後藤弘茂のWeekly海外ニュース
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ジェットコースターのように揺れたIntel株


●Cyrixの6x86MXは動作周波数あたりの性能を高める方向に

 先週後半の話題をさらったのは、MPU関連のニュースだった。

 ひとつは金曜日(日本時間土曜日)に発表された米Cyrix社の「6x86MX」で、これは、開発コードでは「M2」と呼ばれていたMPUで、米AMD社のAMD-K6と同クラスを狙ったMMX互換機能搭載MPUだ。6x86MXは、K6や米Intel社のPentium IIほどにはサンプルが出回らず、パフォーマンスなども不鮮明な部分が多かった。しかし、登場してみると、少なくとも'98年の頭までの展望では、パフォーマンスは十分他のMPUに匹敵できるモノであることが明らかになったようだ。6x86MXに関しては、PC Worldのサイトがかなり力を入れていて面白い。「Cyrix 6x86MX Powers Pentium II-Class Systems for $2100」(PC World,5/29)では、テストの結果として、6x86MXのPR233(233MHz相当性能)版の性能がK6の233MHzやMMX Pentiumの233MHz、さらにPentium IIの233MHzと同等かそれ以上だと報じている。ただ、6x86MXの動作周波数は、K6やPentium IIほど高くはない。PR233は188MHz、PR200は166MHz、PR166は150MHzだ。これは何を意味するかというと、6x86MXはPentium IIやK6のように、どちらかというと動作周波数を高める点に力を入れたMPUではなく、周波数あたりの実行命令数を高めるという方向を向いたMPUだということだ。この2つの方向性は、必ずしも両立しないわけではないが、トレードオフになる場合も結構多い。どちらを選ぶかはデザインチョイスになるわけだが、ファブレス(工場を持たない)メーカーのCyrixとしては、こちらの方が自社のデザイン力での強みを活かし、ファブを持たないという弱みをカバーできると考えたというわけだろう。このチップですごいのは価格戦略で、6x86の時とは異なり、一気にボリュームゾーン狙いできた。190ドルから320ドルで、同クラスのMMX Pentiumと比べてもかなり安い。「What's Innovative About Cyrix Chip?」(PC World,5/30)によると、CTXは6x86MX-PR166搭載マシンを999ドルで出すと見られているという。いよいよ、サブ1,000ドルラインにもMMXが来るのか。


●Intel株はジェットコースターのように

 もうひとつのMPU関連のニュースは、Intel株の下落。これは、Intelが第2四半期の業績が予想よりも悪化するという見通しを金曜朝に発表したのを受けたもので、「Intel Swoons on Profit Forecast」(San Francisco Chronicle,5/31)によると、金曜日だけでIntel株は57,640,000株以上が動いたという。これは、Nasdaqの歴史で3番目に大きな取引だったというから、ウォールストリートのあわてぶりがよくわかる。もっとも、株価は朝一に一気に23ドルも下がったあとは次第に持ち直し、最後は12.27ドル、つまり7.5%の下げ幅で収まったそうだ。まるでジェットコースターのように上下したわけだが、揺り戻したのは、Intelのこの結果が一時的な現象であり、PC市場全体のスランプを意味するのではないという判断が広まったためだという。この見解は、ほぼ各サイトで一致しているようだ。「Pentium II shift hurts Intel earnings」(CNET NEWS.COM,5/30)では、アナリストの分析として、IntelがPentium IIを発表したことで、Intelの従来のチップのセールスに影響が出たのが原因と報じている。これは、Intel製MPU同士の市場の共食い現象で、これまでも、Intelが新世代のMPUを発表したときは一時的な市場の凪状態が起こっていたという。それに対して株式市場が大きなリアクションをしたのは、「先に撃ってあとで考える」という習慣からだという。ただし、IntelはCNETの大口投資者のひとつであることも付け加えておこう。


●Intelは今週、ビデオカンファレンスソフト発表か?

 ところで、なぜIntelは今回、業績発表の前に悪い予測を発表したのか。これは米企業のよくあるパターンだ。米企業では、業績が悪いですよという発表を,事前にわざわざ行うことで、衝撃を和らげることが多い。しかも、その発表をグッドニュースと一緒、あるいはその直前に行うことで、影響を最小限にとどめるという戦術がよく使われる。じつは、今回Intelは、6月2日の月曜日(日本時間火曜日)に、ニューヨークでカンファレンスを開催、そこでPentium II用のソフトウェアベースのビデオカンファレンスシステムの発表を行うと見られている。「Intel and Others Ready New Videoconferencing Wares」(Communications Week,5/29)など。また、Pentiumの新版を出すというニュースも「Pentium hits top speed at 233 MHz」(CNET NEWS.COM,5/30)などで報じられている。つまり、今週に入れば好材料がかなりあるわけだ。だからその直前の週末に先制してバッドニュースを発表してしまえ、となったわけではないだろうか。


●Intel対DEC、第2ラウンド

 先週は、もうひとつ面白いIntel関連ニュースがあった。Intelと米DECが泥沼の法廷での抗争にはまりこみつつあるのは知っての通り。先週はIntelがDECを提訴するという事件もあったが、さらにIntelは、DECへのPentiumなどの供給も問題にし始めたらしい。「Digital, Intel Disagree on Chip Supply Deal」(PC World,5/29)によると、DECはIntelとの間でMPUの供給に関して'99年までの長期契約を結んでいると主張しているのに対して、Intelは契約は'97年第3四半期までの分だけで、そのあとは再度の交渉が必要だと言っているらしい。まあ、確かに、自社の特許を侵害した主張する製品を、自社のPCの部品に使うDECの姿勢も矛盾しているのかも知れないけど、しかし不毛な戦いという気もする。


●COMDEX Springの目玉は?

 さて、来週からはアトランタでCOMDEX Spring、台北でComputex、ニューヨークでPC Expoと立て続けにトレードショウが行われる。春のCOMDEXは、最近盛り上がっているPC Expoの直前とあって秋のCOMDEXと比べて注目度が低いが、それでもそれなりに見どころはあるらしい。たとえば、「Diminished Comdex still has plenty to show」(computerworld,5/30)によると、水曜日のキーノートスピーチには、米Oracle社のラリー・エリソン会長兼CEOと、CNNのテッド・ターナー氏(米Time Warnerの副会長)が登場、両社の提携に関して詳細を明らかにするという。アトランタと言えばターナー氏の地元だから、これはぴったりかも。また、「Toshiba subnotebook U.S.-bound」(CNET NEWS.COM,5/30)によると、東芝は米国版の「Libretto」をここでデビューさせるという。日本版よりキーボードや液晶ディスプレイのサイズはやや大きくなるらしい。とはいえ、NetPCが登場すると言われるPC Expoと比べると、迫力に欠けるのは確かかな。


●Internet Explorer 4.0β版が6月11日ってほんと?

 最後はMicrosoft関連ニュース。正式β版の登場が待たれるInternet Explorer 4.0だが、それがいよいよ登場するというウワサが聞こえてきた。「Microsoft IE 4.0 Beta 1 Due June 11th!?!」(browserwatch,5/29)によると、6月11日だという。しかし、相手はMicrosoft、さてどうなることか。また、Memphis関連のニュースもある。コンシューマ向けPC/TV向けのMemphis用TV番組ガイドインターフェイスについて、かなり詳細に報じているのが「Memphis: TV guide on the PC?」(CNET NEWS.COM,5/28)。このインターフェイスを使うと、PCらしい画面はまったく見えなくなり、誰でも簡単に見たいTV番組を選べるようになる。これはWinHEC 97などでも簡単なデモを行っていたが。Microsoftがこのインターフェイスに力を入れるのは、自社の推進する仕様のディジタルTVが使いやすいことをアピールしたいためもあるだろう。PCにTVを統合するってのは、基本的にはいい考え方だけれど、番組の途中でハングアップしてリブートするなんてのはちょっと考えたくない。


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('97/6/2)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp