プロカメラマン山田久美夫の
ここアメリカでも、徐々にではあるが人気が高まりつつあるデジタルカメラ。もっとも、日本ほどではないが、今年は会場でも、日本人以外でデジタルカメラを持っている人を見かけるようになってきた(昨年は“デジタルカメラ=日本人”だった)。ここに来て、アメリカ市場では大きな影響力を誇るコダックがデジタルカメラに積極的に投資することを表明したこともあって、今後は急速な展開を見せることも予想される。
さて、この秋は日本国内でも実に数多くのデジタルカメラがまたまた登場したが、今回のCOMDEXはその新製品が一堂に勢揃いし、まさに今年の締めくくりに相応しい集大成的なイベントとなった。もっとも、日本から訪れた人にとっては、新鮮なモデルが比較的少ないわけだが、それでも日本国内ではお目にかかれないようなモデルも多数あり、意外な収穫があったイベントといえる。
なかでも、アメリカという市場に合ったモデルを積極的に投入しているメーカーが意外に多かった。というのは、日本国内と違い、販売形式として通信販売はもちろん、量販店などで説明なしに売れることが重要なポイントとなっているだけに、接続キットやソフトまですべてを同梱しているのが一般的。しかも、個性や機能を重視するうえ、価格の中心はあくまでも499ドル以下という、なかなか厳しい市場という点がこのような特殊性(日本の方が特殊なのかもしれないが……)を考慮した展開を図っているメーカーが多いわけだ。では、このような市場性を考慮したモデルから紹介してゆこう。
●超個性的な81万画素のOver XGAモデルアグフア「ePhoto1280」
以前、やじうまPC Watchにもネタを提供した、アグフアのXGAモデル「ePhoto1280」。私自身もWeb上で写真を見ただけで、変なデザインだなあ~という程度の印象しかなかったのだが、今回同社ブースで実機を見てビックリ。「おお、結構、いいじゃん!」と、それまでの印象が一変した。
なにしろ、81万画素CCD(おそらくビデオ用の補色系・長方画素タイプ)で、しかも38~114mm相当のオートフォーカス式3倍ズーム。しかも、液晶モニターは2インチで回転式で表示品質も良好(どうも低温ポリシリコンTFTらしい。ということは、本機も……)。ストロボも内蔵式だ。さらに、記録媒体もスマートメディアで、3.3Vの4MBカードが付属するという(だが、最高画質モードでは4MBカードでたった6枚しか撮れない)。
画像サイズは1,280×960ピクセルのOver XGA。逆算すると122.8万画素となる。ん? CCDは81万画素だったはず……と、カタログを良く読むと、同社独自の「Photo Genie」という技術を使って、画像の輪郭のジャギを補正しながら解像度アップをおこなっているといった意味の解説がある。さらに、「Photo Genie」専用のパンフレットまで用意されており、この技術にはかなりの自信があるようだ。確かにパンフレットにあるキャビネ大の印刷画像を見ると、普通の81万画素モデルよりもやや良好な画質を得ているようだ。内部処理もわざわざ30bit処理とうたっており、このあたりの画質へのこだわりは、もともとデジタルイメージングに強く、しかもヨーロッパ最大のフィルムメーカーである、アグフアらしい。
デザインは見ての通り、超個性的で、日本市場では受け入れにくい部分があるが、同社ブースでの来場者の反応を見る限り、さほど違和感なく受け止められているようだ。
価格は3倍ズーム機にも関わらず、899ドルと、意外に頑張っている。もちろん、日本と違って、この価格帯になると、主に業務ユース(保険や不動産、中古車ディーラーなど)が中心といえるが、最近の国産デジタルカメラのように、妙におとなしくなり、デジタルならではの自由度を存分に生かしたモデルが少ないなかでは、異彩を放つ、魅力的な個性派モデルだと感じた。
また、ブースでは実機が見られなかったが、「rPhoto780」というモデルも発表されており、こちらは普通のコンパクト機風デザインの35万画素CCDモデルだが、先の「Photo Genie」を採用することで1,280×768ピクセルのXGA画像を撮影できるもの。1.8インチ液晶で、スマートメディアを採用。内部処理も30bitで、処理時間も1秒と高速という。
299~399ドル。ここアメリカではこの価格帯がデジタルカメラの売れ口だ。しかも、前記の通り、接続キット込みとなると、本体価格はかなり抑えたものになるわけだ。そこで米国市場を重視しているエプソンとミノルタは、それぞれが事実上の米国専用機を投入している。
エプソンは、今回のショーに合わせて「PhotoPC550」という、299ドルでスマートメディア採用の液晶ナシというシンプルなモデルを発売した。もっとも、同社は日本同様、プリンターがメインのため、扱いはさほど大きくはないが、けっこう積極的な展開をおこなっていた。もちろん、米国でも日本名でいうところの「CP-500」や「CP-200」は並行して発売されているが、低価格モデルのラインナップが欲しいということで、ブース説明員によると本機は米国法人主体で企画された独自モデルに近い存在という。
スペック的には、35万画素の原色系正方画素CCDで、レンズは単焦点式でマクロモード付き。ストロボはない。記録媒体はスマートメディアだが、Exifではなく普通のJPEGフォーマット(米国中心なので、富士のサービスへの対応を図る必要はないという判断だろう)。サイズはかなり小型でデザインもコンパクト機そのもの。光学ファインダーもとても見やすく、実に軽快なモデルで、個人的にはなかなか気に入ってしまった。だが、1ドル125円換算では35,000円強となり、日本市場では下手すると液晶付きモデルが買える価格ということもあって、日本市場では難しそうなモデルといえる。だが、もし、大幅なコストダウンができ、1万円前半になるのなら、かなり魅力的なモデルになりそうな気もするが……。
ミノルタは、今年夏頃から「Dimage Pix」という27万画素で内蔵メモリー専用の液晶付きモデルを市場投入しており、会場でも「DimageV」と並んで展示され、デモがおこなわれていた。本機は299ドル前後のモデルで、画像サイズは480×360ピクセル、液晶付きなので、スペック的にはカシオ QV-70的なモデルといえるが、ストロボを内蔵している点とカメラメーカーらしさを感じるデザインを採用している点が特徴だ。というのも、米国は個性を重視する半面、意外なほど保守的な側面も備えている。そのため、米国ではコンパクトカメラ風か、超個性派かという二者択一に近い世界がありその意味で同社は「DimageV」という超個性派モデルをラインナップしている関係で、低価格でオーソドックスなモデルが必要だっただろうことは、容易に想像できる。もちろん、本機は日本国内での販売予定はないという。
●デジタルならではのメリットをアピールするコダック
会長自らがデジタルカメラ部門への積極的な投資を表明(関連記事)し、今後の展開が注目されるコダック。さらに、いまやアメリカでは「DC210」が大人気で、ブースでは手にするのが難しいときもあったほど。やはりメガピクセルであり、コスト的にも納得できる範囲である点、液晶を装備したうえ、カメラ的なデザインを採用するなど、現在のアメリカ人が希望する、上級のパーソナル向けデジタルカメラ像にかなり近いモデルと受け取られているようだ。
また、同社ブースでは、自社製品はもちろん、それを生かすための周辺機器やアプリケーションメーカーなどを一堂に集めた、昨年とはかなり異なるスタイルのブース展開を図っていたのが印象的。まるで、マイクロソフトやアップルブースと同じような展開であり、デジタルイメージングの雄としての役割を自負しているかに見える展開だ。また、デジタルカメラだけでなく、デジタルであることのメリットや楽しさを積極的にアピール。今年1月のMac World Expoでもレポートしたような、360度のパノラマや実写画像を元にした3D空間作製を中心としたハードやアプリケーションも数多く展示されており、他社とは異なった展開を図っていた。
●デジタルマビカを中心とした展開を図ったソニー
デジタルマビカのアメリカでの人気の高さは、なかなか日本国内では理解できないほどの世界がある。やはりフロッピーディスクを採用し、機能的にも必要十分な、実用的なビジネスツールとしての価値が理解されてのことだと思われるが、それを反映して、今年のソニーブースはこのデジタルマビカをデジタルカメラの中心に位置づけた展開を図っていた。昨年はちょうど初代Cyber-shotの発売時期と重なったため、同機を中心としたイメージ戦略だったが、今年はかなり実用的な展開だ。そのぶん、Cyber-Shotの影が薄く、パッと見ただけでは、どこに展示されているのかわかりにくいほど。これはちょっと意外だった。
●猛烈に威勢のいいオリンパス
昨年から今年にかけて、デジタルカメラで数え切れないほどの賞を受賞したことを誇るように、今年初めて、本会場にかなり大きなブースを構えたオリンパス。今回のメインはなんといっても、ここアメリカでもかなりのバックオーダーを抱えているという「D-600L」こと「C-1400L」だ。何しろ同社は昨年のCOMDEXでは本会場の一番端にある、商談用で商品展示などほとんどない小さなブースだっただけに、ことデジタルカメラ部門に関しては、この一年で急成長を遂げた感じだ。
もちろんブースではC-1400Lで撮影し、その場でプリントするというデモがおこなわれており、終始賑わっていたが、受付など随所に同社の銀塩カメラがずらりと並んでいるなど、やはりカメラメーカーらしい側面を覗かせる。しかし、デジタルカメラに積極的に取り組んでいる他のメーカーに比べ、現時点では利益が上がるデジタルカメラ周辺のOAシステムや消耗品が少ない同社としては、今後、なかなか厳しい状況が訪れる可能性もあり、今後の展開に大いに期待したい。
●独自路線を歩み始めたシャープ
シャープは、COMDEXを前に発表した、カラー版のWindows CE2.0マシンを中心としたブース展開。もちろん、同機にはパワーザウルスと同じように、取り外し可能なデジタルカメラユニットも装備されており、情報をキャプチャリングするためのツールとしてのデジタルカメラという機能を重視した、独自の展開を図っていた。また、先だって国内発売されたコンパクトな2.5インチ液晶内蔵モデル「VE-LC2」の英語版も登場。こちらもカメラ単体で活用するというよりも、IrTran-Pを使ったプリントができるモデルという形でのアピールがメイン。さらに今回はUSB対応の会議カメラなども出品されるなど、他社とはひと味違った展開を図っており好感が持てた。
●「DC-3Z」を出品したリコー
もちろん、この秋、日本国内で発売された新製品も各社のブースで見ることができた。リコーは注目の3倍ズーム機「DC-3Z」を出品。もっとも、昨年や今春のCOMDEXに比べてあまり積極な展示ではないうえ、従来機とデザインがかなり似通っているだけに、新製品と気付かない人も多かったのが残念。今回のレポートも半数くらいが本機で撮影されたものだ。
三洋はXGAモデル「DSC-X1」(現地名 VPC-X300)をブースの目立つ場所に展示、デモをおこなっていた。
どこか中途半端な雰囲気のキヤノンはプログレッシブスキャンCCDを採用したDVカメラである「MV1」がメイン。新聞報道もあった来春の百万画素機は、会場のデジタルカメラ関係者の間でも噂になっていた。
カシオは「QV-700」を中心にプリンターと組み合わせての展開が中心だったが、やはりメインはカシオペアという感じ。
●早くも新型「PalmCam」を出品した松下
今年の松下は、やはりDVD関係がメイン。だが、17日に発表されたばかりの「PalmCam PV-DC1080」こと「New Coolshot2」が早くも出品されていた。今年春のPMAで登場した初代モデルからわずか9ヶ月で、新製品へと移行したわけで、家電系らしい対応の早さには感心する。もっとも、大きなブースの中では、外観が小さく、地味めのボディーカラーの本機が、さほど目立っていなかったのは残念。
現地での発売は12月からと国内と同じだが、価格設定は周辺キットまで込みで499ドルと、日本よりもむしろ安く設定されている。もちろんこれは、前記のような米国特有の商習慣とボリュームゾーンの価格帯にあわせるためだが、やはりちょっと悔しい感じもする。
本機の実写レポートは来週には掲載する予定だが、日中の屋外で撮影するなら、十分な実力。しかも、液晶のレスポンスや記録速度(FINEモードでも約6秒)が大幅に向上したうえ、常時胸ポケットに入れておいても、まったく気にならないほどの携帯性の良さ、CFカード採用によるスピーディーな転送も大きな魅力。先代モデルのいい点はきちんと受け継ぎながらも、基本性能の向上が図られている点に好感が持てる。
また、同ブースでは、デジタルビデオカメラを2台を、PC経由でIEEE1394で接続し、安価なシステムでデジタル編集ができるデモもおこなわれていた。商品化はまだ先という話だが、なかなか興味深い世界といえる。
●デジタルは“砂の城” 富士写真フイルム
富士フイルムは唯一、本会場から少し離れたホールにブースを構え、デジタルカメラとしては「DS-20」と「DS-10」とプロ用の「DS-300」や「DS-505A」などを展示していた。また、ブースの前面では“砂の城”を作るというパフォーマンスをおこなっていた。ちょうど私自身、夕方で疲労困憊状態だったせいか、「そうか、デジタルは“砂の城”か……」と、妙な感慨に浸ってしまった。
('97/11/19)
[Reported by 山田 久美夫 ]