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今度は500ドルPCだ!! National SemiconductorがCyrixを合併

●相互補完するCyrixとNational Semiconductorの関係

 「サブ500(500ドル以下)ドルPCのためのシステムオン(ナ)チップを開発する」

 こんな刺激的な見出しで合併を発表した米National Semiconductor社と米Cyrix社。 一体、この2社の合併はなにを目指したのか、またどんな背景があるか、そして本当 に500ドルPCは登場するのだろうか。

 じつはこの2社の組み合わせというのは、ちょうど補完関係にあり、両社の利害は 見事なくらい一致する。

 Cyrixは、自社半導体工場を持たないファブレス企業、いわば半導体設計屋だ。そ のため、極めて優れたMPU設計技術を持ちながら、その製品開発が製造工程と直結で きず、製品投入時期や動作周波数、製造量、ダイ(半導体本体)サイズなどでつねに不 利を背負ってきた。この弱点は、これからの300MHz超MPU時代には、かなり致命的に なる可能性もある。しかも、せっかくIntelの半額という超破格値で投入した6x86MX も、Intelの低価格攻勢により、大手メーカー(IBMを除く)との契約という目標があや うくなっていると言われる。

 他方、5x86コアに周辺機能を集積したMediaGXは米Compaq Computer社のサブ1,000 ドルPCに採用され、新しい地平を切り開いた。しかし、MediaGXのような薄利多売型 のチップは、ファブを持たないと複数メーカーに安定して供給し、またCyrix自身の 利益を十分に確保するのは難しいという指摘する業界関係者もいる。

 一方のNational Semiconductorはどうかというと、こちらも将来に不安を抱えてい た。かつて半導体デパートと呼ばれた、シリコンバレーの老舗メーカーも、一時の経 営危機(この時はアメリオ氏が立て直した)もあって、今では存在感が薄らいでいる。 相変わらず幅広いラインナップと優れたアナログ/ミクスドシグナル技術で一部市場 では根強い(アナログでは確か世界3位のシェア)ものの、目標とするシステムオンチッ プでは核となる強力なプロセッサコアを欠いていた。

 同社は、リストラの後遺症などで生産設備が他の半導体メーカーと比べて弱体だっ たのが、最近では0.35ミクロン(現行のPentiumなどと同じクラスのプロセス)ライン が立ち上がり、さらに、会社の一部を売却した資金などを投入し、一気に0.25/0.18 ミクロンへと進もうとしている。つまり、製造設備はできるのだが、それを活かす製 品のコアがないという状態だったわけだ。

 この合併が完了すれば、Cyrixは念願のファブやx86のクロスライセンス、そして National Semiconductorの各種セル、さらに強力な販売網が手に入る。このように、 CyrixのWebサイトの合併に関するQ&Aではうたっている。そのQ&Aによると、Cyrixの 優れたx86技術はNational Semiconductorのシステムオンチップ戦略のパズルの中の、 最後のピースなのだという。その通りだと両社が考えているのなら、これは幸福な結 婚と言えるかも知れない。

●システムオンチップ時代の到来

 さて、ここまでの話のなかでしつこく出てきてる「システムオンチップ(System on a Chip)」というビジョンだが、これは、現在の半導体メーカーの合い言葉と言って いい。実際、半導体メーカーに聞けば9割は、自社がシステムオンチップメーカー(あ るいはそれを目指している)と答えるだろう。

 半導体メーカーはプロセス技術が進歩して、一定のダイサイズの中に取り込むこと ができるトランジスタ数が増えるにしたがって、個別のチップで提供してきた機能を どんどんワンチップに集積してきた。たとえば、現在の4~16ビットMCU(マイクロコ ントローラユニット)は、MPUコアにタイマ、各種インターフェイス、A/Dコンバータ、 メモリ、LCDドライバと、じつにさまざまな(組み込み向け)機能を取り込んでいる。 構成チップ数を減らして行くことで低コスト化を図ってきたわけだ。家電の電子機器 がどんどん安くなるのは、こうした半導体のアプローチのおかげだ。

 それが、この1~2年で0.35ミクロン時代に入ると、さらにエスカレート、システム オンチップというコンセプトが叫ばれるようになった。これは、従来数個のチップで 構成されていたようなシステムをすべてワンチップに集積するというもので、文字通 り、システムをチップの上に載せてしまうわけだ。この方向の先駆として有名なのは、 米LSI Logic社が設計を担当したPlayStationのチップで、これではMIPSアーキテクチャ のMPUコアに3Dグラフィックス機能やキャッシュなどを集積した。LSI Logicはこのあ とワンチップインターネット端末やワンチップデジカメなどのコンセプトを次々に発 表、システムオンチップ時代をイメージ的にリードしている。しかし、これは今や半 導体業界全体の傾向で、どのメーカーも似たようなコンセプトで動いている。

 システムオンチップがこれだけもてはやされるのは、0.35ミクロン以下のプロセス になると集積できるゲート数が半端じゃないからだ。もはや、このプロセスをゲート アレイに使って一から開発するのは現実的ではない。そこで、メガセルとかマクロと 呼ばれる各種機能のコアを半導体メーカーがASIC用に用意しておき、システムメーカー がその中から好きな機能を選んで組み合わせてASICを作るという手法が一般的になり つつある。この場合、一部をゲートアレイとして使いシステムメーカーが開発したロ ジックをセルと組み合わせて搭載することも可能になっている。また、半導体メーカー 自身も、特定のシステムに必要な機能をすべて盛り込んだシステムオンチップ汎用品 を売るという形態もある。

●PCをシステムオンチップに

 このように、半導体業界の中から見れば、システムオンチップは自然の流れだ。と ころが、ここにPCという例外がある。

 PCの場合はMPU、チップセット、各種チップ、メモリという構成が固定されてしまっ ている。そのため、半導体部品の集積化が進まず、いつまでたっても価格が下がらな かった。これは、IntelのMPU戦略に深く関係している。Intelは、ワンチップに集積 できるトランジスタ数が増えても、それは機能強化へと割いて、周辺機能の取り込み はあまり行わなかった。より高機能で高価なMPUへと誘ってきたわけだ。また、これ までは互換MPUメーカーもIntelピン互換を維持するために、それに追従せざるを得な かった。  ところが、Intel MPUとのピン互換を捨てたMediaGXがその状況に風穴を開けた。 MediaGXには、メモリコントローラやグラフィックスチップ、PCIブリッジ(MPU-PCI) などPCに必要な大半の機能が集積されている。これにPCI-ISAのブリッジをセットに して100ドル前後で販売している。あとは、DRAMとコーデック、スーパーI/Oなどを足 せば、それだけでPCができてしまう。だから、Compaqが799ドルのPCを利幅を確保し ながら発売できるわけだ。

 そして、これにNational Semiconductorが加わると、コーデックやスーパーI/Oだっ て集積できるようになる。おそらく、最終的にはメモリとMPUともう1チップでPCがで きあがりるようになるだろう。それなら、500ドルPC(製造コストが400ドル以下)だっ て夢ではないわけだ。もちろん、ディスクレスのNCやインターネット端末、セットトッ プボックスなどもこのチップのカバーする範疇に入る。

「システムオンチップが本格化、PCや情報デバイスもシステムオンチップ時代に入る?」

 それはまだ断言できないが、半導体メーカーがそういうビジョンで動き始めたのは 確かだ。そして、その背景には、半導体産業の構造自体が大変革されるかも知れない という不安感もある。ここへ来て、急に騒がれているのは、「IP流通時代」という言 葉だ。ここから先、0.25ミクロンや0.18ミクロンの製造プロセスの時代になると、IP (Intellectual Property)と呼ばれるコアが流通するようになるというビジョンだ。 これが実現すると、システムメーカーが設計力のある半導体設計メーカーから必要な コアを買い集め、それを集めたチップを安いファブで製造させることが可能になる。  本当に、こういう時代が言われているほど早く来るかどうかはわからないが、こう した動きがシステムオンチップへの流れを加速しつつあるのは確かだ。実際、大手半 導体メーカーは、強力なコアを揃えて付加価値を維持するためにコアを買い集めてい る。National Semiconductorの今回の動きは、その顕著な例だ。

 そして、おそらくIntelにしても、こうした展開を考えていないわけではないはず だ。例えば、今回Intelは米Chips And Technologies社の買収を発表している。Intel は、Chips And Technologiesの技術を使ってグラフィックスチップを作る? おそら くそれだけではないのではないか。その先には、チップセットとノート用グラフィッ クスチップの統合やオールインワンチップなどの展開もありうるかも知れない。

('97/7/31)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp