元麻布春男の週刊PCホットライン

Pentium 4システムを検証する:後編


●投げ売り状態のPC700 RIMM

 前回、ついに稼動した筆者のPentium 4システムだが、Pentium 4の登場により面白い現象が起きている。それはPC700 RIMMの値下がりだ。11月25日時点での128MB PC700 RIMMの最低価格はなんと9,999円。PC800のおおよそ半額で、今年の夏には25,000円以上していたことを思うと、かなりの値下げだ(翌週の12月5日では少し戻したが、それでも11,800円だ)。

 この現象の最大の理由は、Pentium 4対応のチップセットであるi850がPC700 RIMMをサポートしないことだろう。マザーボードに添付されているマニュアル、IntelのWebサイトなど、どこを見てもi850がサポートするのはPC600 RIMMとPC800 RIMMだけで、PC700 RIMMは全く登場してこない。PC700 RIMMは、いわば見捨てられた形になってしまった。こんな未来のないメモリは在庫しててもしょうがない、というわけでPC700 RIMMは投げ売り? になっているのかもしれない。

 ところで、筆者の手元にはPC700 RIMMをサポートしたi820搭載マザーボード、Intel VC820が2枚もある。1枚は自分で購入したもの、もう1枚はCC820(MTH付きi820マザー)の交換プログラムで入手したものだ。VC820を購入した際に同時購入した128MB PC800 RIMM、交換プログラムで入手した128MB PC800 RIMMともに、現在はD850GBにインストールされており、2枚のVC820はメモリを奪われた格好になっている。確かに初期のVC820には一部不安定さが見られなくもなかったが、BIOSを更新するに従い安定性の不安は解消、実験マシンがPentium 4に移行したことに伴い余剰となったKatmaiかCoppermineを組み合わせて、次の仕事マシンに使うのも悪くないと思っていたところだった。安いRIMMがあるのなら、それはまさに渡りに船なのである。

 D850GBと違いVC820は、PC600、PC700、PC800の3グレードすべてをサポートする。FSB 100MHzのプロセッサとの組み合わせではPC700メモリはPC600相当になってしまう(本来のメモリバスクロックである356MHzではなく、PC600の300MHz動作となる)が、FSB 133MHzのプロセッサであれば、何の問題もない。PC800 RIMMに比べれば、多少は性能が下がるハズだが、一般的なアプリケーションで差は体感できないハズだ。Pentium IIIのP6コアは、メインメモリやFSBの変化にあまり影響を受けないことがわかっているし、そもそもプロセッサにはキャッシュメモリが2段も入っている。キャッシュの効かないストリーミング系のアプリケーションはともかく、筆者が仕事をする上で、支障があるとは思えない。というわけで、早速128MB PC700 RIMMを2枚買ってきた。



●PC700 RIMMとPC800 RIMMを混載させてみる

 手元にPC700 RIMMが2枚揃うと、どうしても確かめてみたいことが出てきた。それは、PC700 RIMMをi850(あるいはD850GB)で使うことは、本当にできないのか、ということだ。通常、メモリは高速なグレードのものを低速なグレードとして使うことができる(たとえばPC133 SDRAMをPC100 SDRAMとして使うことは可能)。これは、往々にして高速なチップと低速なチップが製造上は同一で、選別やテストでグレードがわかれていることでも明らかだ。もしPC700 RIMMが使えないのだとしたら、それはRDRAMチップそのものの問題ではなく、RIMM上のSPDの情報の問題であり、それを正しく扱えない(PC700 RIMMをPC600 RIMMとしてメモリコントローラをプログラムできない)BIOSの問題だと思ったのである。

 そう思ったら、これ以上考えるよりは実際にやってみれば良い。というわけで、D850GBにPC700 RIMMを組み合わせてテストすることにした。最初は128MB PC700 RIMMを2枚インストールしてみた。すると、システムはあっさりと立上り、画面1のようにPC700 RIMMはPC700 RIMMとしてシステムに認識された。画面2にあるように、Sandra 2001 Professionalも、この状態をちゃんと認識している(ただし、Sandraがメモリクロックを357MHzとレポートしている点には疑問がある)。この状態でSandraのメモリベンチマークテストを行なった結果が画面3だ。これを画面4のPC800 RIMMの時と比べると、明らかな差がわかる。PC800 RIMMでは1,371MB/s~1,475MB/sのメモリ帯域が示されているのに対し、PC700 RIMMでは1,100MB/s~1,121MB/sに過ぎない。これで少なくともPC700 RIMMがPC800 RIMMとは異なる種類のメモリとしてBIOSに認識され、PC800 RIMMとは異なるパラメータでメモリコントローラがプログラムされている、ということがわかる。

【画面1】
【画面2】
【画面3】
【画面4】

 この結果に気を良くした筆者は、調子にのって次のテストを行なうことにした。それはPC700 RIMMとPC800 RIMMの混載だ。2チャンネルあるi850MCHに混載させるには、チャンネル1とチャンネル2の両方にPC800 RIMMとPC700 RIMMを1本づつインストールする(バランス型? )、どちらかのチャンネルにPC800を2本、残るチャンネルにPC700を2本インストールする(アンバランス型? )の2通りが考えられる。だが驚くべきことに、いかなる組み合わせにおいても、システムは何の問題もなく立ちあがった。画面5はバランス型、画面6はアンバランス型の実装を行なった場合だ(RIMM1とRIMM3、RIMM2とRIMM4がそれぞれ同じチャンネル)。もちろん、この時のメモリ帯域はPC700 RIMMを2本挿した場合と同じで、ちゃんと遅い方(この場合PC700 RIMM)にタイミングを合わせる格好でメモリコントローラはプログラムされている。

【画面5】
【画面6】

 となると残る問題は、実際にPC700 RIMMが動作しているクロックだ。画面7はバランス型でPC800とPC700をインストールした場合のSandraによる表示だが、これは明らかにおかしい。同一のチャネル上にありながら、PC800 RIMMは400MHzで、PC700 RIMMは357MHzで駆動されているようにリポートされている。1つのチャネルが2種類のクロックで駆動されていることなど、あるハズがない。おそらくSandraは、メモリの情報をRIMMのSPDから読み出しており(ひょっとするとBIOSという可能性もゼロではないが)、示される数字はメモリコントローラの状態を反映していないものと考えられる。つまり、PC700 RIMMが356MHz(357MHzも同じことだが)で動作している保証は何1つない。

【画面7】



●PC700とPC800の性能差はそれほどない

【図1】
 この疑問は手元にPC600 RIMMがあれば、すぐにわかることなのだが、残念ながら筆者はPC600 RIMMを持っていない。秋葉原でもPC600 RIMMを見かけることがほとんどないため、買って比較するということも不可能だ。だが、筆者はPC700 RIMMはPC600と同じ300MHzで動いているのではないかと思っている。図1はVC820のマニュアル(Technical Product Specification)から抜粋したメモリバス周波数の項だが、i820 MCHはFSB 100MHzの時にPC700が300MHz動作になることが明記されている。i820とi850でメモリコントローラの基本的な部分に変更はないと筆者は考えており、Pentium 4のFSBも100MHzである(データレートは4倍で400MHz相当だが)ことと合わせて、PC700 RIMMはクロック300MHzで駆動されていると推定しているのである。


 では、PC700/PC600とPC800の間にはどれくらいの性能差があるのだろう。メモリ帯域についてはすでに触れた通りだが、必ずしもメモリ帯域が性能に直結するわけではない(ストリーミング系のアプリケーションは影響を受けやすいが、一般的なアプリケーションはプロセッサが内蔵するキャッシュメモリで、メインメモリの性能差はほとんど相殺される)。ここでは一例として、3DMark 2000の結果を表に示しておこう。測定に用いたハードウェアの構成は前回と同じだ。この差を大きいと見るか、小さいと見るかは人によって違うのだろうが、筆者個人は悪くないと思っている。256MB、つまり128MBのRIMMを2枚買うとして、PC700とPC800の価格差は2万円以上ある。Pentium III 800EB MHzやAthlon 900MHzが買えてしまう価格差ほどの性能差はないと思うのだがどうだろうか。

Optimized Pentium III
PC700PC800
3DMark Result60666372
CPU 3D marks403421

D3D Hardware T&L
PC700PC800
3DMark Result73787491
CPU 3D marks590606



●売れ筋メモリの価格変動は大きな進歩?

 もちろん、PC700 RIMMをPentium 4用のメモリとして考えた場合、Intelの公式なサポートのないメモリである、ということは忘れてはならない。どんなに問題なく動作しようと、PC700 RIMMはIntelがバリデーションしていないデバイスなのである。筆者のようにi820ベースのマザーボードを持つユーザー(おそらくは少数派だろう)なら心配ないが、Pentium 4用に購入する場合はリスクを負うことを常に覚えておく必要がある(たとえば、BIOSを更新したところ、エラーとなり起動しなくなるなど)。

 少なくとも現行のマザーボードやBIOSは、問題なくPC700 RIMMを扱うことができる。筆者は今回のテストにおいて、ただの1回もハングや青画面を経験していない。率直に言えば、初期のVC820やCC820より安定度は上だと思う。なのになぜIntelはPC700 RIMMのサポートを止めてしまったのか。しいて理由を考えてみると、1つはバリデーションのコストだ。バリデーションという、人件費の比重の高い作業を省略することで、少しでも安価にしたい、というのは考えられる話だろう。前回も触れたように、Pentium 4マザーボードには、いくつものコスト高要因がある。なるべくならバリデーションも最低限にして、できるだけ安く提供したい、ということはあるかもしれない。

 もう1つ考えられるのは、ここにきて本当にDirect RDRAMの歩留まりが向上しているのかもしれない、ということだ。CC820の交換プログラムの時は、交換するVC820に添付するメモリに関して、IntelはPC800を保証できなかった。しかし、Boxed版Pentium 4の販売に際しては、バンドルされるメモリがPC800であることを保証している(お金をとる以上、箱を開けるまでPC800かPC600かはわからないという、宝くじみたいなことはやりにくかろうが)。PC600 RIMMを市場で見かけることがほとんどないこと(歩留まりが悪いのであれば、PC800より大量に出まわってもおかしくない)、PC800 RIMMの市場価格がここにきて値下がりしていることも、歩留まりの向上を裏付けている可能性がある。確かに、売れ筋ではない64MB RIMMやECC対応のRIMMの価格が高いこと、需要はあるに違いない256MB RIMMの価格が下がってこないことなど、歩留まりの向上と無縁に見える動きもあるが、そもそも価格が市場で変動するということ自体、RIMMではあまりなかったことだ。売れ筋と思われる128MB RIMMの価格が動くようになっただけでも大きな進歩なのかもしれない。何はともあれ、筆者はテストを終えたPC700 RIMMを、ありがたくVC820で使わせてもらうつもりだ。


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(2000年12月6日)

[Text by 元麻布春男]


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