Tualatinコア採用のPentium III-S 1.13GHz登場!
Pentium IIIから移行すべきCPUなのか?



 Intelから製造プロセスルールを0.13μmに微細化したPentium IIIであるTualatin(テュアラティン)コアを採用した最初の製品Pentium III-Sが6月19日にデータシートへの追加という形で静かにデビューした。従来のCoppermineコアのPentium IIIに比べて、Tualatinコアを採用したPentium III-SはL2キャッシュが倍の512KBになり、特にL2キャッシュの容量が性能に影響を与えるようなアプリケーションでは大きな差が出ることが予想できる。


●L2キャッシュが倍の512KBに増量されたTualatinコア

 これまでIntelは、P6世代と呼ばれる初代P6コアの派生品として、いくつものCPUコアを投入してきた(Celeron用のコアもあるが、ここでは省略する)。

 最初に登場したのは、言うまでもなくPentium Proに採用されたP6コアだ。それに続いて登場したのが、L2キャッシュをオフダイとし、MMX命令に対応した製造プロセスルール0.35μmのKlamath(クラマス)で、Pentium IIに採用されている。さらに、それを0.25μmへと微細化したのがDeschutes(デシューツ)だ。それにストリーミングSIMD拡張命令(SSE)を追加したのがKatmai(カトマイ)で、以降はPentium IIIと命名されている。KatmaiまでオフダイであったL2キャッシュをオンダイとし、製造プロセスルールを0.18μmとしたのがCoppermine(カッパーマイン)だ。

 今回のTualatinは、Coppermineの改良版と言えるCPUコアで、製造プロセスルールが0.13μmに微細化され、さらにL2キャッシュの容量がCoppermine(256KB)の倍である512KBに増量されている。システムバスにも若干の変更が加えられた。具体的には2点あり、1点は電気信号が従来のCoppermineで利用されていたAGTL+(Assisted Gunning Transceiver Logic Plus)からAGTLへと変更されている。これにあわせて駆動電圧も、従来の1.5Vから1.25Vへと変更されている。2点目として、従来のCoppermineではシングルエッジクロッキングとなっていたのが、Tualatinではディファレンシャルクロッキングとなっており、外部ノイズなどを受けにくい(シングルエッジ、ディファレンシャルクロッキングについては鈴木直美氏の今週のキーワード( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010222/key154.htm )を参照していただきたい)。

 こうしたシステムバスの仕様変更により、Tualatinと従来のCoppermine用チップセットを組み合わせて利用することはできず、Tualatinのシステムバスの仕様をサポートしたチップセットが必要となる。

 既に各チップセットベンダはTualatin対応のチップセットを発表しており、Intel 815のBステップ、VIA TechnologiesのApollo Pro266T、Apollo Pro133T、ProSavage PL133T、Acer Laboratories Inc.のAladdin Pro5T、Slicon Integrated SystemsのSiS635T、SiS633TなどがTualatinに対応している。今後は、Tualatinに対応したマザーボードが続々リリースされることになるだろう(秋葉原ではIntel 815 Bステップを搭載したマザーボードが流通し始めている)。


●現状ではデスクトップPCとして利用するには自作以外の手段はない

 現在秋葉原で販売されているTualatinコアを採用したCPUは、Pentium III-S 1.13GHzと1.26GHzの両製品だ。既に後藤氏の「秋葉原に登場したTualatinは512KB L2キャッシュのサーバー版」( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010625/kaigai01.htm )で説明されているように、TualatinコアのCPUはサーバー向けPentium III-S、デスクトップ向けPentium IIIとCeleron、モバイル向けモバイルPentium III-Mと、モバイルCeleronに投入される予定になっている。今回紹介するPentium III-Sははその中で最初に投入される製品で、サーバー市場向けに投入され、2ウェイのマルチプロセッサ構成が可能になっている。

 ところで、デスクトップPC向けに投入されるTualatinは、L2キャッシュの容量は256KBと、現行のCoppermineと変わらない。このため、製造プロセスルールとシステムバスの電気信号以外はCoppermineと同等のスペックであり、同クロックであればCoppermineとほとんど変わらない処理能力である可能性が高い。実際には、Coppermineコアには存在しない1.2GHzというクロックで投入されるため、Coppermineよりは上になるが、それはクロックの向上分でしかない。

 これに対して、Pentium III-Sでは処理能力への要求が厳しいサーバー向けであるため、L2キャッシュの容量は512KBに増量される。このため、単にクロック向上分だけでなく、L2キャッシュが増えた事による処理能力の向上も期待できる。となれば、ユーザーとしてはL2キャッシュが256KB版のデスクトップ版Tualatinよりも512KBのPentium III-Sが欲しいところだろう。

 だが、既に述べたようにPentium III-SはIntelがサーバー向けとして投入している製品であり、ボリュームもデスクトップPCほどは多くない。このため、大手PCメーカーからPentium III-Sを搭載したデスクトップPCが発売される可能性は限りなく低いと言える(そうしたことを気にしないでもよいショップブランド系のメーカーでは可能性はなくはないが)。従って、本製品をデスクトップ用途に使いたい場合にはユーザーは、秋葉原でCPUを買ってきて自作する以外には手段はないだろう。


●項目によってはPentium 4 1.7GHzを上回る高パフォーマンス

ASUStek TUSL2-C

 今回はPentium III-S 1.13GHzのパフォーマンスを見るために、複数のベンチマークを行なった。比較対象としてPentium 4の1.8GHz、1.7GHz、1.6GHz、1.5GHz、1.4GHz、そしてAthlonの1.4GHz、1.33GHz、1.13GHz、さらにはPentium III(Cステップ)の1.0B GHzを用意した。

 メモリは256MB、HDDは30GB(IBM DTLA-307030)、ビデオカードはGeForce3搭載のPROLINK MVGA-NVG20Aで、OSはWindows 98 Second EditionにDirectX 8.0aをインストールして利用している。

 Pentium III-S用のマザーボードとしては、Intel 815EPのBステップを採用しているASUSTeK ComputerのTUSL2-Cを用意した。TualatinやDステップのPentium IIIに対応しており、AGP×1、PCIバス×5、CNR×1、ACR×1という構成になっているスタンダードなマザーボードだ。

 BAPCO( http://www.bapco.com/ )のSYSmark2001はマイクロソフトのOffice2000やNetscape Navigatorなどのオフィスアプリケーション(Office Productivity)と、AdobeのPhotoshopやマイクロソフトのWindows Media Encoderなどのコンテンツ作成系アプリケーション(Internet Contents Creation)の2つの分野別スコアと、Ratingとよばれる総合スコアがはじき出される。このSYSmark2001で、Pentium III-S 1.13GHzは、Pentium III 1.0B GHzから大幅なパフォーマンスアップを見せ、同クロックのAthlon 1.13GHzを上回った。特にInternet Contents Creationでのパフォーマンスアップは大きく、Athlon 1.33GHzを上回っている。

 オフィスアプリケーションでは、Pentium 4 1.7GHzを上回っている。もっとも、もともとPentium 4はこうしたオフィスアプリケーションよりも、コンテンツ作成系のアプリケーションなどに最適化されているため、有る程度予想できる結果ではある。

 総合数値(Overall Rating)で見てもPentium III-S 1.13GHzは、Pentium III 1GHzはもちろんのこと、同クロックのAthlon 1.13GHzを上回っており、さらにはクロックでは上のPentium 4 1.5GHzも上回っており、CPU単体としては非常に優秀な成績だと言える。

【SYSmark2001】
Overall Rating 139
111
149
143
129
157
148
147
135
129
Internet Content Creation 141
110
146
139
125
171
160
158
146
139
Office Productivity 137
113
152
147
135
144
136
136
125
119
Pentium III-S 1.13GHz
Pentium III 1.0B GHz
Athlon 1.4GHz
Athlon 1.33GHz
Athlon 1.13GHz
Pentium 4 1.8GHz
Pentium 4 1.7GHz
Pentium 4 1.6GHz
Pentium 4 1.5GHz
Pentium 4 1.4GHz

 3D系アプリケーションであるMadOnion.com( http://www.madonion.com/ )の3DMark2001、id Software( http://www.idsoftware.com/ )のQuakeIII Arenaにおける結果だが、Pentium III-S 1.13GHzはもちろんPentium III 1.0B GHzを上回り、Athlon 1.13GHzとほぼ同等か、若干上回るスコアを叩き出している。こうしたアプリケーションに最適化されているPentium 4にはおよばないが、少なくとも同クロックのAthlonと同等の処理能力を叩き出していると言っていいだろう。

【3DMark2001】
640×480ドット/16bitカラー 5,995
5,411
6,339
6,277
5,717
6,979
6,698
6,682
6,357
6,186
640×480ドット/32bitカラー 5,860
5,327
6,249
6,175
5,596
6,825
6,609
6,580
6,241
6,077
1,024×768ドット/16bitカラー 5,393
4,948
5,692
5,625
5,375
6,180
5,991
5,980
5,732
5,629
1,024×768ドット/32bitカラー 5,142
4,704
5,375
5,300
5,116
5,800
5,653
5,645
5,444
5,341
Pentium III-S 1.13GHz
Pentium III 1.0B GHz
Athlon 1.4GHz
Athlon 1.33GHz
Athlon 1.13GHz
Pantium 4 1.8GHz
Pantium 4 1.7GHz
Pantium 4 1.6GHz
Pantium 4 1.5GHz
Pantium 4 1.4GHz

