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●短期的にはDRAMビジネスモデルが崩れる
前回の「DRAM業界再編成の裏に見える崩れたビジネスモデル」でレポートしたように、DRAM産業は、これまでのビジネスモデルが崩れつつあり、それがこれまでの価格暴落や最近の再編の背景にあるように見える。PCでは大容量化のデマンドが鈍化したため、DRAMでは、技術リードがなかなか活かされない状況になりつつある。
さらに、2000年後半以来、PC自体の台数の伸びが鈍化し、PCのメインメモリ容量の伸びも鈍化しつつある。これは、DRAMというビジネスにとって、産業自体が縮小傾向に向かう可能性も意味している。PCのメインメモリだけを見ていると、このまま進むとベンダーの数がますます減り、最終的に数社の寡占状態になる可能性がある。前に書いたように、CPUメーカーと同程度の数しかDRAMメーカーも残らない可能性がある。そうすると、最終的には、DRAM価格は、高止まりするようになってしまうかもしれない。
また、今のオーバーサプライ状況で、コストを無視した価格が続くと、生き残れるのは、体力がありコスト競争力の強いベンダーだけだ。日本のDRAMベンダーにとっては苦しい状況が続いている。問題は、日本の半導体産業そのものの存続にまで関わることになりつつある。特に、日本のDRAMベンダーにとっては、価格だけでなく、大容量化へのデマンドが復活してくれないと、技術的な利点を活かしにくいという問題がある。
しかし、現状はDRAMがビジネスとして成り立たない状況であり、このままだとまだ1~2年は続く可能性もある。原価割れ状態をそのうち脱するとしても、すぐにDRAM価格が高めに回復してという展開にはなりそうにない。そうすると、DRAMベンダーの淘汰がさらに進むということになる。
だが、今後5年かそれ以上の中期的な展望を見ると、違う展開も見えてくるという意見がある。それは2つの軸で、1つはPCメモリ自体の方向性が変わる可能性、もうひとつはPC以外のメモリのデマンドが急増する可能性だ。
●PCメモリは大容量化のデマンドが戻る可能性も
まず、PCのメモリ環境への要求が変わる可能性がある。つまり、広帯域と大容量化のデマンドが強くなるという可能性だ。もちろん、そのためには、メモリ帯域を必要とするアプリケーションが一般的にならないとダメだが、少なくとも、物理的な制約は今後消えてゆく。
現状では、メモリ帯域は伸びて行っても、I/O回りの帯域には制約がある。しかし、これに関しては、チップセットアーキテクチャでは、3GIOやHyperTransportなどで制約がなくなって行く。ネットワークの帯域も上がる。次のハードルは、一般的なPCユーザーに、そうした帯域を使い切るアプリケーションが浸透するかどうか。これに関しては予測は難しいが、インフラが整わない限り、ソフトウェアも発達はできないわけで、今後5年のスパンで考えるなら、帯域へのデマンドが強まる可能性はある。
そうして、メモリ帯域へのデマンドが出てくると、DRAMの大容量化のデマンドも発生する。これは、メモリ帯域を高めるため、ピン当たり転送レートを高めようとすると、ポイントツーポイントかそれに近い接続形態にしなければならない可能性が出てくるからだ。5年以内には、メモリバス上に分岐があるのがまずいという話になっているかもしれない。
そうすると、PCのメモリ搭載容量を増やそうとすると、どうしてもDRAMチップ自体を大容量化しなければならなくなる。つまり、大容量化で技術的なリードを取れるメーカーが再び優位に立つことができる。特に、DRAMのメモリセルは現状のアーキテクチャでの加工限界が近づいていると言われている。「これまでは、新しいステッパやスキャナを早く導入したものが勝ちだった。しかし、3~4年すると、加工限界がやってくる。解像度の高いスキャナを導入すれば、すぐ縮小できるという時期は終わる。6F、5F、3Fといった話になると、アーキテクチャやマテリアル開発など総合的な技術力がないとセルの縮小が難しくなる」とある関係者は指摘する。
