●COMDEXでもっともノイジーだったCyrixブース
COMDEXメイン会場となっているコンベンションセンターの入り口正面のメインロビー。COMDEXでもっとも目立つこの場所に、今年は米Cyrix社が巨大ブースを設けた。Cyrixは昨年のCOMDEXではまともなブースは出展しなかった(直前になってキャンセルしたと業界関係者は言う)が、今年は一転、ショーステージを中心にした派手なエンターテイン型の出展となった。しかも、連日、観衆参加型のゲームで大騒ぎ。ここがCOMDEX随一のノイジーなブースだったのは間違いがない。
しかし、この派手な展開も、Cyrixの今の状況を考えれば不思議はないかも知れない。振り返ってみれば昨秋のCyrixは、次のフラッグシップ6x86MXがサンプル前、MediaGXも製品として公に姿を現す前で、攻めるに攻められない状況にあった。ところが、今年は、タマ(6x86MX、MediaGX)もあり、しかも米National Semiconductor社との合併(COMDEX期間中に完了)によって豊富な資金と生産施設が手に入るという勢いもある。派手に演出して、ここで知名度を上げようという気にもなるわけだ。
●MediaGXのリビングルームPCを展示
そして、攻めのCyrixが今回目玉として展示したのは「Cyrix Media Center」と呼ぶ、MediaGXを使ったリファレンスデザインだった。これは、低コストのリビングルームPCのサンプルで、DVDドライブを搭載し、DVDコンテンツをソフト再生(オーディオはハードウェアデコード)、ワイヤレスキーボード、3Dグラフィックス(PowerVR)、56Kモデム、TVチューナー、ビデオキャプチャ、IEEE 1394インターフェイスと機能てんこ盛り。それが、Cyrixによれば、1,500ドル以下、おそらく1,200ドル台で実現できるという。
もちろん、このコストは、グラフィックスチップやメモリコントローラをMPUに統合したMediaGXだからできること。Media CenterのMPUは、とくに表示はないが、展示員に確認したところ、じつはCyrixの次期MediaGXである「GXm」(コード名)だった。GXmというのは、従来のMediaGXにMMXを加えたもの。6x86MX(スーパースケーラ)のコアを使ったMediaGXではなく、あくまでも従来のMediaGXのシングルスケーラコアにMMXを加えたバージョンだ。Cyrixは0.35ミクロンの4層メタルレイヤ(これまでは3層だった)でこの新MediaGXを製造、200MHzから近いうちに提供してゆくという。いよいよサブ1,000ドルPCもMMX時代に入るというわけだ。
ただ、このGXmでも、3Dグラフィックス、DVDコンテンツのフルソフトウェア再生、56Kモデムなどは実現できない。そのため、COMDEXに出展したMedia Centerには、NECのPowerVR、LuxSonorのオーディオデコーダ、ESS Technologyの56Kモデムといったチップが搭載されている。そうなると、さすがにサブ1,000ドルは難しい。裸のMediaGXマシンのコストが400ドル台程度と見られることから、おそらく、Cyrixの言う1,200ドル台というのは、それにこうした高価な周辺チップを加え、メーカーのマージンを確保したものだろう。
●マルチメディア機能を強化したMXiを見据えた展開
しかし、来年の終わりか、あるいは再来年には、この構成のマシンがサブ1,000ドルで実現できるようになる可能性が高い。というのは、Cyrixは来年後半、コアを一新した次世代MediaGX「MXi(コード名)」を投入するつもりだからだ。MXiのコアは、次世代コア「Cayenne(カイエン)」で、これは6x86MXのコアを拡張しMMXユニットを強化、さらに「MMXFP」と呼ばれるMMXレジスタを使う浮動小数点命令を15個加えている。AMDと同様にひとつのMMXユニットで、32ビット単精度の浮動小数点演算を2個、同時に実行。合計4つの浮動小数点演算を1クロックで実行できる。もちろん、ターゲットとしているのは3Dグラフィックスのジオメトリパイプラインなどだ。
