第104回:AirH"の使い心地とDDIポケットへのインタビュー



 Lavie MXの微透過液晶パネルはどこで見ることができるのか? 数多くの質問をいただいた。また、バッテリ容量が変更になっている点についても問い合わせをいただいている。これらは今回の話とは直接関係しないため、最後に情報を付記しておく。

 さて、今回は先日発売されて話題になっているPHSを利用したワイヤレス定額接続サービスAirH"について、実機のレポートとDDIポケットの取材を交えながらお伝えする。話を伺ったのは、DDIポケット取締役販売促進部長の土橋匡氏と販売促進部データ通信グループの図子純也氏だ。


●DDIポケット単体での利益構造を作ることが先決

SIIのAirH" Card

 AirH"( http://www.ddipocket.co.jp/data/air.html )は全国のDDIポケットサービス区域で定額のワイヤレスデータ通信サービスを利用できる日本初のサービスだ。これまでも、同じPHS技術を用いた定額データ通信サービスをアステル系の一部地域事業者が提供していたが、全国サービスとして展開されるのは今回が初めて。

 アステル系事業者の定額接続は独自網をバックボーンとして利用しているため定額接続が可能だが、DDIポケットはNTTのISDN網をバックボーンとしている。一部には“DDIポケット最後の賭”とまで言われたのは、健全な利益構造を構築せずにサービスを開始したように捉えらたからだろう。

 しかし土橋氏は「25時間5,800円、使い放題7,000円という料金設定は、あくまで黒字化に向けコストから割り出した正当な数字。決して安売りしているわけではない」と強調する。

 すでに多くの記事で伝えられているように、AirH"で使われるパケット通信は本来メンテナンス用回線として各基地局に割り当てられている1チャンネル分の帯域を複数端末で共有し、基地局からDDIポケットのセンター局にISDN網のBチャンネルパケット回線を通じて接続。センター局からISP網へと接続する仕組みになっている。

 このため、センター局の設備やISP網との接続に関するコスト、基地局のファームウェアアップグレードなどは必要になるものの、基本的には大幅の追加設備投資なしでパケット通信に対応できるようになる。月額固定で5,800円以上を払ってもらえば十分に利益が出る構造なわけだ。

 DDIポケットの契約者数は、この1年で17万契約の純減になっているが、このうちPCやPDAからの通信を行なっている利用者は、25万契約も増加しているそうだ。土橋氏は「データ通信カードは買い換えサイクルが通常端末より長い。販売店へのインセンティブを考えれば、高い収益性を維持することが可能だ」と話す。

 また、次世代携帯電話があくまで音声中心の利益構造(音声通信は1ユーザー10Kbpsしか帯域消費しないため、電波利用率が向上した分だけ利益を出しやすくなる)なのに対して、元々音声チャネルに32Kbpsが割り当てられ、そのままISDNにつながるPHSでは、「音声だろうとデータだろうと同じ(土橋氏)」という考えもある。

 この秋に予定している128Kbpsパケット通信サービスでは、今回のAirH"ユーザーが一斉に買い換えを行なうのでは? と水を向けると、土橋氏は苦笑いしながら「128Kbpsをやる時には、32Kbpsパケットの値下げも検討しなければならないと思いますが、128Kbpsは今の32Kbpsより高くなりますよ」と切り返したが、「1万円を超えると売れないと思っているので、128Kbpsもそうなると思います」と続けた。

 いろいろ聞きたいことは山ほどあったのだが、2時間に及ぶインタビューのため、すべてを紹介しきれない。以下、一問一答形式で土橋氏とのやりとりを紹介する。

Q. Feel H"など昨年は音声通信のビジネスに積極的だったが?

A. Pメールを始めた頃からデータ通信が多くなり、固定回線からの着信が激減した。音声サービスに対する努力をやめることはない。今でも売り上げの2/3は音声通信のものだ。端末を情報アプライアンスとして完結させるやり方はFeel H"でやっている。しかし端末コストが高くコスト回収月数が長くなりすぎてしまう上、画像や音楽、メールなどの利益を契約者獲得につなげることができていない。あきらめたわけではないが、6,000万携帯電話マーケットを巡る泥仕合に入っていくのではなく、ワイヤレスインターネットユーザーに市場があると見ている。

Q. ライトユーザーにはフレックスエクスチェンジの5,800円でも高く感じる。基本料金の安いプランがなければ契約数増加を望めないのでは?

A. 回線交換接続に設定したデータパックミニでライトユーザーはカバーしたい。またAirH"の料金は定額だが、この中には基本料金に相当する金額が、実は含まれていない。純粋に想定されるデータトラフィックに対する料金で、回線維持のコストはその利益の中から捻出する。魅力的なデータ通信サービスのためには、基本料金に相当する部分をなくす必要があるとは思うが、現状ではある程度以上の料金をコミットしてもらわなければAirH"のような特殊な算出方法はできない。

Q. モバイルユーザー以外も取り込みたいと考えているようだが、固定系通信インフラはこれから充実度が大幅に上がるのでは?

A. 現在のH"のデータ通信トラフィックを見ると、夜中の住宅地で集中的に使われていることがわかる。実際にはPHSを外出先ではなく家庭内で使っているケースが多い。昼間のオフィス街での売り上げも堅調だが、家でも会社でも自前の通信デバイスでインターネットに接続したい人。しかもメール中心のライトユーザーで、すべての合計を1万円以内に収めたい人には、AirH"が良いソリューションになると考えている。

Q. FOMAについてはどう考えているか?

A. 理屈から考えてbit単価をPHSと同じにはできない。人口カバー率、低消費電力、ノイズ耐性などを考えると、PHSには対次世代携帯電話のメリットがたくさんある。現在、NTTドコモが一人勝ちしているように見えるが、この先、携帯電話の競争は料金も含め危険な領域まで進むはず。コンシューマは、今でこそ携帯電話にお金を払っているが、金の使い方は時代とともに変化するものだ。コンシューマは端末の価格が安いから、最新の携帯電話を買っているが高価なら振り向かない。普及させるため、高価な次世代携帯電話を事業者負担でタダ同然で配っていくのは辛いはずだ。

Q. 無線LAN(802.11)を公衆サービスとして利用する計画がある。海外でも無線LANベースのIP携帯電話が展示されたこともあった。人の集まるスポットだけを考えれば、無線LANは安価で高速なインフラになり得るのでは?

A. 無線LANの屋外利用に関しては詳しい知識を持っていない。ただ、すべてのものに一長一短があり、便利だからいい、高速だからいい、という話ではない。PHSはすでに全国でサービスされているインフラが存在する。多くの人が新しいインフラを利用できるようになるには時間がかかるものだ。

Q. NTT依存のバックボーンを変更しなければ、この先の大幅なコストダウンは難しいのでは? KDDIグループとして、全国16万基地局のインフラを手がける予定はないのか。

A. 常に可能性は考えているが、物理的に市内回線を新規で引き直すのは難しい。KDDI網で基地局をカバーする可能性は皆無ではないが、具体的な話が進んでいるというわけでもない。現在利用しているNTTの回線も、互いの利益について話ながら、交渉を続けている。P>


●実際に使ってみると

 さて、インタビューが長引いたが、実際の使い勝手はどうなのか。AirH"を数日間試用してみた。現在、まだフレックスチェンジ方式のサービスしか開始されていないが、実際には32Kパケットのみの通信も行なえるようになっている(ただし、料金はフレックスチェンジ方式に基づいて請求される)。

 パケット通信と言うと、どこにダイヤルアップするでもなく擬似的につながりっぱなしのイメージを持つだろうが、AirH"の場合は必ずダイヤルアップ操作が必要となる。ただし、一度接続してしまえば擬似的な常時接続環境となり、基地局との物理的なリンクが切れても5分程度までなら自動的に再接続されるようになっている。

 たとえば地下鉄でダイヤルアップし、そのまま走り続けると、駅間では通信が途絶えるものの接続は切れない。そのままカバンにPCを詰めて地上に出れば、そのまま通信を継続できるのだ。むしろ、PC側のバッテリが問題になる可能性の方が高い。

 フレックスチェンジ方式では、通常は32Kbpsパケットで接続しておき、パケットトラフィックが特定タイムスロットで多くなるとPIAFS 2.1ベースの64Kbps回線交換に切り替わる(ただしベストエフォートなので32Kbpsになる場合もある。また、回線切り替えのプロトコル仕様を追加しているため、通常のPIAFSよりも若干オーバーヘッドが増えているという)。切り替え時には新たに基地局の空き回線を探索するため、64Kbpsへの移行には1秒ちょっとの時間がかかるハズだが、僕の行動範囲内で切り替えを意識することはなかった。

 気になる速度だが、スループットそのものは、昼間はもちろん夜間でもそれほど悪くはない。フレックスチェンジ方式で7.1KB/sec、32Kパケットで3.2KB/sec程度のスループットが出ている。ただしPINGの値が悪く、インプレスのWebサーバとの間では、常時400~500ms程度。最悪時には1秒近いPING値しか出ない時もあった。(ISPのアクセスポイントにPIAFSで直接繋ぐと190~200ms程度のPING値が出る)

 TRACEROUTEをかけてみると、最初のルータからPING値が悪いため、遅延の多くはDDIポケット網(実際にはNTTのISDN網)の中で発生していると思われるが、具体的な原因はDDIポケットに確認してもわからなかった(問い合わせの回答が来ていないだけなので、追って原因がわかり次第、この連載の中で伝えることにしたい)。

 ただし、フレックスチェンジ方式で64Kbps PIAFSに切り替わっている時にはPINGが回復しているようだ(フレックスチェンジ方式で接続してPINGを打つだけではパケットのままになるためPING値は悪く、トラフィックの多いときしか計測できないため、正確な値を取れない)。回線交換に切り替わっている時間帯は、通常のPIAFS接続とほとんど変わりない印象である。しかし、32Kbpsパケット時はスループットもさることながら、遅延時間が長すぎるためかレスポンスが鈍くWebブラウズには向かない。

 なお、1基地局あたり最大4人を目安にパケット用チャネルの接続人数を振り分けているようだ。通常、同一地点からアクセス可能な基地局は複数存在するため、異なる基地局にトラフィックを分散、調整するようになっているとのこと。ただし、原理的には4人に制限されないため、ほかに接続できる基地局が存在しない場合は、4人を越えて接続されることもある(もちろんパケットなので、4人を多少越えても極端にパケットを使うユーザーがいなければ、性能に大きな低下はないはず)。

 現在はPCカードタイプのみだが、今後、TDKのCF型カードが出てくれば、応用のフィールドは大きく広がるだろう。位置情報とPCやPDAの地図ソフト、渋滞情報、あるいはオンラインゲームやインスタントメッセージなどなど。定額の疑似常時接続ならではの使い方がたくさん眠っているはずだ。

 まずは料金を気にせずワイヤレスでネットに接続できること。そこから始める新しいアプリケーションの登場に期待したい。


●NEC Lavie MX追加情報

 店頭で実物を確認できないLavie MXだが、NECによると微透過液晶パネル採用モデルは受注生産のため、販売店からの要望がない限り展示機は設定されないとのことだ。もちろん、液晶パネルが売り物の機種だけに、実物を見ないことには購入に踏ん切りがつかない。現在、NECのショールームへ展示すべく準備を進めているそうだが、NECに質問した時点では、どのショールームにどの程度の期間展示されるかは未定との回答だった。なお、秋葉原のLaOXザ・コンピュータ館では、6月下旬ぐらいには実機の展示を開始するという。

 反射型液晶パネルを採用した前モデルは、一般流通経路での販売が行なわれていたが、中には暗いところで見えない、色が鮮やかではない、といったクレームが販売店に入り、商品の交換を行なうなど措置を取らざるをえないケースもあったという。微透過液晶パネル搭載モデルも流通に流したかった、というが、販売店に再度の迷惑をかけることを避けるため、受注生産という形式を取らざるをえなかったそうだ。

 もっとも、微透過液晶パネルは、明るいPC販売店の照明下ではバックライトの効果をほとんど確認できないため、展示されたからといって、その実力を測るのは難しいかもしれない。

 また、新モデルではバッテリ容量が4,300mA時から3,950mA時へと減っている。実は丸形セルを使ったセカンダリバッテリのセルは、新しい世代のものに切り替えることで1,800mA時から1,950mA時へと向上しているのだが、液晶パネル背面に埋め込まれたリチウムポリマーバッテリのセルが、容量の小さいものに変更されているのだという。

 これに伴い、液晶パネルのカバーは厚みが若干増している。内蔵するリチウムポリマーバッテリの製造メーカーやモデルは明らかにしていないため推測でしかないが、おそらく53×85×3.2mm(幅×奥行き×高さ)、1,250mA時のセル6枚だったのを、軽量化のために30×48×5.2mm(幅×奥行き×高さ)、1,000mA時のセル6枚に変更したものと推測される。

 ただし、使っている周辺チップや電源制御の変更によって消費電力を抑えることで、スペック上の駆動時間は前モデル並を維持したとのことだ。

□間連記事
【5月16日】DDIポケット、パケット通信「AirH"」で定額料金プラン(ケータイWatch)
http://k-tai.impress.co.jp/news/2001/05/16/airedge.htm

[Text by 本田雅一]


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