Mercedのベールがはがされる ほか
ついに、今週、米Intel社の次世代64ビットMPU、Mercedの命令セットアーキテクチャ「IA-64」(米HewlettPackerd社と共同開発)の概要と、IntelのMPUロードマップが明らかになる。これは、今週月曜日から開催されるMPU業界のカンファレンス「Microprocesor Forum1997」で発表されるもので、IA-64の発表は、米国では火曜日の午後、日本では水曜日の朝、行われる予定だ。この発表は、80386以来のIntelの命令セットの大変革となるだけでなく、ポストRISCと同社が主張する新しいアーキテクチャの初めての発表とあって、ともかく注目度が高い。ちなみに、同カンファレンスのサイトはこちら「Microprocessor Forum1997」で、このセッションに関しては有料(99ドル!)でWebcastも提供される。
というわけで、各ニュースサイトにも、先週はMercedの予告が溢れていた。なかでも予測記事としていちばん読みごたえがあったのは「Intel varies VLIW for IA-64」(ElectronicEngineeringTimes,10/13)だった。これを読むと、新しいアーキテクチャにチャレンジする、今回の野心的な試みには、かなりの難題が待ち受けていることがわかる。x86命令との互換性を保ちながらパフォーマンスを最大に引き出すことや、複雑なIA-64命令をサポートしながら、クリティカルパスを短くするといったハードルをIntelがどう越えるのか、水曜日が楽しみだ。
今回の発表は命令セットに関するもので、Merced自体のインプリメンテーションを紹介するものではない。しかし、MicroprocessorForumを見ると、IntelとHewlettPackerdによるIA-64のアーキテクチャの紹介のほかに、Intel単独でのMPUロードマップの発表も予定されている。「Waiting ForMerced」(TechWire,10/10)によると、ここでは64ビットと32ビットの両アーキテクチャのチップのプランが、来世紀にかかる部分も含めて明らかにされるらしい。また、「IntelPreps Merced for 1999 Production」(PCWorld,10/9)などを読むと、先週、Intelは米国のメディアに、Mercedの量産開始が99年になり、0.18ミクロンプロセスを使うことを明らかにしたようだ。KatmaiやWillametteといったIA-32系のMPUの存在も明らかになる可能性が高い?
今週、新テクノロジを発表するのは、Intelだけというわけではない。MPU業界の晴れ舞台とあって、他のMPUメーカーもこぞって新MPUの技術を発表するようだ。たとえば、 「AMD ToChallenge Intel's Notebook Chip」(InformationWeek,10/6)は、米Advanced MicroDevices(AMD)社はAMD-K6のノート用製品をアナウンスすると報じている。これは、2.1ボルト駆動で、266MHz駆動、'98年前半に登場するという。もともとK6はダイ(半導体本体)サイズがPentiumIIより小さいので、ノート用には向いている。このほか、「Intel to debut Merced, othervendors roll out chips」(InfoWorldElectric,10/10)は、AMDが発表するK6の拡張版「AMD-K6Plus」についてヒントを書いている。それによると、オンチップキャッシュなどを拡張することで、グラフィックスパフォーマンスなどを上げたという。K6のバスも拡張するという。
このほかRISC系MPUやメモリに関しても大きな発表がいくつか行われるので、今週後半はニュースサイトに半導体関連の記事が溢れることになるだろう。
MPU関連で、先週もうひとつ大きな話題になったのは、Intelが米Digital Equipment Corp(DEC)社のAlphaプロセッサを買収するというもの。この話の火元はTheWallStreet Journalのスクープ記事「Intel Is in Talks to Buy Alpha FromDigitalfor $1.5Billion」(10/6,有料サイト http://www.wsj.com/ から検索)で、それによると、両社はAlphaを15億ドルで買収する話し合いに入っているという。DECといえば、今年5月13日にIntelが同社のMPUに関する特許を侵害したと提訴して以来、Intelとは火花を散らしている間柄。それがなぜ?
記事によると、DECにとってAlpha事業はすでに儲からない重荷になっており、社内にはこれを売り払うべきという声があるのだという。これは、MPUの開発や半導体製造設備の維持には膨大なカネがかかるからだ。DECはIntelとの交渉で、Alphaを製造する工場の権利の売却なども話し合っているそうだ。ただし、その場合もAlphaを今後数年間製造し続けるという保証をIntel得ることで、Alphaユーザーに最低限の保証は与えるつもりらしい。一方、Intelにとっては長期化しかねないDECとの裁判を、避けることができる。Intelとしては、裁判に勝っても、時間がかかりMercedの製品計画に影響が出るという事態はなんとしても避けたいだろう。また、DECにAlphaを捨てさせれば、Intel陣営に引き入れることができる。というわけで、Intelにとっても利益があるわけだ。
この記事は、大スクープとなり先週はニュースサイトを駆けめぐった。IntelとDECはコメントを否定しているにも関わらず、こうした交渉が行われているのはほぼ事実だと各メディアでは受け止められている。それはWall StreetJournalの記事が非常に詳細で具体的で信憑性が高そうだからだ。「Intel, Digital AttemptSettlement」(MicroprocessorReport)は、交渉に出席しているDECの幹部からのリークのようだと推測している。この記事では、リークの目的はAlphaの立場を弱くして交渉を進展させようというもので、それは社内で交渉に反対している勢力に対抗するだめだろうと見ている。
さて、急転直下しそうなIntel対DECのMPU裁判だが、もしこれをDECが最初から意図してIntelを提訴したのだとすると、これはなかなかの役者だ。でも、その可能性はかなり高いのではないかと思う。以前、この件を扱ったコラム「DECがIntelを提訴--米国特許訴訟の背景」で、米国の特許訴訟には、なんらかの裏があり駆け引きの材料として使われる場合が多いと書いた。今回もそうだった可能性が高いわけだが、しかし、ここまでのウルトラCはまったく予想していなかった。これが米国企業の恐いところだ。
次は先週から盛り上がっているSun対Microsoftの話題。いちばん傑作だったのは「Gates' No. 2 ponders why everyone is picking on Microsoft」(TheBostonGlobe,10/9)だ。まずタイトルがそそる。「Microsoftナンバー2(スティーブ・バルマー氏)が、なんでみんながMicrosoftをいじめるのかを考える」というわけ。そして、バルマー氏のたとえがまた秀抜だ。バルマー氏はMicrosoftを学校で一番大きい子にたとえる。「先生が言うわけだ『ジョニー、あなたはクラスのほかの子より3倍も大きいんだから。倒れただけでほかの子をケガさせるのよ、だから私はあなたに目を付けているのよ』ってね」「でもジョニーは悪い子じゃないんだ」
つまり、Microsoftは実直にやっているだけなのに、大きいから、ちょっとしたことで、他の企業を傷つけてしまう。だから目立つんだというわけだ。確かに、気持ちはわからないではないけど……。
みんなにいじめられるMicrosoftに、今度は消費者保護運動のリーダー、ラルフ・ネーダーも目を付けた。「Nader, states also set sights on Microsoft」(San Jose MercuryNews,10/8)によると、ネーダー氏は11月にMicrosoftに関する集会開く予定で、旅行代理業や株取引、求人広告業に食指をのばしていることにも疑問を投げるそうだ。また、「MS antitrust probewidens」(CNET NEWS.COM,10/8)によると、オレゴン州などもIE4.0をOSにバンドルする件などで反トラスト法の疑いでMicrosoftを査察するそうだ。これでMicrosoftの調査を始めた州は全部で6つになったらしい。何か製品を出したり、ビジネスを拡張するたびに次々に反トラスト法の調査や市民団体などの告発が起こる。Microsoftにとって、ますます身動きがしにくい世の中になってきたようだ。
こうした“いじめ”に弱気になったのだろうか、先週はMicrosoftがオンラインサービスMSNを10億ドルで売却しようとしているというウワサが流れた。「RumorsOfMicrosoft Network Sale Are False, Sources Say」(The Wall StreetJournal,10/10,有料サイト http://www.wsj.com/ から検索)によると、これはTheStreet.ComがMicrosoft幹部の話として報じたものだが、情報筋やアナリストの観測は、この見解には否定的という。こんな大きな市場で負けを認めるのはMicrosoftらしくないからありえないというわけ。ごもっとも。
締めくくりは人事ネタ。「Jobs may drop the 'interim Saying no more 'bozos,' he hints atkeeping chief executive post himself」(San Jose MercuryNews,10/13)によると、米Apple Computer社の“暫定”CEOにおさまったスティーブ・ジョブズ氏は、自分の肩書きから暫定の文字を落とすことを考えているらしい。どうやら、先週のカンファレンスで、質問に対してそう答えたらしい。なんでも、ハワイに休暇に行くので、そこで「ビーチを歩き」ながらゆっくり考えるつもりだそうだ。また、数週間前のAppleビジネス関係者の集まりでは、ジョブズ氏は、会長かCEO、あるいはその両方に長期間なるかもしれないと語ったという。前に「まぬけ」に会社を渡してしまったが、2度とそうはしないと言ったそうだ。
('97/10/14)
[Reported by 後藤 弘茂]