【イベント】

後藤弘茂のCOMDEX Fall '97基調講演レポート
~Compaq会長ファイファー氏~

'97/11/17~21(現地時間)開催



●実務家ファイファー氏は『損な役回り』?

 『損な役回り』--COMDEXのキーノートスピーカーたちのなかで、この言葉に当てはまる人物をひとり選ぶとすれば、今回は、きっとCompaq Computer会長エッカード・ファイファー氏になるだろう。COMDEX2日目、11月17日の朝行われたファイファー氏のスピーチは、前半でCompaqの企業戦略の基本的な方針やPCマーケットのビジョンを丹念に説明するというものだった。COMDEX前夜に行われたゲイツ氏のスピーチが、Microsoft自身の具体的な製品戦略の説明を避け、輪郭のはっきりしないビジョンを多彩なゲストや笑いを取るビデオで飾り立てたのとは対照的だ。

 これは、いかにも実務家ファイファー氏らしい、よく言えば全体に地に足のついた説明であり、悪く言えば地味で新鮮味の薄いスピーチだった。そして、今回の場合、このスタイルはやや裏目に出たようだ。全部の観客が飽きたというわけではないのだろうが、16日のゲイツ氏のスピーチのあとでは反応はいまひとつ。昨日はスピーチの途中で退席をする客はほぼ皆無に等しかったのだが、ファイファー氏の時は中盤のPC/TVの説明あたりからちらほらと退席するリスナーが目立ち始めた。

 確かに、ファイファー氏のスピーチには、新しい要素はあまりなかった。しかし、それはゲイツ氏のスピーチも同じことで、それに内容自体はそれほど悪いものではなかった。ようは、現在のCOMDEXの客が求めているものとは方向がずれてしまったということなのだろう。

●PC市場は数年で70%がトップ4に占められると予測

 くりかえしになるが、ファイファー氏が語ったのは、Compaqの戦略とPC市場に対するビジョンだ。そのなかでも興味深かったのは、直販系メーカーに対するけん制だった。スピーチの中ではCompaqの急成長を誇って見せたファイファー氏だが、実際には現在はDell Computerを筆頭とする直販系メーカーに成長率では抜かれてしまっている。そのために、Compaqは今年、直販を一部に取り入れた新しい販売モデルを、導入せざるをえなくなったのだから。しかし、ファイファー氏は直販系メーカーの弱体なサービスでは、今後は顧客のニーズを満足させることはできないと非難。Compaqの新流通モデルなら、顧客に対するダイレクトなアクセスと豊かなサービスの両方を提供できると自賛した。

 そして、優れた技術とツールによってセールスが伸びることを主張、CompaqのPCサーバーを取り上げた。手軽なインストーラなどをつけたサーバーソフトと故障監視機能により市場で人気を博していることがなによりの証拠というわけだ。直販メーカーに対する時だけは、ファイファー氏のトーンが攻撃的になるあたりは、直販メーカーに追いまくられているCompaqの現在の状況を示しているようでなかなか興味深かった。

 また、印象的だったのは、PC市場ではトップメーカーの寡占化が進んでおり、数年で70%がトップ4に占められてしまうだろうと予測した点。もちろん、その中にはCompaqが入っていることは言うまでもない。

●Intel/Microsoftと重なるCompaqのビジョン

 さて、今回のスピーチを通して感じられたのは、CompaqのビジョンはMicrosoft/Intelのビジョンとオーバーラップしているということだ。たとえば、ファイファー氏は、将来へのビジョンを語ったのだが、その内容は、PCがレガシシステム(PC以前のコンピュータシステム)を完全に置き換える、スモールビジネス分野が成長する、PCが生活をより豊かにするなどといったものだった。これは、じつはゲイツ氏が昨日語った内容とほぼ一致する。まるで、ゲイツ氏のビジョンを、ファイファー氏が肉付けしたようだ。また、Compaqが注力するWindows CEからMerced(Intelの次世代MPU)サーバーまでというレンジも、まさにMicrosoftの支配する領域だ。

 PC/TVが家庭に入って行くというビジョンも、この2人が共有するものだ。スピーチ後半ではファイファー氏はPC/TVのデモを行ない、DVD再生や電子TVガイドなど、最近ではすっかりお馴染みになってしまったPC/TVのアプリケーションを示して見せた。また、Eコマースでは電子ファッションカタログ上で、モデルがリアルタイム動画で動き回ったり、3Dグラフィックスに服を着せて眺めるといったデモを行なった。このあたりはIntelが最近よく主張しているアプリケーションだ。わざわざこうしたデモを持ってきたあたりに、ファイファー氏のホーム市場にかける“決意”が感じられる。それは、Compaqがこれ以上成長するなら、ホームに活路を見いだすしかないことをわかっているからだろう。

 ただし、現実家のファイファー氏はこうしたビジョンを実現させるには、重要な課題があることも忘れずに指摘した。それはもちろん家庭への通信の帯域幅で、ファイファー氏はケーブルモデムやADSL、衛星通信、データブロードキャストがこの問題を解決してゆくだろうと語った。


□COMDEX Fall '97のホームページ(英文)
http://www.comdex.com/comdex/owa/event_home?v_event_id=38

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp