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第103回:長時間駆動と使いやすさを実現した新型MXとs30 |
メモリ上限に関してもさまざまな意見をいただいた。その大半は、低消費電力と実装面積の縮小を実現する唯一のチップセットであるIntel 440MXのメモリ上限が256MBであることが原因の根本であるとの指摘である。
440MXは元々、低価格ノートPCのためにリリースされたチップセットで、メモリコントローラ部とI/Oプロセッサ部が1チップに収められている(このため、本来の意味からすればチップ“セット”ではない)。メモリ上限は256MBだ。ただし、登場直後から各PCベンダーからバグの多さを指摘されている。
SDRAM市場の暴落を指摘するまでもなく、256MBの上限はあまりに少ないが、440MXの持っている省電力性や1チップ構成のメリットを考えれば、納得できないわけではない。しかし、その低すぎる上限は、せめて使い切ってほしいと思うのだ。Intelが440MXのバグを潰したり、メモリ上限をアップさせた改良版を出すべき、という議論は、また別の視点である。
●液晶パネルがすべてを帳消しにするLaVie MX
以前、この連載で記したように、僕は反射型液晶パネル採用のLaVie MXを外出先でもっとも長い時間使っている。これだけ使い倒している僕が言うのも何だが、LaVie MXは3つの点を除いて、決して最高の製品というわけではない。しかし、その3点を捨てられないが故、使い始めるとやめられないのだ。
1つは液晶パネル裏を使って高価なリチウムポリマーバッテリを大量に使っていること。これにより、筐体がB5とB5ファイルの中間ぐらいのサイズながら、1.4kgを切る軽量さと大容量のバッテリを両立させた。次にファンレス構造のため静かで、筐体の発熱もほとんどなく信頼性も高いこと。最後にバックライトが存在しないため、ほとんどの場面で、バッテリの残量を気にせず使うことができること。
つまり、いずれもバッテリ持続時間に関することだ。バッテリ持続時間だけに注目すれば、後半で紹介するThinkPad i Series s30も長時間駆動を実現しているし、重さやサイズを無視するならば、大きなバッテリを搭載すればいい。ベンチマークだけを取って、ワーストケースを計測したり、ベストケースを計測するだけならば、それらの製品でもLaVie MXと同じような結果をたたき出すことができるだろう。
しかし、反射型、あるいは新LaVie MXが採用している微透過型液晶は、こうした透過型液晶パネルを採用した製品とは、利用時に感じる体験そのものが大きく違う。透過型の場合、なるべくバッテリを持たせるため、バックライトを調整しながらバッテリ残量を気にすることになる。これは6.5時間の駆動時間をスペック値とするs30でも同じだった。
これに対して、バックライトを必要としない反射型、バックライトを使う場面が少ない微透過型は、正味で10時間近く使える。この安心感は大きな違いだ。もちろん、微透過型の場合は、バックライトを点けたままで利用することも考えられるが、必要に応じて自分でオン/オフができるのは、80%は反射構造を取る微透過型の美点のひとつだろう。
新型LaVie MXに搭載されている微透過型液晶パネルは東芝が開発したもの。東芝の資料によると、バックパネルを80%反射、20%透過という構造に設定しているという。加えて前モデルでLaVie MXが採用していた反射型液晶パネルがSVGA(800×600ドット)だったのに対し、微透過型液晶パネルは同サイズでXGA(1,024×768ドット)へと微細化しているため、反射型として利用したときに少々不利だろうと予想していた。しかし、今回採用した微透過型液晶パネルは開口率がかなり高いらしく、見た目には10%程度暗めに感じる程度で、反射型オーナーの僕から見ても十分な見え味だと思えるものだった。
一方、透過モードで利用した時の明るさはスペック上では15cd/平方メートルになっている。実際に点灯させてみた印象だが、通常の透過型液晶で言うと一番暗い設定よりは、大雑把にに言って1~2段ぐらい明るい。元々、暗い場所でしかバックライトを使わないことを考えれば、十分な明るさだ。メインは反射光での利用なだけに、カラーフィルタはかなり薄目で、色の鮮やかさはないが、本機の目的を考えれば決して不満に感じるほどではない。
一方、コシがない(クリック感に乏しい)キーボードや、別途専用ケーブルが必要なEthernetとVGAのコネクタなどの要素は変わっていないが、それでも物欲を掻き立てるものがある。今回は実際にデモを見せてもらっただけで、どんな場面でどの程度の見やすさなのかはレポートできないが、近い将来、予算を作って導入したいと考えている。
なお、前モデルでも一時話題になったことがあるリチウムポリマーバッテリの交換費用についても話を聞いてみた。当初7万円を超える料金が設定されていたそうだが、現在は工賃および部品代を含み45,800円になるという。
□間連記事
【5月21日】NEC、ノートPC「LaVieシリーズ」を一新
~内部構造など写真を多数追加
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010521/nec3.htm
●見た目の変わり者ぶりとは裏腹に実用性が高いs30
ピアノ調の外装とボディに似合わぬ巨大キーボードの微妙なアンバランスさが議論を呼ぶThinkPad i Series s30を、実際の仕事の現場で使ってみる機会を得た。実際の仕事の現場とは、発表会に出かけてメモを取り、ネットで連絡を取りながら記事を書き、PCでHDD内に収めた資料を検索することだ。
電車で移動しながら仕事をし、そしてキー入力を多用する仕事だけに、軽くコンパクトなPCは欲しいものの、キーボードには妥協したくない。そんな立場の僕が実際に感じたs30をレポートしよう。まずは、s30全体のハードウェアをおさらいしておく。写真がヘタクソなのは、ご勘弁。自宅でデジタルカメラを使って撮影したものだ。なお、今回試用したのは無線Ethernet内蔵モデルである。
●いいところ
キータッチはIBMのThinkPad X20に近い感じで、なかなか良好。サイズからは想像も付かないタッチの良さだ。キーサイズがISOフルピッチであることを強調するIBMだが、タッチの良さがお気に入りの第1ポイント。原稿を書いていてストレスがない。
キー入力の前半にバネ強度の山があり、それを越えるとスコンと抜ける感覚は、他社ノートPCにはなかなか無い感覚。s30のそれは、個人的な感覚ではX20よりも具合が良く、ThinkPad 600に近い印象を持った、いずれにしろB5クラスの製品の中ではもっとも文字の入力を行ないやすい製品であることは間違いない。
もっとも、キー配列に関しては正直言うと文句もある。キーボード写真のところで述べたように、[全角/半角]キーが[X]の真下あたりに移動したことで、ほかのキーまでが窮屈になっている。とはいえ、B5という筐体と、キーピッチ、操作性のバランスは良い。7列になったことで特殊キーも扱いやすい。
ダイバーシティアンテナ内蔵の無線LAN機能も、受信感度がすこぶる良好で使いやすい。PCカード型の無線LANでは、電波強度が50%ぐらいになるところでも100%近い品質。正直言って、自分で購入するなら有線LAN+IEEE 1394の方がいいかな? とも思うが、これだけ感度がいいと迷ってしまう。もちろん、内蔵なだけに使い勝手もいい。
Type2 CFスロットも気に入っている。CFタイプのPHS通信カードを使っていることに加え、デジタルカメラでマイクロドライブを利用していることが大きいが、今後、CFの周辺機器はさらに増えるだろう。増えるにつれて、CFスロットの重要性も増してくるというものだ。
全体の剛性感が非常に高いのもs30の美点だろう。液晶を開いた状態でストレスをかけてみても、歪みがほとんど生じない。特に本体側のボディは非常に固い。これをもって丈夫、とは言わないが、ThinkPad X21などと同様、カバンに入れて持ち出す際に安心感を感じる製品だ。
●気になるところ
どんなものでも、使ってみると満足できない点が出てくるものだが、s30で決定的に気に入らないと思うところは基本的に見あたらない。しかし、それでも改善を希望したいところはある。
まずWebブラウズ用のキー。カーソルキー脇にあるため、カーソルを動かそうとするとき、ついつい間違えて押してしまうことがある。たいして問題ではない? そう、通常は問題ないのだが、Webブラウザで複雑なフォームを入力中に間違えて押してしまい、入力内容がパーになるという経験をした。
場面によっては、あるいは初心者には便利なこともあるのだろうが、できれば機能そのものをオフにするオプションが欲しいところだ。また、今まで空いていた位置にキーがあることで一種の窮屈感を感じることも否めない。はたしてこのキーが本当に必要だったのだろうか?
次に、本体を斜めにしてキーを打ちやすくするスイングバックフィン。しかし、足にする位置では固定されて動かなくなるのだが、元の位置(本体がスクエアになる位置)では固定されない。これは液晶パネルを90度以上開こうとすると、スイングバックフィンが邪魔になるため、自然に動くようになっているのだと思う。
しかし、カバンなどから取り出すとき、この部分を摘んでしまうと「クル」っと廻ってしまい、落としそうになることが何度かあった。スイングバックフィンを持たず、きちんと本体を掴むようにすればいいのだが、ちょっと改良を望みたい部分だ。
バッテリは消費電流をレポートしないタイプで、あと何時間使えそうか、予測時間を表示することができないのは少し不便。ほかのThinkPadよりも、バッテリとPCの間で交換できるデータの種類が少ないようだ。
美しい外装は傷つきやすいんじゃないだろうか? そう思っている人は多いだろうが、特別キズが付きやすいということはないと思う。しかし、キズが目立ちやすいとは言える。また、多くの人が指摘しているように、指紋もベタベタととても目立つ。東レのトレシーが付属するが、ギターやピアノを拭くための布で、s30を包み込めるほど大きなものがあるそうだ。これを使って本体を巻いてから、カバンに入れればいいと言うのだが、筆者は面倒くさがりなので(もしオーナーになったら)そのままカバンに放り込むだろう。
●肝心のバッテリ性能は?
超低電圧モバイルPentium IIIを搭載しているのだから、発熱とバッテリ持続時間に触れないわけにはいかないだろう。
まず発熱だが、少しばかり負荷をかけても冷却ファンが実際に動作することはなかった。600MHz動作時、本体底面はかなり熱くなるが、驚くほどというわけではない。300MHz動作時はほんのり暖かい感じで発熱が問題となるケースはほとんどないだろう。ただし、パームレストは左(メモリを実装)右(ミニPCIを実装)ともに、AC駆動時はかなり暖かく感じた(バッテリ駆動時はそれほど気にならない)。
バッテリは1時間の発表会を2回、2時間の個別インタビュー1回をハシゴするスケジュールで、パカパカとメモや原稿を打ち込みながら、移動の合間にC@rd H"で接続してメールをチェックするといった使い方で、どこまで使えるか? を測ってみた(いや、測定とは言わないのだろうが)。なお、液晶バックライト、ハードディスクは電源管理を行なわず、サスペンドも自動的にはしない設定で使ったため、使っている時間はずっと動いていたと考えていい。液晶輝度は設定スケール上の中間輝度(明るめの室内でもなんとか視認できる程度)、プロセッサは300MHzのバッテリオプティマイズモードだ。
合計の稼働時間は4時間半、そのうちPHS通信カードによる接続は64kbpsで30分程度だろうか? その間、かなりの割合でテキストを入力していたから、パワーマネージメントの設定を含めて、少し厳しめの条件だと思う。
取材を終えて帰宅し、残っていたバッテリ容量はユーティリティの表示で18%。このままのペースで電池が持ってくれるなら、5時間は使えそうだ。パワーマネージメントを細かく設定すれば、おそらく6時間半という数字も、あながち非現実的な数字ではない。
ただし、普段利用している反射型液晶を搭載したLaVie MXとは異なり、やはりバッテリ切れの不安は残る。一日出張などで、ずっとバッテリで仕事をする必要があるなら、安心のためにフルデイバッテリは必須のオプションだろう。
一方、もっとライトに使いこなしたい人からすれば、もう十分に遊べる駆動時間だ。正直言って、ここまで透過型液晶でバッテリ駆動時間が延びるようになるとは思っていなかった。バッテリ持続時間に期待して購入しても損することはない。プロセッサに強い負荷がかかる処理を行なうと言った無茶をしなければ、期待通りに動いてくれるはずだ。
とかくキーボードのはみ出しや、ツヤありの塗装に目が行きがちなs30だが、実際に触れたs30は決してイロモノなどではない。キーボードとバッテリライフに気を払った、ノートPCを外出先で仕事の道具として使いたい人のための製品だ。
□間連記事
【5月23日】IBM、ピアノ調ボディの新ThinkPad「ThinkPad i s30」
~内部構造など写真を多数追加
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010523/ibm1.htm
[Text by 本田雅一]