【法林岳之の非同期通信レポート】

法林岳之の非同期通信レポート 第14回

DSUは機能で選ぶ時代へ ―メルコINT-DSU―

TEXT:法林岳之


INT-DSU

DSUって何なの?


 「ISDN回線を敷設するのに必要なものは?」とたずねると、ほとんどの人が「ターミナルアダプタでしょ」と答える。確かにそれで正解なのだが、その他にも屋内配線ケーブル類DSUなどが必要になる。

 DSUはDigital Service Unit(回線接続装置)の略で、必ず1本のISDN回線に1基のみ設置しなければならない。アナログ回線で言えば、回線が引き込まれているローゼットに相当するものだと考えて欲しい。DSUの役割はデジタル通信に必要な同期、速度の相互変換、過電圧保護などだが、ターミナルアダプタなどと違い、基本的に製品間の性能差はほとんどない(実際には信号がクリアかどうかなどの差はあるようだが……)。

I-DSU64 II  DSUはほんの数年前までNTTから月々1700円でレンタルするしかなかったため、結果的に月々のランニングコストを高くしてしまい、ISDN普及の足かせになっていた。しかし、1994年4月にDSUを買い取ることができるようになり、現在ではNTT製のI-DSU64 II(写真左)というDSUを23,900円で購入することが可能だ。

 このI-DSU64 IIは非常にシンプルな形状で、屋内配線と接続するコネクタ(RJ11)、ターミナルアダプタや分岐モジュラーコネクタと接続するコネクタ(RJ45)が付いているだけだ。以前は屋内配線や分岐コネクタとの接続部分が端子板になっていて(そのため、工事担任者以外が配線することができなかった)、サイズもやや大きめのI-DSU64(さらに古いタイプもあり、現役で使っている人もいるとか)が販売されていたが、昨年の春頃からこのタイプに移行している。実は我が家にもつい最近まで旧タイプのI-DSU64があったのだが、DSU内蔵ターミナルアダプタも増えてきたので、処分してしまった。

 また、最近ではISDN回線の爆発的な普及により、DSU内蔵ターミナルアダプタやターミナルアダプタにDSUが添付されているものが増え、パソコンショップなどでDSUが単品で販売されるケースも増えている。市場で最もよく見かけるのはNEC製のDATAX uZ144K IIというDSUで、実売価格は2万円前後となっている。



なんでDSUって安くならないの?


 しかし、考えてみれば、DSUの約2万円という価格は不可解だ。8年間も継続して販売されていて、基本機能は同じなのに未だにこの値段というのは他の業界でもちょっと考えられない。INSネットのサービス開始時にかなりの開発コストが掛かっているのだろうが、それにしても高く感じられる。昨年末にINSネット64が80万回線を突破したのだから、単純計算でも80万台以上(交換やDSU内蔵ターミナルアダプタを含む)は売れているはずだ。そろそろ減価償却も終わってもいいような気がするが……。

 値段が据え置かれてるわりに、機能の進み具合いはあまりにもトロい。初期のDSUは端子版のみだったため、工事担任者に配線をしてもらうしかなかったが、最近はモジュラージャックが装備され、個人でも簡易工事ができるようになった。しかし、あとはサイズがコンパクトになったことくらいで、その他はまったく機能が変わっていない。

 では、どんな機能を追加すれば良かったのだろうか。たとえば、ターミナルアダプタはDSUの先に接続するが、バス配線上の終端には100Ωの終端抵抗を必ずつけなければならない。SCSIハードディスクのターミネータと同じことだ。しかし、ターミナルアダプタを1台しか接続しないのであれば、DSUのコネクタ部分に終端抵抗を内蔵し、最近のターミナルアダプタのようにスイッチ1つでON/OFFできるようにする手があったはずだ。

分岐ケーブル  また、最近のDSU内蔵ターミナルアダプタには屋内配線が逆転していたときにスイッチひとつで内部的に反転させるINS回線リバーススイッチなどがついているが、これもDSUに取り込むことができたはずの機能だ。

 そして、最も面倒なのがモジュラージャックだ。2台目のターミナルアダプタやデジタル電話機のS-1000などを接続するにはモジュラーコネクタの増設が必要になる。しかし、NTTからはモジュラーコネクタなどのアクセサリー類は一切販売されておらず、以前、物欲道の連載で紹介した分岐ケーブル(写真右)や一昨年末に登場した簡単ケーブルキットなどを利用するしかない。

