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●ワンアーキテクチャだけがCommodity DRAMになる構造
今回のDRAM業界再編成での最大のポイントは、これが、これまでにもあったような「オーバーサプライ→価格下落→弱者脱落→強者繁栄」のバリエーションの1つなのか、それとも、産業の構造的な変化なのかという点だ。そして、業界の雰囲気は、今回は、構造的な変革という見方に傾いているように見える。それは、これまでのDRAMのビジネスモデルが崩れつつあるからだ。
DRAMアーキテクチャは、これまで“ウイナーテイクオール”的な構造で市場を構成してきた。つまり、常にある1アーキテクチャが“Commodity DRAM(コモディティDRAM)”となり、汎用DRAMとして市場のほとんどを占め、その他のアーキテクチャはニッチに押し込められるという構造だ。例えば、ここ2~3年で言うなら、SDRAMが完全にCommodity DRAMで、新世代のRDRAMやDDR SDRAMや旧世代EDO(Extended Data Out) DRAM、そしてそれ以外のアーキテクチャは非Commodity DRAMとして、そこそこのパーセンテージでしかない。
そして、DRAMでは、新しいCommodity DRAMアーキテクチャが登場すると、それが旧Commodity DRAMアーキテクチャに完全に取って代わって市場を独占するというパターンを取る。例えば、過去10年ほどを振り返ると、Commodity DRAMは、非同期のファーストページモード(Fast Page Mode)DRAMから、Pentium時代にEDO DRAMへと移り変わり、SDRAMの時代になった。短期的には新旧アーキテクチャが並存するものの、基本的にはCommodity DRAMアーキテクチャは移り変わる。
こうした、シングルスタンダードの構造だと、どのDRAMメーカーも同じアーキテクチャのCommodity DRAMを大量生産することになる。そのため、競争の最大のポイントは、いかにCommodity DRAMの製造コストを抑えて価格を下げるか、になる。実際、これまでCommodity DRAMになったアーキテクチャは、生産量が増えて価格が下がり、ほかのアーキテクチャに価格で差をつけてきた。
例えば、SDRAMがCommodity DRAMになると、EDO DRAMよりもビット単価がずっと安くなった。そのために、ユーザーはSDRAMへと押しやられた。また、Commodity DRAMにならなかったRDRAMの価格は、常にSDRAMに引き離された。もし、2000年中にRDRAMがCommodity DRAMになっていたら、オーバーサプライで価格が下落したのは(例えコストが高くても)RDRAMになっていただろう。
こうした構造であるため、PCやサーバー以外のメモリ用途であっても、やはり価格面で有利なCommodity DRAMへと流れる。グラフィックスなど「パフォーマンス命で、ゲテモノでも受け入れられる」(あるDRAM業界関係者)ような特殊用途以外は、Commodity DRAMを使うようになる。つまり、DRAMアーキテクチャの場合、いったんCommodityになると、競争原理で価格が下がり、価格が下がると用途も広がり、結果としてより汎用のDRAMとなるというスパイラルになる。
だから、DRAMの世界では、製品の差別化は極めて難しい。差別化をすると非Commodityのニッチ製品にしかならないため、ボリュームが見込めないからだ。「DRAMは差別化すると売れない。Commodityの標準品だけが大量に売れる世界」とあるDRAM業界関係者は嘆く。
●これまでは容量がDRAMの最大の差別化
こうした構造を取るDRAMの世界での差別化の最大のポイントは、これまでは容量だった。つまり、他社よりも先に、大容量のCommodity DRAMチップを製造し、先行者利益を得るという方法だ。そのため、技術で先行するDRAMベンダーは、製造プロセスを微細化し、DRAMメモリセルを小さくし、大容量のチップを作ろうとしてきた。
大容量のチップを開発すると、まずシステムの搭載メモリ量を増やしたいサーバー&ワークステーションでの需要が見込める。ここでは、付加価値の高い製品として確実な需要が見込めるため、技術で先行するメーカーは当然力を入れる。x2やx4といった構成のデバイスだ。
