第81回:次世代モバイルへのステップとなった2000年



 毎年12月もこの時期になると、1年を振り返ったり、来年の予想をしたりといった記事が増えてくる。締めくくりとしてその年を総括する、といった意味合いもあるが、むしろネタ不足と年末進行に悩まされる、年末のコンピュータ出版業界特有の事情が大きく影響している。

 師走の忙しい時期に製品発表や大きな取材日程が少なくなるのは当然として(これは年末だけではなく夏休み時期にもあり“夏枯れ”と業界内では言われる)、印刷業界が年末年始休業を行なうために、すべての日程を前倒しで行なうため、通常の編集日程が取れないという事情もある。12月3日に締め切りのある雑誌が、次の締め切りを20日ごろに、といった具合だ。軽く10日以上は縮める計算になる。

 少々いいわけじみた出だしになってしまったが、この連載も今年はあと2回、今回は1年を振り返りながら話を進めてみたい。


●根強い人気を保ったノートPC

 昨年最後の連載で'99年を振り返ったとき、「ノートPCは持ち歩かないものの座を獲得?」という中見出しを付けたが、見事に“今となっては恥ずかしい過去”になってしまった。そこでも述べているように、僕自身がノートPCを捨てるつもりは毛頭なかったのだが、結局ほとんどのユーザーはノートPCを選んだ。

 もちろん、中にはハンドヘルドPCで十分といった意見もメールでたくさん頂いたが、従来のユーザーはPCの便利さを捨てられないから、新しいユーザーもインターネット技術の進歩に追従できるかどうかの不安から、汎用性の高いパソコンを選んだようだ。

 しかし、ノートPC、特にサブノートPCに大きな変化が現われたことが、2000年後半にかけてのサブノートPC市場拡大に繋がったのではないだろうか。サブノートPC市場はPC市場が拡大する中、出荷量はほぼ横ばいだったが、その理由がフォームファクタではないことがある程度証明されたと思う。


●サブノートPCのブレークスルーは価格とバッテリだった?

 サブノートPC伸び悩みの原因として僕が挙げていたのは、持ち歩くことが前提でありながら駆動時間の短いバッテリ性能、レジューム速度の遅さから来る使い始め時のかったるさ、そして機能面ではフルサイズより劣るのに高い価格だった。多少自由度が劣っていたとしても、常にバッテリを気にしたり、重い予備バッテリを持ち歩くことを考えれば、外出先ではアプライアンスでもイイや、と考える人が多くてもおかしくはない。

 小さくて軽い、あるいは薄いといったフォームファクタにだけこだわった製品が多すぎ、ユーザーに対して積極的に使い方の提案を行なったり、より簡単にモバイルしてもらう提案性に欠ける製品が少なかったのも一因だろう。

 今年の年末商戦に登場したサブノート(ミニノート)PCは、一様に20万円を切る価格帯に製品をラインナップし、それぞれ個性ある顔を演出した。元々人気の高かったVAIOノートC1が売れたのは必然として、PHS内蔵や横長画面を利用したソフトウェアを開発するなどの工夫を施した富士通のLOOXもスマッシュヒット。実際の売上には繋がっていないようだが、反射型液晶パネル採用で10時間駆動を実現したNEC LaVie MXも新鮮な話題を提供してくれた。


●Transmetaが変えたモバイルプロセッサ

 こうしたブレークスルーが導き出された技術的な要因として挙げられるのが、TransmetaのCrusoeだ。Crusoeの話はもう飽きた、と言われるような気がするほど、このプロセッサは多くの話題を振り撒いた。

 思ったほどバッテリ性能が伸びないという話もあるが、以前からこの連載で取り上げているように、Crusoeの良さはバッテリ性能が伸びることではなく、製品仕様の自由度が増すことで、設計者が意図した製品を作りやすくなることにあると思う。

 Crusoeがなければ、VAIOノートC1やGT、LOOX、LaVie MXなどは登場しなかっただろう。バッテリは従来と同程度で、小さく軽い製品を作るというのも選択肢だろうし、低消費電力を生かして液晶パネルも反射型にするという挑戦もまた選択肢なのだ。かつてのサブノートPCと比較すれば、それらからユーザー自身が選べる、という大きな違いがある。

 また「モバイルユーザーが求めているものはプロセッサパワー」として譲らなかったIntelが、低消費電力に目を向け始めたのもCrusoeが登場したからなのは明白だ。モバイルユーザーはプロセッサパワーを求めているのではない。求めているのは自分にフィットする製品を選択できるだけの多様性なのだ。

 まだ低消費電力プロセッサへの注目は始まったばかりだ。ユーザーフィードバックを元に作られる次世代、次々世代の製品にも期待したい。


●モバイル向けサービスの充実

 携帯電話からもPCからも、さまざまな情報をサーバーに預かってもらい、同じ情報をさまざまなデバイスから参照できるサービスが一気に普及した。特にiモードからでも閲覧可能とするサービスは、もはや常識といえる。商用のものだけではない。僕が個人的に利用しているフリーの掲示板CGIも、iモードとWAPに標準対応しているぐらいだ(C-STATIONで公開中のC-BOARDというプログラム)。

 事あるごとに取り上げてきたXMLに関しても、業界への浸透は素早く進んでいる。前回紹介したSyncMLが普及すれば、ネットサービス間と異種端末やブラウザの相互運用性が大きく向上し、個人向けのインターネットリポジトリサービスも増加してくるだろう。個人向けリポジトリサービスというとfusion oneが広く知られているが、そのfusion oneは先日有償のより大きなディスク容量をサポートするサービスの開始を発表しており、その使い道が広がっている。今後は日本におけるライバルの登場に期待したい。

 もっとも、この分野が成長するためには、ワイヤレスだけではなく、自宅からも会社からも常時サーバとアクセスできるインフラ整備が同時進行してくれなければならないのだが。


●閉塞感を脱したか、その真価は2001年に

 携帯電話のIP接続では先行した日本はモバイル先進国であるといえる。が、一方で“PC”をキーワードにしたとき、'99年は日を追うごとにモバイル“PC”市場に対する閉塞感を感じた。それが2000年はプロセッサ技術の変化、充実しつつあるネットサービスなど、閉塞感を脱する要因が出てきたように思う。

 ただし、その真価が問われるのは2001年だ。周辺の要素技術や環境が整ってくる2001年に、どこまでユーザーに対して魅力的な提案ができるのか。2001年は一皮向けた製品が登場することを期待したい。

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2000 impress corporation All rights reserved.