後藤弘茂のWeekly海外ニュース


激突Oracle対Microsoft
~今回の戦場はインターネットSTB~

●インターネットSTBでOracleとMicrosoftが激突

 TVスクリーン上でのインタラクティブサービスを制覇するのは誰か?

 今週初め、米Oracle社と米Microsoft社が、この市場を巡って火花を散らした。Oracle側では米NetChannel社が、TVを使ったインターネットサービスの開始をアナウンス。これはOracle子会社の米Network Computer Inc社(NCI)の技術を使いThomson Consumer Electronics社がRCAブランドで供給するセットトップボックス(STB、テレビに接続する機器)を使うもの。つまりコンシューマ版のNC(Network Computer)だ。TV放送とWebの同時表示など、TVとインターネットの融合を目指す。RCAは米国では老舗のTVブランドなので、存在感は大きい。

 それに対して、Microsoft側では子会社の米WebTV Networks社が、今秋発売する次世代STBの概要と製造メーカーなどをアナウンスした。こちらは、ケーブルTV(CATV)網を通じて高速データ受信ができるケーブルモデムをサポート。CATV業界に、次世代インタラクティブSTBとしてWebTVを売り込むという路線がますます明確になった。また、1.1GBのハードディスクを入れたことでSTB側にもコンテンツを蓄積できるようにする。これはCATVなどの放送ネットワークを使ったデータ放送サービスに利用するということだろう。STBに、回転音と発熱が高く故障もしやすいハードディスクを搭載するというのは異論があるところだが、とりあえずこれで、PC向けと同じデータ放送サービスを受けやすくなるわけだ。こちらは、今までのSony Electronics社とPhilips Consumer Electronics社に加え、Mitsubishi Consumer Electronics America社も製造メーカーに加わった。

 今週のこの展開によって、NC対PCで対立する両社が、インターネットSTBでも角を突き合わせる格好になった。しかし、じつはこの構図は今に始まったことではない。TV市場で、両社はもう2年半も前から対立してきたのだ。

●そもそもはインタラクティブTV

 今から2年半前の'95年5月、米Microsoft社はインタラクティブTVシステム「Microsoft Interactive TV (MITV)」をケーブルTV関係のショーCable '95で発表した。これは、ケーブルTV網を使った広帯域ネットワークで、家庭のテレビに接続したSTBやインタラクティブTV対応PC向けにさまざまなサービスを提供するための構想だった。サーバはWindows NT Serverをベースにビデオオンデマンド(VOD)やオンラインゲーム、データベース、オンラインバンキング、インターネットへのゲートウェイなどのサービスを提供する。ユーザー側のSTBにはブート用のROMだけを搭載し、STB用に開発した軽量OSやアプリケーションをネットワーク経由でセンターからダウンロードするというシステムだ。ネットワーク経由でのサービスの呼び出しには分散型のCOM(Component Object Model、Microsoftのオブジェクトモデル)を使う。また、STT(Secure Transaction Technology、SETの前にMicrosoftがVISAと開発していた電子決済技術)を使いオンラインでの支払いも可能にする。ユーザーインターフェイスにはTV用に開発したTV VIEWER INTERFACE CONTROLS (TVUI)で、電子番組ガイドなども提供する。

 あれあれっ、と思った人も多いだろう。ここには、現在Microsoftが進めているさまざまな技術や戦略の原型が入っている。たとえば、MicrosoftはWindows 98に電子番組ガイドを入れる予定だし、TV向けのインターフェイスも何度かデモしている。また、分散型COMであるDCOMはMicrosoftの分散オブジェクト戦略の基本になっているし、SETによるオンラインコマースも熱心に推進している。STBでは、WebTVを手に入れ、Windows CEをそのOSとしてインテグレートしようとしている。MITV自身は日本も含めてトライアルがいくつか行われたが、商用フェイズには至らなかった。だが、こうして見ると、Microsoftの現在のコンシューマ戦略に、その構想はそのまま受け継がれているようだ。

 そして、MicrosoftがこのMITVを推進している時に、Microsoftの一歩先を行っているライバル企業があった。それがOracleだ。OracleはMITV発表の1年以上前、'94年2月に、ロサンゼルス、ニューヨーク、ワシントン、東京を衛星同時中継で結び、同社のインタラクティブTVのサーバー技術「Oracle Media Server」と関連技術や構想を大々的に発表した。この時の発表会は取材したのだが、これはなかなか印象深かった。デモの内容は米国のメイン会場に登場したOracleのCEO兼会長のラリー・エリソン氏自らが、リビングルームに見立てたステージで次世代インタラクティブTVを操作するというもの。エリソン氏はテレビ画面に登場したナビゲーターに導かれながら、リモコン操作でビデオ・オン・デマンド、インタラクティブ・ニュース、ホームショッピング、レストランガイドといったサービスを次々に披露した。人によって意見は異なるだろうが、この時のデモはかなり説得力があり、超並列コンピュータを用いることで数10万の視聴者に対して同じデータソースから同時に異なるシーンのビデオデータを送り出すという構想も、クエスチョンはあるものの新鮮だった。Oracleは、この技術をベースに、インタラクティブTVなど双方向マルチメディアの開発と標準化を推進する団体「Oracle Set-Top Alliance」設立、これにはSTBメーカーや日本の主要電機メーカーなども参加、インタラクティブTV業界ではトッププレイヤーと目されていた。

●インターネットSTBはインタラクティブTVのまき直し

 しかし、この時のインタラクティブTVブームは、Oracleの派手なデモとMicrosoftのプッシュにも関わらず結局花開かずに終わってしまう。その理由について、Microsoftのクレイグ・マンディ上級副社長は、Windows World Expo Tokyo 97で基調講演で次のように述べている

 「2~3年前にインタラクティブTVが流行った時は、最初はエンターテイメントがアプリケーションになると考えた。しかし、どうやって利益を得るかがはっきりせずうまくゆかなかった」

 つまり、レンタルビデオ市場を置き換えるビデオオンデマンドだけではビジネスとして成り立たなかったということだ。ところが、インターネットの進化が、その状況を一変させた。インターネットが世界規模のネットワーク複合体として発展したことで、新しいビジネスチャンスが産まれた。ネットワークを通じてビデオオンデマンドより付加価値の高いサービスを早期に、しかも低コストに提供できる見込みが立ってきたのだ。マンディ氏は「今は(インタラクティブTVブームの時とは)状況が違う。情報と教育、それにEコマースが大きなビジネスになる」とMicrosoftがTVをターゲットにする理由を説明する。この認識は、おそらくOracleでもそれほど大きくは違わないだろう。

 こうして見ると、WebTVのようなインターネットSTBやコンシューマ用NC (Network Computer)というのは、インタラクティブTVの戦略まき直しとも捉えることができる。この戦略の先には、インタラクティブTVという構想がまだ残っているのは確かだろう。

●SunはJavaをSTB向けに推進

 そして、ここにもう1社、プレイヤーがいる。米Sun Microsystems社だ。Sunは、インターネット家電構想を掲げたベンチャー企業米Diba社を買収、少し前にDibaの技術も含めた様々なJavaベースのネットワーク機器のリファレンスデザインを、OEM向けに提供することを発表した。これには、JavaベースのインターネットSTBが含まれる。もともと、SunはWebTVと一緒にSTB向けのJava APIセットの開発を行うはずだったのだが、WebTVがMicrosoft陣営に入ってしまったのでDibaを手に入れたようだ。

 Sunは今年4月に開催されたJava開発者向けのカンファレンス「JavaOne」で、JavaのAPI群を用途別に4階層に整理した。通常のコンピュータ用のJava以外に、PersonalJava、Embedded(エンベデッド)Java、JavaCardの3つのAPIセットだ。PersonalJavaはSTB、携帯情報端末、スクリーン電話向け、EmbeddedJavaは、プリンタ、ポケベル、電話・携帯電話、産業機械や医療機器向け、JavaCardはスマートカード向けだ。

 このうち、インターネットSTBに使われるのはGUIを備えネットワークへのアクセスを前提とした機器向けのPersonalJavaだが、これもなかなかよく考えられている。Java Developer Conference Tokyo 97でのセミナーでの説明によると、2MBのROM、512KB~1MBのRAMと非常にコンパクトで、50MHzクラスの32ビットMPUで動作するという。これにはサイズを小さくしたJavaOSも含まれている。JavaのAPIはフルに備えるわけではないが、サーバーから必要なライブラリをダイナミックにダウンロードすることで、ほとんどのJavaアプレットを実行できるようにするそうだ。

 SunがSTBの分野にJavaを拡張しようというのも、別に不思議な話ではない。というのは、OracleやMicrosoftがインタラクティブTVシステムの開発にいそしんでいたまさに同じ頃、Sunも同じ市場に関わっていたからだ。その当時、Sunの中にあったあるリサーチプロジェクトのグループが、インタラクティブTV用STBで日本メーカーと共同開発を行っていた。実際にSTBの試作などを行っていたこのプロジェクトでは「Oak」という新しい言語が開発されていた。そして、このOakこそがJavaの前身だったのだ。

('97/9/18)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp