【リレー連載 物欲道修行記】
何を隠そう、私はキーボードが大好きで、海外、とくにアメリカに取材に行くたびに、新しいキーボードを仕入れてくるという癖がある。もちろん、日本にいても、原稿が猛烈にたまってくると、耐えられなくなって、気分転換の意味もあって、新しいキーボードを購入してしまう(ときには、素敵なキーボードの魅力に負け、思い余ってキーボード一体型マシン、つまりはノートPCを買ってしまうこともあるくらいだ)。
なにしろ、カメラのように手のひらに収まるサイズなら、そのものすべてが五感に訴えるキッチリとしたインターフェースを備えていなければいけないが、パソコン、とくにデスクトップPCになると、極端な話、キーボードとマウスとモニターさえ、キッチリしていれば、あとはどうでもいいといった世界がある(とくに、原稿書きはエディター専門なので、マシンの処理速度はさほど気にならない場合もある。画像処理は別だけど……)。
もちろん、人間の感性に訴えるという意味でいうと、たとえばビデオボードによって、“ウインドーが開くときやスクロール時の描画に得も言われぬ味がある……”なんて、粋な世界があるのかもしれないが、凡人の私は、残念ながら、そこまでの悟りの境地に至っていない(まあ、Macintoshの世界では、これって明確にあると思いますよ。やはり、一瞬で味気なくウインドーが開いてしまう最新モデルは、味わいがないですよね。この粋な世界を楽しむなら、68000のマシンが一番です! そもそもWindowsマシンが結果のみを重視するものなら、Macintoshはその過程までも楽しめる点が一番の違いですよね>Macファンのみなさん)。
もちろん、私の場合、本職はカメラマンのはずなのに、なぜか原稿執筆に追いまくられていて、何を間違ったのか、連載だけで毎月10本も抱えるという、そら恐ろしい毎日を送っている(しかも単発モノも同じくらいあるんだよね……)。そうなると、おのずと、キーボードを叩いている時間がかなり多くなり、自然と、キーボードにはうるさくなるというわけだ(単に好きなだけという話もあるけど)。
しかしまあ、人間、不思議なもので、キーボードを変えると、マシンまで一新したような気分になれるし、また新たな意欲が沸いてくる。なんだか、こうしてキーボードをとっかえひっかえしていると、一時期それなりに凝った車いじりを思い出すんですね。
私の場合、どんなものでも、実用本位なところが哀しいが、それでも一台の車(VW GOLF2)の、タイヤを変え、ステアリングを変え、サスペンションを変え、ショックのセッテングを変え、シートを変え、ブレーキパッドを変え、ブレーキディスクを変え、ブレーキホースを変え、各種オイルを変え、添加剤を変え、ワイパーを変えては、楽しんでいた、あの頃とさほど変わらない世界なのかもしれない……。
まずは、今回の最大の収穫はなんといっても、COMDEX会場内で即売(在庫処分?)されていた、我が憧れのキーボードである、IBMの初代PS2用キーボード。これを、たったの10ドル!!で入手したことだ。これは知る人ぞ知る名品(だと思う)だ。このキーボードは、パソコンというよりもオフコンに近いイメージのもので、とにかく近年、これほど贅を尽くしたキーボードにはお目に掛かったことがないほどの逸品。
これは日本で売っているIBMのアプティバ系のブラックキーボードとほぼ同等のものなんですが、やっぱり、104キーボードは、日本語関係のキーがないので、スペースキーの幅が広めだし、私のようなローマ字入力派には不必要で目障りなカナキーがないので、実にスッキリしているところがいいですね。まあ、キータッチはそこそこという感じで、ストロークはやや深めですけど、押し込んだときの抵抗感がなく、スカスカで、なんとも頼りないもの。でも、それはそれで、いいんです。これはもともと、日本では入手できない“インテリマウスの黒”!といっしょに使うつもりで、半分冗談で購入したんですから……。
でも、最近、ちょっと話題になっている“インテリマウスの黒”ですけど、アトランタのComp USAという、アメリカでも最大級のパソコンのスーパーマーケットチェーンで、実際に目にした瞬間に、惚れ込んでしまいましたね。もう、「こ、これだぁ~」という感じで……。見ていると、なんだか、スターウォーズのダースベイダーを連想させる、なんともいえない、黒光りするマウスなんですが、いいんですよ、カッコが。店で見ているときから、我が愛用のComp USA特製マウスパットの上に置くと、さぞかしかっこいいだろうなあ~という想像が脳裏を駆けめぐったと同時に、これはぜひとも、黒いキーボードとペアで使わなければイカン!という観念に駆られてしまったんですね。
それで、実際にこの両方をセットしてみると、これが実にカッコイイ! ですけど、マウスはともかく、キーボードは先のものとか、後記の、もっと気に入ったものがありますから、誰かが我が家に取材に来たときに、これでカッコをつけようかなあ~と思っているんですね、はい。
そのひとつが、な、なんと、「富士通・FM-V」シリーズ用のキーボードなんですね。とはいっても、キーボードなんて、コストダウンの影響をかなり受けやすいところ(本来はこんなことじゃ、イカンのですが……)。そのため、いまも、私が使っている、昨年始めに購入したものと同じ感触のものかどうかは、定かではないのですが、これがですね、なかなかいいんですよ。
配列はごく一般的な106系で、どちらかというと、無味乾燥というか、没個性という感じのシロモノ。また、ストロークも標準的なものですけど、押したときのトルク感が適度なんですね。といっても、決して重い部類ではなく、むしろ軽い部類なのですが、スカスカ系ではなく、押し始めからボトムに至るまでの過程で、その重さというかトルク感がほとんど変わらない点がいいんですね。さらに、押し切ったときに指に伝わるショックも比較的柔らかいので、疲れが少ない点も好感が持てますね。また、キートップのサイズも適度で、キートップの質感もざらざら系でも、すべすべ系でもない、ごく中庸なものです。
偶然の出会いとはいえ、これはなかなかの逸品! 私にとって、これがワイヤレスである必要性なんて、全くないんですけど、とにかく、そのキータッチが独特なんですね。キーボード自体は86系ですから、英語版でテンキーなしの、ちょっと独特なキー配列ですけど、キーボード全体のサイズがかなり小さめなのにも関わらず、キートップのサイズは割とゆったりとしていて、イメージ的には初期の98ノート系のキーなんですね(キータッチはあんなに無節操じゃありませんけど)。
で、キータッチは、なんというか、まか不思議な感じ。具体的にいうと、薄型設計のため、ストロークは結構ショートなんですけど、スカスカではなく(初代の98NLのようにパカパカ系ではない!)、結構しっとりとした感じ。ショートストロークもので、こんなトルク感を感じるキーボードって少ないですよ。それで、キーを押し込むまでに必要な力(重さ)自体は、比較的軽量なんですね、これが。
それで、この手のショートストローク系キーボードというのは、タッチさえ良ければ、実にスピーディーでレスポンスのいい、軽快な感触が楽しめるのが魅力なんですね。雰囲気はちょっと違いますけど、このキーボードに比較的近い感触を備えているものとしては、モバイルギアのキータッチですね。あれも、モバイル系ではなかなかの逸品だと思いますけど、このワイヤレスキーボードは、それを上回る感触の良さと軽快さを備えいるんですね。しかも、輸入物のパッケージの外箱に、日本語のシールを貼っただけの、実に簡素というか、シンプルなものなんですが、そんなこともあって、私にとって不必要なカナ表示がないのもいいですね……。もっとも、リターンキーやファンクションキーがきわめて小さいのが欠点ですけどね。
結局、このキーボードのお陰で、私が一番ノリのいいときの最高速である、1時間当たり3000文字強という猛烈なペースを6時間以上も続けることができたんですから、これはもう相当なもの(きっと、端から見ると、気が狂ったようにキーボードを打っているでしょうね)。その甲斐あって、土日で20ページ以上、なんとか入稿することができました(といっても、私は、エンジンがかかるまで、時間がかかるんで、毎日そんなペースで仕事をしているわけじゃありませんよ! そんなことしたら、ホントに死んじゃいますから)。
とまあ、そんなこんなで、結構、キーボードひとつで楽しんでいる私。いつの間にか、Mac用まで含めると、20以上のキーボードが転がっているという状態になってしまいました(ハハハ、バカですねえ~)。まあ、それはともかく、キーボードなんて、高くても1万円前後ですし、安価なものなら数千円ですから、実用性はもちろんですけど、趣味として考えても、コレって、なかなか素敵な世界だと思うんですよ。もちろん、キーボードによって、微妙なキー配列が変わったりしましから、そのあたりは結構慣れが必要でしょうけど、コレがホントに、思いのほか、楽しめるもんですよねえ~。
そろそろ手持ちのパソコンに飽きてきたあなた。本体を買い換える前に、一度、より自分の目的にあったキーボードを変えてみると、同じモデルでも、意外なほど軽快に感じられると思いますよ! ぜひ、一度、お試しアレ。
[Text by 山田久美夫]