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Intelアーキテクチャグループジェネラルマネージャ兼上級副社長のポール・オッテリーニ氏 |
「Moving Beyond GHz」と名付けられた基調講演のなかで、オッテリーニ氏は開発コードネーム“Banias”で知られるモバイル専用プロセッサに関して言及し、2003年の前半に出荷することを明らかにした。このほか、Pentium 4の0.13μmプロセスコアを利用した3.5GHzでのデモなど行ない注目を集めた。
●Northwoodを3.5GHzで動かし「これでもまだ足りない」
オッテリーニ氏のデモで利用したPentium 4 3.5GHzを搭載したマシン。クロックは3.5GHzと表示されている |
確かに、386、486の頃、PCは生産性の向上に使われ、主にオフィスアプリケーションを中心に使われてきた。それが、Pentium、Pentium II、Pentium III、Pentium 4と進化するなかで、ユーザーの使い勝手は多様化し、インターネットや3Dゲーム、動画編集をするユーザーもいる。現在ではユーザーがPCをこういう使い方をしているという定義を行なうのは非常に難しい。
オッテリーニ氏は今後のPCの使い方の具体例としてホームサーバーをあげた。例としてNorthwoodを3.5GHzで動作させ、そこで3Dゲームをプレイしながら、ビデオストリームサーバーとしてキッチンにあるタブレットPCからアクセスして動画を再生し、CPU占有率が100%に達していることから、これまでもまだ足りないとした。
「IntelはPentium 4 2GHzを昨日発表した。今日はこうして3.5GHzをデモして見せた。Pentium 4のマイクロアーキテクチャであるNetBurstマイクロアーキテクチャは10GHzまでのヘッドルームを確保しており、将来はこうしたクロックにまで到達するのだろう」と述べ、IntelがNetBurstマイクロアーキテクチャのCPUで10GHzというクロックを数年のうちに実現可能だという見通しを明らかにした。
●3つの要素により高性能かつ低消費電力を実現するBanias
Baniasを説明するスライド。Baniasはもともと消費電力を低減しつつ、パフォーマンスを発揮する設計がされている |
Baniasの存在は、昨年8月に開催されたIDFでアルバート・ユウ上級副社長により存在が明らかにさていたが、今回公式にコードネームと、登場時期が具体的に明らかにされた。
Banias開発者による詳細を説明するビデオ |
注目のBaniasの詳細は、開発者自らが出演したビデオで明らかにされた。それによれば、Baniasには3つのキーテクノロジが採用されているという。それが、Aggressive Clock Gating、Special Sizing Techniques、Micro Ops Fusionの3つだ。
(1)Aggressive Clock Gating
一般的にモバイル向けのCPUは、使っていない時にクロックを下げ、消費電力を押さえる工夫がされている。Baniasではそれをさらに押し進め、CPU内部のユニット単位でそれができるようになるという。例えばL2キャッシュを使っていないときには、L2キャッシュのクロックを下げ、消費電力をセーブするという。
(2)Special Sizing Techniques
CPUの設計をサーキット単位で見直し、各サーキットを少しずつ縮小することにより、CPUのダイサイズを押さえる工夫がされているという。これにより性能向上と消費電力の低減という2つの効果を期待できる。Baniasを開発しているのは、Pentium IIIコアを大幅に縮小したTimna(統合型CPUだったが、メモリインターフェイスがDirect RDRAMであったため、結局キャンセルされた)を開発したイスラエルの開発チームが行なったということなので、期待できそうではある。
(3)Micro Ops Fusion
x86命令はCPUが理解できる機械語(μOPS)にデコードされて、実行ユニットに渡される。そのμOPSは通常シリアルに実行ユニットに渡されるが、Baniasでは2つまたは3つのμOPSが1つにまとめられ、実行ユニットに渡される。このため、高速に命令を実行できるようになるという。
これらの新しいテクノロジを採用することにより、Baniasでは高性能と低消費電力という相反する2つの要素を実現することが可能になるとオッテリーニ氏はまとめた。
●Baniasはすべてのモバイルセグメントで利用される
以下はIntel モバイルプラットフォームグループ ジェネラルマネージャ兼副社長のフランク・スピンドラー氏による、Q&Aの模様だ。
Q:モバイルPentium III-MとBaniasの違いはなんですか?
スピンドラー氏:モバイルPentium III-MはデスクトップPCにも利用される一般的なCPUコアとして設計されていますが、Baniasはそれ自体がモバイル用として開発されたコアです。モバイル市場も大きく成長してきており、モバイル向けに高性能、低消費電力などの要求を満たすようなCPUが求められていました。そこで、当社はモバイルの要求を満たすようなアーキテクチャの開発を行ないました。それがBaniasであるということです。
Q:チップセットは統合されていますか、それとも単体のチップですか?
スピンドラー氏:現時点では、より詳しい内容についてはお話しすることはできません。
Q:Baniasが想定しているのはモバイル市場のうち、ミニノートやサブノートなどですか?それともすべてのモバイル市場なのでしょうか?
スピンドラー氏:Baniasはすべてのセグメントを対象としています。なぜなら、どのモバイルPCであっても、高性能で低消費電力ということはメリットをもたらすからです。例えば、A4サイズのThin & LightといったA4スリムのノートパソコンは、今後主流になると考えられていますが、こうしたセグメントにもBaniasはメリットをもたらすと考えています。
Q:Micro Ops FusionはTransmetaのコードモーフィングに似ていませんか?
スピンドラー氏:いいえ、そうは思いません。なぜなら、コードモーフィングはソフトウェアで行なっていますが、Baniasではソフトウェアの変更は一切必要ありません。
Q:Aggressive Clock Gatingの詳細をもうすこし教えてもらえませんか?
スピンドラー氏:トランジスタはあるクロックで動作しており、トランジスタが動作するクロックが高ければ高いほど消費電力は高くなります。そこでBaniasではCPU内部のユニット単位で、使っていない部分のクロックを一時的に停止します。例えば、整数演算だけを行なっているような場合には、浮動小数点演算ユニット(FPU)を停止し、その部分の消費電力を低減します。
Q:拡張版SpeedStepテクノロジやDeeperSleepのような省電力機能を拡張する予定はありますか。
スピンドラー氏:特定の仕様については現時点では申し上げることはできませんが、一般的に我々は常に新しい技術を開発しており、そうした意味では「そうです」と申し上げることができるでしょう。
Q:整数演算ユニットなどの追加はあるのでしょうか?
スピンドラー氏:現時点では、特定の仕様についてはお話できません。
結局のところBaniasの詳細は、Aggressive Clock Gating、Special Sizing Techniques、Micro Ops Fusionの3つの機能により低消費電力かつ高性能が実現されているという内容以外は公開されなかった。どのようなパイプライン構造になっているのか、整数演算ユニット(ALU)や浮動小数点演算ユニット(FPU)の構成などCPUのパフォーマンスに影響するような部分はまだ不明だ。
Baniasの開発者がビデオの最後に「Stay Tune!(チャンネルはそのまま)」といっているように、今後もBaniasに対する注目が続くことになりそうだ。
□Intel Developer Forum Conference Fall 2001ホームページ
http://www.intel94.com/idf/index2.asp
□関連記事
【2000年8月23日】IDF Fall 2000基調講演レポート
Intelが前人未踏の2GHz動作Pentium 4を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000823/idf03.htm
(2001年8月29日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]