大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第8回:アップルに大ブーイングのショップ。でも、それはユーザーのため?


今年5月、新型iBookを発表する原田永幸代表取締役社長
 パソコン業界内では、アップルの評判が極めて悪い。

 なぜ評判が悪いかといえば、「商品が潤沢に入荷しない」、「粗利が少ない」、「扱いたい商品を扱わせてもらえない」、「展示方法など細かい要望が多い」などなど、たくさんの理由がある……。

 なにしろ、販売店にとってみれば、「できれば扱いたくない商品のナンバー1」(大阪の主要パソコンショップ幹部)というわけなのだ。

 それに対して、エンドユーザーからの評判は極めていい。

 最新のiBookに関しても、発表直後から予約が殺到し、一応の受注残が解消されたのが6月中旬を過ぎてから。正確に言えば、まだ上位モデルを中心に一部では受注残があるという状況だ。

 これは、今年前半のPowerBook G4チタニウムの時も同様。やはり、品薄が解消されるまでに2~3か月を要した。パソコンが売れないといわれるなかで、これだけの人気を誇るというのは珍しい。

 いずれにしろ、ここまで販売店の評価とユーザーの評価のギャップが大きいメーカーは少ない。

 今回のコラムでは、ユーザー側の評価、製品の評価とはまったく異なる、販売店側(つまり業界側)のアップルに対する評価と、それに対するアップルコンピュータの対応姿勢について触れてみたい。

 冒頭に触れたように、アップルコンピュータに対する販売店の評価は、極めて厳しい。

 ひとつひとつを検証してみよう。

 「商品が潤沢に入荷しない」-これは、ユーザーからの人気の高さの裏返しでもあるが、販売店にとっては、本当に頭が痛い点だ。

 最新のiBookを例にとれば、5月25日の出荷開始時点では、下位モデルが一定数量入荷したものの、上位モデルとなるコンボドライブ搭載製品などが入荷したのは6月中旬の段階。さらに、下位モデルに関しても、初期出荷以降、3回に渡る出荷延期となり、予約したユーザーは待ちぼうけという状況が続いた。

 ある販売店の店長は憤慨しながらこう話す。

 「iBookに関しては、予約を受け付ける際に全額前払いで入金していただいた。その際に、アップルからの入荷予定に合わせて受渡日をお伝えしたのだが、結果として、土日を迎える度に、予約者のお宅に電話をして、延期の旨を伝えて謝るということの繰り返し。先方も気分が悪いし、こっちも暗い気持ちになる。うち(販売店)自身の信頼をなくすことにもつながる」。

 確かに、これでは販売店が怒るのは無理はない。

 アップルコンピュータの原田永幸社長も、「この点に関しては、本当にお詫びするしかない。とくに、コンボドライブが全世界的な品薄状況となっており、上位モデルが入荷するまで時間がかかってしまった。6月中旬以降は、これが解消に向かうため、今後は安心してもらっていい」という。

 初期出荷段階での商品不足の解消が、アップルにとっても課題といえるだろう。

 アップルコンピュータは、ここ数年、全世界規模で縮小均衡型の事業改善をすすめてきただけに、人気商品の初期出荷段階での安定供給という点での「力技」ができなくなっているのかもしれない。

 「粗利が少ない」-'98年のiMacの発売に合わせて、アップルコンピュータは流通制度を大きく改革、販売店の粗利率は大幅に削減された。さらに、業界内では一般的となっていた、半期の販売台数に応じてメーカーから支払われる「報奨金(販促金)」制度も廃止し、販売店はこれによる利益確保もできなくなったのだ。

 多くの販売店から、「売っても儲からない」という声が出てくるのも当然といえば当然なのである。

 その粗利の低さは、カメラ店が実施しているポイントカード制度の内容をみても明らかだ。例えば、池袋、新宿などに出店している大手カメラ店では、NECやソニー、富士通などのパソコンを購入すると、販売金額に応じて10%以上の割引還元(ポイント)が付与される。だが、アップルの製品では、iMacを例にとっても2%止まり。例外中の例外というポイント率になっているのだ。これも実は、アップル製品の粗利率の低さが影響している。

 では、なぜ、アップル製品の粗利率は低いのだろうか。原田社長の言葉を借りれば、「アップルがどこを向いて仕事をしているか、という結果に尽きる」という。

 「販売店の利益を厚くしても、その分、ユーザーの金銭的負担が増えるだけ。それで、メーカーとして本当にいいのか。削れるところは極力削って、本当にいい物を、リーズナブルな価格で提供するというのがアップルの姿勢。その結果が、いまの流通制度につながっている」というわけだ。

 販売店に対しては利益が少なくなった分、不良在庫の温床となっていた在庫管理の徹底をアップル自らが乗り出したり、店舗内の展示方法、広告・販促展開をアップルの統一の施策の上で行なうなど、これまで販売店が知恵とお金を使っていた部分をアップルが肩代わりする、という施策で埋め合わせをしようとしている。

