後藤弘茂のWeekly海外ニュース


MicrosoftはWindows CE 2.0で何を目指すのか

●Windows CE 2.0β版はそろそろOEM向けに登場?

 まだ日本語版Windows CEさえ登場していないというのに、もうWindows CE 2.0!?

 米Microsoft社がつい最近Webサイトにポストした情報によると、'97年第2四半期中(つまり遅くとも来月には)にはWindows CE 2.0のβ版を出荷、最終版を第3四半期には提供するという。もちろん、Microsoftのスケジュールをあまり真剣に受け止めてもしょうがないが、それでもWindows CE 2.0が目前に迫っていることは、まず間違いがない。5月9日付けのCOMPUTER RESELLER NEWSの記事「Microsoft, Partners To Field Windows Wallet, Auto Windows CE Devices」では、今週ある程度の概要が発表されると報じている。

 実際、周辺メーカーからもMicrosoftのこのスケジュールを裏付ける発言が、しきりに聞こえてくる。例えば、4月頭のWinHEC 97でWindows CE電話を出展していた米Navitel社の解説員は「Windows CE 2.0の登場は8月で、当社はそれに対応してカラー製品を用意する」と断言していた。また、ある半導体メーカーは「今年夏のWindows CE 2.0に向けて引き合いが殺到している。Windows CE 2.0ではかなりの数の製品が出てくるのでは?」と語っていた。

 では、Microsoftがこれだけ急ピッチで進めるWindows CE 2.0とはどんなものなのだろう。Windows CE 2.0に関しては、現在はMicrosoftが5月12日に発表した「Windows CE 1.01」関連のドキュメントに概要が記されているだけだ。つまり、ほとんど輪郭しかわかっていない。それでも、その内容はけっこう刺激的だ。

●機能拡張でHPC以外を射程に入れる

 まず、これはすでに海外のニュースサイトでは何回も報じられていることだが、Windows CE 2.0はカラーディスプレイをサポートし、フルカラーまで対応する。また、印刷機能やNDISドライバを含むLANコネクションも標準で入る予定になっている。サポートするMPUプラットフォームも拡大され、x86系とPowerPC系が正式に加わる。そして、Windows CE 2.0ではMicrosoftのコンポーネントアーキテクチャであるCOMをサポート、さらにJavaにも対応することが初めて明確にされた。

 この内容を見ると、Windows CEの進もうとしている方向がわかる。

 まず、最初のカラー対応は、Windows CE 2.0では必然の要素だ。もっとも、これはハンドヘルドPC(HPC)だけを見ているとピンと来ないかも知れない。HPCでは、ディスプレイをカラー化するとバッテリ駆動時間がぐっと落ちてしまうので、あまり現実的ではないからだ。しかし、Microsoftは、Windows CEをTVやカーナビなどハンドヘルドPC以外のデバイスにも売り込もうと、かなり活発に動き始めている。例えば、先月買収したWebTV Networksのインターネット端末やWebTVの技術を使って売り込むインターネットTVでは、今後、OSとしてWindows CEを採用すると言っている。また、Microsoftのplatform and applicationsのグループ副社長Paul Maritz氏はつい最近もスピーチの中で、Windows CE版のカーナビゲーションシステムについて言及している。そうなると、カラー対応はどうしても必要なフィーチャーとなるわけだ。

 そもそも、MicrosoftはWindows CEの最初の発表時に、この第3のWindowsを,ページャやスマート携帯電話など無線コミュニケーション機器や,DVDプレイヤなどの次世代マルチメディア機器,さらにインターネットTV,デジタルセットトップボックス,インターネット電話など幅広いデバイスに提供すると位置づけていた。ところが、これまでのところは、そうしたお題目を具体的に示す展開は、NavitelのWindows CE電話をのぞけば皆無だったと言っていい。「Windows CEデバイス=HPC」であって、それ以上の何ものでもなかった。その状況が、カラー対応するWindows CE 2.0でようやく変わり始めるわけだ。逆を言えば、当初目指していた市場にアプローチするためには、Microsoftは急いでWindows CE 2.0を開発しなければならないということになる。

●サポートMPUも大幅に拡大

 印刷機能やLANコネクションはHPCでも求められているが、もう少し広い展開のための布石でもあるだろう。例えば、企業向けにWindows CEを搭載したサブノートやデスクトップ型のイントラネット端末といったデバイスも、これで射程に入れやすくなる。Windows CE 2.0の概要には入っていないが、WinHECではUSBなどの新しいインターフェイスも将来ドライバが提供されるとしていた。

 サポートMPUの拡大は、すでに発表していたことなので驚くには当たらない。Windows CE 1.01まででは実際にはWindows CEプラットフォームに名を連ねたMPUのうち、日立製作所のSH3シリーズ、NECのVR4100シリーズやPhilipsのR3900シリーズなどのMIPS系 MPUまでしかサポートされていない。しかし、Windows CE 2.0ではこれに米Intel社と米AMD社の組み込み向け486系MPU、それに米Motorola社のPowerPC 820シリーズが加わる。また、WinHECではARMプラットフォームへの移植もすでに動いていると言っていた。

 すでに知られている通り、Windows CEは、Windows 95とは異なりx86 MPUにこだわるのはやめた。その代わり、Win32 APIのサブセットを採用、APIの共通化によって簡単にソフトを移植できるようにしようとしている。これは、逆を言えば、Microsoftの現在のよりどころであるWin32 APIを広げようという戦略でもあるわけだ。積極的に対応MPUを増やしているのは、Win32をどこにでもという姿勢の現れとも取れる。

 先ほど、MicrosoftはWindows CEをマルチメディア機器などにも拡大すると書いたが、じつはそれだけではない。WinHEC 97でMicrosoftは、Windows CEは炊飯器まで含めたあらゆるタイプの組み込みMPU市場に応用することができると宣言した。こうした組み込み市場向けには、すでにさまざまなリアルタイムOSがひしめいており、さらにJavaOSも登場する。そににMicrosoftは、Win32を武器になぐり込むわけだ。

 ただ、この戦略はさすがに行方は怪しい。インターネットTVのように、Windows CEのアプリケーションやWi32の蓄積が大きな意味を持つ可能性のあるデバイスはいい。しかし、エアコンや産業機器では、最重視されるのはリアルタイム性能やサイズの小ささになるはずだ。ここで、どれだけWindows CEが競争力を持てるかは、現状では見通せない。将来はともかく、当初はインテリジェント家電やせいぜい携帯電話などがターゲットになるのではないだろうか。

●COMサポートでMicrosoftのCOM戦略をフォロー

 さて、Microsoftは、Win32 APIで共通性を維持することで、Windows CEをWindowsファミリの末端に位置づけた。しかし、それだけではWindowsファミリと言い切れない部分があった。それは、Windows CEがこれまでCOMをサポートしていなかったことだ。

 MicrosoftはWindows 95/NT環境ではCOM/DCOMをベースにしたコンポーネント化と分散オブジェクト化を推進している。それなのに、Windows CE上ではCOMはサポートされていない。これは、ネットワーク上でCOMオブジェクト(ActiveXコントロール)を自在に連携させ、ネットワーク全体を大きなコンピュータとして動かそうというCOMベースの分散コンピューティング構想にとって大きな問題となる。例えば、ActiveXコントロールをばんばん使ってイントラネットを組み立てた場合、そこでWindows CE端末は使えないということになってしまうわけだ。そう考えると、Windows CEでCOMがサポートされるのは当然と言えるかも知れない。COMベースなら、各MPU用にコンパイルしなくても、同じオブジェクトがそのまま使えるわけで、イントラネットなどでのWindows CEの有用性はずっと高まる。

 しかし、これはMicrosoftにとってかなり重荷になる可能性もある。というのは、COMオブジェクトの場合、基本的にx86コードなのでx86以外の環境ではエミュレーションなどの手段を取らないと実行できないからだ。SH、MIPS、PowerPC、ARMといった組み込みRISC系MPUに足場を広げたWindows CEの場合、この問題を少ないリソースで解決し、しかも高いパフォーマンスを実現しないとならない。これはちょっと考えただけでも大変だ。もちろん、x86系MPUでは、この部分は心配する必要がない。Windows CE 2.0のx86サポートは、こうした展開をにらんでいるからかも知れない。つまり、Windows CE搭載の企業向けの据え置き端末が登場するとしたら、それはx86ベースとなる可能性が高いのではないだろうか。

 また、Windows CEはJava VMも載せる。これは、MicrosoftがJavaを再重要なプラットフォームと認識していることを示すだけではない。JavaをActiveXで取り込んで(JavaアプレットをCOMオブジェクトとして扱えるようにして)しまおうという、対Java陣営戦略をWindows CEでもフォローしようとしているとも受け取れる。ちなみに、今Java陣営との間で最大の問題になっている、Microsoftの定義したJavaクラスライブラリ「Microsoft Foundation Classes」も搭載されることになっている。つまり、Javaを普遍のプラットフォームとしては認めず、言語のひとつとして自分たちのプラットフォームに取り込もうという“Windows戦略”は、Windows CEでも継承されるわけだ。このほか、Windows CE 2.0ではVisual Basic Scriptingもサポートされる。

 こうやって見ると、Windows CE 2.0の強化点で目立つのは、Windowsのサブセット化をさらに促進して「ミニWindows」に仕立てようという方向だ。COMやJava、LANのサポートなどは、イントラネットなどビジネス環境でを考えた結果だと感じられる。こうした流れからは、Windows CE 2.0デバイスでは企業向け端末がかなり登場する、あるいはMicrosoftは登場させたがっていると推測できる。

 以前、このコーナーで、Microsoftが米Citrix Systems社の技術を使って、Windows CEベースのWindows Terminalを作ろうとしているのではという予測を書いた。Citrixの技術では、Windowsアプリをサーバー上で動作させて、その表示結果だけをクライアントが受け取ることで、Windowsアプリを異なるプラットフォーム上からも利用できるようにすることができる。そのCitrixと、Microsoftは今週いよいよ契約を結んで、技術をWindows NTサーバーに取り入れることを発表した。成功するかどうかはともかくとして、Windows CE版企業向け端末が登場できるお膳立ては揃ったわけだ。

□「Microsoft Windows CE: The New Choice for Dedicated Systems」
(Windows CE 2.0の概要も記されている)
http://www.microsoft.com/windowsce/developer/data/tech/oem_whit.htm

('97/5/15)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp