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●Windows XP Home Editionに期待したが……
2月あたりから、このコラムで断片的に取り上げてきたテーマの1つが、次の仕事マシンをどうするかというものだった。Video In/Out機能を備えたRADEON 64MB版を試したり、SmartVision Proのカードを流用しつつWinDVRを使ってみたのもその一環だ。そして、先週取り上げたWindows XPβ2も、このテーマと密接な関係がある。
仮にWindows XPが著しく改良され、特に筆者が現在Windows 2000について不満に感じているAV関係の機能が改善されたものであるなら、Windows XPがリリースされた時点で筆者は採用したいと考えるだろう。Windows XPの発売日はまだ不明だが、2001年内にはリリースされるハズ。となると、次の仕事マシンはそれまでの約半年の間使えれば良いことになる。「つなぎ」の色が濃いこの場合、筆者は間違いなく次の仕事マシンのOSとして、今と同じWindows 98 SEを選ぶだろう。
だが、残念ながらWindows XPは、現時点でのβ2英語版を基に判断する限り、Windows 2000に対する画期的なバージョンアップではなさそうだ。前回も述べたとおり、Windows XPのハードウェアサポートは、基本的にWindows 2000と大差ない(1点だけ前回を補足しておくと、現在提供されているWindows 2000用のドライバ/アプリケーションを組み込んでもAll-In-Wonder 128 Proは動作しない)。いくつかの点で、新しい技術をサポートしようとした、あるいは今後しようとしている跡は見受けられるものの、最初のバージョンのWindows XPがリリースされる時点では間に合いそうもない。
当初は、Windows 9xシリーズを置き換えるコンシューマー向けのWindows XP Home Editionがリリースされるということで、ひょっとするとHome Editionには何かコンシューマー向けの特別な配慮があるのではないか、とも期待したのだが、実際にはHome EditionはProfessionalの完全なサブセット(「Administrator」の廃止によるログインの簡素化など)に過ぎないことがわかった。ライセンス料を引き下げるためのサブセット、というのが本音ではないか、とも思える。
●Windows XPでサポートされたものとされなくなったもの
現時点でハードウェアサポートが向上したものとしては、IEEE 802.11bのサポートがあるようだが、筆者は今のところこの機能を試していない。また、今のところエンドユーザーに直接関係する話ではないかもしれないが、オプションとしてIPv6のインストールが可能になっている。米国はIPv6にあまり熱心ではないように見えるのだが、Windows XPがサポートすることで、何か変化が生じるかもしれない。
ただ、個人的にネットワーク機能での大きな変更は何かと言われたら、それはNetBEUIの廃止である。ルーティングできない小規模LAN向けのプロトコルであるNetBEUIを使っているサイトは多くないかもしれないが、筆者の仕事場LANは、基本的にNetBEUIベースで、外部(Internet)にアクセスするマシンにだけTCP/IPをインストールしている。これは、機能的な理由というより、仕事場LANのルーツが15年ほど前のLantasticに遡るという歴史的な事情が大きい。LANの設定をそのままひきずり、必要最小限の変更だけ加えてきたため、今もNetBEUIが残っているというわけだ。
だが、Windows XPを仕事マシンにインストールしなくても、ベンチマーク等を考えれば実験マシンにはいずれWindows XPをインストールせざるを得なくなる。NetBEUIを利用できないメンバが加わることを考えれば、このままでは不都合も生じる。とりあえずこれまでNetBEUIオンリーだったサーバーにもTCP/IPをインストールした。筆者の仕事場LANは実ユーザーは1人といっても良いので、作業そのものは15分とかからなかったのだが、なくなるとは思っていなかっただけに、ちょっと驚かされた。
画面1:Windows XPで採用されたLuna |
話が横道に逸れてしまったが、筆者個人にとってWindows XPとWindows 2000の差は決して大きくない。おそらく最も大きな違いは、「見た目」ということになる。画面1に示したのがWindows XPがデフォルトで採用する「Luna」と呼ばれるデスクトップテーマだ。スタートメニューも変更されているため、これをもってユーザーインターフェイスの変化、と捉えることも可能だろうが、機能的な変化より見た目の変化の方が大きいと思う。もちろん、機能的に変り映えしないということは、移行が容易ということでもあり、一概に悪いと決めつけることはできない。逆に、Windows XPにもこれまでのWindowsに似たデスクトップテーマや、スタートメニューも残されており(画面2)、それを選ぶと画面3のようになる。アイコン等のグラフィックスは変ってしまうものの、基本的に今のWindows 2000と同じだ。
画面2:クラシックメニューも選択できる | 画面3:クラシックメニューに変更したところ |
●一般ユーザーがWindows XPに移行するメリット
以上を総合して考えると、筆者はWindows XPを待つ必要はないと結論を下した。まだ、今後登場するであろうRC1、さらには製品版で、何か変化がある可能性はあるものの、β2を超えて大幅な変更が加えられるとは考えにくい。Windows XPを待たないのであれば、次の仕事マシンの使用期間は半年よりも長くなる。思ったよりWinDVRが快調に動作したのに気をよくして、とりあえず次の仕事マシンはWindows 2000ベースで行くことに決めた。
この変更により、dts対応DVDの再生と、S/PDIFによるマルチチャネルデジタルオーディオ出力の2つが不可能となってしまうが、このダウングレードと引き換えに、ほかの点でメリットをもたらして欲しいと願っている。表1に、筆者の次期仕事マシンの現時点でのスペックをまとめてみた。新規購入したのはMP9120AとRADEON VEくらいで、基本的にはこれまでPerformance PCを意識した実験マシンのパーツを流用したものだ(近いうちに、なぜこのような構成になったのかを紹介する機会があるかもしれない)。
Windows 9x系からWindows NT/2000系へ移行するメリットとしては、システムの堅牢性や安定性が良く挙げられるが、それも使い方によりけりだ。表1に示した筆者の次期仕事マシンの場合、RADEON VEに付属するATI DVDプレーヤーをウィンドウ状態からフルスクリーンにするだけで、100%の確率でシステムは落ち、リブートしてしまうことがわかっている。問題がDVDプレーヤー、あるいはドライバにあるのだとしても、この時OSごと落ちないのが宣伝されるWindows NT/2000の堅牢性だと思うのだが、現実はそうなっていはいない(ちなみにPowerDVDやWinDVDといったサードパーティ製のプレーヤーではこの問題は生じない。もし生じるのならWindows 2000への移行はとっくの昔に諦めている)。
筆者はチューナーカードをサポートするソフトとして、WinDVRのほかにPowerVCR TV Editionも試してみたのだが、こちらでも青画面と遭遇することになった。この種のアプリケーションを使うのであれば、堅牢性はむしろWindows 9x系にあるというのが筆者の率直な感想だ。もちろん、一般論としてWindows NT/2000系の方が堅牢であることに異論を挟むつもりはない。実際、Officeアプリケーションやブラウザをたくさん開く状況などを考えれば、Windows NT/2000系の方がはるかに優れている。だが、これはコンシューマーの典型的な使い方なのだろうか。この点が多いに疑問だ。
●コンシューママインドを失ったMicrosoft
以前筆者はこのコラムに、MicrosoftはMicrosoftエンタープライズと、Microsoftコンシューマーの2社に分割すべきだ、といった主旨の記事を書いた。その時に感じていた、Microsoftはあまりに大企業寄りになり過ぎているのではないか(あるいはMicrosoft自身が大企業になり過ぎているのではないか)、という懸念は、Windows XP Home Editionを触ったあとも、全く解消していない。
また、すでにWindows 2000を使っているユーザーにとって、Windows XP Professionalのアップデート版の価格は気になるハズだ。デスクトップテーマのLuna、Windows Meから譲り受けたMovie MakerやSystem Recoveryにいくらならお金を出しても良いのか、というのはかなり微妙な問題だと思う(しかもActivationという「不便」もついてくる)。Windows 98からSecond Editionの時のように、実費に近いコストなら良いかもしれないが、1万数千円という価格は厳しいのではないか。
ただ、このアップグレード価格の問題も、大企業には全く問題ではない。企業向けのボリュームライセンスには、「アップグレード アドバンテージ」というオプション(ライセンスによっては標準)が用意されており、期間中は追加料金を払うことなく何度でもアップグレードできるようになっている。企業の場合、追加料金より管理や作業の手間の方が問題だろうが、こうしたライセンス体系も、Microsoftからコンシューマーマインドが失われてしまったことの表われに思えてならないのである。
筆者が今Microsoftに望むのは、Windows XPのリリース後、実質的に終りを迎えるWindows 9x系のソースコードをオープンにして欲しい、ということだ。Windows Meのような最近のものは難しいかもしれないが、Windows 98くらいならどうだろう。オープンにしたからといって、すぐにクローンが登場するとは思わないし(とりあえずはエミュレータの完成度が上がるのを期待したいところだが)、フリーのクローンOSを大企業がクライアントに採用するとも思いにくい。儲からないコンシューマーOSをやりたくないのなら、ほかに任せれば良いではないか。何より、ライバルがいた方が、Microsoft自身の士気も上がるのではないかと思うしだいだ。
(2001年4月11日)
[Text by 元麻布春男]