元麻布春男の週刊PCホットライン

タイムシフトとステレオ放送に対応したMatrox G450 eTV


●印象が変わったMarvelシリーズ最新作

 カナダのMatroxは、独特のツヤのようなものを感じさせる画質で、一部に根強いファンを持つビデオチップ/カードベンダだ。同社の主力は、Millenniumシリーズのビデオカードだが、かなり前からビデオキャプチャ機能を備えたMarvelシリーズもラインナップしている。その最新版がMarvel G450 eTVだ。

 以前のMarvelシリーズは、TVチューナ機能を内蔵していなかったり(オプション、あるいは外付けのTVチューナを採用)、他社がMPEGの採用に向かう中、編集のしやすさからかハードウェアCODECによるMotion JPEGの採用を続けるなど、独自の路線を進んでいる印象が強かった。が、このG450 eTVでは、ATIや3Dfxも採用したLigosのソフトウェアMPEG-2 CODECを採用、編集よりもTV番組の表示と単純な録画にシフトした製品、言い換えればよりメインストリームに近い製品に生まれ変わっている。

 Marvel G450 eTVで目立つのは、何と言ってもPhilips製のTVチューナユニットだが、もう1つ、ビデオチップに冷却ファンがないことに気づく。本カードが採用するのは製品の型番にもある「Matrox G450チップ」。基本的には前世代のチップであるMatrox G400を0.18μmプロセスにシュリンクしたものであるため、消費電力が小さく、小型のヒートシンクだけで済んでいる(G400は0.25μmプロセス)。

Marvel G450 eTVの全景。チューナユニットの下側に、Samsung製のTVデコーダチップがある。カード上に音声出力用コネクタが用意されていないため、サウンドカードとの接続は外部で行なうことになる Marvel G450 eTVのブラケット部。一番左のDINコネクタがAV出力用のブレークアウトケーブル接続用、アンテナ端子を挟んだ中央のDINコネクタがAV入力用のブレークアウトケーブル接続用だ。ブレークアウトケーブルのビデオ入出力は、S端子とコンポジット端子の両方を備える

 また、シュリンクの際に、G400では外付けだったセカンダリのRAMDAC、TVエンコーダを内蔵化、デジタルディスプレイインターフェイスであるTMDSトランスミッタも内蔵した。G400のウリは、2つのCRTコントローラを内蔵することで、解像度や色数の異なる2つのディスプレイをサポート可能なこと(いわゆるデュアルヘッド機能)だが、2台目(セカンダリディスプレイ)に用いるディスプレイに合わせ、外付けのRAMDACやTVエンコーダを組み合わせる必要があった(現実には、TVエンコーダ、TVデコーダ、セカンダリRAMDACの機能を併せ持つMatrox TVOチップが組み合わせられることが多かった)。G450では、外付けのTVエンコーダとRAMDACが不要になったわけだが、Marvel G450 eTVがこれらの出力をすべてサポートしているわけではなく、同時に出力可能なのは、プライマリCRT(アナログRGB出力)とTV出力の組合せのみとなっている。

 その一方でG450は、外部バス(メモリバス)が、G400の128bit幅から64bit幅に狭められている。当然、このままでは性能が低下してしまうが、G450はDDR SDRAMを採用することで、この問題を回避している、とされている(バス幅が半分になっても、クロックが2倍になれば帯域は等価)。G450のグラフィックスコアが、G400とほぼ同じであることを考えれば、性能を強化するより、コストを引き下げる道を選んだ、ということなのかもしれない。

 G400は、基本的にはDirectX 6世代のビデオチップであり、他社に先駆けてEnvironment Bump Mappingこそサポートしたものの、テクスチャ圧縮(DXTC)、Hardware T&L、Antiailiasといった、DirectX 7世代以降のビデオチップが備えているフィーチャーをサポートしていない。GeForce3のようなDirectX 8世代のチップから見ると、G400は2世代前のチップ、ということになる。3Dグラフィックス機能という点から見る限り、G450はそのG400と変わりがない。PCのユーザーがみなゲーマー(それも3Dグラフィックスを用いたゲームの)でないことを思えば、多くのユーザーが困るわけではないのかもしれないが、技術的に先端の製品でも、ベンチマークテスト的に優れた製品でもないことは知っておいた方が良いだろう。


●描画性能を検証

 というわけで、簡単なベンチマークテスト結果をまとめておいた。GeForce3の4分の1にも満たない3DMark 2001のスコアはしようがないとしても、G450のスコアがG400の3分の2程度にとどまっている点が気になる。調べてみたところ、G400が使っているメモリは最大同期周波数200MHzの32Mbit SGRAM(SDR)であるのに対し、G450のメモリは最大同期周波数166MHzの64Mbit DDR SDRAM(SDRの333MHz相当)であった。メモリチップのスペックから見ると、128bitバスのG400のピークメモリ帯域が約3.2GB/secであるのに対し、64bitバスのG450のそれは2.7GB/sec弱しかない。おそらく、このあたりが影響しているのだろう(もう1つ考えられるのは、Marvel G450 eTVのドライババージョンが古いことだが、Marvel G450 eTVのドライバはTVチューナドライバ等と一体のパッケージになっており、ディスプレイドライバのみを更新することはできない)。


【テスト結果】
ビデオカードWinFast
GeForce3
Matrox
Millennium G400 DH
Matrox
Marvel G450 eTV
ATI
All-In-Wonder 128 Pro
ディスプレイドライバDetonator 12.40Rev 6.51.012Rev 6.25.011Ver 4.13.7110
3DMark 2001描画品質
(著しい描画エラーの有無)
問題なし問題なし問題なし問題なし
スコア4,766 3DMarks1,440 3DMarks *11,058 3DMarks *11,273 3DMarks
SYSmark 2001Rating111111111109
Internet Content Creation110111110108
Office Productivity112112112111
*1 G400/G450は3DMark 2001のテクスチャフォーマットの初期値であるDXTCをサポートしていないため32bitテクスチャを用いた

【テストシステム】
マザーボード:Intel D815EEA
チップセット:i815E
チップセットドライバ:2.80 Build 12
ソケット:Socket 370
CPU:Pentium III 1GHz
メモリ:256MB PC133 CL2
解像度:1,024×768/32bit 85Hz
サウンド:YMF744
LAN:3C905-TX
OS:Windows 98 SE
DirectXランタイム:DirectX 8.0a

 同じTVチューナ一体型のビデオカードである、ATIのAll-In-Wonderシリーズとの比較という点では、最新のAll-In-Wonder RADEONとは比べ物にならず(RADEONはDirectX 7+相当のチップだから当然だが)、All-In-Wonder 128 Proと同じレベルの3Dグラフィックス性能ということになった。逆に、SYSmark 2001の性能は、どのビデオカードも大差ないことを思えば、性能よりコストを優先させたG450の選択は、間違っていなかったのかもしれない。

 性能には特筆するべきもののないMarvel G450 eTVだが、TV表示という点ではATIのAll-In-Wonderシリーズに明確な差をつけるポイントがある。それは、TVサウンドプロセッサとして日本にも対応したMicronasのMSP3440Gを採用しており、日本のステレオTV音声に対応している、ということだ。ステレオ番組をちゃんとステレオで聞ける、というのはタイムシフトなどの付加価値以前の問題ではないかと思う。

PC-VCR
 そのタイムシフト機能をサポートしたMarvel G450 eTVの専用アプリケーションは、PC-VCRという名称のもの。コントロールパネルは画面のようなリモコンを模したものになっている。左側に出っ張っているのは、設定メニューで、上からプレイリスト、録画設定、静止画キャプチャ設定、チャンネル設定(日本対応)、クローズドキャプション設定(おそらく米国のみ)、タイマー設定(予約録画含む)、基本設定(スキンの変更等)、タイムシフト設定、の各項目に対応する(設定メニューを非表示にすることも可能)。

 機能的には、EPG(電子番組表)を除けば一通り揃っているというところ。次回起動時に、前回起動時のウィンドウサイズと位置を覚えていてくれるのもATI同様だ。逆に、本製品ならではの機能ということでは、タイムシフト再生中の画面の中に、子画面としてリアルタイムの放送画面を表示できる(逆も可)ピクチャーインピクチャー機能があげられる(チューナユニットが1つしかないので、ピクチャーインピクチャーをサポートしたTVのように、裏番組を子画面に表示することはできない)。他社にも広く使われているLogos製のCODECだけに、動作の安定性という点でも、問題を感じなかった(画質も同様である)。

 難点をあげれば、タイムシフト操作を行なう際に、画面解像度の制約があることだろう。16bitカラー、32bitカラーを問わず、タイムシフト可能な解像度は1,280×960ドットまでで、1,280×1,024ドット以上ではタイムシフトすることができない(当然上記のピクチャーインピクチャーもできない)。この点と、EPGのサポートについて、改良を望みたいところだ。ちなみに、EPGの欠如を補うため、これをサポートしたサードパーティ製ソフトウェア(WinDVR)をインストールしてみたが、Marvel G450 eTVはWinDVRに認識されなかった。


●G450 eTVは買いか?待ちか?

 Marvel G450 eTVは、TVチューナ一体型のビデオカードとして、ステレオ音声やタイムシフト再生も含め、一通りの機能を備えた製品だ。短時間ではあったが、Windows 2000環境でも問題なく動作することを確認した。タイムシフト可能なディスプレイ解像度に制約はあるが、17インチ以下のCRT、15インチクラスまでの液晶ディスプレイを使っているユーザーなら、大きな問題ではないだろう。3Dグラフィックス性能を求めるユーザー向きの製品でないことは間違いないが、わが国にはそうしたユーザーはそれほど多くないと思う。

 Marvel G450 eTVの問題は、価格にある。今回用いたのは、秋葉原で売られているバルク品だが、価格は2万円台の後半であった。パッケージ版は、さらに約1万円も高い(一般的なビデオカードと異なり、機能が多いため、この種の製品を初めて購入するユーザーには、できればマニュアルの同梱されたパッケージ版をお勧めしたい)。本稿で「相当する」としたAll-In-Wonder 128 Pro(ただし音声はモノラル対応。同梱されているアプリケーションはタイムシフトをサポートしていないバージョンかもしれないが、Webサイトからタイムシフトをサポートした新版をダウンロード可)のバルク品が2万円を切っていることからすると、割高感が強い。

 Matroxの北米Webサイトを見ると、パッケージ版のMarvel G450 eTVの推定小売価格は、すでに230ドルに改定されている(北米向けの直販価格も同様)。この価格は遠くない将来、国内価格にも反映されるものと思われる。購入は、国内の実売価格が引き下げられるのを待った方が良いかもしれない。

□関連記事
【3月30日】インフォマジック、TVチューナ/MPEG-2キャプチャ対応の「Marvel G450 eTV」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010330/imagic.htm

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(2001年5月23日)

[Text by 元麻布春男]


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