|
●今CPUを買うならFC-PGA
デスクトップPC向けのPentium IIIプロセッサに、2種類のパッケージがあることは、おそらくほとんどの人がご存知だろう。1つはSlot 1に対応したSECC2パッケージ、もう1つがPGA370ソケットに対応したFC-PGAパッケージだ。細かく見ていくと、SECC2とFC-PGAで提供されているクロック等は必ずしも同じではないし、市場での入手性も若干異なるが、一般的には両者は等価なものと考えられている。
ではどちらを選ぶか。模範回答は、自分のマザーボードに合わせる、ということに違いない。これが一番確実な方法であり、筆者もベストだと考える。が、現実の世界ではベストな方法がいつもベストだとは限らない。たとえば筆者の場合、様々なテストを行なうために、同じクロックのPentium IIIをSECC2とFC-PGAの両方で揃えておくというのは、経済的な負担が少なくない。できれば1つで済ませたいものだ。
そこでどちらを選ぶかとなると、結論はFC-PGAとなる。FC-PGAのプロセッサは変換用のアダプタを用いることでSlot 1のマザーボードに用いることができるが、その逆、SECC2のプロセッサをPGA370のマザーボードに用いることはできないからだ。しかも、変換アダプタを用いてFC-PGAのプロセッサをSlot 1のマザーボードに用いるという方法は、IntelのBoxedプロセッサのマニュアルにも紹介されているくらい(ただし使用に際しての細かい条件が書かれている)で、完全にアンダーグラウンドな方法ではない(変換アダプタのことはslot to socket adapterと呼ばれている)。
●問題は変換アダプタだが……
となると次の問題は、どの変換アダプタを選ぶか、ということになる。秋葉原等では、様々なベンダーのアダプタが売られているが、いずれも基本的にはそのベンダーのマザーボードと組み合わせることが前提とされているようだ。しかし、それではIntelのようにアダプタを販売していないベンダーのSlot 1マザーボードでは、FC-PGAのプロセッサを組み合わせることができない、ということになってしまう。何より、次の仕事マシンとして、Intel純正マザーボードであるVC820にFC-PGAのPentium III 600EB MHzを組み合わせようと考えている筆者はお手上げだ。
というわけで、市販されているアダプタのテストをしてみることにした。筆者にとって必要なのは600EB MHzが動作するアダプタだが、現在の価格や入手性を考えると、一般的に興味があるのはやはりPentium III 1B GHzとの互換性だろう。そこで、ここではPentium III 1B GHzとの互換性をテストしている(ちなみに、1B GHzが電気的に動作するアダプタは、すべて600B MHzも動作した)。
Pentium III 1B GHzとの互換性で考えなくてはならないのは、まず電気的に動作するかどうか、ということ。アダプタを介して取りつけたプロセッサがマザーボードに正しく認識されなければ、役に立たない。次に考えなければならないのは、大型化しているヒートシンクに対応しているか、ということ。写真1に示したのがBoxed版のPentium IIIプロセッサ(FC-PGA)にバンドルされているヒートシンクだが、600EB MHzのヒートシンクに比べ、格段に大きくなっていることが分かる(写真2)。また、取付け用のバンドが金属製からプラスチック製に変っている(当然、肉厚も増える)ことも要注意だ。
写真1:Boxed版Pentium III 1B GHz プロセッサ(FC-PGA)にバンドルされているヒートシンク | 写真2:600EB MHzにバンドルされているヒートシンクとの比較。上が600EB MHzのもの |
また、筆者にとってはVC820との互換性が重要なわけだが、このマザーボードは決して人気があるとは言いがたい(何せDirect RDRAMしか使えないPentium III対応マザーボードだ)。そこで、筆者の手持ちのマザーボードのうち、Slot 1で唯一公式にFSB 133MHzに対応しているSoltekのSL-67KVを参考までに加えてみた。なお、いずれのマザーボードもBIOSは事前に最新版に更新し(VC820はP17、SL-67KVはF81)、間違ってもBIOSが理由でCPUが認識されない、ということがないようにしてある。
●6種類の変換アダプタをテスト
テストに用いたのは次の6種類だ。表1に特徴をまとめておいたが、フォームファクタを除き、パッケージやアダプタに書かれているものをまとめたもので、筆者自身はデュアルプロセッサやCyrixプロセッサのテストをしたわけではないことをお断りしておく。フォームファクタの項は、リテンションとの互換性を示すためにまとめたもので、一般にSECC2対応のリテンションはSECCパッケージとも互換性を持つが、SECC対応リテンション(古いリテンション)はSECC2パッケージを固定できないことが少なくない。
表1: 各製品の特徴(パッケージ等に明記されている仕様)
メーカー | 製品名 | 互換のフォームファクタ | デュアルPPGAサポート | Cyrixサポート | マニュアル設定電圧 |
ABIT | |||||
ASUS Tek | |||||
GigaByte | |||||
Iwill | |||||
MicroStar | |||||
Soltek |
このゲタは以前筆者が購入した比較的古いもので、現在はS370-DLと呼ばれるデュアルプロセッサ対応タイプが市販されているようだ。
デュアルプロセッサ対応のようだが、Cyrix製プロセッサには未対応らしく何も言及されていない。S370-133と同時期に購入した比較的古い製品だ。
パッケージにCyrixサポート(Joshuaと明記)の文字がある。
設定可能なFSBはAuto、100MHz、133MHzの3種だが、133MHzはオーバークロック扱いになっており、デザインは新しくないようだ。そのせいか、ジャンパスイッチがソケットに近過ぎて、1GHzのBoxed Pentium IIIに添付されている純正ヒートシンクを固定するプラスチック製のクリップが取りつけられない。
テスト結果をまとめたのが表2だ。2枚のマザーボードに対し、全く問題がなかったのがGA-6R7ProとSLOCKET IIの2製品。リテンションとの幅広い互換性ということを加味すると、IwillのSLOCKET IIが最も使いやすい。MS-6905 MasterとSL-02A++は、電気的には問題なかったのだが、大型ヒートシンクの取付けに際して物理的な問題があった。この2つのアダプタを1GHzクラスのプロセッサと組み合わせる場合は、サードパーティ製ヒートシンクの採用を考えた方が良いだろう。
表2: 2枚のマザーボードとの互換性
Intel VC820 | Soltek SL-67KV | ||
ABIT | |||
ASUS Tek | |||
GigaByte | |||
Iwill | |||
MicroStar | |||
Soltek |
一方、VC820との相性が良くなかったのが、S370-133とSlotKET IIIの2製品だ。S370-133は製品名とは裏腹に、なぜかFSBが100MHz動作となる。表で750MHz動作というのは、本来133MHz×7.5で動作すべきところが、100MHz×7.5で動作していることを意味している。またSlotKET IIIにいたっては、VC820ではシステムを起動することすらできなかった(電源スイッチを押しても電源が入らない)。今回取り上げた6種類のアダプタのうち、この2枚だけがPPGA Celeronのデュアルプロセッサに対応していないことになっているのだが、それと何か関係あるのだろうか。
●マザーボードとの相性問題は避けられない
とはいえS370-133にしても、SlotKET IIIにしても、SL-67KVでは1GHzで動作したことを考えると、すべての責任を変換アダプタ側に押しつけるのは難しいだろう。逆に、VC820とSL-67KVで問題がなかったアダプタについても、他のマザーボードでは相性問題が生じるかもしれない。いずれにせよIntelが変換アダプタについてバリデーションを行なっていない以上、こうした互換性問題が出るのはある程度やむを得ない。変換アダプタを購入する場合は、極力マザーボードと同じベンダーの変換アダプタを購入することで自己防衛するしかないのだが、大型ヒートシンクとの物理的互換性を考えると悩ましいところだ。
(2001年4月18日)
[Text by 元麻布春男]