【イベント】

後藤弘茂のCOMDEX Fall '97レポート


AMDが次期MPU「AMD-K6 3D」をCOMDEXでプレビュー!!

'97/11/17~21(現地時間)開催



●K6 3Dはいよいよサンプルチップが登場

 リアルワールドをコンピュータの箱の中に再現する。コンピュータ内のバーチャルワールドに登場するあらゆるオブジェクトが、現実世界の物質同様に物理的な属性を持ち、持ち上げて手を離せば落ちるし、叩けば壊れる。Intelに対して徹底的に攻めるしかないAMDは、次世代のMPU「AMD-K6 3D」のパワーを示すために、そんなインプレッシブなデモを用意した。

 K6 3Dは、言うまでもなくAMDが来年前半に投入する次世代K6。AMDが独自にMMXを拡張し、いよいよIntelに技術面で先んじようという野心作だ。同社は、今回COMDEXで一部の顧客とマスコミ関係者にそのサンプルチップを公開、その実力を誇示して見せた。AMDがK6 3Dのデモに用いたのは、米DreamWorks Interactive社が開発中の3Dアドベンチャゲーム「Trespasser」だ。このゲームは、映画「ロストワールド:ジェラシックパーク」の世界を舞台にしたもので、プレーヤが恐竜が出没する島を探訪するというもの。そして、これはAMDがK6 3Dに搭載した新しいMMX命令「AMD 3Dテクノロジ」を直接使う初めてのソフトのひとつとなる予定だ。

 AMD 3Dは、従来のMMX命令に新たに24個の新命令を追加したもので、1クロックで複数の浮動小数点演算を可能にする。具体的には64ビットのMMXレジスタに、32ビットの浮動小数点データ2個をパック化して格納、この2個のデータに対して演算処理を同時実行できるようにした。K6 3Dは2個のMMXユニットによる完全な並列実行が可能で、そのため最大4個の新浮動小数点演算命令の同時実行が可能だと見られている。そして、この新命令は、3Dグラフィックスのジオメトリ処理など、現在では浮動小数点演算ばかりで行われる部分を大幅に高速化できるという。

●パラダイムの異なる3Dゲームを実現

 さて、DreamWorksは、K6 3Dのこの利点を活かして、これまでになかったゲームを実現しようとしている。Trespasserでは、登場するすべての3Dオブジェクトに対してフィジックス(物理特性)が定義されたフィジックス・モデリング手法が用いられている。例えば、地面に置かれた木の箱を持ち上げて落とせば壊れるし、水面に石を落とせば自然な波紋が広がる。現実世界がそのまま、ゲームのなかに再現されている。これらのすべては、オブジェクトに設定されたフィジックスに従って起こるものだ。そのため、このゲームにはシナリオがまったくない。設定されたフィジックスの範囲なら何でも起こりうる究極のバーチャルワールドなのだ。このリアリティと自由度は、まったく新しい体験だ。

 このリアリティを実現するために、Trespasserでは基本的にテキスチャマッピングを使っていない。たとえば、木材の表面の木目の凹凸--これは、通常の3Dゲームなら木目のテクスチャを貼り付けるところだが、Trespasserではこの凹凸のひとつひとつを3Dオブジェクトで表現している。だから、木材に当たる光の向きが変われば、表面の凹凸の陰影も変わる。

 しかし、このような手法を用いたために、このゲームでは膨大なポリゴンを生成しなければならなくなってしまった。しかも、その上にフィジックスまで計算しなければならない。これらはいずれもPC用3Dグラフィックスチップによるレンダリングの高速化では対応できないため、CPUの負担が極端に大きなゲームとなる。そして、ここにK6 3Dの新しい命令が多用されているわけだ。

 COMDEXでは、AMDは、このTrespasserの開発途中のデモを、同クロックのK6 3Dのα版サンプルとPentium IIの両方のシステム上でプレイするという比較を行った。AMDが用意したデモだから当然と言えば当然だが、その結果は、一目瞭然だった。ゲームのリアリティを保つためにフレームレートを同一にしたが、そのためK6の方がゲーム画面の解像度が約2倍になり、オブジェクトの荒さには目立つほどの違いが出た。少なくとも、このα版の段階では、ゲームとして満足できるレベルのリアリティは、K6 3Dでなければ実現できないように見えた。また、このデモでは、フォギング、バイリニアフィルタリング、アルファブレンディングなどのレンダリングでのフィルタリング処理などもソフトウェアで行っていたが、これに関しても明確に差が出た。たとえば、フォギングの自然な階調表現などはK6 3Dでなければ表現できなかった。これは、K6 3DではCPUパワーに余裕ができるため、レンダリングも緻密にできるということだ。もっとも、AMDの目的はレンダリングまですべての3D処理をCPUでやることではなく、レンダリングやセットアップなどは、グラフィックスチップ側でできるだけやってもらい、K6 3D自体はよりフィジックスやジオメトリなどを強化してリッチな3Dグラフィックスを実現するする方向に向かいたいという。

●DreamWorksはAMDにとって願ってもない援軍

 AMDは、今回のデモで、K6 3Dによって実現できる新しいパラダイムを効果的に示すことに成功したと言えるだろう。MMXの拡張によって、たんに3Dグラフィックスがより高速に、より緻密になるというだけではなく、まったく次元の異なる3Dアプリケーションが実現できることを証明して見せた。しかも、それがジオメトリプロセッサなどを搭載した特殊なハイエンドPCではなく、来年には1500ドル程度で手に入る普通のPCで実現できる、ここがもっともエキサイティングな点だろう。

 また、このデモでは、AMDは自社の独自命令のサポートに関して、有力な援軍が現れたことを示すことができた。これが重要なのは、AMD 3DのMMX命令は、これまでのMMXとは違いIntelの定義した命令ではなくAMD独自の拡張であるため、ソフトウェアの対応が疑問視されていたからだ。AMDは日本でのAMD 3D発表時に、MicrosoftがDirectXでサポートすることを強調していたが、はたしてアプリケーションメーカーがそのAPIを使うかどうかは未知数だった。さらに、フィジックスのようにAMD 3D命令を直接使うようなソフトとなると、本当に登場するのかどうかが危ぶまれていた。今回のデモは、そうした不安をうち消すという狙いもあるだろう。もちろん、DreamWorks以外のメーカーがどう動くかはまだわからないが、とりあえず、突破口を開くことはできたようだ。

 ちなみに、AMD以外にもCyrixとIDTもMMX命令の拡張を発表しており、現状ではこれらの命令の間に互換性はない。しかし、AMDによると同社は他2社に対して、すでに命令を共通化するためのネゴシエーションに入っているといい、共通命令化される可能性もある。AMDとしては、シリコンがすでにあるK6 3Dの命令に合わせるようにと誘いをかけているという。

 もっとも、99年になると、Intelも同様なMMXの拡張を行った次世代P6系MPU(コード名Katmai)を投入してくると見られている。業界関係者が「MMX2」と呼ぶこの命令群は、当然AMDの命令とは互換性がないわけで、x86MPUメーカーはその時点でMMX2への対応をどうするかを迫られることになるだろう。例えば、MMX2が公開された時点で、独自の命令とMMX2命令の両対応にする可能性もあるかも知れない。

●K6の歩留まりで苦しむAMD

 とりあえず、COMDEXでのK6 3Dのプレビューを成功させたAMDだが、もちろんグッドニュースばかりではない。というのは、AMDはK6の歩留まりで苦しんでいるからだ。K6の生産量が当初の計画よりかなり下回っていることはAMD自身も認めている。それがAMDの財政を圧迫していることはよく知られている通りだ。AMDによるとその原因は技術的なポイントもあるが、むしろ人為的なミスなどが原因であり、決して構造的なものではないという。そして、現在は歩留まりはかなり向上していると説明するが、それを具体的な出荷量で証明するまでは不安は消えないだろう。ただし、AMDは急速に0.25ミクロンシフトを進め、98年の第2四半期の終わりまでには0.25ミクロンプロセスに完全に移行するつもりなので、歩留まりがうまく向上すれば、かなりの生産量を確保できるようになる可能性はある。逆に言えば、0.25シフトと歩留まりの向上をうまく成功させないと、AMDはかなり追い込まれてしまうと見ることもできるかも知れない。

 このほか、今年のCOMDEXでのAMDは、地味だった昨年とはかなりイメージを変えた派手なブースを構えた。ステージも設けて、エンドユーザーに直接訴えるタイプの演出に変え、AMDがスーパー7と呼ぶソケット7プラットフォームの拡張やAGPチップセット、300MHzのAMD K6を展示するなど、積極的にアピールしていた。

 これはもちろん、AMDに対するイメージを一新させるためのしかけだ。AMDにとって今障害になっている要素のひとつは、顧客(PCメーカー)やエンドユーザーにおける名前の浸透度。企業ユーザーなら、PCを大量導入する際に、AMDと聞いただけで「Intelじゃないの? ちょっと困るなぁ、導入担当としては責任を持てないよ」ということになる。企業ユーザーほどではないにせよ、個人ユーザーにもこうしたコンパチビリティに対する不安はある。それは、ひいてはPCメーカーにAMDの採用を踏みとどまらせる原因になる。つまり、ここを打破しない限り、少なくともPCの世界では市場を広げられないわけで、そこで派手に出たというところだろう。

□参考記事
【11/21】後藤弘茂のCOMDEX Fall '97レポート~Photo速報2~
(AMDブースでの写真が掲載されています)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971121/comdex07.htm
【11/21】COMDEX Fall '97レポート インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971121/comdex.htm


[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp