|
第80回 :SyncMLが始動、これで悩みは解決? |
価格にしろ、機能にしろ、デザインにしろ、それぞれはトレードオフの関係にある。消費者側から見たPCのメリットの1つに、複数ベンダーの製品を比較検討し、自分に合った製品を選択する自由があると思う。僕が望みたいのは、選ぶ自由を与えてくれること。どれを選んでも同じでは意味がない。僕はニーズにさえ応えてくれるなら、少しばかり高い金額を払ってもいいと思っている。逆に価格こそがすべてという人もいるだろう。選べることが重要なのだ。
これらについては、ユーザーグループやPCベンダーに話を聞くことができれば、再度取り上げたいと思う。
●SyncMLが正式リリースへ
エリクソン、IBM、ロータス、モトローラ、ノキア、サイオン、パーム、スターフィッシュソフトウェアの8社によって今年2月に設立された業界団体の「SyncML」が、同名のデータ同期プロトコル「SyncML 1.0」を正式リリースした。XMLをベースに開発されたSyncMLは、マイクロソフトやオラクルなどの大手ソフトウェアベンダーの同意を取りつけていないが、事がうまく進めば情報の同期管理に頭を悩ます必要はなくなるだろう。
FusionOne、AvantGoといったインターネットリポジトリサービスを提供する会社もこの輪に加わっており、SyncMLの賛同企業は550社を超えている。たとえばFusionOneは、同社のサービスに対してSyncMLでアクセスできるよう、来年前半にはサーバ側の対応が行なわれる予定だ。そのほか、対応携帯電話、PDA、グループウェア向けアドオンなど、さまざまな製品開発が進むだろう。
XMLに関する話題はここでも何度か取り上げているが、構造化された情報をインターネット経由でやり取りするために、拡張可能なタグ言語でデータベース化できるのが特徴だ。といっても、さっぱりわかりにくいが、要は異なるシステム同士を容易に結ぶことができる仕組みと考えて差し支えない。
しかしXMLはXMLスキームを定義すれば構造化されたデータのやり取りは可能だが、もう少し俯瞰してアプリケーションを眺めたときに、どのような手順で処理を進めるかまでは決められていない。そこで、データ構造の標準化に加えて、実際の処理手順までを標準化する動きが活発だ。
たとえば、電子的な部品調達のためのバリューチェーンを構築するため、ロゼッタネットと呼ばれるプロトコルの標準化が行なわれ、現在も業界団体でバージョンアップが続けられている。
SyncMLは情報を同期するために必要なデータ構造の標準化だけではなく、同期を行なうために必要なやり取りの手順が決められている。このため、SyncMLに対応さえしていれば、利用しているデバイスやアプリケーションの種類に依らず、同じ情報を共有可能になる。
●SyncMLで何が変わるのか?
この連載で以前、インターネットの情報倉庫をXMLベースで作ることにより、さまざまなデバイス、アプリケーションで共通の情報を活用できるようになると書いたことがある。インターネット上に、唯一のマスターデータベースとして、XML情報倉庫を置き、すべてのアプリケーションはそれを参照、あるいは同期した複製を利用して処理を行なうようにする。
こうすれば、ユーザーはデータ形式や特定のアプリケーション実装に縛られず、自分が好きな道具を使うことができるようになり、PDAやネットアプライアンス、PC用情報管理ソフトは純粋に機能と使い勝手で競争するようになるだろう。もちろん、その場の状況に応じて同じユーザーが複数の道具から利用してもいい。会社ではPCから、家ではゲームコンソールを通じ、外出先では携帯電話やPDAを用いるといったことが考えられる。
これまでも、同じようなことが出来なかったわけではない。ただ、包括的なブラットフォームとして定義されていなかったため、デバイスやソフトウェアが互いの情報を共有できなかっただけだ。
たとえばDominoサーバーやExchangeサーバーはインターネット標準ではない、社内向け情報倉庫サービスと捉えることができる。さまざまなアプリケーションソフトがこれら2つをサポートしており、PalmデバイスやPocketPCなどでその情報を利用できるが、逆にいえば“それぞれ個別に対応していなければ利用できない”のが欠点だ。
SyncMLが普及すればデバイスやアプリケーションはSyncMLに対応しなければならないが、情報倉庫の種類ごとに対応する必要はなくなる。SyncML対応情報倉庫の中から、コストや品質などから自由に選択すればいいのである。しかも、いつか情報倉庫サービスを変更したくなってもその移行はすこぶる簡単だ。
●すべては普及度次第
ただし、SyncMLによるメリットは、対応する製品の数とそれらの普及度に大きく依存する。少なくとも、デバイスやアプリケーションが自由に選べると感じる程度にまで、メジャーなベンダーが参入してこなければならない。
こうした標準技術は、多数派となって相互運用性の高さから得られるメリットを実感できるようにならないと、なかなかその良さを理解してもらえないからだ。日本ではNTT DoCoMoをはじめとした携帯電話のネットワークオペレータが対応製品を端末ベンダーと作っていくのか。また、.NETで独自路線を行くと思われるマイクロソフトが、気持ちを翻意させてSyncMLに賛同するかどうかがカギとなるだろう。
もちろん、実際にどのように情報倉庫を利用させるのか。アプリケーションとして魅力的なものになる必要があることは言うまでもない。SyncMLが情報同期の標準化をうまく時代の波に乗せることができれば、そこにはデバイス、サービス、それぞれの選択の自由が待っている。
□SyncMLのホームページ
http://www.syncml.org/news.html
[Text by 本田雅一]