ISSCCは、各半導体メーカーや研究機関が、開発・研究中の最先端LSI技術を発表する場。ここで明かされる研究成果のなかには、MPUだけでなくメモリや各種ロジックLSIなどさまざまな半導体製品が含まれる。もちろん、ISSCCは研究発表の場であり、ここで発表される技術がすべてそのまま実際の製品に直結しているわけではない。しかし、米Intel社がPentium Proプロセッサの概要を初めて発表(95年)するなど、このカンファレンスが将来製品のお披露目のステージに選ばれることは少なくない。それだけに、注目度は高い。
そして、今年のISSCCで注目されているのは、Intelの発表する「A 300MHz CMOS Microprocessor with Multi-Media Extensions (マルチメディア拡張を備えた300MHzのCMOSマイクロプロセッサ)」だ。IEEEが昨年10月頃から公開していいる「ISSCC97 ADVANCE PROGRAM」によると、これはdynamic-executionを備えた、つまりPentium ProアーキテクチャのMPUで、各16Kバイトの命令キャッシュとデータ・キャッシュを内蔵、2次キャッシュ専用バスを備えるという。トランジスタ数は750万、ダイ面積は203平方mmで2.8ボルト駆動、0.35ミクロンプロセスの4層メタルレイヤで製造するそうだ。
この概要は、ウワサされている次世代のMMX Pentium Proプロセッサ「Klamath(コード名)」の像とほぼ一致すると見られている。Klamathは233/266MHzで登場すると先月各誌で報道されていたが、300MHzも実現できる可能性は高いだろう。ISSCCでどれだけ突っ込んだ内容が発表されるかはわからないが、ISSCC以降は次世代Pentium Proの姿がある程度明らかになる可能性も高い。
さて、このほかISSCCでは米AMD社がKlamathに対抗して、今年の第2四半期頃に発表すると見られている次世代MPU「K6(コード名)」に関しての発表を行う。同社はすでにK6に関して、これまでもある程度の概要を明かしてきており、今回の発表でこれまで公表されていなかったMMX互換性能や動作周波数などがどこまで明らかにされるかが注目される。
その他のMPUでは、スピード競争の最先頭を突っ走る米DEC社の、600MHz版のAlphaが光っている。Advance Programを見ると、このMPUは40 SPECint95/60 SPECfp95というとてつもない性能になっている。Pentium Pro最高峰の200MHz/512KBキャッシュ搭載版の性能が8.58 SPECint95/6.48 SPECfp95なのだから、この次世代Alphaの性能の卓越ぶりがわかる。Alphaアーキテクチャではこのほか、13の新命令を追加してMPEG-IIのエンコードも実現する550MHzのMPUが、DECと三菱電機により発表される。
'97年から'98年にかけて、ハイエンドMPUはいよいよ300MHz時代に突入する。となると、ミッドレンジからローエンドはどうなるのだろう。まず、'97年前半のパソコン用MPUはローエンドがPentiumプロセッサの133MHzになる。これは1月末にIntelが発表したと報道されているIntel製MPUの価格変更で明らかだ。今回の価格改定で、IntelはPentium 133MHzの価格を30%以上も切り下げて、130ドル台に持ち込み、166MHzは300ドルを割り込ませたという。発表したばかりのMMX Pentiumも、166MHz版は300ドル台中盤と、かなりのプライスカットになった。 かなりアグレッシブな価格切り下げだが、これには理由がある。Intelはこれまで四半期ごとにMPU価格を段階的に切り下げる方針できた。しかし、前回の四半期にはそれを止めて、Pentium Pro以外は価格を下げなかった。そのため、今回はかなり思い切った価格引き下げを行うと、はじめから予想されていたのだ。また、Intelは以前からロードマップで'97年には133MHzをローエンドにすると発表していた。ただ、値下げ幅が予想されていたよりも大きかったという受け止め方はされているようだ。
そもそもIntelのパソコン用MPUの価格には法則があって、最初はハイエンドとして1,000ドル近辺で登場、そのあと徐々に価格が下がっていって、最後は150ドルくらいまで来て消えるというパターンを繰り返している。古いMPUを数10ドルでたたき売るということはしない。今回、133MHzがこの最終ゾーンに突入したことは、Pentium 133MHzが完全なローエンド向けになり近い将来ラインナップから消え、また、166MHzがPentium/MMX Pentiumともにボリュームゾーンの主軸になることを意味している。
今回のIntelの価格引き下げの影響を少なからず受けるのはAMDだろう。AMDは出遅れたK5のWindowsでの性能を改善し、ようやくメインストリームのパソコン市場で攻勢に出たところ。133/166MHz Pentium対抗を今の主軸にしているだけに、この市場で価格での競争力が減少するのは痛いだろう。しかも、K5はダイが大きいためにPentiumよりも製造コストが高いと見られているから価格競争に持ち込まれたら厳しいという事情がある。必然的に、AMDとしてはK5の高速化と、K6のボリューム出荷を急がなければならなくなるわけだ。 もっとも、今回のIntelの価格引き下げは均一に行ったわけではなく、競争相手のほとんどいない市場セグメント、つまり、200MHzクラスのPentium/MMX PentiumとPentium Pro系の価格は、ほとんど動かさなかったようだ。
では、MPUの価格の変動でパソコン価格はどう変わるのだろう。実際のところ、システムメーカーはIntelが発表する価格の通りに取引をしているわけではなく、取引規模や力関係などで微妙に変わる。ただ、Intelが発表する価格が目安になるのは確かだ。ハイスペック好みの日本では、すでにほとんどのメーカーが133MHzがローエンド、166MHzがボリュームゾーンという構成に昨年末から移行していたので、ラインナップ自体に大きな変化はないだろう。しかし、この春からはPentium 133/166MHzパソコンの価格が一層下がり、ローエンド機の166MHzシフトがますます進むことが予想される。その一方で、200MHzクラスとPentium Proなどのハイエンド機は値動きが少ないという現象が起こるだろう。だが、それもAMDがK6を出荷したりIntel自身がKlamathを出す時、つまり桜の若葉が芽吹くころ(あるいはそれよりもあと)には、こちらの価格も見直されるか、あるいは実質的な出荷価格が下げられることになるに違いない。
□ISSCCのプログラムページ
「ISSCC97 ADVANCE PROGRAM」
http://www.sscs.org/isscc/1997/ap/
【Intelの価格改定関連ニュース】
□「Classic Pentiums take low end」
(CNET,1/30)
http://www.news.com/News/Item/0,4,7480,00.html
□「Intel Cuts Chip Prices Up To 34 Percent」
(COMPUTER RESELLER NEWS,1/28)
http://techweb.cmp.com/crn/dailies/weekending013197/jan28digP.html
□「Intel chops Pentium chip prices, but keeps hands off its high-end processors」
(InfoWorld,1/30)
http://www.infoworld.com/cgi-bin/displayStory.pl?970130.eintel.htm
('97/2/4)
[Reported by 後藤 弘茂]