今回は、IntelがPentium IIへの移行を促している隙間に、互換CPUメーカーが攻めこんできた格好ですが、同じような状況がIntel 486からPentiumへの移行時期にも起きたことを思い出します。しかし、互換CPUがここまでハイエンドに食い込む性能を持っているというのは、かつて無かったことです。従来は、どちらかというとintelが新CPUにシフトしたあとの、ローエンドCPU対抗の製品が多かった気がします。
ユーザーからすると選択肢が増え、メーカー間の競争により安くCPUが買えるようになるため歓迎すべきことですが、ショップの側からすると、胃が痛くなるところです。というのは、こうした状況では商品数の増加と品不足、そして熾烈な価格競争・リマーク品の危険性など、さまざまな問題が起こってくるためです。
このような状況により、ショップでは今まで以上の種類のCPUを取り扱う必要が出てきたわけです。ユーザーは全員が新しいCPUを求めているわけではなく、値段が下がった従来のCPUを求めてくる人も多いのです。 CPUメーカーが従来の製品を生産終了にしてくれれば、どこのショップに行っても取り扱いが無いのでユーザーも諦めると思いますが、なまじ出荷されているだけに、他店に置いてある商品の扱いをやめるというのは避けたいところです。
いわゆる「品揃え」というもので、無いことによりユーザーが他店に逃げることを考えると、利益があまりなくても、ショップとしては置いておかざるを得ません。ところが、こうした品揃えとして置く商品は、売れ残ってしまう可能性が高いことも事実です。また、たくさん売れるわけではなく、数もあまり出ないのが品揃えの商品の特徴です(というか、あまり売れないものを品揃えと言いますけどね)。
大手を除いたパソコンショップの場合、いかに速く商品を回転させて(売るという意味)次の商品を仕入れるための現金に換えるかが重要となってきます。つまり、あまり売れない品揃え商品は置きたくないわけです。価格はだんだんと下がっていきますから、あまり売れない商品はその値下がりについていけなくなる可能性もあります。
この相反するところをどうするかによって、ショップの特色が出てくることもあります。新しい商品や売れ筋商品だけに絞って、少しでも動きが悪くなってきたら次回の仕入れをしないというショップも少なくないです。
また、新しいCPUが立て続けに出荷開始されると、たくさんの種類のCPUを一気に買う必要が出てきます。特に今回のように各社から同スペック程度の商品が出ると、どの商品が一番売れるかは非常に読みにくくなります。Intelが売れるのは当たり前なのですが、それがどのくらい互換CPUに喰われるかもまだわからないところです。で すから、どれもこれも仕入れる必要が出てきます。
以上に述べたようなことはCPUに限らず、どのパソコン関連商品にもいえることです。しかし、特に動きの激しいCPUの場合はリスクが大きくなります。したがって、ラインナップが増えると、ショップにとっては悩みの種となり、資金的にも負担が増えるところとなります。
1.Intelの場合
まずIntelのCPUの場合は、発表以前に流通に出回るのが最近では普通なのですが、実際には発表より早く入荷したからといって、すぐ販売出来るわけではありません。本来、発表と同時に販売開始というのが基本のパソコンパーツ業界にとっては発表より前に販売するのはイレギュラーとされます。これがよく言われる「フライング販売」です。
「フライング販売」は、秋葉原の一部のショップでは当たり前のように行なわれていますが、ある程度の規模のショップや大手量販店では、メーカーからの苦情を恐れて基本的にやりません。また、発表より前に流通した製品が本物かどうか見極める手段はありません。偽物の疑いもあるわけです。ただ発表より前に販売に踏み切るショップが増えることにより、実質的な公開状態になって販売を開始する場合もあります。
先日のPentium IIの時を例に取ると、発表よりかなり前に市場に出回り始めました。IntelのCPUはたいてい出荷が開始されると一気に出回るため、実際にはどこのショップも在庫をしているけど、販売を開始していない(開始できない)というのが本当のところです。どこが最初にフライングするか、あそこのショップが販売を開始したならうちのショップも販売しても良いだろう、などと他店を見ながら販売を開始するタイミングを計ることが多いです。最初にフライング販売しなければ「競争だからやらざるをえなかった」でフライングの理由を説明できるわけです。フライング販売を行なうというのは、ショップにとっては勇気のいることなのです。
今回の場合はCOMDEX/Japanを境に実質解禁となり、どこのショップでも販売が始まりました。COMDEX/Japanにおいて、Intelが自社ブースで初めてPentium IIの実物を公開したからです。このような要素があると販売を控えていたショップは一斉に販売を開始します。本当の発表、つまりプレスリリースだけが販売開始のスタートラインとは限らないわけです。こういうのを「実質解禁」と言います。
これらのフライング販売はCPU単品の場合だけですが、システム、つまりPC本体としての発表や出荷開始は正式発表より開始です。IntelのCPUの場合、発表と同じ日にメーカー各社からPC本体の発表がされるのが常です。本来CPU単体が発表より前に流通するのは「発表日にシステムを出荷できるよう準備してくれ」という意味なのです。さらに本来のところはCPU単品での販売自体はintelとして想定していないんですけどね……。ただ、これは実質的にOKという状況になっています。
PentiumIIのサンプルが最初に届いたときには「本当にこれがCPUか?」と疑ってしまいました。ありえないですけど、流通業者が冗談でファミコンカセットを送ってきたと思いましたね。(^^; 2.AMD&Cyrix(IBM)の場合 AMDとCyrixの場合は、発表後にCPUの流通が始まります。ここで起きるのが「他店より如何に早く販売するか」という競争です。販売開始日や出荷日がとくに指定されている訳ではないので、どこよりも早くCPUの販売を開始すればユーザーへの印象が強くなります。つまり広告効果となるわけです。いち早く販売をしていればインプレスの「Akiba Hotline!」のようなニュースページやユーザー間の話題、特にパソコン通信で話題になるため、ショップの人気や知名度のアップとなるわけです。
AMDの場合は生産力があるので、生産が軌道に乗ってしまえば大量に出回りますが、初期の出荷段階では歩留まりが悪いらしく数が出回りません。特に先日出荷が開始されたK6 Processorは人気が非常に高いこともあり、5月中は品不足でした。
品不足の時に起こるのがプレミア価格での流通です。AMDは発表時に1,000個ロットの価格を出していますが、秋葉原ではこれよりずっと高い価格で販売されています。これは品物が無いことにより流通間での値上げや、いくつもの流通会社を通すことにより段々と値段が上がっていくわけです。
日本AMDの正規代理店からの流通もありますが、非常に少ない数しか流通せず、多くは海外からの並行輸入品です(最近K6-PR2/200以下は正規流通品も増えてきました)。6月初旬現在では、K6-PR2/233が品不足で非常に高いプレミア価格で販売されています。ショップも高めで売っている場合もありますが、多くは流通間での値段が上がっているからではないかと思います。正規代理店からの価格は安いのですが、商品が入ってきません。
Cyrixの場合はもっと深刻です。Cyrixは自社で工場を持たないファブレス企業です。生産はIBMが行なっていますが、ファブレス企業の弱いところは生産力が非常に低い事です。これまでにも6x86が何回となく品不足状態に陥っています。M2こと6x86MXもまだ流通が開始していませんが、すでに流通する以前から品不足状況に陥っています。
初期出荷数が全世界で数千個という状況では秋葉原に出回る数も少ないでしょう。これもプレミアム価格が付く恐れが高いです。IBM版の6x86MXも出るようですが、これはCyrix版から数ヶ月遅れて8月ぐらいに出荷を開始するとの発表があります。IBM版が出る頃にはCyrix版の流通も潤滑になっているのではないかと思います。このような状況で、いかに早く販売できるかはかなり重要です。
いち早く販売できるかという競争の次に、このような品不足状態でショップの力が問われるのが、数の確保です。日本の代理店からの入荷と海外からの並行輸入品の入荷を併せて、いかに早く、かつ数多く手に入れて販売できるかという競争が起きます。ショップはそれぞれ独自の流通ルートを持っているのが通常です。それらを駆使してたくさん仕入れられれば、ユーザーを引きつけることができます。この段階で一番重要な事柄が業界用語で言う“Location (ロケーション)”というものです。
辞書を引くと「Location = 位置(の選定)、配置」と出ていきます。ロケーションとは、従来製品の販売実績からどの販売店や代理店・流通にどれだけの数を流すかを決めることです。これまでたくさん自社のCPUを販売してくれたところにたくさん商品を販売するという、当たり前ですが非常に重要な事です。どのメーカーのCPUでも初期のロットや品不足状況でのCPU出荷は、ロケーションによりどこに商品が行くかを決めることになります。特にAMDやCyrixのCPUの場合、日本の代理店にロケーションされる数は非常に少ないのです。日本AMDだから、日本Cyrixだからといって優遇してロケーションされる訳ではなく、非常にシビアに今までの販売数でロケーションされます。
そしてもう一つ怖いのがリマーク品。リマーク品とは、ご存じの方も多いと思いますが、たとえばCPU上のPentium133MHzの刻印を166MHzに書き換えたりして流通する商品です。細かいところは省きますが、実際に流通しているCPUには、たまにリマーク品が混ざっている事があります。ショップとしては、リマーク品を販売しているというレッテルを貼られてはたまりません。
実際にリマークしているのは流通のずっと元の方ですから、本来の責任はショップにはありません。しかしながらリマーク品が実際に流通しているからには、ショップ側では自衛手段としてチェックをしなくてはなりません。ところが、最近のリマーク品は簡単に見分けられない精巧な物ばかりです。実際に問題が出てからではないと分からない場合もあります。仕入れる段階で妙に市場価格より安いCPUでは、リマークの疑いが特に強いのでチェックは欠かせません。
ユーザー側でリマーク品を疑い始めたらキリが無いのですが、信頼の置けるショップ、もしくは、リマーク品であることが判明した時点できちんと交換をしてくれるようなショップから買うしかありません。最近ではAMD K6のリマーク品やPentium IIのリマーク品まで現れたという噂もありますから油断できない状況です。
■■5月の秋葉原ショップ動向■■●天気が悪くて困ったもんだ
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[Text by AMUAMU]