●サブ1,000ドル向けPentium IIが登場
「来年後半には、1,000ドルPC向けのPentium IIを複数のバージョン(Versions)提供する」
米Intel社の副社長兼Desktop Products Group本部長、パトリック・P・ゲルシンガー氏は、COMDEXの際に行われた外国記者向けのグループQ&Aセッションでこう語った。これは来年のIntelのMPUロードマップを解説する際に明らかにしたもので、ローコスト市場向けに特に開発されたPentium IIを投入するという。Intelのローコスト版Pentium IIプランに関しては、すでに、1~2ヶ月前から業界関係者の間では2次キャッシュを省いたバージョンや、2次キャッシュをMPUと同じダイ(半導体本体)に統合したバージョンがウワサされていた。実際、ゲルシンガー氏も、Intelが検討しているバージョンの中に、2次キャッシュSRAMをMPUと同じダイに統合するプランが含まれていることを認めた。ただし、そのために、大容量SRAMの統合により適した製造プロセスの改変を行うかどうかは明らかにしていない。そのため、経済的なダイサイズに統合できるSRAMの量は未知数だ。Intelはプロセス技術であまりリスキーなことはしない傾向が強い(おそらく歩留まりを第1に考えているため)ことを考えると、当初は128KBから多くても256KB程度ではないだろうか。
また、ゲルシンガー氏は、ローエンド市場に向けたアプローチはMPU単体ではなく、プラットフォーム全体を見直す包括的なプログラムであることも明らかにした。
「これ(コスト削減)にはシンプルな回答はない。マザーボード、パッケージ、システムアーキテクチャ、冷却システム、電源などあらゆる要素において、コスト削減を考える必要がある。当社は、すでに、このすべてについて着手している」
となると、Intelが何らかのリファレンスを示す可能性もあるかも知れない。いずれにせよ、これで明確になったのは、Intelがこれまで重視して来なかったサブ1,000ドルPCというマーケットに注目、そこに注力し始めたことだ。ゲルシンガー氏が、Q&Aセッションの中で再三、1,000ドルPC市場へのPentium II投入を強調したことからも、これが現在のIntelにとって重要戦略であることがうかがえる。サブ1,000ドルという価格帯は、これまで米Cyrix社のMediaGXや米AMD社のK5に象徴されるような低コストx86互換MPUの食い込めるニッチとなっていた。しかし、Intelがこの市場に本腰を入れ始めたことで、x86互換MPUメーカーはこの市場でもふたたび激しい競争にさらされることになりそうだ。
ただし、Intelがターゲットにするのは999ドルPCまでで、ゲルシンガー氏は、それよりローコストなシステムは性能とコストのトレードオフで成功しないと見ていることを明らかにした。ユーザーの要求を満たすだけの性能や拡張性を実現できないという見解だ。同氏によると、'97年に999ドルPCははかなり成功したが、799ドルPCはそれほど成功しておらず、また'98年には500ドルPCが登場するだろうが、それも成功しないだろうという。また、ゲルシンガー氏は、性能や拡張性の問題から、MPUにチップセットを統合するMediaGXのようなアプローチについても否定的だった。Intelが、現状ではこうした製品を計画していないのは明らかのようだ。
●'98年後半にはオールPentium IIに
このほか、ゲルシンガー氏は、Intelの'98年のロードマップの概略も明らかにした。次のようなものだ。
'97Q3 | '97Q4 | '98Q1 | '98Q2 | |
ハイエンドサーバー | Pentium Pro | 〃 | 〃 | Pentium II (Slot 2) |
パフォーマンスデスクトップ | Pentium II | 〃 | 〃 | Pentium II (Slot 1)より高速版 |
ベーシックデスクトップ | MMX Pentium | 〃 | 〃 | Pentium IIローエンドバージョン |
モバイル | MMX Pentium | 〃 | 〃 | Pentium IIモバイルバージョン |
一目見て分かる通り、Intelは'98年はアグレッシブにPentium IIを普及させるつもりだ。まず、サーバーやハイエンドワークステーションのセグメントでは、Slot 2版のPentium IIを投入する。以前、このコーナーで紹介した通り、Slot 2は少なくとも4CPUからの高いマルチプロセッサを可能にする新スロットで、2CPU構成までの現在のSlot 1とは互換性がない。また高速なバックサイドバス(キャッシュ用バス)と512KBより大きなキャッシュサイズも提供するという。このほか、モバイルバージョンのPentium IIも投入する。
なお、ここに示した各MPUは「時期は前後するものの来年前半に発表され」「'98年後半にはすべてが登場する」という。つまり、'98年後半にはハイエンドサーバーから1,000ドルPCやノートパソコンまで、すべてのプライスポイントがPentium IIに埋め尽くされることになる。Pentium IIへのシフトが、今年前半まで予想されていたよりも、一段急激に進行することになりそうだ。おそらく、MMX Pentiumが残るのはサブノートなど、ごく一部になるだろう。
