MicrosoftがAppleの幹部技術者を獲得

●頭脳流出続くAppleは,ハイテク各社の草刈り場か?


 米Apple Computer社の危機は依然として続いている。今年の第1四半期には7億4,000万ドルという記録的赤字を計上したが、倉庫には売れないMacintoshがいまだに山積みされていて、赤字は少なくとも第3四半期まで続くと言われている。そして、明るい見通しがまったく見あたらないため、先週には、ついにAppleの株価は86年の水準にまで下がってしまった。つまり、10年来で最低の株価となってしまったわけだ。そこで、5月のカンファレンス「Worldwide Developers Conference(WWDC)」の成功で、一時姿を消していた「はたして、Appleという企業は生き残ることができるか」という記事が、ふたたび増えてきている。

 もっとも、腕におぼえのあるAppleのエンジニアなら、この事態でも、そんなに慌てる必要はない。というのも、どうやら米Microsoft社が、Appleから流出する人材をよろこんで受け入れようとしているからだ。Microsoftは先週6月24日にAppleの技術リーダーとして知られるスティーヴン・キャップス氏とウオルター・スミス氏を、インターネット部門に迎えたと発表した。キャップス氏はMacintoshのファインダーなどを開発した古参幹部、またスミス氏はNewtonプラットフォームを率いていた。どちらも、すでにAppleの伝説の一部となっているキーパースンだ。

 現状では、彼らがAppleを見限った理由は公表されておらず、本人からのコメントを載せている記事も見あたらない。しかし、複数のニュースサイトで、Appleのアメリオ体制に対する不満が、開発者の間でつのっていると報道している。Appleでは外様であり、辣腕で知られるアメリオ氏の会長兼CEOへの就任以来、こうしたウワサは絶えないが、人材流出という形で顕在化してくるとしたら、重大な問題だ。

 また、一般論として言うなら、社員に有利な条件で自社株を所有させる西海岸のコンピュータ系企業のストックオプション制度も、会社が傾き始めるとマイナスに働く。社員は株価が上昇する限り、自分の資産も増えるので会社に忠誠を尽くすが、いったん株価が下がり始め、自分の持つ資産が減り始めるとその忠誠心はたちまちゆらいでしまう。これは、Appleだけでなく、Microsoftにしても同じことだ。つまり、株価が上昇し続けるという見込みのないかぎり、人材が流出し、会社は瓦解してしまうのだ。

 理由はともかく、優秀な頭脳が次々に流出するAppleは、優秀な人材がいくらでも欲しいMicrosoftにとって格好の草刈り場だ。ニュースを読むと、Microsoftは、同社がApple技術者を引き抜いているという報道は否定しているらしい。しかし、4月には、Microsoftが、Appleの人材を集めるように、シリコンバレーのヘッドハンティング会社に軒並みオーダーを入れているというスッパ抜き記事も登場している。もし、それが本当だとしても、なんにも不思議はない。これまでもMicrosoftは各社から流出する優秀な人材を集めてきたからだ。

 もちろん、Appleの人材を狙っているのはMicrosoftだけではない。4月には、R&D部隊のトップでOS開発の指揮をとっていたデビッド・ネーゲル氏が、米AT&T社に移ってしまった。
 はたして、満身創痍のAppleは、開発の主軸となる頭脳を次々に失うなかで再建することができるのだろうか。

Microsoftのプレスリリース

('96/7/1)


[Reported by 後藤 弘茂]

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