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不満もあるが実用的でもある「WinTV PVR for PCI」 |
●動作の不安定さが気になる「WinTV PVR for PCI」
今、秋葉原で最も売れているものの1つが、ビデオキャプチャ機能を備えたTVチューナカード。中でも、カノープスのWinDVR PCIとエスケイネットのWinTV PVR for PCIは、ほとんど売り切れ状態で、なかなか買えないようだ。NECも、SmartVision Proの後継モデル(SmartVision Pro 2)を発表したばかり。にわかにこのジャンルが活況を示している。
今回取り上げるエスケイネットのWinTV PVR for PCIは、HauppaugeのOEM品だ。筆者はWindows 3.1の時代、アナログオーバーレイ方式のWinTV Celebrity-Nを、Hauppaugeから直接(要するに値引きなしの個人輸入で)購入したこともある。Hauppaugeは、この分野ではかなりの実績を持つベンダだ。
WinTV PVRのPVRは、Personal Video Recordingの略。カード上にイスラエルのVisionTech製MPEG-2エンコーダーチップ(Kfir)を搭載しており、CPUを問わずMPEG-2/MPEG-1によるビデオキャプチャや、タイムシフトを行なうことができる。WinTVという製品名が示すように、製品の基本線はWindowsのデスクトップ上でTVを見ることと、それをそのままデジタル録画することで、キャプチャしたデータを編集することに重きは置かれていない。したがって、ビデオ編集用のアプリケーションは添付されていないし、それで良いと思う。
もう1つ、特徴として挙げておきたいのは、本製品が日本の音声フォーマットにちゃんと対応していることだ。海外製品の中には、わが国のTV放送のステレオ音声や音声多重放送に対応していないものが少なくないが、WinTV PVRは日本向けのチューナユニットを搭載するなどして、きちんと対応している(米国版は、FMチューナ機能を備えたTVチューナユニットを搭載しており、ハードウェアから異なる)。
ハードウェアによるMPEG-2エンコード、わが国向けのチューナユニットと、ハードウェアの面では見るべきところの多いWinTV PVRだが、残念ながらソフトウェアについては、手放しで賞賛するわけにはいかない。筆者による短時間のテストにおいても、動作の不安定さが気になった。
たとえば、i815の内蔵グラフィックスだが、用いたディスプレイドライバ(Production Version 6.0)のリリースノートに、「Hauppauge TV tuner display is corrupted.」というエラーを修正したと、わざわざ断り書きさえしてあるにもかかわらず、筆者はWinTV PVRを動かすことができなかった(ひょっとするとサードパーティのi815マザーボードでは動くのかもしれないが)。逆に、表では○印がついているマザーボードの中にも、何かの拍子でうまく動かなくなる(この場合、一旦電源を切り、もう1度電源から入れ直すと再び動くことが多かった)など、ソフトウェアの完成度が十分でないことを示唆する例が見られた。
【表1:動作テスト結果】
マザーボードベンダ | マザーボード名 | チップセット | 動作状況 | 備考 |
---|---|---|---|---|
Intel | D850GB | i850 | × | |
Intel | D815EEA | i815 | ○ | 外部AGPスロットを利用 |
Intel | D815EEA | i815 | × | 内蔵グラフィックス |
Intel | VC820 | i820 | ○ | |
ASUS Tek | CUBX-E | 440BX | ○ | |
MicroStar | K7 Pro | AMD-750 | ○ | |
GigaByte | GA-7DXC | AMD-760 | × | |
Soltek | SL-67KV | Apollo Pro 133A | ○ |
もう1つ気になったのは、タイムシフト中ではなく、単純にTVを表示している時の画質が、いまひとつ良くないことだ。特に動きの激しい場面でいわゆるコーミングノイズがかなり目立つことから考えて、De-InterlaceをWeaveで行なっているものと思われる。Hauppaugeのような実績のある会社が、この問題を知らないハズがないことを思うと、どうも腑に落ちない。
●万人向けではないが実用性はある
にもかかわらず、WDM/DirectShowを用いていないのは、WDM/DirectShowでビデオキャプチャ機能付きTVチューナカードをサポートするために必要なモジュールの一部が、日本語版のWindowsにはない、WebTV for Windowsに含まれているからではないか、というのが筆者の推定だ。おそらくこのVideo for Windows対応のソフトウェアは日本語版だけの「つなぎ」で、Hauppaugeは、Windows 2000(これにもWebTV for Windowsは含まれていない)対応と合わせ、日本語版でも動作するWebTV for Windows非依存のWDM/DirectShow版ドライバ/アプリケーションの開発を行なっているのではないか、と思う。それが完成すれば、また評価は変るのだが、現時点では万人向けとは言い難い、というのが筆者の評価だ。
こうした問題以外に、筆者が使っていて気づいたことをもう少し述べておこう。まず、タイムシフトだが、ちゃんと動くマザーボード/グラフィックスカードの組合せで利用する限り、動作そのものは安定している。タイムシフトモードに切り替える際の待ち時間が若干長めな点、タイムシフトモードを一旦解除しなければチャンネルを変えられない点に不満はあるが、データレートを変更できる点(2Mbps~12Mbps、ベータ版ドライバを用いれば可変ビットレートも可)、データレートを高めに設定してもCPU負荷が増えない点は、ハードウェアエンコーダならではだ。画質はデータレートにより異なるが、普通に見る分には、4Mbps程度で実用になる感じだ(エンジンが同じである以上、ビデオキャプチャの画質もタイムシフトと同様)。ワンタッチでVideo CD互換フォーマット(MPEG-1)でビデオキャプチャできる、という機能も、意外と実用性があるかもしれない。
ただ、いくらハードウェアエンコーダを搭載しているといっても、システム負荷がないわけではない。タイムシフトのためのストレージにホストのハードディスクを使う以上、タイムシフトを行なうことでシステムは重くなる。また、データレートを上げるに連れて、システム負荷は高くなる。上で4Mbps程度で実用になると書いたことには、画質の点だけでなく、システム負荷を抑える、という意味も含まれている。
●前回の補足……コストパフォーマンスは高い「DP-U50」
さて、前回取り上げたDP-U50だが、筆者はその音質について全く触れなかった。それではあんまり? なので、簡単に補足しておきたいと思う。比較対象がヘッドフォンシステムのMDR-DS5000なので、ここでの音質評価には、MDR-DS5000、DP-U50ともに、筆者のリファレンスヘッドホンであるMDR-F1を用いることにした。
ヘッドフォンアンプをMDR-DS5000からDP-U50に変えてまず気づくのは、聴感上の周波数帯域がグンと広がって聞こえることだ。その結果、音楽もののDVDを見るのが楽しくなる。逆に、普通の映画等の再生については、セリフの押し出しが弱くなる印象もある。この印象は、どの音場プログラムを選択しても変らない。ただ、ソフトウェアDVDプレーヤー側でドルビーヘッドホンを選択し、DP-U50をスルーにして聞くと、音の印象はMDR-DS5000にかなり近くなる。やはりドルビーデジタルは、セリフのある映画を前提にサウンドバランスをとってあるのかもしれない(筆者にはDP-U50のサイレントシアターは、ドルビーヘッドホンとは聴感的に異なるように聞こえる)。
DP-U50には、CDなどのステレオ音声の再生に用いる音場プログラム(HALL、JAZZ、CHURCH)も用意されている。が、PCによるカスタマイズを行なわないプリセット状態では、筆者にはどれもいきすぎな印象で、どうしてもDSPをオフにしてスルーで聞いてしまう(敢えていえば、JAZZが一番聞きやすい)。カスタマイズすることで、実用性が出てくる可能性も否定しないが、筆者はDSP処理しないスルー再生が一番良いように思う。
DP-U50はパワーアンプを内蔵していないだけに、一般的なAVアンプとは比較のしようがないが、実売価格で3万円を切ることを考えれば、かなりコストパフォーマンスは高い。音質も価格を考えれば納得がいく。コントロール機能をPCに依存している分、コントロール用のハードウェアを内蔵せねばならない同価格帯のスタンドアロンタイプのAVアンプより、コスト的に有利なことも間違いない。
(2000年12月20日)
[Text by 元麻布春男]