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クールじゃないTualatin、どうして熱設計消費電力がこんなに高いのか
--図解 Tualatinシリーズ(2)


●全然クールにならないTualatin

 Intelの0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)はホットなCPUだ。意外なほど発熱量が多く、とうていクールとは言えない。えっ、0.13μm化すれば消費電力がぐっと下がるはずなのに? ところが、今回はそうではない。プロセスが進化しても、そのわりに消費電力は下がらない。このことは、ノートPCの薄型小型化が、またすぐに壁に当たってしまうことを意味している。薄型ノートPC大国の日本にとっては、不吉な事態だ。

 ノートPCの開発は、ひたすら熱との戦いだ。だから、最大の熱源であるCPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計電力)はPCベンダーの大きな関心事となる。TDPは、PCメーカーがPCを熱設計するに当たって対応しなければならないスペックの指標で、これが大きければ大きいほど、筺体を大きくしたり強力な冷却システムを搭載しなければならなくなる。つまり、CPUのTDPはノートPCのフォームファクタや使い勝手も決定してしまう。そのため、TDPはエンドユーザーにとっても重要な問題となる。

 CPUのTDPは、従来だと2年に一度ガクっと下がるチャンスがある。それはプロセスの移行期だ。CPUのTDPは、電圧の二乗×クロック×キャパシタンスで決まる。プロセスが1世代微細化すると、このうち電圧が約85%に、キャパシタンスが約70%に下がると言われる。つまり、計算上はこれでTDPは50%下がることになる。実際にはこううまくは行かず、これよりTDPは高い(通常60~70%程度)ことが多いのだが、今回のTualatinの場合、それよりもずっと悪い。今、入っている情報だと、クロック当たりの消費電力は80%程度にしか下がらない。

 例えば、Tualatin 1GHzのTDPは20.5WだとOEMメーカーには伝えられている。それに対して、0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン) 1GHzのTDP(typical)は24.8Wだ。つまり、同じクロックのCPUを比べた場合、TDPは約82%しか下がっていない。CPUの駆動電圧は1.7V(Coppermine 1GHz)から1.4V(Tualatin 1GHz)へと約82%に下がるので、二乗すれば電圧低下分だけで68%にTDPが下がるはずだ。それにキャパシタンスの減少分を足せば、もっと下がる計算なのに、ぜんぜんそうならないようだ。

 これは、超低電圧(ULV)版ではもっと事態はクリティカルだ。それは、前回のコラムで伝えた通り、ULV版は電圧をまだ下げられないからだ。Intelは、Tualatin ULVを700MHz/1.1Vで提供し、そのTDPは7Wに収まる程度になると言われている。それに対して、現在のCoppermineのULVは、600MHz/1.1VでTDPは6.4Wだ。TDPがこの通りだとすると、電圧は同じだから、クロック比当たりでは、わずか93%程度しかTDPが下がらない計算になる。

 しかも、TualatinのこれらのスペックはIMVP(Intel Mobile Voltage Positioning)技術を使ってアクティブ消費電力を下げた場合のスペックだという。IMVPでは、アクティブ時に電圧をオペレーション可能レンジのミニマムにまで下げることで、ピーク消費電力を最大13%程度引き下げる。つまり、TDPが最大13%減るわけだ。アディショナルにこの技術を使っても、TualatinのTDPはそれほど下がっていないことになる。



●0.13μmでぶちあたる消費電力の壁

 もちろん、これらのTualatinのスペックは、以前にOEMに伝えられていた暫定的な数字なので、実際に出荷時にどうなるかはわからない。しかし、TDPのスペックがいきなり大きく改善される可能性は低い。そのため、Tualatinでは、従来のセオリー通りにはプロセス移行で消費電力が下がらないことは確かだと思われる。

 もっとも、じつはこれはTualatinだけに限った話ではない。今後のCPUの共通した問題になると言われている。もう1つ言うなら、じつはある程度、予見されていたことだ。

 例えば、Intelの将来CPU戦略を担当するFred Pollack氏(Intel Fellow,Director, Intel Architecture Strategic Planning, Intel Architecture Group)は、一昨年の講演「New Microarchitecture Challenges in the Coming Generations of CMOS ProcessTechnologies」で、0.13μmプロセスからは微細化によりリーク電流が大幅に増えるため、消費電力はリニアには減らなくなると説明している。つまり、プロセス移行による、CPUの消費電力の減少の割合は、0.13μmではこれまでよりずっと少なくなると言うわけだ。実際、Tualatinの現在伝えられているスペックを見ると、それが如実に表れている。この問題は、画期的なHigh kゲート絶縁膜素材が実用化されるまで続く。

 こうした状況にあるため、Tualatinによる低TDP化のアドバンテージは、非常に小さい。通常電圧版と低電圧(LV)版では、駆動電圧が下がるため、TDPはある程度下がるが、それもそんなに長くは続かない。行き詰まりが、そう遠くないうちに来てしまう。ところが、IntelはおそらくモバイルCPUのクロックを引き上げるマーケティングを今後も続けて行く。つまり、売れ筋CPUのクロック(=TDP)は継続して上がり続けるのだ。

 そうすると、近い将来には、再びTDPが壁となってしまう。その場合、Intelの取る手段はただ1つ、TDPを引き上げることだ。おそらく、ノートPCメーカーは、来年後半にはさらに高いTDPをサポートできる熱設計をしなければならなくなるだろう。


●Intelが決める4つのTDP

 そこで、今後のIntelのモバイルCPUのTDPがどうなるかの全体像をまず概観してみたい。下のチャート「IntelモバイルCPU TDPロードマップ」は、今後1年間のTDPの予想を示している。また、「IntelのモバイルCPUと熱設計電力」は、CoppermineとTualatin/Northwood(モバイルPentium 4)のTDPを比較している。

 TualatinのTDPのスペックは、OEMメーカーなどからの情報と、それをベースに計算し たものだ。

IntelモバイルCPU TDPロードマップ IntelのモバイルCPUと熱設計電力
高解像度版(1.64MB) 高解像度版(1.13MB)

 これらの図の説明の前に、まず、IntelがノートPCのフォームファクタとTDPをどう考えているかを整理したい。Intelの提示しているノートPCの熱設計の目安は、次のようになっている。

◎フルサイズノート30W
◎薄型軽量ノート22W
◎ミニノート12W
◎サブノート7W

 この数字は、Intelが今年2月のIDFで説明していたTDPの目安だ。つまり、Intelはそれぞれのカテゴリ向けに、このTDP以下のCPUを提供して行くので、PCメーカーもこのTDPに対応した熱設計をして欲しいと言っているわけだ。

 フルサイズノートは、Intelの分類では2~3スピンドル(ディスクドライブが2~3基)で、Zハイト(筺体のトータルの厚み)が1.4インチ(約36mm)以上のものを指す。日本で言えば、オールインワンノートPCの厚手のヤツだ。この手のフルサイズノートPCのTDPは、今年前半までは25Wだったが、来年にはモバイルPentium 4(Northwood)のために30Wが必要になると予告されているという。

 薄型軽量ノートは、英語だとThin & Lightと呼ばれるタイプで、A4サイズ以上のクラスだ。IDFでの説明では、1~2スピンドルで、Zハイトは1.1~1.4インチ(約28~36mm)となっていた。日本的な感覚から言えば、36mmはもはや薄型ではないが、これはあくまでもIntelの区分けだ。Intelは、IDFではこのカテゴリのTDPは22Wと説明していた。実際に、Tualatinも22W以下(1.13GHzが21.8W)で提供される。Tualatin 1.26GHzは、TDPを22Wに押さえ込むために、歩留まりの低下を承知の上で電圧を1.35Vに引き下げるほどだ。

 しかし、IntelはTDPが25WのCoppermine 1GHzを、薄型軽量ノートPCにも搭載できると宣言しており、今後、TDPを引き上げる可能性が高い。それを見越してか、PCメーカーや台湾OEMの多くは、すでに25WをターゲットにこのクラスのノートPCの熱設計を進めている。すぐに、このカテゴリは25W TDPになってしまうだろう。このクラスの熱設計が、いちばん苦しいに違いない。

 ミニノートは、日本で言えばB5ファイルサイズクラスのノートPC。基本は1スピンドルで、Zハイトは1~1.2インチ(約25~30mm)。このサイズのノートPCのTDPは、少しずつ上がっているものの、大きな変化はない。

 サブノートは、日本で言うとA5などミニノートより小さいサイズのノートPC。また、B5でもファンレス設計だと実質的にこのサブノートのTDPが必要となる。Zハイトは1インチ以下(約25mm)のレベルが目安となっている。このカテゴリは、Crusoeの登場でいきなりIntelのロードマップに登場した。Intelは、それまでは7W TDPのCPUをなくすつもりだったのが、今ではCrusoeへの対抗でこのカテゴリを重視している。

 では、この4つのTDPワクで、IntelがどうCPUを提供して行くつもりなのか、次回はそれを見てみよう。


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(2001年7月2日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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