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ワイヤレスよりDTS
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●サラウンドヘッドフォン「MDR-DS5000」への不満
かねてより筆者は、ソニーのサラウンドヘッドフォンシステムである「MDR-DS5000」を使ってきた。MDR-DS5000は、S/PDIFで入力される5.1chのドルビーデジタル信号を、ヘッドフォンによる仮想サラウンド空間として再生するもの。ヘッドフォン再生時の仮想サラウンド音場が、ドルビーラボラトリーズの認定(「バーチャルドルビーデジタル」のロゴ)をとっているのがミソだ。
筆者はこのMDR-DS5000を普段は仕事マシンに接続し、ドルビーデジタル対応のDVDを再生する際、あるいは夜中に音楽等を聞く時のヘッドフォンアンプ(DAコンバータ機能付き)として利用。必要に応じて実験マシンに接続し、ドルビーデジタルのマルチch出力が可能かどうかのチェック等に用いてきた。たとえば、ソフトウェアDVDプレーヤーが、あるサウンドカードとの組合せにおいて、ドルビーデジタルのパススルー(S/PDIF経由でのマルチチャンネル出力)がちゃんと動作しているかどうか確認する、といった使い道だ。ドルビーデジタルの信号が入力されると、MDR-DS5000はそれをインジケーターで示してくれるため、一目瞭然なのである。
だが、使うにつれ、MDR-DS5000に対する不満も目立ってきた。たとえばサラウンド音声のフォーマットとして、ドルビーデジタルのみの対応でDTSに対応していないこと、デジタルの入力(S/PDIF)が1系統のみ、それも光に限られること、再生されるサウンドにある種のナローレンジ感があること、などだ。
まずDTSに未対応であることだが、MDR-DS5000が製品化された時期を考えれば、ある程度やむを得ない。ドルビーデジタルに比べ、チャンネル数(5.1ch)は変らないものの、圧縮率が低いことから高音質が期待できるDTSは、MDR-DS5000が登場した時点ではハイエンド向けのある意味「特殊な」フォーマットだったと思うし、今も主流と呼べるまでは普及していない。DTS版のタイトル(サウンドがDTSフォーマットで記録されたDVD)は、多くの場合特別版としてリリースされている。だが、ローエンドに至るまで大半のAVアンプがDTS対応をうたい、ソフトウェアDVDプレーヤーの中にもDTS対応を目玉の1つに挙げるものが出てきた現在、ドルビーデジタルにしか対応していないMDR-DS5000では力不足なのも事実だ。MDS-DS5000では、ソフトウェアDVDプレーヤーが本当にDTSをサポートしているかどうか(音は出ているか、DTS再生時にリップシンクがずれるなどの障害がないか、など)確認する方法がないのである。
入力系統の少なさは、MDR-DS5000の商品としての性格を考えればやむを得ない面がある。そもそもMDR-DS5000は、テレビの横に置いて手軽にサラウンドを楽しむというコンセプトの商品であり、いわゆるAVアンプとは発想が異なる。それは本機の電源がACアダプタであることからも明らかだし、高度な機能より光ケーブル1本で接続して、後はヘッドフォンを装着するだけ、という簡便さが重視されているのだと考えられる。それでも、筆者のように仕事マシンと実験マシンで共用するとなると、いちいち光ケーブルをつなぎかえなければならず、面倒なことも事実だ。
残るサウンドのナローレンジ感についても、どこまでMDR-DS5000の問題であるかは難しいところだ。もちろん、どのような音を再生するかはMDR-DS5000に100%の責任があるわけだが、MDR-DS5000のナローレンジ感については、半ば意図的なものだという気がしている。元々ドルビーデジタルは音楽鑑賞用のフォーマットとして定められたものではない。劇場という環境で映画を上映する際において、最適な音場効果を得るために開発されたものである。様々な制約の枠内で、特殊音効やセリフの抜けの良さが重視されていたとしても不思議ではない。
実際、MDR-DS5000で映画のDVDを再生している最中に、ナローレンジだと感じることはほとんどない。ナローレンジ感を強く感じるのは、音楽もののDVDを再生している時だ。たとえば「エリック・クラプトン/アンプラグド」の1曲目、SIGNEのトライアングルの音などに、それが象徴されているように思う。これを解消するために、MDR-DS5000には映画用のモードに加え「MUSIC」というモードが用意されているのだが、このモードでも筆者には十分ではないように感じられる。
また、このナローレンジ感は、MDR-DS5000によるDSP処理(仮想サラウンド処理)を解除し、完全なパススルーにすることでも軽減されるのだが、これでは音声がリニアPCMのみのタイトルや音楽CDならともかく、音声を5.1chのドルビーデジタルで収録してあるタイトルではせっかくのマルチチャンネルによる臨場感が失われてしまう。ヘッドフォンを付属のワイヤレスヘッドフォン(MDR-IF5000)から他のもの(ヘッドフォン端子に接続するケーブルタイプのもの)に変えることでも若干の緩和が期待できるのだが、本質的な改善ではない。
●後継機「MDR-DS5100」を買わないわけ
以上のような不満のうち、最も切実だったのは、DTSへの未対応だ。他の2つは我慢できても、ソフトウェアDVDプレーヤーのDTS出力が確認できない、というのは仕事にも関係してくる。これを解消するため、MDR-DS5000の後継モデルであるMDR-DS5100への買い替えを検討していた。MDR-DS5100は、価格据え置きでMDR-DS5000にDTSのデコーダ機能を追加したもの。型番でも類推できるように、本体の見た目はほとんど変らず、付属のワイヤレスヘッドフォンも変らない。DSPの性能向上により、音質も向上したというが、試聴したわけではないので、その効果については何とも言えない。
入力系統の少なさを補うには、これまたソニーから出ている光デジタルセレクターSB-D30の併用を考えていた。一般的に、光と同軸の変換機能を備えたS/PDIFのセレクタ(たとえば筆者が持っているオーディオテクニカのAT-DSL7等)は、ステレオ音声で問題がなくても、ドルビーデジタルのマルチチャンネル音声には対応していない。が、光のみにしか対応していないSB-D30なら、この問題はないと思ったからである(実際、小型のDVDプレーヤーのカタログか何かで、アクセサリーとして掲載されていたのを見た記憶がある)。問題は、MDR-DS5100(標準価格50,000円)とSB-D30(同12,000円)で6万円以上、おそらく実売でも4万円を切らない価格だ。これだけのお金を払うワリには、機能的な向上は少なく、2台の組合せは見た目にもスッキリとしない。
●DTS対応のAVプリアンプ、ヤマハ「DP-U50」を購入
DP-U50 |
姉妹モデルに、20W+20Wのパワーアンプを内蔵したAP-U70もあり、接続するスピーカーに合わせて選べば良い。筆者はPC用に使っているスピーカーがCambridge Sound WorksのSound Worksというアンプ内蔵タイプのスピーカー(スーパーウーファー付きの2.1ch)であるためDP-U50を選んだ。なお、既モデルのRP-U100との違いは、RP-U100が持っていたAM/FMチューナと30W+30Wのパワーアンプを省略する代わりに、DTS対応、USBによる高精度(24bitサンプリング)のサウンドキャプチャ(録音)とレンダー(再生)、USB経由でのドルビーデジタル再生、96KHzのデジタル入力に対応、といった機能を加えたものと思えば良い。
DP-U50/AP-U70のいずれも、基本的にはサラウンドプロセッサを内蔵したAVアンプであり、入力セレクタ機能を備えるため、SB-D30のような外付のセレクタを用いる必要はない。DP-U50/AP-U70の入力系統は、フロントパネルのスイッチで見る限り、USB、PC、AUX1、AUX2の4系統。だが、PCとAUX1はデジタルとアナログの切り替えができるため、実質的にはデジタル3系統(うち1系統はUSB固定、残る2系統のうちPCは同軸と光の選択可、AUX1は光のみ)、アナログ3系統(PC、AUX1、AUX2)の計6系統をサポートしていることになる。それでいて価格はAP-U70が5万円(実売価格39,800円前後)、DP-U50が38,000円(同29,800円前後)と、MDR-DS5100+SB-D30より安くつく。もちろん、MDR-DS5100にはワイヤレスのヘッドフォンという「ウリ」があるわけだが、ディスプレイとユーザーの距離が短いPC用としては、あまり有効ではない。逆に、ヘッドフォンに電池を内蔵せねばならない点が、重量面でのマイナスとなる(リビングルーム用なら、また話は別なのだが)。
肝心のサラウンドプロセッサ機能だが、コアであるDSPは同社の上位AVアンプにも使われているYSS-928。これを用いてストレートなドルビーデジタルやDTSのバーチャルサラウンド再生(2chのスピーカーによる仮想的なサラウンド音場の再生)が可能なだけでなく、GAME、MOVIE、LIVEといった、DTSやドルビーデジタルあるいはドルビープロロジックといった映画用のサラウンド技術をベースにヤマハの味付けが加わった音場プログラム、さらにはHALL(中規模ホールの響き)、JAZZ(ニューヨークのビレッジゲート)、CHURCH(残響分の多い修道院)といった特定の音場を模したプログラムも用意されている。