そして、大容量チップは、次のフェイズでは、ハイエンドPCもターゲットに入れることができる。x8やx16のデバイスで、これまで以上にメモリ搭載量を増やしたいハイエンドPCの需要に応えるというパターンだ。このフェイズでは、価格プレミアはずっと小さくなるものの、需要が拡大するため、DRAMベンダーにとってはまだおいしい世界になる。
ところが、こうしたこれまでのDRAMビジネスモデルは、成り立ちにくくなっている。それは、ユーザーの側に大容量チップを求めるモチベーションが少なくなりつつあるからだ。
DRAMの容量が小さかった時は、PCに搭載できるメモリデバイスの個数の制約がきつかった。例えば、'90年代中盤を見ると、その時点で需要が出てきた16MBの容量は、4Mbitチップだと32個も必要なのに、次の世代の16Mbitチップなら8個で構成できた。逆を言えば、同じチップ個数なら、4MBから16MBへとメモリを4倍にできたわけだ。だから、Windowsが普及してくると16Mbitへの需要が高まるというパターンに自然となった。
また、モジュールではなくメモリ直づけというアプリケーションも多かった。「同じマザーボード面積で、メモリの容量を2倍4倍にしてくれないと困るというニーズがあった。だから、より大容量で、しかも同じパッケージに入れることができるDRAMデバイスに非常に意味があった」とある関係者は説明する。
●なくなってしまったDRAM大容量化のデマンド
ところが、ここ3~4年で、DRAMの大容量化は、ソフトウェアの側のメモリ要求を完全に追い抜いてしまった。確かに、Windows XPでようやく必要メモリは増えた。「しかし、Windows XPでも、快適空間は196MBで、場合によっては128MBでも我慢できるという世界。ところが、DRAMの方は、2スロットで、現状(128Mbit品)でももっと大容量の構成ができる。ボードにDRAMチップを直づけするのではなく、モジュールに収まる範囲なら何でもいいので、同じパッケージで倍容量が欲しいという流れにもならない。DRAM自体への大容量化のデマンドがない」(DRAM業界関係者)という状態だ。
つまり、今の状況では、ユーザーの側には次の256Mbit品へ移行するという必然性すらないわけだ。だから、これまでのように、ビットクロス前で、ビット当たり単価が割高でも、次世代の大容量DRAMの需要が高まるというパターンは成り立たない。
ちなみに、余談になるが、今回の128Mbitから256Mbitへの移行が難しいのには、もう1つ理由がある。それはIntelのメモリ戦略の後遺症だ。Intelは、800番台のチップセットをリリースする時に、RDRAMベースの820では256Mbitチップをサポートしたのに、SDRAMベースの810では128Mbitチップまでしかサポートしなかった。これは、「256Mbit世代以降のPC向けDRAMチップについては、RDRAMしかサポートしない。SDRAMは128Mbit世代まで」というIntelの明確なメッセージだった。この戦略は、結局崩れて815以降は256Mbitチップもサポートしているが、今でも815ベースでも256Mbitチップをサポートできないシステムがある。そのため、SDRAMベースでは、256Mbitへ移行がしにくく、256Mbit移行はDDR SDRAM世代で、と考えている関係者は多い。
しかし、いずれにせよ、ユーザーとシステムベンダーのどちらの側からも、256Mbitへのデマンドは低い。そして、この状況はまだしばらく続くことになりそうだ。
そうすると、技術的な強みを持つDRAMベンダーが、大容量化で先んじて、先行者利益を取るという構図が成り立たなくなってしまう。大容量化は、サーバー&ワークステーションでは意味があるものの、ことPCに関しては意味をなさない。だが、それでは「テクノロジでの差別化ができない。値段だけが勝負のイージーな世界になってしまう。それが今の状態」(DRAM業界関係者)となる。開発コストをかけて、大容量チップを先行して製品化しても、PC向けとしては利益にならなくなってしまうのだ。
今、DRAM業界では、こうした根本的なDRAMビジネスのありかたまでが疑問視されているように見える。大容量化で差別化をするというパターンが成り立たず、技術での差別化のポイントもなかなかつかめない。そのため、泥沼の価格競争が単純に続く。それなら、Commodity DRAMなんて、もうビジネスとして意味があるのか、というわけだ。DRAM業界の再編成には、こうした、従来のDRAMビジネスモデルへの疑問があるように見える。
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(2001年12月26日)
[Reported by 後藤 弘茂]