 とはいえ、この制度が始まって、早くも3年が経過しているが、依然として販売店の反発が強いことは事実。競合店舗の増加や、全体的な低価格化傾向で、1店舗あたりの売上低迷など、粗利確保が難しくなっているだけに、反発がなくならないというわけだ。

 だが、確かに最近のアップル製品の価格は魅力的といっていい。原田社長のいう「ユーザー重視」という点では、明確な結果が出ているといえよう。ここにも、販売店とユーザーの評価が分かれる原因がある。

 「扱いたい商品を扱わせてもらえない」-アップルコンピュータは、'98年のiMacの発売時点で、「iMacの趣旨に賛同していただける販売店に扱っていただく」として、事実上、取り扱い店を限定するような形にした。

 通称「iMac店」と呼ばれる店舗だが、iBookに関しても同様の手法を採用しており、ここに対しては、展示方法などもアップルが提案するといったように、「展示方法など細かい要望が多い」という、冒頭の販売店の声にもつながっている。

 このiMac店の選択から漏れた販売店は、当然のことながらiMac、iBookの取り扱いはできない。ある地域では、古くからのMacintosh専門店がiMac店から漏れ、パソコンの販売実績がそれほど多くない店舗が選ばれたという例もあった。

 ある老舗のMacintosh専門店の幹部は、アップルに対して、次のように怒りをぶつける。

 「われわれは古くからMacintosh専門店として、アップル製品を取り扱ってきた。アップルとともに、日本にMacintoshを定着させたという自負もある。だが、iMacやiBookという主力製品が取り扱えないようでは、Macintosh専門店とはいえない状況になってきた。しかも、われわれが得意としていたパーツなどに関しても、アップルの直販サイトであるアップルストアでの品揃えの方が勝っている。なにをもって、Macintosh専門店といえばいいのか」

 確かに、iBookがない、iMacがない、しかも、パーツの品揃えもいまひとつ、というようではMacintosh専門店とは言い難い。その状況を作ったのは、まさにアップルだというのが言い分である。

 そこで、この状況が実際に起こっている事実、そしてその販売店の声を、そのまま原田社長にぶつけてみた。

 原田社長は、「それをアップルが助けるなんてことはできない」と開口一番、切り出した。

 私自身、原田社長が'90年にアップルにマーケティング本部長として入社して以来、何度となく取材をさせていただき、その時々の変化のなかで、いくつかの重要なコメントを原田社長は発している。それだけに今回のこの一言も、意を決して語りだした言葉だとすぐに直感した。誤解を招きやすい内容だけに、原田社長は、慎重に次のようにしゃべり始めた。

 「以前のような販売店とメーカーの関係が成り立たなくなってきているという事実をまず認識するべきだろう。とくに、国産メーカーが実施してきた手厚い販売店支援策は、いまやどのパソコンメーカーですら、とても維持できない状況になってきた。販売店が自ら考え、行動することが大切で、そうした販売店と話し合いをしていくことに意義がある。誤解を恐れずにいえば、老舗のMacintosh専門店が対象としているユーザーは明らかにパワーユーザー。こうしたユーザーがいつまでも専門店で製品やパーツを買うかというとそれは疑問。米国で顕著に見られるように、パワーユーザーほどネット直販サイトを利用して製品やパーツを購入している。そうした世の中の動きを捉えた業態転換をしないで、すへでをアップルの責任にするというのはどうか。世の中の流れを的確に掴み、それに向かって努力している販売店と一緒に仕事をしたいし、そうした販売店との話会いの場をもちたい」。

 このコメントは、販売店にとっては厳しい言葉であるし、誤解を生みやすいともいえる。だが、これがアップルの経営姿勢だといえるのだ。

 こうした一連の取材の中で、ある販売店の幹部が次のように漏らした。

 「個人ユーザーとしては、アップルは大好きだ。だが、自らが販売店の立場で仕事をしている限り、納得できない部分が多い」。まさに、これがアップルが打ち出している施策の結果を、如実に表している言葉だといえる。

 販売店よりもユーザー重視という施策は、いびつなのか、それとも正常なのか。

 販売店の取材をすすめる機会が多い私にとっては、まだ「いびつ」な感じがしてならないのだが、原田社長がいうように、アップルが打ち出す方向に動き出していることは感じる。

 米国では、アップルが直営ストアをオープンさせているのも、同社のユーザー重視を優先した施策といえる。

 日本では、「直営ストアは、まだなにも検討していない」と原田社長はいうが、ユーザー重視の政策を進めるならば、直営店への取り組みは当然の話といえるだろう。原田社長の否定の言葉とは裏腹に、そういう気がする。


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(2001年7月2日)

[Reported by 大河原 克行]


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