つまり、DRAMが、帯域もメモリ容量も必要だという話になると、再びDRAMチップ大容量化の必然性が出てくるわけだ。そこで、大容量化で先行性を取って利益を確保するというビジネスモデルが再び展開できるようになる。また、広帯域化と大容量化の二つを進めることになると、リアルタイムにはついてこれないベンダーが出てくる。つまり、振り落としになる。そうすると、構図としては、利幅の取れる広帯域メモリの市場は技術先行メーカーが取り、低価格PC向けで利幅の薄い旧来アーキテクチャメモリの市場に、技術力のないメーカーがひしめくということになる。
●2005年までにDRAM需要が激変する可能性が
2つ目の軸であるPC以外のメモリに関しては、PCのDRAM需要が揺らぎ始める前から、DRAMベンダーは力を注ぎ始めていた。そして、こうした方向性は、あるDRAMアーキテクチャが“Commodity DRAM(コモディティDRAM)”となり、汎用DRAMとして市場のほとんどを占め、その他のアーキテクチャはニッチに押し込められるという従来のDRAMモデルを崩す可能性を秘めている。
これまでのDRAMは、一つのアーキテクチャがCommodity DRAMとなり、市場の大半を占めるという流れで来た。その最大の理由は、DRAM需要におけるPCの割合が非常に高いことだった。例えば、エルピーダメモリが、2001年1月のPlatform Conferenceのキーノートで行なったプレゼンテーションによると、2000年のDRAM用途は下のような割合だったという。
デスクトップ&ノートPC | 57% |
サーバー&ワークステーション | 17% |
ネットワーク&電話 | 1% |
コンシューマ | 4% |
グラフィックス | 4% |
その他 | 16% |
見ての通り、PCだけで60%近い割合を占めている。PCとほぼ同じメモリアーキテクチャを使うサーバー&ワークステーションを合わせると、70%以上という圧倒的な需要だ。しかし、この構図は、今後急速に変わる可能性がある。エルピーダによると、2005年のDRAM市場の見通しは次のようになるという。
デスクトップ&ノートPC | 39% |
サーバー&ワークステーション | 24% |
ネットワーク&電話 | 10% |
コンシューマ | 9% |
グラフィックス | 2% |
その他 | 17% |
もし、こうした変化が起こると、どうなるのか。これまでは、PCで主流となったメモリアーキテクチャが、Commodityの地位を獲得して、他のアーキテクチャをニッチに押しやっていた。そのため、DRAMは、差別化ができない製品になってしまい、コストと大容量化でしか勝負できない状況になっていた。だが、DRAM需要が変化するなら、こうした構図を変える可能性がある。つまり、異なる用途別に異なるDRAMアーキテクチャが並存する可能性が出てくるわけだ。
特に、今後は、各市場でDRAMに要求される仕様が異なってくる。サーバー&ワークステーションは広帯域と拡張性、それからChip Killなどのフィーチャも必要となる。コンシューマは比較的小容量で広帯域、低消費電力などが必要となる。ネットワーク&電話は、用途によって要求が大きく異なる。こうした状況では、もはやワンアーキテクチャのCommodity DRAMが全てをカバーするのは難しいというわけだ。また、DRAMベンダーの淘汰が進んで、Commodity DRAMでもそれほど価格のアドバンテージがなくなるなら、PC以外の用途でCommodity DRAMを使う理由も薄くなる。
そうすると、これまでのように、DRAMの主戦場はCommodity DRAMで、その他のDRAMはニッチでボリュームが見込めないという構図が崩れることになる。むしろ、Commodity DRAMは撤退して、特定のアプリケーションに向いたDRAMにだけ特化した方がビジネスになる可能性がある。利幅はある程度安定していて、しかも、これまでのようなニッチではなく、ある程度のボリュームが見込めるというわけだ。東芝が“汎用DRAM”から撤退するとしているのは、こうした含みもあるからと思われる。
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【12月26日】【海外】DRAM業界再編成の裏に見える崩れたビジネスモデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011226/kaigai01.htm
(2001年12月28日)
[Reported by 後藤 弘茂]