元麻布春男の週刊PCホットライン

Windows 2000でドルビーデジタル出力が可能な
USB光オーディオアダプタを試す


●Windows 98 SEから2000への移行でDVD再生時に生じる問題

Windows 2000での非PCM出力に対応したUSB光オーディオアダプタ「D2link」
 以前筆者は、Windows 98 SEからWindows 2000に移行する場合にダウングレードする点として、DVD再生がらみの2点を挙げた。1つは、dts対応DVDの再生(dtsオーディオのソフトウェアデコード再生)、もう1つはS/PDIFによるマルチチャネルデジタルオーディオ出力(デジタルオーディオストリームのリダイレクト再生)である。結局筆者は見切り発車することにしたわけだが、この2つの問題に解決する見込みが出てきた。

 4月17日、カノープスはdtsのソフトウェアデコードに対応したWinDVD 3.0を5月下旬から発売すると発表した(標準価格7,800円、アップグレードパッケージは3,980円)。これにより、少なくともdts対応タイトルをダウンミックスによる2チャンネル再生が可能となる(アナログのマルチチャンネルスピーカーに対応したサウンドカードを利用していれば、ソフトウェアデコードによるマルチチャネル再生も可能)。実際に、Windows 2000上でβ版をテストしてみたが、これまで音が出なかったdtsタイトルをちゃんと再生することが可能であった。

 とはいえ筆者の場合、dtsのソフトウェアデコードは必ずしも不可欠というわけではない。デスクトップPCは常時ドルビーデジタルおよびdtsに対応したデコーダ(ヤマハDP-U50)に接続しているため、S/PDIFへのリダイレクトさえサポートしてくれれば良いのだが、Windows 2000では(より正確にはWDM準拠のドライバでは)これが容易ではない。2チャンネルのPCMフォーマット(一般的なWaveの再生、MDへのサウンド出力など)は問題ないのだが、ドルビーデジタルやdtsのようなマルチチャネルのフォーマット(非PCMフォーマット)をS/PDIFで出力するのは、非常に難しい。


●Windows 2000での非PCMフォーマットのストリーム出力の仕組み

 通常PCMフォーマットのストリームは、音源からカーネルミキサーを経由して、S/PDIFポートへと出力される。しかしカーネルミキサーは非PCMフォーマットに対応していないため、S/PDIFから非PCMフォーマットのストリームを出力するには、カーネルミキサーをバイパスし、S/PDIFポートへとリダイレクトする必要がある。現時点でこの機能を持つOSは、Windows Meのみ。Windows 98 SEではQFE(Quick Fix Engineering)と呼ばれるモジュールで実現するのだが、これはMicrosoftのエンジニア経由でOEMに提供されるものであり、一般のユーザーには配布されない(OEMによる再配布には別途許諾が必要なようだ)。それでもWindows 9x系OSは、VxDモデルのドライバが利用できるため、こちらを用いてS/PDIF出力を実現するのが一般的だ(筆者の知る限り、唯一Creativeのみが、SoundBlaster Live!向けにWindows Me専用のS/PDIF対応WDMドライバの提供を行なっている)。

 もちろん、VxDモデルのドライバがサポートされないWindows NT系OSでは、Windows 9x系と同じ手は使えない。カーネルミキサーのバイパスがサポートされるのを待たねばならず、Windows 2000ではService Pack 2での対応が予定されている(Windows XPは最初からサポート)。しかし、残念ながらSP2の配布は、現時点でいつになるのか不明だ。Windows XPの発表以来、SP2についてあまりニュースを聞かなくなった気がするのだが、UDMA 100対応の問題などもあり、Windows XPがSP2にとって代わったわけではないと思う。

 Windows 2000上でドルビーデジタルやdtsのマルチチャネルオーディオをS/PDIFから出力するには、上記のカーネルモードバイパス、これに対応したオーディオドライバ、これをサポートしたソフトウェアDVDプレーヤーの3つが必要になる(幸いにもDirectXの対応は完了しているようだ)のだが、肝心のSP2が入手できないのではメドが立たない(理想的にはカーネルミキサーがマルチチャネルオーディオに対応するべきなのだが、それにはミキサーの全面的な書き換えだけでなく、Windows上でマルチチャネルオーディオを扱う標準フォーマットの確立、アプリケーションの対応、そして何より著作権保護措置と映画産業の同意が必要になるだろう)。


●Windows 2000で非PCMフォーマットを出力するUSBアダプタ登場

 というわけで、Windows 2000からの非PCMフォーマットのS/PDIF出力は、諦めていたのだが、それを覆す製品が登場した。アイ・オー・データ機器のD2linkがそれだ。D2linkは、USBポートに接続するオーディオデバイスで、S/PDIFの光デジタル端子を備える。PCサウンドを光デジタル端子から出力するアダプタ、と考えればよいだろう。つまり、D2linkだけではサウンドは出力できず、かならずS/PDIFの光デジタル端子に対応したアンプ(理想的にはドルビーデジタルやdtsのデコードに対応したもの)とスピーカーが必要になる。

 D2linkの最もストレートな使い道は、PCサウンドをMDなどに録音する(2チャンネルのみ。ドルビーデジタルやdtsに対応したMDはない)、ということになるのだが、D2linkでは光デジタル端子からドルビーデジタルのマルチチャネルオーディオを出力できるという。なお、筆者が試したところでは、dtsの出力も問題なく可能だった。基本的にはストリームをリダイレクトしているだけだから当然かもしれないが……。公式には不可能?なことを実現できたのは、D2link専用のWinDVD 2000が付属しているからだ。実際、パッケージ版のWinDVD 2000、WinDVD DH、上述したWinDVD 3.0βの3種類と組み合わせて試してみたが、S/PDIFからマルチチャネルオーディオを出力することはできなかった。なお、リニアPCMによるステレオ音声やソフトウェアデコードしたドルビーデジタルのダウンミックス音声は出力可能。もちろんテストに際しては、各プレーヤーソフトごとにOSごと入れ替えている。


●付属のWinDVD 2000専用版でのみ非PCMの出力をサポート

 念のため、カーネルミキサーバイパスをサポートしたとされるWindows XP β2でもテストしてみたが、付属のWinDVD 2000専用版を除き、やはりS/PDIF出力はできなかった。ちなみに、D2linkにはデバイスドライバの類は一切付属せず、すべてOS標準添付のドライバを利用する。ただし、こちらはWindows XP β2に付属するUSBオーディオデバイスドライバの問題かもしれないが。過去にもオーバーレイをサポートしていないディスプレイドライバが添付されているなど、OSに標準添付のデバイスドライバがすべての機能をサポートしているとは限らないからだ。

 というわけでD2linkだが、現時点でWindows 2000からS/PDIF経由でドルビーデジタル/dtsのマルチチャネルストリームを出力できる数少ない一般向け製品の1つであり、おそらく最も安価な製品だろう(ALL-IN-WONDER RADEONもこの機能を持つが、以前筆者が試した時は安定動作しなかった)。付属のWinDVD 2000専用版が「サービス品」扱いで、アイ・オー・データ機器によるサポート対象外となっているため、将来のバージョンアップなどに不安があるものの、7,000円を切る実売価格を考えれば文句は言えない。もし付属のWinDVD 2000の機能に不満が生じた場合は、WinDVDシリーズ以外の他社製プレーヤーとの併用(S/PDIF出力はサポートできないだろうが)を試みるしかないだろう。その方が同じWinDVDの新版を加えるよりは共存できる可能性が高い。

 ただ、オーディオ機能をD2linkのみに委ねるのは難しいかもしれない。アナログ入出力機能を一切持っていないため、たとえば、システムにTVチューナカードなどを加えた瞬間、ほかのサウンドカードが必要になってしまう。逆に、S/PDIFをサポートしていない多くのノートPCにとっては、理想的な補完関係が築ける製品といえるだろう。

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【4月23日】アイ・オー、USB経由で光デジタル出力するオーディオアダプタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010423/iodata1.htm

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(2001年5月2日)

[Text by 元麻布春男]


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