 NTTに工事を依頼すると、終端抵抗内蔵のモジュラージャックを設置してくれるが、考えてみれば、最初からDSUに2個口以上のモジュラージャックが装備されていれば、もっと簡単に工事ができたはずだ。

 余談だが、最近、こうした分岐ケーブルの類はいろいろなものが発売され、以前よりも選択肢が増えている。秋葉原などで探してみると見つけられるはずだ。



こいつは便利なDSUだ


 いろいろと不満を述べたが、つい最近になって、これらの不満を一気に解消してくれるDSUが発売された。メルコが今月から出荷を開始したINT-DSUだ。実は、はじめてニュースリリースを見たとき、「なるほど、メルコもDSUを売るのかぁ。まあ、ターミナルアダプタも売ってるから当然と言えば当然か……」などと軽く捉えていた。しかし、あるとき、その機能一覧を見て驚いてしまった。

NTT製DSU メルコ製INT-DSU
写真左がNTTのI-DSU64 II、写真右がメルコのINT-DSU

機種名 NTT I-DSU64 II メルコ INT-DSU
標準小売価格 23,900円 19,800円
電源 局給電
接続回線 INSネット64
S/T点端子 1 2
屋内配線の
反転検出
×
屋内配線の
極性切替スイッチ
×
終端抵抗 × 内蔵(切替可)
外形寸法 100(W)×30(H)×152(D)mm 190(W)×29(H)×123(D)mm

INT-DSU背面  まず感心するのは、ユーザーの使い勝手を考えた機能だ。左の写真を見てもわかるように、背面にはモジュラージャックとスイッチ類がずらりと並んでいる。最も右側に位置するのがローゼットと接続する端子、その隣は屋内配線の極性モニターランプ&チェックボタン。続いて、屋内配線が反転していたときの極性切替スイッチ終端抵抗をON/OFFするスイッチが並び、左端には2つのS/T点端子が配されている。また、このS/T点端子の片方の先には分岐ケーブルや簡単ケーブルキットを接続することができ、最大8台まで端末機器の増設が可能だ。

 つまり、前述のNTT製I-DSU64 IIで不足していた機能をしっかりと押さえ、ユーザーがISDNを導入しやすいように、継続して使いやすいように、よく考えて設計されている。しかも価格も標準小売価格で4000円安。NTT製I-DSU64 IIは値引きがない(通常、NTTから購入するときはほとんど値引きされない)のに対し、INT-DSUは他の同社製品ほどではないものの、ある程度の値引きは期待できる。実売価格ではおそらく5000円程度の差がつくはずだ。


INT-DSU&INT-64H INT-DSU&INT-64H Backside
 INT-DSUはI-DSU64 IIに比べ、サイズがやや大きめだが、これには別の理由がある。INT-DSUは同社が販売しているスタッカブルハブとこれと同じサイズ(幅及び奥行)の筐体を採用している。このサイズの筐体は同社のISDNリモートブルータISDNターミナルアダプタにも採用されており、DSUとTA、DSUとルータ、DSUとルータとハブといったような形で積み重ねて設置することができるのだ。

 試しに、ターミナルアダプタのINT-64Hと積み重ねたところ、上の写真のような形になった。利用環境にもよるが、これなら設置場所をすっきりとまとめることができそうだ。しかし、こうなってくると、ハブやルータも同じ筐体で揃えたくなってしまう(笑)。

 ISDN回線を敷設するとき、ターミナルアダプタ選びも重要だが、INT-DSUの登場により、DSUも機能で選択できる時代になりつつあるようだ。パソコンショップなどでも販売されており、かなり入手しやすいという点もうれしい。これからISDN導入を検討している人はもちろん、すでにISDN回線を敷設している人の交換用やバックアップ用としてもお勧めしたい。


※筆者注
 念のために書いておくと、INSネット64のサービスが開始された1988年4月当初、DSUはレンタルでしか入手できなかった。1994年8月から買い取り制が導入(価格はなんと7万5000円!!)され、その後、1995年4月に2万3900円に値下げされた。しかし、レンタル料金は8年以上、まったく値下げされていない。ちなみに、現在の加入者数は当時の3~4倍にまで増えている。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp