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Xboxは“PCゲーム機”--Gamestock2001で鮮明になったXboxの米国での位置



●XboxはスーパーPCと形容するデベロッパ

 米国でのXboxは“PCゲーム機”だ。これは、ハードウェア/ソフトウェアアーキテクチャだけでなく、デベロッパー、タイトルのテイスト、そういった部分がいずれもPCゲームの流れを汲んでいるからだ。しかし、ビジネスモデル(ライセンス料で稼ぐ)とハードウェアの形態(拡張不可のボックスでOSがCD/DVD-ROMからブート)、そして価格(多分)はゲーム機であり、ターゲットとする場所もリビングルーム(ファミリールーム)だ。つまり、PCゲームとコンシューマーゲーム機のハイブリッドで、その中間のポジションを狙う“PCゲーム機”という印象を受ける。もちろんこれは、PCゲームの市場が小さい日本には当てはまらないが。

 では、欧米のデベロッパにとってPCゲーム機であるXboxの魅力はなんだろう。

 「XboxはスーパーPCだ」と表現するのはアクションゲーム「Nightcaster」を開発しているVR-1 Entertainment。この表現は、的確にXboxの利点を示している。つまり、PCアーキテクチャでありながら、ハードウェアスペックはその最高レベルで一定しているという利点だ。

 「今までのコンソールはプロプラエタリのアーキテクチャなので、エンジンを開発する前に、そのアーキテクチャに慣れる必要があった。だが、Xboxに搭載する、IntelとNVIDIAはどちらもPCでとても慣れているアーキテクチャなので、開発はラクだった」と説明するのはアクションシューティングゲーム「HALO」を開発するBungie Software。PCゲームを開発してきたデベロッパにとって、Xboxはそのスキルの延長で開発できるじつにイージーなターゲットだ。

 実際、米国でのXboxの同時発売タイトルでは、PCゲームとして開発していて、途中からXbox版を手がけ始めたもの(Haloなど)や、PCゲーム向けに開発していたゲームエンジンを改良して載せたもの(AZURIKなど)が目立つ。米国のデベロッパの開発期間は、日本のデベロッパと比べてかなり長い(日本は月単位なのに米国は年単位)が、PCからの移植によってXboxリリースに間に合わせることが可能になる。例えば、Bungie Softwareは「PCバージョンをここ2年開発してきたが、今はXbox版に注力している。リリースまであと7~8ヶ月残っているので間に合う」という。


●Xboxはもっとも簡単な開発ターゲット

 それだけではない。デベロッパたちはXboxだとPCより簡単に、そしてハイレベルなゲームを開発できるという。アドベンチャゲーム「AZURIK-Rise of Perathia」を開発するAdrenium GamesのStephen Clarke-Willson氏(Executive Studio Director)はその理由を次のように説明する。

「当社は、これまで10年間もPCとゲーム機向けにゲームを作ってきたが、Xboxは開発するターゲットとしてはこれまででもっとも簡単だった。ゲーム機はパワーが足りなかったし、PCはパワーがあるものの、常に3年前のマシンのスペックを考えなくてはならないという制約があり、最高スペックに合わせた開発ができなかった。しかし、Xboxではそうした制約が取り払われている」

 つまり、XboxはPCライクなアーキテクチャで開発がしやすい上に、PCにあった古いハードウェアや異なるハードウェアのサポートという制約がなくなったことが大きな利点というわけだ。そうすると「Xboxならミニマムハードウェアを考えなくて済むからハードの性能を最大限に引き出せる。バンプマップ? よしやろう、ライティング? よしやろうと、なる。開発する側にとっても意欲がわく」(Bungie Software)となるという。

 実際、Xbox版のHaloを、Bungieが以前公開したPC版のスクリーンショットと比べると、はるかにクオリティがアップしている。ポリゴン、テクスチャ、ライティング、どれをとってもXbox版の方が上だ。


●ゲームのパワーを引き出すXbox

 もっとも、Xboxのスペックが“スーパー”なのはおそらくこれから2年程度の間の話だ。Xboxが出て半年もすればPCの世界ではXboxをしのぐグラフィックスハードウェアが登場するし、3年もすればPCのミニマムハードウェアがXboxクラスになってしまうからだ。だが、それでもXboxの利点は残る。まず第1に、異なるハードウェアを考えた開発をしないで済むので、開発を省力化できる。それから、ライブラリもハードウェアの性能を引き出せる。

 例えば、レーシングゲームGothamを開発するBizarre Creationsは「XboxのソフトウェアインターフェイスはPCと同様にDirectX8だが、XboxではこのDirectXのレイヤーが非常に薄い。だからハードウェアのパワーを容易に引き出せる」と説明する。

 同様のことは、Microsoftのゲームソフト開発を統括するエド・フリーズ副社長(Game Publishing)も昨年の東京ゲームショウ時に言っている。「PCの場合は、異なるハードウェアを抽象化して吸収する必要がある。これがやっかいな問題で、そのためにライブラリは厚くなってしまう。しかし、Xboxではハードウェアは一種類なので、そうした心配はしなくてすむ。だからレイヤーはできる限り薄くし、パフォーマンスを重視している」

 つまり、同じDirectXゲームであっても、XboxとPCでマシンのパワーが同じなら、Xboxの方がパフォーマンスが高くなるわけだ。

 また、「XOS(XboxのOS)が安定していることも利点」(Clarke-Willson氏)という声もある。OSが安定している? これには理由がある。まず、XboxのOSは、Windows 2000カーネルをベースにDirectX8などをサポートするランタイムライブラリをかぶせたものになっている。比較的安定したWindows 2000からさらに余計な機能を取り去っただけに安定性が高い。それから、XboxではPCと異なり、各ゲームが常に同じOSコンフィギュレーションで走る。これについては、昨年の東京ゲームショウの時にMicrosoftのXboxチームが説明している。

「PCの場合は、HDDにOSがあり、ユーザーごとに、DirectXがアップグレードされていたり、様々なコンフィギュレーションが異なったりする。これが、安定しない最大の原因となっている。しかし、Xboxの場合には、ゲームソフトは同じDVDディスクにあるOSで走るので、常に同じOS環境にできる。そのために、ゲームコンソールに必要な安定性を実現できる」

 これは、現在のゲーム機が共通して備えている特長だ。ゲーム機では、1枚のディスクの上のコードの中で、つじつまを合わせて落ちないようにすればすむので、PCよりずっと安定しやすい。つまり、Xboxはセッティングやインストールの煩雑な手間がいらず、ゲーム中に落ちる心配も(ほとんど)しなくて済むPCゲーム機なのだ。


●米国では自然な流れで産まれたXbox

 こうした米国でのXboxを見ていると、コンピュータゲーム業界でのMicrosoftのポジションからXboxという展開が自然に産まれてきたことがよくわかる。もともと、PC大国アメリカではPCこそがゲームプラットフォームだった。PCの普及にともない着実にPCゲーム市場が拡大し、MicrosoftはWindows 95のリリースと同時に、この新OSをゲームプラットフォームとして売り込み始めた。ソフトウェアプラットフォームとしてDirectXを用意してゲームデベロッパーを誘い、ネットワークゲームといったビジョンで新しい展開を開かせた。その意味では、Microsoftはハードウェアこそ販売していなかったが、すでにゲームプラットフォームベンダーだったのだ。

 ところが、PlayStationがその流れを変えてしまう。日本では、32ビットゲーム機時代になってからは、完全にゲーム機優勢となりPCゲームが急速にしぼんでしまう。そして、米国でも急速に伸びるゲーム機に対して、PCゲームの停滞が目立つようになる。特に、Microsoftにとってクリティカルなのは、リビングルームに入るプラットフォームがゲーム機になってしまったことだ。その結果、PCゲームはハードコアゲーマーの世界で、カジュアルなゲーマーにも広がるのはゲーム機という色分けもできてしまった。そこにはもちろん技術的&経済的な理由もある。PCでは3Dゲームを快適にプレイするのに必要なハードウェアにコストがかかるし、インストールからセッティングまで煩雑な作業が多く、CD-ROMを入れて即プレイという利便性がない。

 この状況で、Microsoftがやれることはひとつしかない。コンピュータゲーム市場での位置を維持しようと思ったら、リビングルームに入れる、PCより安くて扱いやすいゲーム機を出すしかないのだ。Xboxがあれば、まずMicrosoftにとってもっとも重要なゲームデベロッパたちのつなぎ止めができる。デベロッパは、PCゲーム開発である程度慣れたライブラリ、慣れたアーキテクチャでゲームを開発できる。

 今回のGamestockで話を聞く限り、Microsoftのこうした狙いはとりあえず成功しているように見える。だからこそ、MicrosoftはXboxの米国での離陸にあれだけ自信ありげなのだろう。そうなると、問題は日本だ。日本では、PCゲームは特殊な分野(つまりアダルトな方向)以外はほとんど残っていない。そこではXboxのアーキテクチャは米国のような意味を持たない。そして、よく知られている通り、米国のPCゲームのテイストは日本ではあまり広汎には受けない。しかし、「ゲームコンソールで成功するには日本での成功がかぎになる」(エド・フリーズ氏)ため、Xboxはなにがなんでも日本での突破口を見つけなければならない。


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(2001年3月21日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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