【QuakeIII Arena】
640×480ドット/16bitカラー 158.6
132.2
181.7
178.3
158.4
210.6
208.0
198.0
192.8
183.8
640×480ドット/32bitカラー 157.8
132.2
182.2
178.6
158.1
211.0
207.7
198.3
193.3
183.9
800×600ドット/16bitカラー 154.6
130.7
174.6
172.0
155.6
193.8
191.5
186.7
183.3
176.5
800×600ドット/32bitカラー 154.1
130.2
172.9
171.1
155.2
192.0
191.0
184.4
181.4
176.5
1,024×768ドット/16bitカラー 136.3
122.3
141.5
141.2
136.5
144.0
144.1
143.8
143.7
143.2
1,024×768ドット/32bitカラー 131.9
120.0
139.5
139.1
134.7
142.0
142.1
141.7
141.6
141.2
1,280×1,024ドット/16bitカラー 096.1
095.5
096.1
096.1
096.0
096.5
096.6
096.5
096.5
096.8
1,280×1,024ドット/32bitカラー 089.2
088.9
092.8
092.8
092.7
093.1
093.2
093.2
093.2
093.2
Pentium III-S 1.13GHz
Pentium III 1.0B GHz
Athlon 1.4GHz
Athlon 1.33GHz
Athlon 1.13GHz
Pantium 4 1.8GHz
Pantium 4 1.7GHz
Pantium 4 1.6GHz
Pantium 4 1.5GHz
Pantium 4 1.4GHz


●デスクトップPCユーザーはPentium 4かAthlonへの移行がお薦め

 以上のように、Pentium III-Sは単なるクロック分の上昇以外にも、L2キャッシュが512KBになったことで、従来のPentium IIIに比べても大きな処理能力の向上を実現しており、オフィスアプリケーションにおいてはPentium 4 1.7GHzと同等の処理能力を持っている。

 しかし、問題になるのはその導入コストだ。既に述べたように、Pentium III-S、つまりTualatinを導入するには、Tualatinに対応したチップセットを搭載したマザーボードを利用する必要がある。このため、現在Tualatinに対応していないマザーボードを利用しているユーザーはマザーボードを交換する必要があり、今回取り上げたASUSTeK ComputerのTUSL2-Cで1万円台の半ばから後半程度のコストがかかる。また、CPU自体も1.13GHzで5万円弱、1.26GHzで6万円強と非常に高い。今回取り上げたPentium III-S 1.13GHzを買おうと思えば、Pentium 4 1.7GHz、しかも128MBのRIMMつきのパッケージが購入できてしまう。さらに、Athlonであれば、最高クロックのAthlon 1.4GHzのリテールパッケージを購入して、マザーボードを買ってもまだお釣りがきそうだ。そうしたことを考えると、現状ではPentium III-SをデスクトップPC用途を前提に購入するのはお薦めできない。

 しかし、サーバー用途のCPUであると考えれば、本製品は十分検討の余地がある。L2キャッシュが増えたPentium III-S 1.13GHzは、L2キャッシュの容量が処理能力に大きな影響を与えるサーバー用途では魅力的な選択肢となる。既にSuperMicroからTualatinに対応したServerWorksのServerSet III LEを搭載したP3TDLEがリリースされており、そちらと組み合わせて利用するというのであれば悪くない選択だ。

 現在IntelはXeonをワークステーション向けと位置づけており、大手PCメーカーからXeonを搭載したサーバーは登場していない。これに対して、Pentium III-S 1.13GHzは、既に日立製作所が「HITACHI Advanced Server HA8000シリーズ」にPentium III-Sの2ウェイマルチプロセッサモデルを追加している。現時点ではAMDのAthlon MP 1.2GHzを搭載した2ウェイのサーバーは大手PCメーカーから発売されていないので、大手PCメーカーのx86系2ウェイサーバーとしては、このPentium III 1.13GHzを搭載したシステムが最高速といってもいいだろう。そうした観点から本製品を搭載したPCサーバーを選択するというのは意味があり、企業のSI担当者などであれば、検討してみる余地はあるだろう。

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【6月30日】“Tualatin”コアを採用した最新型サーバー向け「Pentium III-S」がデビュー
512KBの2次キャッシュを内蔵、動作クロックは1.13GHz
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010630/pentiumiii-s.html
【6月30日】ASUSからも“Tualatin”対応のSocket 370マザー「TUSL2-C」発売
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010630/etc_tusl2c.html

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(2001年7月9日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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