また、ゲルシンガー氏は、ホームユースでは、386から486への移行はWindowsが原動力となり、486からPentiumへの移行はマルチメディアが原動力となったが、Pentium/MMX PentiumからPentium IIの移行では、クリエイティビティが原動力となると語った。そして、その例として、イメージング、ビデオ編集、ソフトDVDなどを挙げ、来年はこれらの機能が通常のPCに入るだろうと語った。これは、Intelがこのところ提唱しているVisual Computingのビジョンが現実に見えてくるという意味でもある。
●IA-64登場で、サーバー/ワークステーション版IA-32は終了
ところで、Intelは10月のMicroprocessor Forumで、次世代命令セットアーキテクチャ「IA-64」の概要を明かしたが、ゲルシンガー氏は、それについても触れた。
「IntelはSlot 2でエンタープライズコンピューティングの分野に入る。しかし、そこにはさらに高いレベルのプラットフォームとして、メインフレームやデータウェアハウスサーバーがある。そして、この分野では64ビットと高いマルチプロセッサ構成が要求されている。それがIntelが、IA-64に力を入れる理由だ」
つまり、64ビット化とマルチプロセッサ対応に力点が置かれているIA-64は、32ビットMPUであるPentium IIではまだIntelが破れないハイエンド市場をターゲットとしたものというわけだ。そのため、IA-64系MPU「Merced」が搭載されるのは、当面はサーバーやワークステーションに限られるという。
「Mercedが登場しても、2,000ドルPCには入らない。また、少なくともあと5年はIA-64のモバイル版はないだろう。そのため、IA-32ファミリもデスクトップとモバイルでは継続される。IA-32をやめて次へジャンプするというわけではない」
また、IntelはIA-32系MPUの開発を終了する時期についてもまだ決定していないという。ただし、サーバーとワークステーション向けのIA-32系MPUの開発はストップすることを明確にした。この分野ではIA-64への移行は急速に進むと見ているという。しかし、これによって'99年からはIntelプラットフォームは2つの系列に分裂することになる。ただし、Mercedでも過去のソフト資産との互換性は保たれる。
「互換性は、ちょうど286から386への移行の際と同じだ。あの時は、386でも16ビット命令をデコードできた。同じように、IA-64プロセッサのデコーダはIA-32もデコードできる」
この例えとして、ゲルシンガー氏は、現在のP6系MPUがx86命令をいったん内部命令に変換してから実行していることをあげ、Mercedが原理的には同じような仕組みでx86命令を変換する可能性を示唆した。ただし、ゲルシンガー氏によると、MercedではIA-32とIA-64のデコードはできるが、米Hewlett Packard社の命令セットPA-RISCは、ハードウェアではデコードができないという。
「HPとは新命令セットの定義で共同作業を行ってきた」
「彼らは、我々とは異なる製品(different one)を持つことになるだろう」
つまり、IA-64の命令セットは共通だが、両社それぞれ向けのMPUは別製品となるらしい。おそらく、HP版のIA-64系MPUは、Intelが製造する場合でもIA-64とPA-RISCのデコードができるということになるのではないだろうか。ただし、これに関してはまだHPに確認はしていない。
また、ゲルシンガー氏は、「MMX2」という名前で業界では呼ばれている、IntelのMMX拡張計画についてもヒントを与えた。まだ名前も詳細も明らかにしていないとしながらも、「MMXで整数演算でしたことと同じことを、浮動小数点演算のスペースでもしようとしている」と述べた。となると基本的には、AMDのK6 3DやCyrixのCayenneと同じような方向性ということになる。ちなみに、COMDEXではある半導体メーカーの説明員が、MMX2を搭載したIntelの次世代MPUを“Pentium III”と呼んでいた。
このほか、メモリのロードマップでは、100MHzのSDRAMを'98年に、Direct RDRAMを'99年のプラットフォームでサポートすることを確認した。COMDEXでは複数の半導体メーカーがDirect RDRAMをIntelのDirect RDRAM対応チップセットのサンプルが登場する'98年中盤から後半にかけて出荷すると語っていた。時期的にも一致する。また、100MHz SDRAMで現在懸念されている互換性については、Intel内にメモリベンダーを四半期ごとに訪れるチームがあり、各メーカーとSDRAMの仕様について調整を行っていることを明らかにした。
□参考記事
【11/21】COMDEX Fall '97レポート インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971121/comdex.htm
[Reported by 後藤 弘茂]