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来年第1四半期にはモバイルPentium IIIはすべて1GHz超に


●3つのクロックレンジで登場するモバイルTualatin

 IntelのモバイルPentium IIIは、来年の第1四半期までには、すべて1GHz超の製品に移行する。言い換えれば、GHzでないPentium IIIノートPCはなくなってしまう。果たしてGHzノートPCが必要なのかという議論はともかくとして、Intelはそんなロードマップを敷いている。

 ここで、今日アップしたモバイルCPUロードマップに沿って、Intelの今後のモバイルCPUの概要を整理してみよう。

 モバイル版のTualatinには、512KBのL2キャッシュを搭載するPentium IIIと、キャッシュを半分殺して256KBにしたCeleronの2バージョンがある。また、それぞれ通常電圧版と低電圧(LV)版、超低電圧(ULV)版の3つの異なる電圧帯の製品がある。合計で6つの系列が存在することになる。

 最初に登場するのはPentium IIIの通常電圧版で、現在わかっている限り、1GHz、1.06GHz、1.13GHzの3つのクロックレンジで投入されるようだ。いずれも、133MHzのシステムバスだけになる見込みだ。また、Tualatin投入と同時に、0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)でも、Tualatinとシステムバス互換のCoppermine-Tが866/933MHzで投入される。従来のCoppermineは、モバイルではTualatinと同じチップセットでは使えない。そのため、同一マザーボードで、上から下までモバイルPentium IIIをラインナップできるようにするためにIntelはCoppermine-Tをリリースするようだ

●モバイルCeleronのTualatin化は来年に

 Tualatinは、その後、秋冬商戦時期までにさらに1.2GHzを追加、さらに来年頭には1.26GHzが、第2四半期にはおそらく1.33GHzが追加される見込みだ。おそらく、来年の第1四半期までにはほぼモバイルPentium IIIはTualatinベースに移行してしまうだろう。言い換えれば、来年の第1四半期までには、モバイルPentium IIIはすべて1GHz超の製品に移行する。

 一方、モバイルCeleronのTualatin化は周回遅れとなる。これは、0.13μmの生産キャパシティ自体が拡大し、モバイルPentium IIIを完全にTualatin化してからとなるので当然だ。OEMメーカーによると、来年第2四半期の1GHz版からTualatinベースになるという。これは、デスクトップ版CeleronのTualatin版とほぼ同時期だ。それまでの期間は、低熱設計電力(TDP:Thermal Design Power)が、モバイルPentium IIIのモバイルCeleronに対する大きなアドバンテージになる。

 そして、Intelは来年第1四半期にはモバイルPentium 4をリリースする。これは、以前伝えたように0.13μm版(Northwood:ノースウッド)になる。従来のPentium 4(Willamette:ウイラメット)との違いは、L2キャッシュサイズが512KBと倍増し、第2世代のSpeedStepテクノロジ「Geyserville-2(ガイザービル-2)」や、より消費電力の低い待機モード「Deeper Sleep」などをサポートする。モバイルPentium 4は1.5GHzと1.6GHzで登場、さらに高クロック版も予定されているという。しかし、モバイルPentium 4のTDPは30Wレンジと極めて高いため、TDPを考えると今後もそれほどクロックは向上できないだろう。

 ちなみに、30WのTDPのCPUは、冷却機構を特に工夫しなければ、極厚のA4ノートPCにしか入らない。そのため、IntelはOEMメーカーに向けたロードマップを、フルサイズノートPC(A4オールインワン)と薄型軽量ノートPCの2タイプに区分した。前者は30WまでのTDP、後者は22WまでのTDPという考え方のようだ。

●低電圧版と超低電圧版のTualatinは9月に登場

 低電圧(LV)版と超低電圧(ULV)版のモバイルPentium IIIのTualatin版は、やや遅れて9月頃に登場する見込みだ。これは、新CPUの最初のステップからいきなり低電圧化するのが難しいためだ。

 LV版Tualatinの特長は、システムバスが133MHzのバージョンだけでなく、100MHzのバージョンも用意されること。これはあとで説明するチップセットとの関係でそうなるようだ。OEMメーカーによると、クロックは100MHzバス版が750/800MHz、133MHzバス版が733/800MHzになるという。来年には、さらに850MHz(100MHzバス)と866MHz(133MHzバス)も追加され、さらにステップバイステップで、薄型軽量ノートPCのTDP枠の限界までクロックを引き上げるつもりのようだ。おそらく、933MHzまではそのままリニアに上げることができるだろう。

 一方、ULV版Tualatinは100MHzシステムバスのみとなる。クロックは9月に登場するのが700MHz、来年登場するのが750MHzになる見込みだ。こちらもサブノートPCのTDPの枠内(7W)でクロックを上げてゆくことになるが、そのためにはIntelは電圧をさらに引き下げなければならない。そのため、クロック向上が順調に行くかどうかはまだわからない。よりハードルが高いと思っていいだろう。

 LV版とULV版のモバイルCeleronのTualatin化は、いずれも来年頭に予定されているという。LV版はやはりシステムバス133MHz版と、100MHz版の2種類がある。100MHzバス版が650MHz、133MHzバス版が667MHzになるようだ。ULV版は100MHzシステムバスオンリーで、クロックは600MHz以上になる。これまで、ULV版はPentium IIIとCeleronのクロック差がなく、Celeronの商品価値が薄かったが、Tualatinからはクロックで明確にULV版Celeronが差別化されるようになる。

●デスクトップ/モバイルとも類似のμPGAソケットに

 また、面白いのはパッケージで、モバイルNorthwoodのパッケージは478ピンのμFCPGAで提供されるという。このパッケージが、デスクトップ版Pentium 4の478ピンμPGAとピン互換なのかどうかまだわからない。また、デスクトップ版Northwoodのように、「IHS(Integrated Heat Spreader)」をダイ(半導体本体)の上にカバーしたものになるかどうかもまだわかっていない。Intelは、通常、IHSなどをかぶせないフリップチップ実装のダイ背面がそのまま見えるパッケージをFCPGAと呼ぶ傾向がある。

 しかし、パッケージに違いがあったとしても、Intelは、できる限りソケットの物理的なインフラを近いものにしようとしているようだ。そして、Tualatinのパッケージもじつは478ピンμFCPGAになる。もちろん、Northwoodとピン互換はありえないが、同様の意図が感じられる。ちなみに、デスクトップ版のTualatinはIHSがつくが、ある関係者が見せてくれたモバイルTualatinのサンプルチップのパッケージは、IHSがついていないものだった。

 ちなみに、Tualatinは薄型PCもターゲットにするため、μFCBGAパッケージも提供される。こちらは479ボールとなる。また、Tualatinとバス互換のCoppermine-Tも、Tualatinと同じ478ピンμFCPGAと、479ボールμFCBGAで提供される。

●チップセットはIntel 830へ急速に移行

 こうしたダイナミックなCPUのチェンジに合わせて、モバイルではチップセットも大きく変わる。もっとも重要なことは、Tualatinに対応するのは新しいグラフィックス統合チップセット「Intel 830M(Almador-M:アマドール)」ファミリとIntel 440MXになることだ。Intel 815EMやIntel 440BX/ZXでは、原則としてTualatinはサポートされないらしい。デスクトップではi815系でTualatinをサポートするのに、モバイルではi830Mファミリでないと対応しないのは、Tualatinからサポートされる第2世代のSpeedStepテクノロジ「Geyserville-2(ガイザービル-2)」に向けたチップセットの最適化や新しい省電力ステイト「Deeper Sleep」のサポートが関係している可能性がある。

 また、i830ファミリはi815同様に複数のコンフィギュレーションで提供されるようだ。共通しているのは、133MHzのシステムバスへの対応、メモリのPC133 SDRAMサポート、新ICH(I/O Controller Hub)チップ「ICH3-M」など。i830のうちベースとなるのは「Intel 830M」でこれは統合グラフィックスコアとAGP外付けグラフィックスの両方をサポートする。内蔵グラフィックスが使えず外付けAGPグラフィックスのみをサポートするのが「Intel 830MP」となる。その逆に、内蔵グラフィックスのみでAGPをサポートしないバージョンは「Intel 830MG」だ。

 これらi830ファミリのうち、まず提供されるのはi830MPとi830Mで、i830Mの場合も最初は外付けグラフィックスのみのサポートとなる。内蔵グラフィックスのサポートとバリューノートPC向けのi830MPのリリースは秋までずれ込む見込みだ。これは、Intelグラフィックスでは多いことだが、ドライバが遅れるためらしい。グラフィックスドライバは、Microsoftの認証制度WHQLが壁となっていると以前Intelは説明していた。

 IntelのモバイルPentium IIIがTualatin/Coppermine-Tに移行するのと同時に、チップセットもi830ファミリへ急速に移ることになる。

 また、Intelはi440MXでもTualatinをサポートする。ただし、Tualatinバスの特長であるディファレンシャルクロッキングなどには対応しない、つまりデスクトップでのIntel 815と同様のサポートになる模様。i440MXはIntelのほかのチップセットに比べて消費電力が低いため、引き続き消費電力コンシャスなサブノートPCなどには、i440MXを主軸に提供してゆく見込みだ。i440MXは400番台の型番をつけられてはいるものの、セルが共通化された他の400番台チップセットファミリとは、設計もポジショニングも異なるため、今後も当面は別系列で進化するようだ。モバイルTualatinの通常電圧版に100MHzシステムバスがあるのは、i440MXを使うシステムも想定してのものだと思われる。

 一方、モバイルNorthwoodのチップセットはSDRAM/DDR SDRAMベースの「Brookdale-M(ブルックデールM)」になる。基本的な機能はデスクトップ版Brookdaleと変わらないが、ICHはICH2ではなくモバイル向けの特別版であるICH3-Mになる。

 また、業界関係者によると、IntelはBrookdale-MでDDR SDRAMと、DDR SDRAMのSO-DIMMモジュールをかなり真剣にプッシュするつもりでいるらしい。実際、2月末のIDFでも、将来モバイルチップセットの図でDDR SDRAMが示されていた。DDR SDRAMはメモリ帯域を上げるだけでなく、消費電力を下げる効果もあるが、モバイルPentium 4自体の消費電力が非常に大きいため、メモリの省電力効果はほとんど活きないだろう。


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(2001年4月27日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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