これら7つの音場プログラムのうち、ドルビーデジタルのバーチャルサラウンド再生(バーチャルドルビーデジタル)と、DTSのバーチャルサラウンド再生(DTSバーチャル5.1)については、それぞれのライセンス会社より認定を受けている。また、前面パネルに用意されたヘッドフォンジャックにヘッドフォンを挿すことで、上記の7つの音場プログラムをヘッドフォン用にアレンジした「サイレントシアター」機能が有効になる。つまり、理屈の上ではバーチャルサラウンド再生時にヘッドフォンを利用することで、いわゆるドルビーヘッドフォンと同等の環境になるのだが、どうやらこの再生状態での認定があるわけではないようだ(認定されているのは、あくまでも本機にスピーカーを接続した場合の音場だと思われるが、ヘッドフォン使用時にサラウンド効果がないということではない)。
●PC接続時のDP-50Uの多彩な機能
USBオーディオデバイスと認識される |
USB接続されたDP-U50/AP-U70は、PCからはUSBでコントロール可能なオーディオデバイスとして見える。DP-U50/AP-U70をいわゆるAVアンプと異なるものにしているのがこの点だ。
DP-U50/AP-U70は本体のみ、あるいは付属のリモコンだけでも、入力ソースの切り替え、上述した7つの音場プログラムの選択、ボリューム調節、といった最小限のコントロールができる。しかし、その範囲を超えた調整は、全面的にPCに依存するのだ。
DP-U50用コントロールソフトでDSP-EDITという機能が搭載されている。これは、7つの音場プログラムそれぞれについて用意されており、BASICではサラウンド効果の強弱、サラウンド効果を計算する前提となる部屋(ホール)の広さ、部屋の中でユーザーが座っている位置、といったパラメータを調整できる。ADVANCEDになると、初期反射音が生じるまでの遅延時間、その減衰特性など、より細かな調整が可能になる(調整可能な項目はプリセットされた音場プログラムにより異なる)。
DSP-EDIT(BASIC)設定画面 | ADVANCEDの設定画面 |
VIRTUALでは、左右バランスのほか、実際には存在しないリアスピーカーの仮想的な位置決め、HRTF(頭部伝達関数)を用いた聴感上のリアスピーカーの位置と、プログラム上のリアスピーカーの位置の補正といったことが調節できる。D-RANGEのパネルでは、ダイナミックレンジを圧縮することで、家庭等の環境でも聞きやすい状態を作ることが可能だ。ダイナミックレンジが広いということは、微小音から大音量までの幅が広い、ということを意味する。ダイナミックレンジが広いソースを、微小音に合わせたボリューム設定で聞いていると、突然の大音響でビックリ、周囲に迷惑をかける、といったことが起こり得る。それを防ぐために、あえてダイナミックレンジを圧縮する。また、7バンドのイコライザーも備え、ROCK、POPSといったプリセットだけでなく、自分でセットしたイコライジングをメモリに記憶することができる。
VIRTUALの設定画面 | D-RANGEの設定画面 | 7バンドのイコライザーを搭載 |
こうした調整は、本機をPCにUSB接続しない限り行なうことはできない。できるのは、上記の様々な調整項目の組み合わせを、プリセットとして予め設定しておき、それをリモコンで呼び出すことくらいだ(A、B、Cの3ヵ所)。
USBマルチチャンネル設定 |
本機のもう1つの機能は、USBオーディオだ。DP-U50/AP-U70は、16bitの2チャンネルステレオ(44.1KHz/48KHz)だけでなく24bit2チャンネルステレオ(44.1KHz/48KHz)、4チャンネル(16bit、44.1KHz/48KHz)、6チャンネル(16bit、44.1KHz/48KHz)の各モードで再生(レンダリング)と録音(キャプチャ)をサポートする(6チャンネルモードの録音のみ不可。また2チャンネル、4チャンネル、6チャンネルの各モードはユーザーが切り替えを行なわねばならない)。ただし、どのOSでもすべての機能をサポートしているわけではなく、制限がないのはWindows 2000 ProfessionalとWindows Meの2種類だけだ(詳細は技術情報を参照)。
また、Windows Meでは、UHCI仕様のUSBポート(IntelとVIAのチップセットが該当)を採用しているシステムにおいて、6chモード設定時にノイズが生じることがあるとされている。筆者が試した限りでは、同じICH2チップを使ったIntel純正のマザーボードであるにもかかわらず、D815EEAでノイズが生じるのに対し、D850GBではノイズが生じない、という結果になった(もちろん繰り返し何度かOSと本機のインストールを行なっている)。
ただし、これが実際に問題になるのは、6chの再生をサポートしたもの、すなわちDVDの再生時のみと言って良い。現時点ではWinDVD 2000とPowerDVD VR-Xで、本機をUSB接続してドルビーデジタルの6ch(5.1ch)再生ができることになっている(DTSは不可)。そのためには、本機のUSBオーディオを6chモードに設定し、ソフトウェアDVDプレーヤー側でも6chデバイスを選ぶ必要がある。
筆者がPowerDVD VR-Xで試したところ、音声出力オプションに「サウンドカードの6スピーカー出力」という選択肢が現れ選択可能になる。が、果たしてこの状態で本当に5.1chのストリームが再生ができているのか、確認することができなかった。S/PDIFによる接続では、ドルビーデジタルの5.1ch出力の再生時は、フロントパネルにドルビーデジタルのマークと5.1chのマークが表示されるのだが、USB接続ではこれらの表示が現れなかったからだ(聴感上、サラウンド効果が得られているのはわかっているのだが、チャンネル数まで言い当てる自信はない)。
というわけで、どうもUSB経由のドルビーデジタル再生には疑惑? が残るのだが、以前も述べた通り、筆者はS/PDIFつきのサウンドカード愛好者なので、あまり気にならない。というより、実は仕事マシンとDP-U50間の接続は光ケーブル1本だけで、USB接続はしていない(AUX1)。今のところ、イコライザーの変更など、どうしても必要な時は実験マシンにDP-U50をUSB接続し、付属ソフトをインストールして、そこからコントロールしている。筆者はUSBオーディオ機能を必要としないし、余計なソフトを仕事マシンにインストールしたくないからだ(サウンドカードとUSBオーディオの両立は、コントロールパネルの「オーディオ」アプレットを用い切り替えることで可能だが)。とりあえず、YMF744の光デジタル出力(S/PDIF)で、DTSを含め、マルチチャンネルのバーチャル再生はできている。
唯一ひっかかるのは、ヘッドフォン使用時にサラウンド音場がライセンス会社の認定がとれていない状態なのではないか、という点だ。別になければ困る、というものではないのだが、以前の環境が少なくともドルビーラボラトリーズの認定をとったものだっただけに、ひっかかるのである。だが、これは全く別のアプローチで解消できることに気づいた。それは、ソフトウェアDVDプレーヤーのドルビーヘッドフォン機能を用いることだ。ドルビーヘッドフォン対応は、夏モデルでSoftDVD MAX 2000が先陣を切ってサポート、この冬モデルで他社のソフトウェアDVDプレーヤーもこぞってサポートした。この機能は、ドルビーデジタル対応タイトルの仮想サラウンド再生を、ソフトウェアのみで行なうもの。もちろん、ドルビーラボラトリーズの認定がとれている。
ソフトウェアDVDプレーヤーの音声出力をドルビーヘッドフォンに設定し、そのまま2ch音声としてWave Out経由でS/PDIFにリダイレクトし、DP-U50に入力する(仮想サラウンドにデコードされた時点で、サウンドは2chになっている)。このソースを、DSPを使った音場プログラムを介さず、そのままヘッドフォンにスルーすれば、ドルビーヘッドフォンの環境が得られる。一般的なサウンドカードのアナログ出力では、ソフトウェアDVDプレーヤーのドルビーヘッドフォンも、ノイズに悩まされたり、音量が十分でなかったりすることが多い。DP-U50をDAコンバータ兼ヘッドフォンアンプとして使うことで、ノイズから完全に分離され、ノイズフリーのサウンドをDP-U50でいくらでも増幅できる、というわけだ。
とりあえず、現時点での筆者のDP-U50利用はこのレベルだが、一度ヒマができたら、じっくりとサラウンドパラメータの調整や、イコライザーのカスタマイズをしてみたいと思っている。その結果がうまくいけば、仕事マシンとDP-U50をUSB接続したくなるかもしれない。ただ、だからといってYMF744ベースのサウンドカードを抜くことは、決してないだろう。
□関連記事
【10月5日】ヤマハ、DTSに対応したUSBオーディオアンプ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001005/yamaha.htm
(2000年12月13日)
[Text by 元麻布春男]