Microsoft Professional Developers Conference(PDC)レポート
■Microsoftがアプリケーション開発フレームワーク「Windows DNA」を発表
【記者会見】 |
【ポール・マリッツ氏】 |
旧来のクライアント/サーバーでは、クライアントとサーバーの2層に分かれた構造だったが、Windows DNAでは、クライアントとサーバーは3層に分かれた構造を取る。Windows DNAでは、ユーザーインターフェイス層(クライアント)とアプリケーションロジック層(アプリケーションサーバー)、それにデータ層(データベースサーバーや汎用機など)の3層となる。これにより、分散処理が容易になり、柔軟で拡張性の高いシステムを実現できるという。大企業の業務システムなど、大規模なシステムに食い込むことを目指した布陣だ。実際、PDCでは大企業のカスタムアプリケーションを主に開発しているBaan社などが、MicrosoftとWindows DNAをベースにしたアプリケーション開発での提携を発表している。
Windows DNAの特徴は、同社のコンポーネント技術COM(Componet Object Model)をベースにしている点。そのため、基本的にはクライアントはInternet Explorer4.0、サーバーはWindows NT Serverに、リアルタイムの業務処理などを実現するMicrosoft Transaction Serverなどを統合したシステム(Windows NT 4.0+OptionPackあるいはWindows NT 5.0)を前提とする。また、Windows NT 5.0は、Windows DNAの中核となるOSと位置づけられ、さらに、COMを拡張した「COM+」も発表された。COM+は、来年のWindows NT 5.0のリリース後に提供される予定。今後の技術セッションで、Windows NT 5.0の諸機能やCOM+の詳細は明らかにされる。
Microsoftが次世代の基礎として発表したWindows DNAだが、その内容はまったく新しい技術の発表というわけではない。むしろ、この1年にMicrosoftが発表してきたさまざまな技術を体系化、融合の方向性を明確にしたものと言える。3層のクライアント/サーバーモデルも、すでに米Sun Microsystems社のJavaコンピューティングや米Oracle社のNCAなど、各社が同様のアーキテクチャを提唱している。Windows DNAは、それに対するMicrosoftの回答とも見える。
このほか、マリッツ氏はキーノートスピーチの中で、NC (Network Computer)やJavaに対する見解も明らかにした。NCに関しては、互換性がなくコストも低くならないと述べただけで従来通りだったが、Javaに対する対応は注目を集めた。
まず、マリッツ氏はJavaには3つの側面があると述べ、Microsoftはそのうち開発言語としてのJavaと、開発を助けるコンポーネント技術としてのJavaはサポートするが、JavaをOSの上に乗ったもうひとつのOSのようなものにしようとする動きは支持できないと明言した。そして、Javaを使わずにクロスプラットフォームのアプリケーションを実現する技術として、スクリプトなどを使った同社のHTML拡張技術Dynamic HTML(DHTML)を提案した。マリッツ氏は、DHTMLを使って動的で高度なアプリケーションを実現するデモを行い、Javaでは幅広いWebクライアントを十分カバーできないが、HTMLとスクリプトならすべてのクライアントをカバーできることを強調した。Javaよりも簡単に開発が可能なことをアピール、Javaベースにアプリケーション開発が移行することに歯止めをかけるという戦略だ。
■Windows NT 5.0はマルチリンガル対応に
【ジム・アルチン氏】 |
【デモ中】 |
どの言語を利用するかは、マシンごとにも、またユーザーごとにも設定が可能。例えば、あるマシンを英語システムに設定しても、複数の言語をインストールしておけば、ユーザーごとに異なる言語の利用ができる。デモでは、システムの言語設定をアラビア語にしたマシン上で、まずユーザーの言語設定を英語にし、アラビア語版Word 97に英語を入力。その後、ユーザー設定を中国語に変更、同じWord 97上で中国語を入力、2つの言語を混在させる様子を見せた。このように、マルチリンガルを意識したアプリケーション上では、複数の言語を混在して表示させることも可能になる。ユーザーの言語設定が変わると、各言語のIMEも自動的にサポートされるという。このほか、Windows NT 5.0のユーザーインターフェイスの言語もユーザーごとの設定が可能で、アラビア語システム上でダイアログやスタートメニューの項目などを日本語に変えるデモも行った。こうした機能により、1台のマシンを言語の異なるユーザーが共有するといった使い方ができるようになる。
また、マルチリンガル対応によりWindows NT 5.0では、どの言語のバージョンでも全く同じAPIを持つことになる。従来あったような英語版と日本語版のAPIの違いなどはなくなるという。これにより「ローカライゼーションの時間が短縮できるので、アプリケーションメーカーがワールドワイドマーケットに入ることが簡単になる」と、Microsoftのジム・アルチン上級副社長(Personal and Business Systems Group担当)は説明する。将来的には、海外アプリケーションの移植が加速される可能性がある。
しかし、実際には、各国語を意識したアプリケーションの作り方をする必要があるので、無条件にマルチリンガルアプリケーションになるわけではない。例えば、ワープロなら横書きの際に、右から書き始めるか左から書き始めるかといった言語による作法の違いを意識する必要がある。
■Windows NT 5.0の概要が明らかに--β版を金曜日に配布
【デモ中】 |
アルチン氏は、Windows 98はコンシューマのアップグレード向けと位置づけ、ビジネス市場でのメインのOSはWindows NT 5.0だと、同社のOS戦略を明確にした。さらに、Windows NT 5.0は、「Windows 98のスーパーセットであるため、ボリュームプラットフォームになれるだろう」と主張した。また、Windows NT 5.0の利点として、高い管理機能を挙げ、それによって、「TCO (Total Cost of Ownership)」を50%も引き下げることができと考えると語った。
Windows NT 5.0に搭載される主な機能は次の通りだ。(Server版だけのモジュールも含む)
このほか、同社のPlatforms and Applicationsグループ副社長のポール・マリッツ氏もキーノートスピーチの中で、Windows NTとWindows 9xの今後のロードマップを示した。それによるとWindows 98の次のバージョンでは、Windows NT Workstationと同じ技術を採用するという。これにより、Windows 9xのアーキテクチャは、Windows 98で終わりを迎え、Windows NTアーキテクチャがコンシューマ市場にも入ってくることが明確になった。おそらく、コンシューマ市場向けのWindows NTのバージョンが登場することになるだろう。
また、同社のもうひとつのOS、Windows CEに関してもマリッツ氏が語った。それによると、今後さまざまな形態のデバイスが登場、ポケットサイズ、カラー液晶搭載機、また車のダッシュボードに装着されるデバイスなどが出ると予告された。また、Microsoftが買収したインターネットSTB(セットトップボックス)WebTVにも、来年にはWindows CEを搭載することが明らかにされた。
('97/9/24)
[Reported by 後藤 弘茂]