今年後半、Compaqがホーム市場に攻勢をかける

●新テクノロジの採用を次々に発表


 今年2月、米Compaq Computer社は「Texas Home Computer Show」というあまり目立たないコンピュータ関連ショーで、近未来のコンピュータ化ホーム"Smart Home"のデモを行った。パソコンがセンターとなって、テレビやオーディオなどの家電機器からライトやインターフォンなどのホーム電気設備をコントロールするというドリームホームだ。このデモ自体は、ホーム向けのネットワークであるCEBusという規格のためのデモだったが、そこには、パソコンを家庭の中心に据えようというCompaqの強烈な意志が感じられる。

 そして、今年の後半、Compaqはホーム市場に大きな勝負をかけるようだ。いくつかのニュースサイトは、Compaqが近いうちに新Presarioシリーズを発表すると報じている。まだ概要はわからないが、新製品には、Compaqがこの半年あまりの間に採用を発表したさまざまな新テクノロジのうちいくつかが盛り込まれるだろう。それは、高性能3Dグラフィックス、高品質サウンド、ビデオ電話、インターキャスト、子供向けコントローラなどだ。

 このうち、3Dグラフィックス機能と高品質ステレオに関しては、すでに5月16日に開催されたElectronic Entertainment Expo (E3)で、お披露目済みだ。サウンドシステムでは新開発のJBLスピーカを添付するというが、注目は、3Dグラフィックスの方だ。3Dグラフィックス自体の採用はもはや珍しくないが、Compaqが注目されるのは、3Dチップに、NECが英Videologic社と提携して開発した「PowerVR」を採用すると表明している点だ。

 PowerVRは、かなりラジカルなアーキテクチャを持つチップで、3Dオブジェクトの遠近により視点から隠れてしまう面を取り除く処理するのに、一般的なZバッファリングを使わなず、チップ内部のバッファで画面の小領域ごとに隠面処理を行ってしまう。そのため、ポリゴンの画素数などに左右されずに性能を発揮し、必要なデータ帯域やメモリ量も少なくてすむ。つまり低コストにかなりの高性能を発揮できるわけだ。また、NECはナムコと提携して、独自3Dライブラリを使ったソフトを供給するとしているので、サポートされるゲームソフトも強力である可能性が高い。PowerVRの実際の完成度はまだわからないが、Compaqが3Dでかなり本気で勝負に出ようとしていることは確かだ。

 また、Compaqは先日、米Intel社の開発したアナログ電話利用のビデオ電話ソフト「Video Phone」を採用することも発表した。これも、今回、または近い将来のホームパソコンに搭載されるのだろう。そして、パソコンショップチェーンの米CompUSA社で販売するバージョンでは、テレビとインターネットを融合させるインターキャストの受信機能(別コラム参照)も搭載する。

 しかも、それだけではない。Compaqは子どももターゲットにしようとしている。昨年、ラスベガスで開催された家電ショウ「Consumer Electronics Show (CES)」で、Compaqはオモチャメーカーの米Fisher-Price社と、3~7歳児向けのインタラクティブコンピュータ玩具を共同開発することを発表した。その第一弾「Wonder Tools Cruiser」は、ハンドルやレバーがついたカラフルなドライビングコングコンソールで、パソコンに接続して使う。今年の夏登場予定だ。

 つまり、まとめるとCompaqは、アーケードクラスの3Dゲーム機能にAV機器並のサウンド、ビデオ電話、そしてテレビに付加価値をつけるインターキャストや子供向けコントローラなどを、今年後半のホーム向けパソコンに搭載またはオプションで提供しようとしているわけだ。これは、なかなか豪華だ。

 しかし、これもCompaqにとってまだ第1歩に過ぎないらしい。というのは、同社は、大手テレビメーカーの米Thomson Consumer Electronics社と共同で、次世代ホームエンターテイメント製品を開発すると発表しているからだ。来年出てくるはずのこの製品は、パソコンとテレビを融合させた、それこそコンピュータの外観はしていないものになっているかも知れない。

 だが、Compaqがこれでホーム市場のエースになれるかどうかはわからない。まず、テクノロジ的には面白くても、こうした高付加価値路線が本当にホーム市場で求められているかどうかわからないからだ。たとえば、ビデオ電話なんて使いたいと思う人は少ないだろうし、そもそも相手がいない。実際に、昨年までは、平凡な性能だがCompaqより少し安い路線を取った米Packard Bell社に追い上げられてしまったという過去がある。
 ともあれ、とりあえず、今年後半のCompaqのホーム路線には注目か。

Compaqホームページ

('96/7/8)


[Reported by 後藤 弘茂]

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