大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第9回:シェア2位に甘んじるNECに、起死回生策はあるか?


富田克一執行役員常務
 パソコン分野において、「トップシェア」という冠を維持し続けてきたNECに、いよいよイエローシグナルが点り始めた。

 なかでも、コンシューマ領域におけるシェアの減少は著しく、いまやトップシェアをソニーに譲り渡している状況である。それを裏づけるデータが、先頃、業界専門誌のBCN(ビジネスコンピュータニュース)で明らかになった。

 BCNでは、パソコンショップのPOSデータを直接集計する「BCNランキング」を集計しているが、同データによると、今年1月にはトップシェアを維持していたNECが、2月以降、その座をソニーに受け渡し、6月時点まで2位のままといった状態だ。1位ソニーと、2位NECの差は毎月7~8ポイント差で推移しており、その差は想像以上に大きいといえよう。

 これは7月に入っても同様の差となって表れており、最新週(7月2~8日)の集計でも、ソニーの24.6%に対して、NECは20.6%という状況だ。一部調査会社では、四半期ごとのパソコン市場動向の集計を発表しており、最新四半期のデータは7月下旬から8月にかけて発表されることになる。もちろん、これらの調査でも、NECのシェアが2位と発表されるか、あるいは1位であったとしても、2位との差は僅差となるのは間違いないだろう。

 では、なぜNECのシェアが落ちてきたのだろうか。

 取材活動をすすめていてよく聞くのは、「NECに魅力的な製品がない」というコメントだ。確かに、ここ数年で話題となっているiMac、VAIOといった製品は、NEC以外から出ている。言い換えれば、ここ数年のNECの製品はどれも、無難な線でまとめられたものばかりだったともいえる。

 この背景には、もともとNECのパソコン事業戦略には「全方位」という方針があった点が見逃せない。「幅広い用途に対して、幅広い製品で対応していく」というのは、ある種、トップシェアメーカーの宿命ともいえる戦略だ。トヨタしかり、松下しかりである。そして、NECのパソコン事業においても、同様に「全方位」展開は事業推進上の至上命題となっていた。だが、その結果が、NECパソコンの魅力をなくしたともいえないだろうか。

 コンシューマ分野に特化したソニー、初心者だけを狙ったiMac、企業向け低価格パソコン戦略で成功したデルコンピュータは、いずれも市場特化型戦略が功を奏している。だが、NECのパソコンは、あらゆる領域において一定の評価を得ているものの、スマッシュヒットともいえる製品は残念ながら皆無という状況になっていたのだ。これが全体的なNECのブランド価値を引き下げる原因にもつながっているような気がする。

 NECソリューションズの富田克一執行役員常務は、「すべての領域でトップシェアを取るということは難しい。当社が集中して取り組んでいく分野でのナンバーワンを目指していく」ことを、7月9日に行なった記者会見のなかで明らかにしている。

 だが、外から見ると、その集中すべき分野はまだ幅広い。シェア2位となったNECがどこまで選択と集中を実践できるかが大きなカギといえるだろう。

 そして、もう1つ、NECのウィークポイントの1つに、買い換え需要に対する弱さがある。デルやアップルコンピュータが買い換え需要を獲得することでシェアを拡大しているのに対して、NECは初心者に強いという実績はあるものの、他社製品からの乗り換えでNECを購入するという比率は、一般的にデルなどに比べて少ないといわれている。

 NECが買い換え需要喚起のために用意したメーカー直販サイト「121@store」は、85%が買い換えユーザーだという点では、その狙い通りの成果をあげているが、同社のパソコン全出荷量に占める割合は、「とても誇れる数字ではない」(NEC)と、わずか数%に留まっている段階で、実績というほどにはつながっていない。

 NECソリューションズの富田執行役員常務も、「購入ユーザーに対して、もう一回、NECを買うという世界をどう作るかが課題」と自らに課題を投げる。

 そのためのアプローチは大きく2つあるようだ。

 1つは、製品だけには留まらない顧客満足度を高める展開だという。NECのコメントでは、「今後は個々の製品を中心にした戦略ではなく、通信、コンテンツ分野などの他社との連携によってサービスを提供する方針へと移行する」という。同時に「パソコンを情報のハブとして位置づける」というのだ。

 ちょっとピンとこないコメントだが、「情報ハブ」という言葉や、「製品中心の展開ではない」というあたり、明らかにアップルやソニーを意識したコンセプトを掲げ始めたともいえる。

 NECでは、「ブロードバンド&モバイル」を掲げて、その分野に特化した動きを強めようとしているが、この具体的な製品が、シェア巻き返しの原動力になるかは、現段階では未知数といわざるを得ない。

 もう1つは、同社が培った顧客データベースを活用した買い換え需要獲得策である。前述のコンセプトに比べれば、より具体化した戦略ということもできるだろう。

 同社には、PC-9800シリーズ時代から約20年間に渡って蓄積した顧客データベースがある。富田執行役員常務によると、その数は実に500万件にのぼるという。

 「500万件のうち、実際に生きているデータが300万件。さらに、メールアドレスまでわかっているユーザーが40数万件。これだけのしっかりした顧客データベースを獲得している企業はほかにはないはずだ」と胸を張る。

 121wareを通じて獲得した顧客データベースも、この中に含まれており、これによって、ユーザーの購入履歴、趣向などに合わせたデータベースマーケティングが可能になるというのだ。

 例えば、パソコンを購入したユーザーに対して、買い換え時期を狙った告知や、周辺機器に関する情報、新たなパソコンの使い方、利用者の趣味に合わせた周辺機器、コンテンツなどの提案を、ホームページ、電子メール、ダイレクトメールなどによって告知することで、次なる販売につなげていこうというわけだ。

 「このデータベースを、どう事業に生かしていくか」(富田執行役員常務)というのが、シェア拡大のためにも、NECに課せられた重要な課題なのである。

 NECは、今年10月に、パソコンの開発、設計、生産部門を、DMS(デザイン・エンジニアリング・マニュファクチュアリング&サービス)と呼ばれる別会社「NECカスタムテクニカ」に移管することを明らかにしているが、顧客データベースに関しても、DMSへ移管し、より現場に近いところでの活用を図る。また、顧客データの収集にも大きな役割を担っているユーザー問い合わせ窓口の「パソコンインフォメーションセンター(PIC)」も、DMSへの移管を決定しており、これもデータベースマーケティングの推進を後押しすることになる。

 一方、コンシューマパソコンに関する本社マーケティング部門は、子会社のNECパーソナルシステム(パステム)に移管、同社社名も変更する予定で、同社のコンシューマ向けパソコンであるデスクトップの「VALUESTAR」、ノートパソコンの「LaVie」は、設計、開発、生産、マーケティング、販売計画、販売店対応、ユーザーサポートまでのすべての業務が、DMSと新生パステムの2社の子会社に完全移管され、事業責任が明確化されることになる。

 こうした新体制のもと、果たして、NECのコンシューマパソコン事業は、復調することができるのだろうか。

 上期のパソコン事業の赤字は覚悟という同社だが、下期以降の黒字転換に向けての下準備には余念がない。まずは、10月の新体制がスタートしてから初の製品投入となる、今年秋のWindows XP搭載モデル如何にかかっている、といえるだろう。


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(2001年7月16日)

[Reported by 大河原 克行]


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