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第3のCPU製造企業TSMCの強さの秘密


●最先端を走るTSMCのプロセス技術

 現在、PC向けCPU戦争のカギを握っているのは、IntelとAMD、そして台湾のファウンダリ(半導体委託製造メーカー)であるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)の3社のプロセス技術だ。TSMCは、米Transmetaの0.13μm世代CPUと米VIA TechnologiesのCPUを製造する、第3のx86 CPU製造企業だ。

 これまで、ファブレス(工場を持たない)CPUメーカーは、Intelに対して比較的遅れたロジック向けプロセス技術で製造しなければならない場合が多かった。それは、ファウンダリの提供するロジック向けプロセス技術が、Intelに対して遅れていたからだ。しかし、TSMCが急伸したため、状況は大きく変わった。今では、ファウンダリTSMCがプロセス技術で先頭を走っており、CPUの性能を引き出すハイパフォーマンスのプロセス技術も開発し始めた。そのため、ファブレスCPUメーカーが最先端技術を使えるようになった。

 例えば、0.13μmプロセスの立ち上げは、TSMCは昨年第4四半期で、これはIntelとほぼ同時期だ。また、0.10μm技術は2002年末までに立ち上げる予定で、これも業界トップのスケジュールだ。もっとも、Intelと違い、TSMCの場合は製造キャパの大半を新プロセスにしてしまうのではなく、既存のプロセスと並存させる。そのため、最新プロセスの生産量自体は少ないが、それでもキャパ全体が大きいため、ファブレスメーカーにとっては十分なキャパがある。

 こうした流れで、ファブレスCPUメーカーはTSMCへと移ってきた。例えば、VIA TechnologiesのCPUは今はTSMC製。TransmetaはこれまでCrusoeの製造をIBMに委託していたが、0.13μm版の「Crusoe TM5800」からはTSMCに委託している。Transmetaのジェームス・チャップマン上席副社長(Sales & Marketing)は「TSMCが0.13μmでは明確なリーダーだから」と説明していた。また、グラフィックスチップメーカーも、NVIDIAやATI Technologiesなど大手はいずれもTSMCを使っている。Intelでさえ、一部のチップセットでTSMCを使い始めている。

●用途向けに異なるプロセス技術を提供

 また、TSMCがユニークなのは、ファウンダリとして多様な製品に対応できるように、プロセス技術を多様化させた点だ。0.15μmからは、用途ごとに最適化した複数のプロセス技術を用意した。

 TSMCの現在のプロセス技術は次の4系統に分かれる。

・「G」 コアの汎用プロセスで、ASICなど低コストな製品向け

・「LV」 ハイパフォーマンスで低電圧なプロセスで、グラフィックスチップなど性能を求める製品向け

・「HS」「HS+」 ウルトラハイスピードプロセスで、ハイエンドCPUなど最高のパフォーマンスを狙う製品向け

・「LP」 低電圧プロセスで、低消費電力が必要な携帯機器向け

 TSMCの日本法人であるティーエスエムシージャパンの小野寺誠代表取締役副社長兼日本統括マネージャーは、4プロセスの理由を次のように説明していた。

 「これまでは1つのトランジスタをチューニングして、全てのアプリケーションに対応させてきた。しかし、0.25μmから0.18μmへの移行時に、もうこの方法が無理だとわかった。グラフィックスチップやCPUでは消費電力は犠牲にしても性能を追求したい。ところが、その一方で、PDAや携帯電話関係では性能より低消費電力が求められる。そこで、目的別に異なるトランジスタを開発した。具体的には、LVとHSは次世代のトランジスタを使っている。例えば、0.15μm世代のCL015LVとHSは、0.13μm世代の汎用プロセスCL013Gと同じ、0.11μm(のゲート長)のトランジスタを使っている」

 つまり、CPU向けに高い性能のトランジスタを前倒しで持ってきたというわけだ。このように、ゲート長がプロセスノードよりも小さいのは、現在の最先端ロジック向けプロセス技術の特徴だ。IntelやAMDも同様にゲート長が短い。

●TransmetaがLVをVIAがHSプロセスを使う

 では、CPUメーカーはTSMCのどのプロセス技術を使っているのか。まず、Transmetaは「TSMCのLVプロセスを使う」とチャップマン氏は語っていた。0.13μmのLVプロセスである「CL013LV」は、ハイパフォーマンスと低電圧を両立させたプロセスで、性能当たりの消費電力が低い。ゲートディレイは、Vccが1Vの時に14pico秒/ゲート、1.2V時にはHSと同クラスの11pico秒/ゲートに達する。また、LVでは、性能を落とす代わりにリーク電流を下げる(=消費電力を下げる)などのオプションもある。Transmetaがどういったオプションを採用しているかは不明だ。

 一方VIAのC3の0.13μm版「Ezra(エズラ)」はちょっと違っている。C3を開発するCentaur TechnologyのC.J. Holthaus氏によると「Ezraは0.13μmだが(TSMCの0.13μmプロセスで標準の)銅配線ではなくアルミ配線を使っている。これは、Ezraの設計を始めた時はまだ銅配線がアベイラブルではなかったためだ。TSMCは我々のためだけに、特殊なプロセスを用意してくれた」という。基本的には0.13μmのHSプロセス「CL013HS」のトランジスタを使っているようだ。CL013HSのゲートディレイは11pico秒/ゲートで、これがより高速版の「CL013HS+」になるとさらに10pico秒/ゲートになる。これは、トランジスタスペックとしては、ハイエンドだという。

●特徴のあるTSMCのFab技術

 TSMCは、Fab自体にも大きな特徴がある。それは、局所クリーン技術を世界で初めて本格導入したことだ。

 現在の先端半導体Fabは,Class 1(1立方フィートの空気中に0.1μmの塵が1個以下)の極めて清浄なクリーンルーム内でウエーハの処理を行なっている。しかし、広大なクリーンルームをClass 1に保つコストは甚大だ。ところが,局所クリーン技術では,数10枚のウエーハを完全密閉の容器(ポッド)に入れて,そのポッドの中だけを極度(Class 0.1~0.01)にクリーンにしてしまう。そして、ポッドからクリーンな装置内へウエーハを取り込み、処理が終わったらまた密閉したポッドに入れて運搬する。そのため,クリーンルーム自体は,Class 1ではなく、クラス10~1000(1立方フィートの空気中に塵が10~1,000個)程度の低い清浄度で大丈夫になる。そうすると、工場の設備投資やランニングコストを大きく下げることができるようになる。

 TSMCは、米Asyst Technologiesの開発した局所クリーン技術「SMIF(Standard Mechanical InterFace)」システムを2番目のFabから導入している。また、TSMCでは、SMIFポッドに、スマートタグと呼ばれる電子タグをつけている。このタグを使うことで、ポッド内容を容易に識別できる。これにより、TSMCはファウンダリの宿命である他品種少量生産の管理を容易に実現している。

 また、TSMCは、不況に入るまでは、積極的な投資で製造キャパシティも広げてきた。昨年1年間でキャパは2倍になっている。さらに、現在、新しい300mm FabであるFab 12も立ち上げている。

 こうしたTSMCの勢いに、半導体業界全体も巻き込まれている。半導体のIP(半導体のファンクションブロック)ベンダーが、いずれもまずTSMCのプロセスに自社のIPを載せるようになり始めた。TSMC自体は、IPの開発やライブラリ化に手を出さず、プロセス技術だけを提供するという分業化を取ったが、それがIPベンダーを集める結果となった。そうすると、それが吸引力となって顧客を増やすというポジティブスパイラルが起きてきた。また、大手半導体メーカーも、IPの共通化のためにTSMCとプロセス技術を合わせるといった動きにもなりつつある。

●TSMCのFab風景

 TSMCは、6月のComputex時に、VIAのC3の発表に合わせて、Fab(工場)を報道関係者に公開した。TSMCは、FAB-1~6までの自社建造のFabと買収によるFAB-7/8、それに建造中の新Fab FAB-12/14を台湾全土に持ち、その他に米国にも施設を持っている。6月に見学できたのは、そのうち台北近くの新竹にあるFAB-3/4だった。

 FAB-3/4は、新竹のハイテク工場団地であるサイエンスパーク内にあり、下の写真のように隣接している。両方とも現在標準的な8インチ(200mm)ウエーハを使うFabで、取材時は、FAB-3は0.35μmと比較的古いプロセス、FAB-4は0.18μmで銅配線にフォーカスしていた。いずれも、局所クリーン技術SMIFポッドを使っており、クリーンルーム内でポッドを運ぶ姿が見られた。

 製造キャパシティはFAB-4が37,000wspm(Wafer-Start-per-month)、FAB-3が44,000wspm。つまり、それぞれ月に37,000枚/44,000枚のウエーハの処理ができる。これは、Intelの標準的なFabが月2万~3万クラスであることと比べると大きい。

 次回からは、TSMCで先端プロセス技術を担当するDavid Sheng氏(Senior Director, Advanced Technology Product Marketing Div.)へのインタビューをお送りしたい。

報道関係者に公開されたFab3/4 SMIFポッドを運ぶ作業員

プロセス装置前に据えられたSMIFポッド 比較的軽装備な作業員 露光装置のベイ

サンプルウエーハ プロセス装置内




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(2001年11月6日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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