カノープスから登場した高性能CPUクーラー
「Firebird R7」の実力を探る



 CPUの動作クロックはどんどん向上し、Pentium 4では1.5GHzにも達している。駆動電圧が同じなら、クロックに比例して発熱も増える。そのため、マシンを安定して動作させるには、CPUクーラーの冷却性能が重要になってくる。CPUのオーバークロック限界も、CPUクーラーの冷却性能によって大きく左右される。今回は、ビデオカードベンダーとして有名なカノープスから登場したCPUクーラー「Firebird R7」の性能を検証してみよう。
 なお、今回は製品化前の試作機を使用していることをお断わりしておく。


●カノープスが初めて投入するCPUクーラー「Firebird R7」

 カノープスといえば、高性能ビデオカードのベンダーとして知られている。最近のビデオチップは高集積化が進み、一昔前のCPUに匹敵するほどの熱を出すようになってきた。そのため、ビデオカードを設計する際には、ビデオチップをどう冷却するかということが重要なポイントになっている。例えば、カノープスの最上位製品SPECTRA 8800では、銅製のインタークーラーブレードと大型流体軸受けタイプのファンを装着することで、高い冷却性能を確保している。カノープスのCPUクーラー「Firebird R7」(3月下旬発売予定、5,800円)は、同社がビデオカードで培ってきた冷却技術を応用してできた製品である。

 最近のCPUクーラーは、銅やヒートパイプを採用したものや、奇抜な形状の製品が増えてきているが、Firebird R7は、アルミ製ヒートシンクにファンを組み合わせた比較的オーソドックスな構成のCPUクーラーである。しかし、そのヒートシンクの形状は特徴的だ。一般的なCPUクーラーの場合、CPUからの熱をまず水平方向に拡散し、次にそれを垂直方向に分散させるという構造になっている(フィンがCPUに対して垂直に生えている)。しかし、それだと水平方向の熱抵抗が高いために中央部(CPUコア直上部)に熱が集中しやすいという欠点がある。

 それに対して、Firebird R7では、ヒートプリズムと呼ばれる構造を採用することで、効率的な放熱を実現していることが売りだ。ヒートプリズム構造では、CPUコアと接する中央部にプリズムに似た形状の三角柱の構造体(富士山のようにも見える)があり、コアからの熱が並列に逃げていくため、熱抵抗が低くなる。また、フィンは、羽根のように斜めに生えている(Firebirdという名称は、この独特の形状からもきている)。アルミの押し出し型から射出されたインゴットを削りだして成型しているため、加工精度も非常に高い。

 また、アルミを採用しているので、銅製ヒートシンクを採用した製品に比べて、重量が軽い(約190g)ので、マザーボードに重量面での負担をかけずに利用することができる。

Firebird R7の側面。ヒートプリズム構造が特徴的だ Firebird R7の側面。フィン同士の間隔も狭い Firebird R7の底面。CPUコアとの接触面の仕上げも精密である


●流体軸受けを採用した高回転ファンを搭載

高回転ファンを搭載
 CPUクーラーの冷却性能を高めるには、熱抵抗の低い高性能ヒートシンクに風量の大きなファンを組み合わせることが鉄則だ。Firebird R7では、直径6cmで4,500rpmという高回転数ファン(九州松下製)を採用している。本来は4,000rpmのモーターであるが、特注で4,500rpm回転に回転数を上げることで、風量をさらに増やしている。ファンのモーターは、流体軸受けタイプなので、騒音も小さく、寿命も長い。


●CPU別に固定用クリップを用意することで、Athlon Pentium III/Pentium 4に対応

 Firebird R7は、CPU固定用クリップにもこだわって設計されている。他社のCPUクーラーでは、Socket A(Athlon/Duron)とSocket 370(Pentium III/Celeron)のどちらで利用する場合でも、同じクリップ(金具)でCPUに固定するようになっている場合が多いが、Socket AとSocket 370ではCPUの高さが微妙に異なる(Socket Aのほうが高い)うえ、指定されている圧力も異なる。共通のクリップで固定したのでは、CPUクーラーの性能を十分に発揮することはできないのだ。

 Firebird R7では、CPU別に固定用クリップを用意することで、Socket A/Socket 370/Socket 423(Pentium 4)のどのCPUについても最適な条件でCPUクーラーを固定できるようになっている。標準ではIronCraw-Aと呼ばれるSocket A(Athlon/Duron)用の固定用クリップが付属しているが、Pentium III/Celeron用クリップのIronCraw-370(1,000円)またはPentium 4用クリップのIronCraw-423(1,000円)を利用することで、Socket 370/Socket 423にも対応できる。

 なお、Firebird R7が対応しているCPUの動作クロックは下の表のようになっている。

【Firebird R7で対応可能なCPUの動作クロック】
将来のコアベースでの予想値現行コアベースでの予想値動作確認済み
Athlon2.0GHz1.6GHz1.2GHz
Pentium 42.0GHz1.7GHz1.5GHz
Pentium III1.0GHz

 将来のコアベースというのは、製造プロセスルールが0.13μmに縮小されたコアを指していると考えられる。Firebird R7の冷却性能なら、今後1年以上にわたって最速CPUに十分対応できる。

 CPUクーラーをCPUコアに装着するときに、コアとの密着性を高めることは重要なポイントである。空気の熱伝導率は低いので、間に隙間が空いてしまうと、せっかくのCPUクーラーの性能も十分発揮することはできない。そこで、CPUクーラーを装着する際には、シリコングリスをCPUコアに塗ったり、熱伝導シートを間に挟むことで、CPUコアとCPUクーラーとの接触部分での熱抵抗を下げることが大切だ。

 冷却性能を極限まで追求するには、シリコングリスの性能(熱抵抗)にもこだわる必要がある。一口にシリコングリスといっても、その熱抵抗にはかなりの違いがある。Firebird R7では、信越化学工業製の超低熱抵抗シリコングリス(G-765)が付属している。G-765の熱伝導率は2.9W/mKで、サンハヤトのSCH-30(0.84W/mK)やホットスタッフSSグリス(1.05W/mK)の約3倍の熱伝導率を実現している。G-765はやや粘性が高いが、注射器型のケースに入っているため、扱いやすい。また、付属しているG-765を使い切ってしまっても、カノープスダイレクトショップで 追加購入することができる(G-765/1000 1,500円)。


●リテール純正クーラーに比べて、14℃も低いCPU温度を実現

 このように冷却性能にこだわって設計されているFirebird R7だが、その性能はどの程度か実際に検証してみることにした。比較のために、AMDのリテールパッケージに付属しているリテール純正クーラーとCooler Masterの風神2000を用意して、同じ条件でCPU温度を計測してみた。計測には、マザーボード上の温度センサーを用い(フィルム状のセンサーが直接CPUコアの裏側に接触するタイプなので、比較的信頼性が高い)、ハードウェアモニタツールとしては、Motherboard Monitor( http://mbm.livewiredev.com/ )を利用した。

 計測に使ったCPUはAthlon 900MHzだが、意図的に発熱を増やすためにFSBクロックを115MHzにクロックアップし、115×9=1,035MHzで駆動している。また、CPUに負荷をかけるために、円周率計算プログラムの「スーパーπ」(東京大学金田研究室作)を用いて、円周率を計算させ、CPU温度の変化を20秒ごとに計測した。結果は下のグラフに示したとおりである。なお、リテール純正クーラーの場合は、CPUコアとの接触面に熱伝導シートが貼られていたのでそのままCPUに装着し、風神2000とFirebird R7では、それぞれの製品に付属していたシリコングリスをCPUコアに塗ってからCPUクーラーを装着した。

上面図 側面図 底面図
左から、比較に用いたリテール純正クーラーと風神2000、Firebird R7。Firebird R7は、背が低い代わりに幅が広い

 定常状態に達したと思われるCPU温度は、リテール純正クーラーの場合が約57度、風神2000が約50度、Firebird R7が約43度であった。風神2000は、銅とアルミのハイブリッド製品で、Cooler MasterのCPUクーラーのラインアップの中では高性能な製品として位置付けられる製品だが、Firebird R7は、その風神2000と比べても約7度、リテール純正クーラーと比べると実に14度も低い温度で安定している。Firebird R7の高い冷却性能が十分実証されたといえる。

【テスト環境】
CPU:Athlon 900MHz(115×9=1,035MHz)
マザーボード:GA-7DXC(AMD-760チップセット)
メモリ:PC2100 DDR SDRAM(128MB)
ビデオカード:S/U/M/A PLATINUM GF2 MX TwinView
HDD:Seagate Barracuda ATA ST313620A(13.6GB)
OS:Windows 98 SE


●初心者からGHzオーバーを狙うオーバークロックまで幅広くお勧めできる

 CPUクーラーによっては、固定用クリップのバネが固く、無理にCPUソケットに装着しようとして、CPUコアを損傷してしまったり、マザーボードを傷つけてしまうことがある。Firebird R7では、専用装着工具が付属しているので、初心者でも簡単に脱着することが可能だ(ただし、今回テストした試作機では、専用装着工具は付属していなかった)。そういった意味で、Firebird R7は、初めてマシンを組み立てるというユーザーにもお勧めできる。もちろん、冷却性能も非常に優秀なので、オーバークロック派やGHzクラスのCPUを搭載したマシンを組み立てようという人には特にお勧めできる。価格はやや高めだが、高価なG-765が付属していることを考えると、決して高すぎるとはいえないだろう。

 ただし、クリップのない方向に左右1cmほどCPUソケットからはみ出すので、マザーボードによってはコンデンサなどと干渉してしまい装着できないことがある。現在、ASUSTeKのCUC2000やAOpenのAX3S PRO、SOYOのSY-7IWM(以上Socket 370対応)やASUTekのP4T、P4T-M(以上Socket 423対応)では、装着できないことが確認されているほか、Webサイトで順次情報が追加される予定なので( http://www.canopus.co.jp/catalog/firebird/firebird-r7_s.htm )、購入の前には確認しておくのがよいだろう。

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【2月23日】カノープス、SPECTRAシリーズの技術を投入したCPUクーラー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010223/canopus.htm

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(2001年2月23日)

[Reported by 石井英男@ユービック・コンピューティング]


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