IomegaとSyQuestの熾烈なレース
●背後から迫る新たなライバルLS-120 96年前半、米国でいちばん注目されていた株のひとつがIomega株だ。昨年末から株価は急上昇して一時は10倍以上にもなり、新聞系サイトのトップニュースをさらった。実際、米国の記事を見ていると、米Iomega社とその製品への評価は、日本とは比較にならないくらい高い。とくに、Zipドライブは、ポストフロッピィディスクの最有力候補だと、けっこう多くのアナリストが見なしている。 そして、Iomegaへの高評価のあおりを受けているのが、ライバル米SyQuest Technology社だ。IomegaがZipドライブを発表して以来、この2社は狭い市場で激しいデッドヒートを繰り広げてきた。超低価格で100MBの大容量リムーバブルというZipドライブに対して、SyQuestも同クラスの価格で容量もパフォーマンスも上というEZ135を出して対抗。また、Iomegaの1GBリムーバブルjazドライブに対しても、対抗馬をアナウンスした。しかし、熱狂的なZipドライブブームの前に、EZ135は知名度を上げることができないまま来てしまった。 SyQuestの名誉のために言っておくと、これは決して同社の製品が劣っていたからではない。EZ135を評価をした人のほとんどは、つくりのよさと高い性能を評価した。だが、問題はマーケティングにあったのだ。 昨年7月に来日したIomegaの幹部は、同社のマーケティング戦略を次のように説明した。 「市場調査の結果、リムーバブルドライブにはまったく違った2つの市場が存在することがわかった。ひとつはパワーユーザーで、世界中で1,000万台のコンピュータを利用する人々の市場。ここではパフォーマンスと容量が重要で価格は二の次だ。だが、もうひとつの市場はマスマーケットで、この市場では価格がいちばん重要な要素で、パフォーマンスはまあまあでいい。そして、これまでリムーバブルストレージが成功しなかったのは、この2つの市場に対してどっちづかずだったからだ」 そして、Iomegaはこの調査結果をもとに、伝統的な高価格ハイパフォーマンス路線を投げ捨てて、実売200ドルを狙った衝撃的なZipドライブを発表した。その結果、Zipドライブは、モノが出回る前からとんでもなく評価が高まり、大騒ぎとなってしまったのだ。つまり、まったく新しいマーケットを掘り起こすことに成功したわけだ。そのイメージは強烈で、遅れて発表したEZ135が、どこまで行っても人気を奪えなかったのも無理はない。 そして、リムーバブルドライブの場合は、出荷数が増えてユーザーが増えると、メディアが交換媒体としての意味を持ち始め、さらに出荷が増えるという好循環が始まる。しかも、ドライブやメディアの製造コストも下がるのだ。そこで、さらにIomegaが値下げ攻勢に出たわけだ。 そうなると、どう見てもZipドライブより製造コストが高そうなEZ135は不利になる。となると、必然的により大容量の高付加価値商品へとシフトしなければならなくなる。それが、先月、SyQuestが230MBのリムーバブルHDD新製品「EZFlyer」を発売した理由ではないだろうか。ところが、複数のニュースサイトの記事によると、SyQuestは短期的な資金の不足によりEZFlyerの製造が思うにまかせないという。これが本当だとすると、かなりの苦境だ。そして、そこへ追い打ちをかけるように、先週、IomegaはZipドライブを買うと50ドルを還元するキャンペーンを始めた。なかなか、Iomegaも意地が悪い。 もっとも、Iomegaだってこれで安泰というわけではない。というのは後ろから強力なライバルが迫っているからだ。それは松下寿電子工業が3MやCompaqと共同で開発したLS-120だ。これは、既存のFDDと互換性を持ちながら120MBの容量を実現できるドライブで、FDDとの互換性を捨てたZipドライブにとってはとんでもない脅威だ。というのは、次のステップとしてIomegaが狙っているのは、コンピュータへの標準搭載だからだ。 リムーバブル記憶装置は標準搭載された場合、出荷数量は外づけドライブの場合と比べ、1桁から2桁も違うと言われる。FDDやCD-ROMを見ればわかる通り、標準媒体となればそのメディアを使ってソフトが配布されデータが交換されるようになる。そうすると、なくてはならないものになって、ますます普及が加速されるという相乗効果を生み出す。 はたして誰がマルチメディア時代のFDDの地位を獲得できるのか。それとも、広帯域ネットワーク時代になって、そんなものは不要になってしまうのか。 ('96/7/8)
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[Reported by 後藤 弘茂]