後藤弘茂のWeekly海外ニュース


WintelのNetPCの勝算は?

Windows TerminalもMicrosoftの戦略に入ったのか

●NetPCがいよいよリアルに

 「Vapourware(話ばかりで姿の見えないソフト)」という言葉がハードウェアにもあてはまるなら、「NetPC」はまさにそれだった。NetPCは、米Microsoft社と米Intel社が昨年10月28日に発表した企業向けWindowsパソコンの規格。言うまでもなく、対NC(Network Computer)用に打ち出したものであり、NC陣営の主張する「TCO (Total Cost of Ownership)」削減をWindowsパソコンで実現しようという構想だ。このあたりの話は以前のコラム「NetPCでNCをけん制するMicrosoft Zero Administration Windowsでパソコンの管理コストを削減」で解説した。だが、当初のNetPCは、NCへのけん制という意味が強く、構想はわかったものの具体的な展開はまったく見えなかった。

 それが、動き始めたのは先週だ。MicrosoftとIntelは、3月12日に「NetPC System Design Guidelines 0.9」をアナウンス。また、NetPCを管理するためのソフトツール「Zero Administration Kit For Windows NT Workstation 4.0」も合わせて発表した。NetPCは今後90日以内にパソコンメーカーから発売され、Zero Administration機能は、将来のWindows 9xやWindows NT WSに統合されるという。

 今回発表された内容は、ドラフトを明確にしたもので、内容自体にはそれほど意外な展開はない。もちろん、細かな点を言えばいろいろあるのだが、昨年発表した方向性を変えるような大きな違いはないということだ。

 内容よりも意外だったのは、むしろ展開のペースの速さだ。NetPCというハードウェア自体は、既存のPCから拡張スロットやリムーバブル系ドライブを引き算し、すでに存在するパソコン管理技術を足し算すれば大半はできあがる。ハードルがひどく高いというわけではない。だが、Zero Administration Windowsも合わせて夏前に見せようという展開は、大方の予想よりかなり早い。

 だが、だからといって、NetPCがいきなり米国のパソコンショップに夏から並ぶというわけではない。先週、NCのコラムでも書いたが、企業向けNCやNetPCといった企業向けの端末は、華々しくエンドユーザー向けにデビューするというものではなく、企業の情報システム部門向けに浸透してゆくものだ。AS/400や5250クライアントなんて、IT関係者以外の一般ビジネスユーザーにはほとんど馴染みがないのと同じことで、少なくとも最初はNetPCやNCの姿はあまり目立たないだろう。

●MicrosoftがTCO削減の意義を認める

 スピーディな展開によって、とりあえずやる気があることを見せたMicrosoftとIntelだが、ここで出てくる疑問は、NetPCとZero-Admin Windowsをどう位置づけるのか、はたして成功するのかといった点だ。

 昨年インタビューをしたあるNC系メーカーの担当者は「MicrosoftにとってNetPCはNCが主張してきたことを認めたのと同じこと。本当にやるなら、自己矛盾に陥ってしまうのではないか」と指摘していた。それまで、MicrosoftはNCのようなThin Clientのコンセプトを一蹴していたのだからこれは当然の指摘だ。

 ローカルにリソースを集中させるパソコンスタイルから、ネットワーク中心のNCスタイルに歩み寄ることは、MicrosoftとIntelにとってはいくつかの危険がある。たとえば、現在のWintelは、特定のOSとMPUに依存したソフト資産によって市場を握っている。ところが、ネットワークアプリ中心になって、クロスプラットフォームのJavaなどへと流れが移ってしまうと、プラットフォームは必ずしもWintelでなくてもよくなってしまう。つまり、Wintelの牙城が崩れてしまう可能性があるわけだ。

 そのためか、MicrosoftのロードマップではNetPCを慎重に位置づけている。すなわち、NetPCはトランザクション業務のような"Task-Base"のユーザーのためのもので、パソコンは"Knowledge Work"のためのツールとしてそのままの位置に留まるというわけだ。こうした棲み分けがはたして有効あるいは妥当かどうかはわからない。だが、Microsoftとしては多少無理があっても、もはやNCに対抗できる構想を出さなければならなかった。つまり、それだけNCの掲げたTCO削減という錦の御旗の効果は大きかったというわけだ。

●NetPCはどこまで有効か

 また、NetPCに対しては、もともとFat ClientであるパソコンがどこまでThin Clientになれるかという疑問の声も多い。たとえば、MicrosoftのNetPC発表直後に米国で開催されたOracle Open Worldでは、米Sun Microsystems社のスコット・マクネリ会長兼CEOがプレス向けの記者会見で「NetPCはコルセットでぎりぎりに締め付けているだけ」とMicrosoftの戦略について述べた。つまり、いくら締め付けてThin(やせ)に見せたとしても、結局はFat(デブ)だというわけだ。同じ土俵に立つのなら、NCの方がOSもハードウェアに対する要求も軽いし、管理も容易だ。したがって、TCOを下げるという効果はNCの方が大きい。

 事実、米国の大手調査会社Gartner Groupが1月21日に発表した「Gartner Group reveals new total cost of ownership study; Network computers generate 26 to 39 percent cost savings」という報告によると、NetPCでは26%のコスト削減だが、JavaベースのNCではそれが39%になると言っている。つまり、NCがうまく魅力を企業にアピールできれば、対NetPCでは勝ち目があることになる。

 それに対してMicrosoftは、NetPCでもWindowsベースを堅守することで、企業のカスタムアプリも含めた既存の資産の活用をポイントに押し出す。また、NetPCのスペック作成に協力した米Compaq Computer社、米Dell Computer社、米Hewlett-Packard社を始めとしたパソコンメーカーを引き込むことで対抗する構えだ。新しいコンセプトだが効果の大きなNCか、これまでの資産の継承ができるが効果はやや薄いNetPCか、どちらが企業ユーザーにアピールするかを競うという構図となる。

●MicrosoftがWindows Terminalをサポートする?

 さて、ここまでのラウンドでは、NCの攻勢に対して、Microsoftがスタートで出遅れたもののNetPCで巻き返しを図るという構図だった。しかし、次のラウンドではまた構図が変わっているかも知れない。Microsoftがもうひとつの手を打つ可能性があるのだ。

 今回の発表資料をよく見ると、じつは「Windows Client Strategy」という図に、NetPCの下にWindows Terminalという別なクライアントがさりげなく入れ込まれている。NetPCはWindows 9x/NTベースで133MHz以上のPentiumプロセッサ、ハードディスク必須で、Windowsアプリをローカルでも走らせることができる1000ドルからのマシンというシロモノだが、Windows Terminalはまったくコンセプトが違う。4MB ROMに4MB RAMを搭載した500ドルからのマシンで、Windowsアプリはサーバー上で走らせるというのだ。つまり、ハードディスクのない非Windowsマシンを意味していると思われる。

 これは、まったくNCそのものだ。実際に、米Wyse Technology社などがこうした端末を発売している。そこで浮かび上がってくるのは、先々週のこのコラムで扱ったMicrosoftがWindows NTにマルチユーザーアプリケーションサーバー技術を統合しようとしているという話だ。もしMicrosoftが、サーバー上だけでWindowsアプリを実行する非Windowsクライアントもカバーしようというのなら、このところの一連の動きはうなずける。

 勝つためには相手のコンセプトだって、どん欲に、迅速に、徹底的に取り入れる。Microsoftが手強い理由は、このあたりにある。

('97/3/17)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp