後藤弘茂のWeekly海外ニュース


MicrosoftがWindowsアプリケーションサーバー技術開発か

Windows CEデバイスでWindowsアプリを走らせるのが狙い?

●非Windows端末でもWindowsアプリを利用できるWinFrame

 あるネットワーク関連ソフト会社の株価が先週後半急落した。米Citrix Systems社の株価だ。

 フロリダ州にあるこの小さな会社は、Windows NTサーバーを使ったマルチユーザーアプリケーションサーバーソフト「WinFrame」で、脚光を浴びていた急成長企業だ。WinFrameというのはどういう技術かというと、サーバー上のアプリケーションを、クライアントからリモート操作できるようにするものだ。Windowsアプリはサーバー上で動作するが、その表示結果はクライアントが受け取ることで、あたかもそのWindowsアプリがクライアント側で動いているような感覚で利用できるというわけだ。ここまで聞けば、これがUNIXのX Window Systemと同じものだということがわかるだろう。

 この場合、ミソなのは、クライアント側がWindowsアプリの実行機能を持っていなくてもいいという点だ。つまり、Windows非互換のクライアントであっても、WinFrameを使えばWindowsアプリを実質的に利用できることになる。クライアント側には、アプリを格納するハードディスクも、大容量メモリも必要ない。これは、NC (Network Computer)上でWindowsアプリを使えるようになることを意味している。そのため、この1年ほどの間に、大半のNCメーカーがCitrixとライセンス契約を結んだ。

●Microsoftがライセンス取得に乗り出す

 それなのに、なぜ株価が急落したのか。それは、米Microsoft社がWindows NTの次のフィーチャのひとつとして、WinFrameと競合する技術を開発中か、開発する可能性があるというニュースが流れたからだ。火元はCitrix自身で、プレスリリースによると、同社はこのところWinFrameとそのベースとなるICAプロトコルに関するクロスライセンス契約を結ぶ交渉を、Microsoftと行っていたという(MicrosoftとはICAクライアントの提供で昨年提携している)。そして、その交渉の席で、ライセンス契約が成立しなかった場合、Microsoftが独自で同等技術を開発するか、あるいは他のソースからライセンスを受けることを、Microsoftから通告されたというのだ。いくつかのニュースサイトは、すでにMicrosoftがそうした技術の開発を行っていると報じている。

 もし、交渉が破談に終わり、MicrosoftがWinFrameと同等の技術を手に入れれば、Citrixの技術の価値がなくなる。そこで株価が60%も一気に下がったわけだ。ちなみに、Citrixが、自社にとって不利なこんな情報をわざわざ発表したのは、出資者に自社の将来を左右する案件に関する最大限の情報を与えることで、将来の訴訟リスクを回避する法律「the safe harbor provisions of the Private Securities Litigation Reform Act of 1995」に従ったためだ。

●何のためにWinFrameが欲しいのか

 さて、この交渉の行方はさておき、ここで明確になったのは、MicrosoftがWindows NTにX Window System同等のアプリケーションサーバー機能を与えることを、非常に重要視していることだ。そして、そこで出てくる当然の疑問は、なぜなのか、いったいどんなクライアントを想定しているのか、という点だ。

 Microsoftという会社は、クライアント側のプラットフォームをWindowsで制覇した。Windowsパソコンの市場支配の原点は、Windowsアプリが実行できることだ。だから、その利点をわざわざ捨てて、どのプラットフォームからでもWindowsアプリが使えるようにする技術を搭載するというのは、なんだか矛盾しているように思える。わざわざ商売敵である他社のNCのために、そんな技術を搭載するわけわないだろう。また、MicrosoftのNC対抗構想であるNetPCはWindowsベースなので、WinFrameのような技術を使う必要はとくにない。では、何のためにこんな技術を導入しようとしているのだろう。

 そこで浮かび上がってくるのは、Windows CEの存在だ。Microsoftが持っているWindows 95/NTとバイナリ互換でないプラットフォームといったらWindows CEだ。HPCなど、Windows CE搭載デバイス上で、Windows用パッケージアプリやカスタムアプリを動かそうという構想をMicrosoftが持つのは別に不思議でも何でもない。実際、「Microsoft's 'Hydra' To Take On NCs」(Computer Reseller News,2/28)のように、これはWindows CEをターゲットにした技術だと報じている記事もある。

●Windows CEを低価格企業向け端末にできる

 Windows CEは、ご存じの通りWin32 APIこそ継承しているが、複数のMPUをサポートしているため、RISC版などはWindows 95/NTとのバイナリ互換性はない。また、ActiveXコントロールやDirectXなども現状ではサポートされていないので、こうしたコンポーネントやインターフェイスを使ったソフトは移植しにくい。これは、デバイス自体のコストや消費電力、必要メモリなどを低減するために必要な措置だったわけだが、その結果、アプリの数は今のところかなり制限されている。これを、アプリケーションサーバー技術によって、ブレイクできるというわけだ。

 Microsoftにすれば、この戦略にはいくつかの利点がある。ひとつは、もちろんHPCを使ったリモートアクセスの魅力が増すことだが、それ以上に、HPCだけでなくさまざまな形態の端末にWindows CEの応用が広がる可能性の方が大きいだろう。それこそ、もろNCタイプというか300ドル程度のイントラネット端末というカタチだってありうるわけだ。そもそも、MicrosoftはWindows CEをハンドヘルドPC(HPC)だけでなく、多彩な機器に搭載してゆくことをはじめから予告している。実際、ある半導体メーカーから聞いた話では、米国ではWindows CEデバイスで、今、半導体メーカーにいちばん引き合いが多いのは据置型電話なのだという。Windows CE電話は米Navitel社などがすでに発売しているが、要は電話にVGA程度の液晶スクリーンとキーボードを備えたシロモノだ。

 Windows CEがうまくWindows 95/NTでカバーできない低価格機器を支配できれば、Microsoftは、NetPC以外にもNCやインターネット/イントラネット端末などを迎え撃つコマができることになる。もちろん、Windows 95/NTプラットフォームとの競合を恐れなければの話だが、Microsoftにとってみればどちらも同じWindowsだから損はない。もちろん、Microsoftの戦略はスプレッドし過ぎているし、こけおどし的な部分もかなりあるのだが、影響力が大きいだけに、こうした小さな動きも見過ごせない。

□Citrix Systemsのホームページ
(3月3日現在、この件に関する情報は掲載されていない)
http://www.citrix.com/

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('97/3/3)

[Reported by 後藤 弘茂]


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