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DDR SDRAMのスタートイベントとなったPlatform Conference


●チャイニーズのいないPlatform Conference

 「今朝は、どれだけのチャイニーズがいるのかな?」
 米サンノゼで開催されたPlatform Conferenceの2日目、Acer Laboratories Inc.(ALi) USAのFred Leung氏(Associate Vice President, Sales & Marketing)は、笑いながら、朝一番のキーノートスピーチをこう切り出した。

 Leung氏がこうちゃかしたのには理由がある。カンファレンス2日目の1月24日は春節、いわゆる旧正月で、中国や台湾などアジアの多くの国や地域にとっては事実上の新年に当たるからだ。元旦の早朝からカンファレンスに出てくる奇特な人はそれほど多くはない(さすがに途中からは出てきていた)。そんな日付に設定されたPlatform Conferenceこそ、彼らにとって大迷惑だったわけだ。

 しかし、旧正月の影響はそれだけに止まらなかった。マザーボードとチップセットの生産基地である台湾の工場と開発施設が軒並み休みに入ってしまっているため、モロモロの進展がすべて旧正月明けに持ち越されてしまっていたからだ。多くのベンダーが、製品の本格出荷やサンプルの配布などは旧正月明けになると説明していた。

●半年で様変わりしたDDR SDRAMの状況

 昨年7月に開催された前回のPlatform Conferenceは、DDR SDRAMが本当に立ち上がるのか、まだ半信半疑の時期に行なわれた。その時点では、多くのPC/マザーボードベンダーが、まだDDR SDRAMのインプリメンテーションについて手探り状態だった。一方、DRAMベンダーの方は、PC/マザーボードベンダー側のやる気をまだ探っていた。その間で、声の大きいDDR SDRAMのエバンジェリストたちがあおっているという状況だったのだ。そんなわけで、目新しい話題の多い前回のPlatform Conferenceは大いに盛り上がった。

 しかし、あれから半年、DDR SDRAMを巡る状況は大きく変わった。DDR SDRAMは、対応チップセットもメモリモジュールもマザーボードも発表が相次いだ。そのため、今回はマザーボードの展示会的な雰囲気となり、未知の要素は少なくなった。その分盛り上がりは減った。それも無理はないかもしれない。前回が、DDR SDRAMの立ち上げ準備のイベントだったとしたら、今回はDDR SDRAMのスタートのためのイベントだったのだから。

 しかし、半年間で変わっていない点が1つだけあった。それは、DDR SDRAMが本当に浸透するのはいつなのかが、まだ見えないという点だ。



●出だしてもたついたDDR SDRAMチップセット

 DDR SDRAMは、日本ではマザーボードが少数だが昨年末から発売になり、メモリモジュールも店頭に登場した。しかし、実際に出荷されているマザーボードの数はまだ微々たるもの。それも、ほとんど日本だけのフライングに近い状態で、台湾はともかく、米国ではまだほとんどDDR SDRAM前夜だ。

 DDR SDRAM対応チップセット群、ALiの「ALiMAGiK 1」やAMDの「AMD-760」は昨年後半に発表されていたというのに、なぜマザーボードの本格出荷は遅れているのだろう。昨年後半は、すぐにもDDR SDRAMの波が来るようなムードだったのに、いったいどうなってしまったのだろう。毎度のことだが、発表と実際の製品出荷の間には、さまざまなハードルが現われ、かならずスケジュールはずれ込む。今回に関して言えば、まずチップセット側に問題があった。

 例えば、AMD-760がつまづいたのは、266MHz FSB(フロントサイドバス)のAthlonとの組み合わせでバスノイズが発生してしまったことだという。関係者によると、AMDはこの問題を解決するために、マザーボードにノイズ除去用のL-C-Lローパスフィルタを搭載することにした。ところが、このL-C-Lフィルタは、今はほとんど使われていないため、生産メーカーが非常に限定されており生産数も少なかった。そのため、供給に時間がかかり、AMD-760マザーボードの本格投入が遅れていたという。

 一方、Acer Laboratories(ALi)のAthlon/Duron用チップセット「ALiMAGiK 1」も、つまづいた。業界関係者によると当初供給されたA0ステップでは、AGPインターフェイス回りに問題があり、グラフィックカードの組み合わせによっては動作が安定しない場合があったという。

 もっとも、こうした問題も解決はしつつある。例えば、L-C-Lフィルタもメドがつきつつあるという。また、ALiのFred Leung氏はALiMAGiK 1について「出荷バージョンのA1ステップでは、クリティカルな問題はすべて解決している」と説明している。それから、チップセットの第2陣として、VIA TechnologiesのSocket 370用チップセット「Apollo Pro266」も登場しており、Platform Conferenceでも搭載ボードが展示されていた。

 ところが、台湾が旧正月に入ってしまっているため、こうしたDDR SDRAMの進展は凍結状態になってしまった。いくつかのベンダーから、Pro266の量産ボードを見せられるのも、L-C-L搭載ボードを見せるのも旧正月明けという説明を聞かされた。ともかく、旧正月が明けたらダッシュで、Platform Conferenceはそのカウントダウンという雰囲気なのだ。



●ネックとなる266MHz FSB Athlonの不在

 では、DDR SDRAMは旧正月が明ければラウンチへ向けて動き始めるのか。答えはイエスでもありノーでもある。まず、これまでのフライング状態からようやくマザーボードは本格的な製品出荷フェイズに入り始める。その意味ではイエスだ。しかし、DDR SDRAMが浸透するためには、その先にある多数のハードルを乗り越えてゆかないとならない。急に立ち上がるわけではなく、まだ道程は長いという意味ではノーだ。

 まず最初のハードルはAMDだ。というよりAMDのFSB 266MHz Athlonの出荷遅れだ。
 AMD-760は、CPUとメモリの両インターフェイスのクロックについて、同期しかサポートしていない。つまり、FSBが200MHzならDDR SDRAMインターフェイスは200MHz、FSBが266MHzならDDRは266MHzになる。FSBが200MHzでDDRが266MHzという非同期はサポートしていない。ALiのALiMAGiK 1は非同期をサポートしているはずなのだが、少なくともA0ステップマザーボードではサポートになっていなかった。

 さて、DDR SDRAMには、クロック100MHzでデータ転送が200Mbit/秒の「DDR200」と、133MHzで266Mbit/秒の「DDR266」の2種類がある。そして、それぞれのメモリモジュールは、DDR200が「PC1600」、DDR266が「PC2100」と呼ばれており、デスクトップ市場ではこのうちPC2100が主流になるとみられている。

 ところが、AthlonのFSBが200MHzでチップセットが同期転送だと、例えPC2100のモジュールを挿したとしても、実質的にPC1600になってしまう。つまり、DDR SDRAMの意味が薄れてしまうのだ。そのため、Platform Conferenceに出展していたマザーボードベンダーのなかには「ペンディングになっているFSB 266MHz CPUが出てくるまでは、AMDプラットフォームでのDDR SDRAMはあまり意味がない」とはっきり言うところもあった。

 ちなみに、FSBが133MHzのPentium IIIに関してはこの問題はない。133MHzのFSBと266MHzのDDR SDRAMで同期できるからだ。しかし、DDR SDRAMがいちばん最初に浸透するとみられる、ハイエンドの自作ユーザー市場は、今やAthlon一色なので、出だしは難しいところだ。


●まだまだ残るDDR SDRAMの課題

 しかし、AMDもそれほど遠くないうちに266MHz FSBのAthlonを出してくるとみられる。そうなれば状況は変わってくる。もっとも、現在のAthlon(Thunderbird:サンダーバード)コアでは、266MHz FSBはそれほど採れないらしい。これは、200MHz FSBに最適化されて設計されているからだろう。複数の関係者が、266MHz FSBが本格化するのは、次のAthlonコアである「Palomino(パロミノ)」からだと言っている。だが、そうであっても、アーリーアダプタの当面の需要を満たすには十分な程度の量は出てくる可能性が高い。

 ところが、それでDDR SDRAMが立ち上がるかというとそうもいかない。もう1つの問題は、互換性の検証だ。DDR SDRAMは転送レートがSDRAMより速いため、複数のデバイス間でのタイミングやインピーダンスなどのマッチングが難しくなっている。これは、DDR SDRAM固有の問題ではなく、高速インターフェイスの宿命だ。

 もっとも、DDR SDRAM陣営も互換性が問題になることは理解はしている。そこで、DDR SDRAMでは、標準化団体のJEDECがメモリチップの仕様を決めるだけでなく、共通仕様のメモリモジュールのガーバー(Gerber:設計データ)も開発した。各モジュールベンダーは、この共通ガーバー(Common Gerber)に従って製品を製造する。そのため、各社が独自のガーバーを開発していたSDRAMよりも高い互換性を実現できるはずだ。だが、現実は、それでも簡単に互換性が達成できるわけではないという。やはり、異なるメーカーのメモリデバイスやモジュールを混在させたり、装着するモジュールの枚数を増やすと問題が生じる可能性は高いという。

 そのため、DDR SDRAMに必要なのは、チップセット-マザーボード-モジュール間でのきっちりした互換性検証となる。メモリモジュールベンダーのメルコの尾崎浩氏(メモリ事業部 第一開発グループリーダー)は「現状では互換性で問題が発生した時に、どこに問題があるのかをジャッジする機関がないのが問題」と指摘している。AMDとVIAは、それぞれ第3者機関も入れたDDR SDRAMバリデーションプログラムを始めたが、これがどれだけ有効に働くかがカギとなる。また、それぞれのパーツの量産品が揃うことも重要だ。「サンプルでテストしてうまくいっても、量産品になるとまた違ってしまう。メモリも早く量産品が揃ってほしい」とALiのLeung氏は言う。

 こうした状況が解決されるには、まだあとしばらくかかるだろう。そのため、自作やショップブランドでも、DDR SDRAMの浸透が本格化するのは第2四半期にずれ込む可能性がある。




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(2001年1月26日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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