第128回:Tablet PCにときめかないワケ



 本題に入る前に先週のアフターフォローから。

 コンパックのEvo N200だが「Windows XPのクーポンが同梱されている」というのは、正確には「Windows XP Professionalへのアップグレードクーポンが同梱されている」が正しく、7,000円のアップグレード料金がかかってしまう。またEvoシリーズを店で見れないのか? という質問も多数あった。コンパックに問い合わせたところ、関西では来週ぐらいから上新電機J&PテクノランドのコンパックCTOステーションで実物に触れることができるそうだ。なお、CTOステーションはこのページ( http://www.compaq.co.jp/products/portables/shoplist.html )に掲載された3カ所があり順次展示される予定。同社ダイレクト販売サイトのDirectPlusでは、本日から受注を開始しているようだ。

 バイオノートSRを先週一週間使ってみたが、いくつか気付いた点があるので付記しておきたい。まず液晶パネルの視野角は少し狭めであること。価格やライバルも似たようなものであることを考えれば、そううるさく言うところでもないが、特にバックライトを暗めにした時には気になる。また、センタージョグが少し邪魔になってボタンが押しにくく感じることがあった。ただし、これは2日ほど使えば指が位置を憶えるようになる。

 またこれはSRに限った話ではないが、電源管理機能のデフォルト設定があまり良くない。デフォルトではアプリケーションに連動し、電源制御のプロファイルが切り替わるようになっているが、この設定が現実的なものじゃないのだ。たとえば、Windowsに標準インストールされているトランプゲームなどに、輝度最大、プロセッサも最も高速に設定したゲーム用プロファイルへと自動的に切り替わる。またWordが呼び出されると輝度が比較的高いワープロ用プロファイルへ切り替わるのだが、たとえばOutlook 2002でメールを書こうとするとWordが呼び出されるため、輝度がふと変化してしまうので原因がわからず多少悩んでしまった。

 このほか、様々なアプリケーションと連動するのだが、バイオノート用の電源管理ユーティリティに慣れていないと、何がなんだかわからないまま、ソリティアをやって遊んでいたら電池が無くなったなんてことになりかねない。デフォルト設定では、アプリケーションごとの自動プロファイル変更はオフにした方がいいんじゃないだろうか?

 なお、バッテリ持続時間に関しては、先週と変わらずいい印象を持ったままだ。「COMDEX Fall 2001」取材時に、プレスルームで無線LANを使いながら、原稿を書いたり、デジタルカメラのデータを整理したりといったことをやって合計4時間半ほど使えた。ワイヤレスで接続しっぱなしにせず、文章を入力したり、資料を閲覧するだけなら、先週話したように5時間使えることもある。



●これからの10年を本当に任せられる?

 先週、米国ラスベガスでは世界最大のコンピュータトレードショウ「COMDEX Fall 2001」が開催された(もっとも、テロの影響や不景気もあり、世界最大とは言いにくい規模だったのだが)。本誌でもお馴染みのライター諸氏のレポートで、すでにその内容をご存知の方も多いはずだ。

 そのCOMDEX Fallで先頭を切って基調講演の壇上に上がったMicrosoftのビル・ゲイツ氏が提案したTablet PCが、あまり良くない方で評判を呼んでいる。曰く「先進的だがビジネスにならない」といった論調が目立つ。これまで同氏は何度もCOMDEX Fallの基調講演を担当してPC産業の未来を描き、そして多少の批判はあったものの、概ねその方向性にプレスや来場者たちの賛同を得ていた。ところが、今年はその賛同者が極端に少ない。と書いている僕自身、Tablet PCというコンセプトにかなり懐疑的な人間の一人だ。

 Tablet PCがこれまでのペンコンピュータと異なる点は、ペンを使ったあらゆる操作を最新プロセッサと最新ソフトウェアで改善した他、一般的なノートPCに近いプロセッサパワーを有し、PCソフトウェアをそのまま走らせることが可能な点だ。また、ドッキングステーションなどに取り付けてそのままデスクトップPCとして利用したり、ノートPCの液晶パネルをひっくり返してタブレットを使うといった、場面に応じた使い方の提案も行なわれている。

 実際、デモンストレーションを見ていると、実に簡単かつ確実に、ペンでWindowsを扱うことができる。現在披露されている試作機はサイズや重量、もしくはバッテリライフに問題を抱えているが、将来的には大きめのノート(ノートPCではない)を持ち歩く感覚で、デスクトップPCの一部を取り出して鞄に入れて持ち歩く。ハードウェア的には、将来そんな使い方も可能になるだろう。

 よくよく考えてみれば、ペンで思い通りに操作できるPCが欲しいと思う場面はいくつか考えられる。たとえば、出先の応接室で打ち合わせをしながらメモを取るとき、深く腰掛けるソファーでは、ノートPCはいかにも使いにくい。また電車内でPCを広げ、膝の上で使っている人も、大量の文章を素早く入力する作業でなければTablet PCの方が便利そうだ。情報の閲覧や電子ブックを読むといったことも、Tablet PCの方が楽に違いない。

 Tablet PC関係者に聞いても、やはりちょっとした情報を取り出したりメモを取ったり、あるいは1つのスクリーンを目の前に2人でディスカッションする場合などに、Tablet PCは有用だという話が出てくる。

 今後、液晶パネルの解像度が向上してペーパークオリティに近い200PPI以上の品質が当たり前になり、さらにマルチドメインかつIPS接点を採用した広視野角の液晶パネルも安価になれば、そして小型・軽量化が進めば、使いやすいデバイスになっていくのかもしれない。

 ゲイツ氏が言うように10年というレンジで見れば、確かに面白そうな技術ではあるのだが、それでもTablet PCにはどうしても心ときめかないのだ。僕はTablet PCを完全否定するつもりはないし、将来、ハードウェアとソフトウェアの両面で実用域に達すれば、ある市場を形成するようにはなると思う。しかし、これからの10年を背負う役目を果たせるとも思わない。

iPAQ型ジャンボポッキー…ではなく、コンパック製のTablet PC。これぐらいのサイズがバッテリ持続時間と性能を考えるとバランスのいいポイントだとか 東芝の試作機はシステム手帳ライクなサイズ。ただし、あくまで技術デモで発売予定はないとか。プロセッサはCusoeが使われている。画面サイズが小さく解像度が低いのが、手書きインターフェイスのPCとしては難点 FIC製のデスクトップPCにもなるタブレットPCは比較的コンパクトだが、それでもB5サブノート以上のボリューム。Tablet PCは手書きを行うため、極端に小さいサイズの画面は嫌われるようになるかも


●ユーザーインターフェイスとしてのタブレットが問題なわけではない

 矛盾するようで申し訳ないが、実のところ僕はタブレットを使った操作というのは、意外にイケルんじゃないかとは思っている。たとえば筆圧まで検知可能な高精度のタブレットを内蔵した高視野角ディスプレイを同梱するバイオLXシリーズの上位機種。今まで、あまり興味を持っていなかったのだが、使ってみると実に楽しい。タブレットモデルはあまり売れていないそうだ。絶対価格の高さがあるとは言え、なぜ売れないのか全く不思議でしょうがない。

 バイオLXのタブレットは、専用ソフトを使って楽しむことが主な目的で、ペンを主としたユーザーインターフェイスで操作できるわけではない。だが、このスラスラとした手書き感覚で、キーボードと同等の操作が軽快にこなせるなら、なかなかすばらしいことだと思う。そして、そのためにMicrosoftが提案するのがTablet PCなのだろう。

 だが、それがメインストリームの技術になるかどうかは話が別だ。重量やコスト、サイズなどのペナルティなしに自分のノートPCが、ある場面ではTablet PCとして使えたり、デスクトップPCとしての機能性を損なわずにTablet PCを使えれば、それは大いなる“付加”価値になるだろうが、わざわざTablet PC化したPCを欲しいとは思わない。普通のPCにTablet PCとしての機能があれば、それはまぁベターではあるね、という感覚なのだ。

 また、技術的なブレークスルーも、もう一段必要だろう。もしかすると、英語ならば使い物になるかも知れないが、日本語版となると現状では悲観的にならざるを得ない。

 現状のTablet PC試作機を使ってみると、素早く文字を書くと実際の描画が後から追いかけてくるようになる。英語の筆記体ならば、これでもあまり違和感はないのだが、試しに漢字を書き込んでみると(英語版だから漢字の文字認識ができないのは当然としても)、なんとも書きにくくて仕方がないのだ。また、画面解像度が低く、複雑な漢字を手書きのまま表示するのが難しい。当然、タブレットの精度に関しても、一段上がる必要があると思う。

Windows Messengerで手書きイメージをやりとり。文字と手書きイメージはシームレスに扱える 手書きのメモをメールにコピーし、文字認識させたところ。英語だとスラスラだが…

 昔のGUIが恐ろしく使いにくく、操作効率の劣るユーザーインターフェイスだったことを考えれば、同じ歴史でタブレットを使った新しいユーザーインターフェイスも進化するだろう、とは誰でも予想することだ。しかし、今から期待をはじめても、その成果が出てくるのはずいぶん先になりそうな気がする。

 そんなわけで、僕もTablet PC否定論者なわけだが、タブレット側にすべてを詰め込まないのであればまだ可能性はあると思う。PC本体とLCDスクリーン付きタブレットを切り離してワイヤレス化すれば、操作するのはPCではなくタブレットそのものであればいい。描画はRDP(Remote Desktop Protocol)でも用いれば問題ないハズだ。

 たとえば会議室にタブレットだけを持っていき、ワイヤレスネットワーク経由で自分のデスクトップPCのパワーを利用して、手元のタブレットで操作を行なえればいい。手書き関係の機能はある程度タブレット側に持たせなければならないが、ロードバランスをうまく取ればタブレット型ターミナルデバイスとして活用できる。タブレットで書いた内容は、どんどん本体のPC側で処理や保存を行なわせればいい。

 同じように外出先でノートPCの液晶パネルだけを抜き出し、ワイヤレスで接続できるようにしておけば、鞄の中に入れっぱなしにしたPC本体のパワーを活用しながら手元のスリムなタブレットで操作なんてのもいいんじゃないだろうか。ノートPCとして使いたいときはそう使えばいいし、タブレット側の負荷を軽減することによりスリムな大学ノート感覚で操作できる。

 いずれの場合も、普通のPCとして使うときには、普通のPCとして動かしていればいい。が、このタブレット側にも多機能を搭載しなければならないというところに疑問を感じる。もちろん、それはあらゆる場所でワイヤレスのネットワークが利用でき、かつワイヤレスで個々のデバイスが簡単に接続する手順が確立されていればという前提あっての話だ。しかし、今後の10年などという遠い未来の話であれば、それぐらいの夢はあってもいいのではないだろうか。

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(2001年11月21日)

[Text by 本田雅一]


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