後藤弘茂のWeekly海外ニュース
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●ゲイツ氏が100人のトップエグゼクティブを集めて晩餐

 6000万ドルをつぎ込んだと言われる米Microsoft社会長兼CEOビル・ゲイツ氏の大邸宅。ようやくできあがった(家具などはまだ完全ではないそうだが)この豪邸に、全世界から企業のトップエグゼクティブや政治家など約100人が集まり、ゲイツ氏と夕食をともにした。これは、ゲイツ氏が主催した「Microsoft CEO Summit」の一部として晩餐を催したもの。アル・ゴア副大統領やスティーブ・フォーブス氏なども顔を見せたというこのイベントのニュースは、先週ほとんどのニュースサイトで見かけた。なかでもその夜の様子を詳細にレポートしていたのは地元紙の「CEOs mingle with Gates, Gore after a full day of techno-talk」(The Seattle Times)。それによると、ゲイツ氏やゴア氏らのスピーチのあと、一行は夕刻のワシントン湖をクルーズ、ゲイツ邸に湖からのりつけたという。参加者によると、邸宅は品のよいノースウェスト風の家で、24のモニタを備え付けたビデオウォールなどをのぞけば、それほどハイテク風ではないという。しかし、「Gates' techno-home is still a work in progress」(The Seattle Times)によると、絵やダミーの本後ろにスピーカやマイクが隠されていたりと、じつは巧妙にテクノロジを隠した作りになっているらしい。

 もちろん、このイベントはただ夕食しましょうという会ではない。昼間はゲイツ氏やゴア副大統領による講演を行った。「Gates Offers Digital Nervous Systems Vision」(COMPUTER RESELLER NEWS,5/8)によると、ゲイツは、将来のビジネスでは「デジタル神経システム(digital nervous systems)」が競争力の決め手になるとスピーチしたらしい。デジタル神経システムというのは、言ってみればコンピュータ技術を使った企業における神経システムで、ビジネスのあらゆるイベントをより把握しやすくするというようなことらしい。ほとんどが自分より年上のトップエグゼクティブを集めて、ハイテク経営論をぶつゲイツ氏。いよいよ頂点をきわめたか?


●34人も引き抜かれれば怒っても当然?

 しかし、こうしたゲイツ氏の栄華を、にくにくしく思っているも業界関係者もきっと多いだろう。そして、そのなかに米Borland International社の幹部が含まれていることは、まず間違いがない。Borlandは、先週、Microsoftが同社のエンジニアをがんがん引き抜いていることは、不公平競争に当たるとして裁判所に訴えたという。Borlandは、Microsoftが同社の開発計画を遅らせて、製品の競争力を落とすために引き抜きを図ったと言っているわけだが、通常はこうした理由で訴えることはあまりない。それだけ腹に据えかねたということだろう。

 このニュースはほとんどのサイトが伝えているが、「Borland Says Microsoft Raided Staff」(San Francisco Chronicle,5/8)が、Borlandの「よほど腹に据えかねて」という雰囲気がよくわかって面白かった。それによると、Microsoftがこの30ヶ月間に引き抜いたのは34人もの幹部社員で、そのなかには開発部門のトップだったPaul Gross上級副社長、「Delphi」の開発者Anders Hejlsberg氏といった業界屈指の人材も含まれているという。Borland側によると引き抜きはシステマティックで、Microsoftに引き抜かれたメンバーは「Dead Borlanders Society(死せるボーランド社員協会、Dead Poets' Societyのもじり)」を結成し、ボーランドの情報や引き抜けるメンツの名前をMicrosoftに提供しているという。またまたMicrosoftは嫌われ者の面目躍如!?


●MicrosoftのCOM拡張計画

 Microsoft関連のニュースでは、このほか先週開催された「Tech Ed '97」のニュースが目立った。と言っても、大半は他の日本のニュースサイトが翻訳記事などで伝えてしまっているので、新しい重要ニュースはそれほど多くない。そんななかでちょっと目を引いたのは「Windows Paranoia」(TechWire,5/9)だった。この記事では、COMの次期バージョンなどについて触れている。それによると、COM 3.0と一部で呼ばれている次のバージョンでは、開発者が複数の言語を組み合わせてコンポーネンツやアプリケーションを作れるようになるという。ようは対Java戦略(というかJava取り込み戦略)なわけだ。また、次期COMはMicrosoftのどのOSやツールでも扱えるようになるそうだ。

 ちなみに、以前伝えたDNA構想は「Windows For Distributed Computing」としてプレゼンテーションされたという。記事のなかでは「なぜMicrosoftはそこまでWindows(COM/DCOM,Win32 API)に偏執的にこだわるのか?」とあきれる声を取り上げていたのも面白い。まあ、ここを守らないと、自分たちもあっという間に凋落してしまうというのが、それだけわかっているということだ。ちなみに、Tech Ed '97でのゲイツ氏のスピーチのテキストはこちら


●今週MicrosoftがWindows CE 2.0の概要を発表か?

 ところで、COMをすべてのMicrosoftのOSの上でということになると、当然Windows CEでもサポートすることになる。このあたりは、どうやら今週明らかにされそうだ。「Microsoft, Partners To Field Windows Wallet, Auto Windows CE Devices」(COMPUTER RESELLER NEWS,5/9)によると、今週開催されるWindows CE Developers Conferenceで、Microsoftは「Windows CE 2.0」の概要や、新しいWindows CEデバイス「Gryphon」や「Apollo」(いずれも開発コード名)についても明らかにするらしい。まず、Windows CE 2.0は予想通り、HPC以外のデバイスを幅広くサポート、また、DirectX、ActiveX、COMといった「Windowsスタンダード(あるいはスタンダードにするつもり)でWindows CEにない」要素を盛り込んだものになるという。

 それから、Gryphonはwallet(サイフ)サイズのシステムで、来月頭のCOMDEX/Springでデビューするという。もうひとつのApolloはカーナビシステムだという。Gryphonは、以前はwalletシステム用のWindows CEスモール版OS計画だと伝えられていたが、どうやらハードウェアシステムを含んだものらしい。また、GryphonのOSはWindows CE 2.0だと記事では言っているところを見ると、Windows CE 2.0は軽量版も用意されるのかも知れない。


●PentiumIIバグニュースはようやく沈静化へ

 さて、先週いちばんの大ニュースと言えばPentiumII発表だった。当然、各ニュースサイトでもPentiumII関連の記事があふれたが、じつは多かったのはPentiumIIそのものよりも、先週伝えたバグ問題のニュースだった。なにせ、米Intel社にとっては最悪のタイミングで最悪のパターン(インターネットで話題になりそれをマスコミが取り上げるという、Pentium交換騒ぎにまで発展した94年と同じパターン)で公開されたバグ。Intelはできる限り迅速に調査、バグ自体はすぐに認めたがそれほど重大ではないとしてリコールはせず、そのかわりソフトで対応するという方針を明らかにした。

 サイトの報道も、先週末をピークに沈静化に向かっている(ように見える)。「Intel Says New Chip Has Bug, But No Recall Is in the Works」(The Wall Street Journal,5/9)では、「これは技術的な問題ではなく、広報活動の問題で、Intelのアプローチは前回とはぜんぜん違った」という業界アナリストのコメントを載せている。さすがにこりたということか。


●PentiumIIでJavaを強調するIntelの不思議

 さて、PentiumII発表で、各社のPentiumIIマシンも出揃った。そこでPentiumIIの市場での位置づけや方向性も見えてきた。そこで、PentiumIIがワークステーション市場で大きな役割を果たすと予測しているのは「Workstations get double Pentium II dose」(CNET,5/7)だ。記事によると、PentiumIIはパーソナルワークステーション市場の主流チップになり、Wintelが、これまでUNIXによって占められていたハイパフォーマンスワークステーション市場にも浸透してくることを意味しているという。これは、今回のサーバー用を欠いたPentiumII発表では間違いのないトレンドだ。実際、半分くらいのメーカーはPentiumIIマシンとしてWindows NTワークステーションを前面に押し出してきた。

 それから、IntelはPentiumIIのニューヨークでのお披露目では、Javaの性能に焦点をあてたデモを行ったと「Intel aims Pentium II at Java」(CNET,5/7)と報じている。Corelのオフィスアプリケーションなどのデモをプレゼンテーションで見せたのだそうだ(日本ではやらなかった)。PentiumIIでJavaをそれだけ重視するというのは、日本では奇異に感じるかも知れない。だが、それだけ米国ではJavaの存在感が大きい。このギャップは今回に限らず、海外ニュースサイトを見ていると感じることだ。


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('97/5/12)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp