dの力が問われますから、Milleniumを選ぶのが最良の選択なのは確かです。ゲームユーザーもMilleniumプラス3D専用ボードであるVoodoo chip搭載のMonster3Dなどを選ぶわけで、結局Milleniumは強いわけでした。
それに伴う形で、CD-Rメディアの値下がりが今年の後半は目立ちました。年の初めには1枚の価格が500円前後だった記憶があるのですが、12月末時点で最安値が100円を切る状況。実に5分の1の価格になってしまいました。
[Text by AMUAMU]
■実は値下げの割合は'96年以上のメモリ市場
メモリの値下がりが話題になり、多くの人の注目を浴びたのは'96年です。'97年はメモリ価格の下落はさほど注目を集めませんでしたが、実際にはメモリの価格は急落しています。もっともメモリに関しては、値段が下がるのが当たり前という感覚になっているのかもしれません。
■AGPが登場したビデオカード
ビデオカード用の新しいバスであるAGPが登場するというビデオカード市場には大きな変革が起き、3D対応ビデオカードや3D専用のビデオカードが話題の先頭に常に立っていました。それでは一番売れたのは3D対応のビデオカードかというと、1年を通して常にトップを走っていたのは、MatroxのMilleniumシリーズです。長年王者であったMilleniumが終わり、Millenium IIが登場。しかしこの頃から3D対応のビデオカードが数多く発売され、千年王国も崩壊か? と思わせたのですが、千年王国は健在でした。
■値下がり目立つネットワーク商品
あまり表に出ないのですが、急激な値下がりが起きているのがネットワーク関連商品。ターミナルアダプタやモデムのうち1996年に発売された機種の多くが特価で出回り、一気に市場の値段を落としました。また今まで高値だったISDNルータが安く出回りました。Ethernetカードも値下がりが目立つ商品の一つかもしれません。ISAバスのネットワークカードが2,000~3,000円で販売されるとは、今年の初めには思ってもいなかった状況です。100BASE-TXのハブもカードも急激に値下がりして市場の競争は激しくなり、どこがNo.1とは言えないほど混沌としています。利益がとれるおいしい商品だったはずが今となっては……。(^^;
■CD-Rドライブの普及とメディアの値下がり
今年、急激に普及した機器といえばCD-Rドライブではないかと思います。値段も手頃な価格帯に落ちたのが何よりも普及の手助けでしょう。最初は企業やハイエンドユーザー向けと思っていた商品だったのですが、広い層に受け入れられデスクトップパソコンに標準で組み込まれるほどとなっています。
■その他の商品
その他の商品で年間通じて売れた商品を見ると次のようなものが挙げられます。
昨年末に大ヒットしたEPSON PM-700及びその後継機種のPM-750Cの一人勝ち状態が続きました。レーザープリンターに関してはキャノンが強いのですが、数が売れるのはどうしてもカラープリンターです。
飯山電気のMT-8617Eが安定した人気を誇りました。今年の後半にSONYのディスプレイの値段が下がり、MT-8617Eを一時期上回っていましたが、一年を通じて人気があったモデルであるのは確かです。
IDEの容量は3.2GBがメインとなりました。しかし、今年後半からは4GBクラスが主流となりつつあります。HDDの容量は増加の一途をたどっていますね。メーカーはどこも甲乙付けがたい状態です。SCSIは4GBクラスに完全に移行しています。その中でもIBMのHDDがいち早く値段を下げていて人気も高かったです。
SCSIカードはAdaptecのAHA-2940AU/J97が安定した人気を誇っていましたが、今年の前半はTekramのDC-390が強く、後半はDIAMONDのFirePortや一時期秋葉原の話題を独占したAbaptekことIOI TechnologyのSCSIカード等が話題とともに売れ筋商品になっています。どの商品についても共通点としてはUltraSCSIタイプが売れており、UltraWideはまだまだという感じです。
CD-ROMドライブはご存知の通り高速化の一途をたどっています。メーカーも数多くあり、どこが一番とも言えません。また人気の高い速度というのも分かりにくい商品です。100倍速CD-ROMのように面白いドライブも出てきて話題に事欠かなかったのではないでしょうか。
MOドライブは640MBのモデルが売れ筋となっています。230MBの販売数は減少の一途をたどっています。640MBへの移行はかなり進んできたのではないでしょうか。メディアも安くなってきています。
NECのAtermシリーズが独占状態です。USB対応やアナログポート3つなど、ユーザーを飽きさせないアップグレードがされており、安定した価格を保っています。それ以外の商品は投げ売りされて特価品として販売されているのが多いです。明暗がはっきりしていると言えます。
■ショップにとっての'97年
'97年は全体として厳しい年となりました。景気が悪く、商品単価も下がり、売り上げも'96年に比べて伸びない。12月になり少々回復した感がありますが、'98年は良い年となってくれる事を祈るのみです。もっとも'98年については、Windows 98やUSB機器などヒットの予感はたくさんあるので、期待したいところです。
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