そして、MXiではこのCayenneコアに加え、3Dグラフィックスレンダリングハードウェア、AGPソフトウェア互換、128ビットのSDRAMインターフェイス、66MHz PCIなどを搭載するという。その結果、PowerVRのような3Dチップは必要なくなり、さらに、動き補償機能を搭載することで、DVD再生も完全にソフトウェアで、しかもフルモーションで可能になると見られる。また、MediaGXはもともとシステムメモリの一部をグラフィックスメモリとして使っているが、MXiでは、AGPのAPIを使ってダイナミックなメインメモリの割り当てもできるようになるようだ。
ただし、メモリ帯域を必要とする3D機能を取り込んだことで、メモリの帯域幅も引き上げる必要が出た。MediaGXの場合、CPUのメモリ帯域+グラフィックスチップのメモリ帯域が要求される(フレームバッファの圧縮機能はあるが)からだ。MXiの資料では最大2GB/秒以上のメモリ帯域を確保するとしているが、これを逆算すると125MHzのSDRAMか、あるいは66MHz DDR SDRAM(次世代SDRAMのひとつ)あたりを使うことになりそうだ。ちなみに、Cyrixでは、次世代メモリのひとつDDR SDRAMに対応する可能性も示唆している。
このほか、MXiでは従来のMediaGXにはなかったビデオインターフェイスがMXi本体とサウスブリッジを結んでいる。これは、サウスブリッジにRAMDACが取り込まれることを意味する可能性が高い。また、Cyrixが合併された米National Semiconductor社がスーパーI/Oの大手ということを考えると、スーパーI/Oの統合も考えられるかもしれない。ますます集積化が進むわけだ。今回のCOMDEXでのMedia Centerは、こうしたMXi時代のサブ1,000ドルPC、つまり本体価格799ドル程度のホームPCの姿を予言するものと見ていいかも知れない。
●Windows NTボックスもMediaGXで
これまでCyrixは知名度の低さからおもにホームコンシューマ市場しか狙うことができなかった。しかし、MediaGXではビジネス市場もターゲットに入れるつもりらしい。というのは、ローコストのManaged PCの市場が開く可能性があるからだ。この市場でのMediaGXの利点は、低コストとスモールフォームファクタの実現。Cyrixによると、500ドル台のWindows NTクライアントが実現できるという。すでにCyrixではMediaGXのサウスブリッジをPC 97の基準を満たすものへとバージョンアップを進めている。さらに、National Semiconductorが100Mbpsイーサネットのコアを持っていることを考えると、それを統合したサウスブリッジチップの登場の可能性もありうるかも知れない。
CyrixはMediaGXの成功で、一気に出荷数量が増えた。その勢いを持続して、これまで攻めあぐねていたビジネスデスクトップやノートも攻めるという構えだ。National Semiconductorのファブと、National Semiconductorの提携ファブを使えるようになることで、生産力が増大すれば、Compaq Computer以外の大手メーカーへの供給も出てくるかも知れない。
ただし、こうしたCyrixのMediaGXへの傾斜によって、やはり疑問が出てくるのは6x86MXタイプの単体MPUの戦略だ。6x86MXは、とりあえず、システムクロックを83MHzにしたPR300を来年前半に投入、さらにPR333もロードマップに入っているという。会場でも、6x86MXのデモをがんがんやっていた。しかし、Cayenneコアの単体プロセッサに関しては、まだアナウンスされていない。Cyrixは、今後も継続して、1,000~1,999ドルクラスの市場向けのMPUは提供し続けるというが、はたしてどれくらいの力を注いで行くのだろう? 過去にはIntelと融和的だったNational Semiconductorが、Intelと競合する市場にどこまでやる気になるのだろう? Cayenneコアの次世代MPUのアナウンスがあるまでは、まだ不鮮明だ。
□参考記事
【11/21】後藤弘茂のCOMDEX Fall '97レポート~Photo速報2~
(Cyrixブースの写真も掲載されています)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971121/comdex07.htm
【11/21】COMDEX Fall '97レポート インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971121/comdex.htm
[Reported by 後藤 弘茂]