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●ヒートシンクの固定方法が変更されたPentium 4
前回購入したPentium 4だが、実物を手にしてみると、事前にIDF等で聞いていた説明と若干異なる部分があることに気づく。まずPentium 4だが、リテール版に含まれているのは、Pentium 4プロセッサ、ファン付きのヒートシンク、シリコングリース、2本の64MB PC800 RIMM、取り付けマニュアル、といったもの。FC-PGA版Pentium IIIと違い、ヒートシンクを固定するためのバンドが含まれていないが、これはPentium 4からヒートシンクの固定法が変わったためである。ヒートシンクを固定する「リテンション」は、プロセッサのパッケージではなくマザーボードにバンドルされる。
図1:EMI GND Frame |
●Intel 850搭載Pentium 4用マザーボード「D850GB」
同時に購入したD850GBは、Intel純正のi850マザーボード。かなり大型のATXマザーボードだ。展示会等で見たプロトタイプとは、一部のコンデンサが変更になっているものの、大きな変更は見当たらない。現時点での秋葉原での価格は2万円台の後半と、かなり高価だが、それにはチップセットの価格が高いこと、基板サイズが大きいこと、6層基板であること、といった事情が影響しているものと思われる(もちろん、初物というプレミアムも含まれているだろう)。サポートするプロセッサに、リリースされているPentium 4 1.4GHzと1.5GHzに加え、1.3GHzがあることが意味深だ。1.3GHzのリリースはかなり近いのだろう。
また、オーディオとLANを搭載し、CNRスロットが省略されたD850GBALもラインナップされている。おもしろいのは、D850GBが「Desktop Board」とされているのに対し、D850GBALは「Workstation Board」とされていることだ。どうやらD850GBALは、最初はAGP Pro50スロットの採用が企画されていたらしいが、結局D850GBもD850GBALも、同じ通常のAGP 4X対応スロットになったようだ。なお、このAGP 4X対応スロットは、1.5V専用であるため、初期のAGPカードを利用することはできない。AGP 4Xモードは1.5V動作が必須であるため、AGP 4Xモードに対応したビデオカードであれば、間違いなく利用することができる。
D850GBALのオーディオ機能は、ICH2のAC'97コントローラに、AC'97対応CODECを組みあわせたもの。これまで必ず用意されていた、専用のオーディオコントローラ(Creativeやヤマハ等のオーディオコントローラ)を用いたオプションは、もはや提供されない。MIDI/ゲームポートもD850GBALでは廃止されており、COMポートが1ポートに減らされていること(D850GBも同じ)とあわせ、レガシー排除の傾向が強まっている。その代わり、D850GB/D850GBALはUSB 1.1ポートを4ポート提供できるのだが、そのためのケーブル(2ポートを前面パネルに提供するためのケーブル。これがないとI/Oシールドの2ポートしか使えない)はリテール版マザーボードには含まれていない。なお、基板上にはUSB 2.0対応のコントローラ(NEC製)を実装するための空きパターンもあるのだが、それがいつになるかはMicrosoftによるOSサポートがいつになるかにかかっている。
●従来のATXマザーボードと大きく異なる「D850GB」
さてD850GBは、2つの点で既存のATXマザーボードと大きく異なる。1つは対応した専用の電源が必要になること、そしてもう1つは冒頭でも触れたプロセッサのヒートシンクの取り付け方法が変更になったことだ。まず電源だが、Pentium 4ではATX12Vと呼ばれる電源ユニットが必要になる。ATX12V電源が既存のATX電源と異なるのは、2×2の12V供給コネクタと、1×6の3.3V供給コネクタが増えることだ。前者はプロセッサのレギュレータ(VRM 9.0準拠)に供給され、後者はメモリの電源として使われる。つまり、ATX12V電源は既存のATX電源のスーパーセットであるため、ATX12V電源をPentium IIIやAthlonのマザーボードで用いることは可能(12Vと3.3Vのコネクタが余る)だが、既存のATX電源をPentium 4マザーボードに用いることはできない。
ヒートシンクを固定するために、Pentium 4ではリテンションと呼ばれる樹脂製のパーツと金属製のクリップを用いる。中央のプロセッサをまたぐようにヒートシンクをリテンションの上に乗せ、リテンションのツメにひっかけるようにクリップで止める。この方式は、ソケットのツメにバンドをひっかける既存の方式に比べ、ヒートシンクを真っ直ぐ降ろすことができるため、プロセッサを傷める危険が少ない。
このリテンション、クリップともにプロセッサではなくマザーボードに付属するのだが、問題はリテンションをどうやってマザーボードに固定するかだ。当初、聞いていた話では、Pentium 4のリテンションは、Slot 1プロセッサのリテンション同様、マザーボードに対しプラスチック製のファスナー(ピン)のようなもので固定できる、ということだった。ただし、これでは大手PCメーカーが行なう振動テストをクリアできない(Pentium 4のヒートシンクは最大450gにもなるため、リテンションのピンが抜けたり、最悪マザーボードに亀裂が入ることさえ考えられる)。そこで、シャーシにリテンションを固定するための穴を4つ新設し、そこにマザーボードを固定するのと同様なスペーサーを取り付け、上からネジ止めする、というオプションを用意するということだった(Intelとしては、シャーシに穴を用意することを強く推奨するが、強制までは難しいのではないか、という話であった)。
しかし実際に発売になってみると、CPUやマザーボードのマニュアル、さらにはWebでの情報などのすべてから、マザーボードにリテンションを固定する話はなくなり、リテンションは必ずシャーシのスペーサーに直接ネジ止めするようになってしまった。発売までに、ケースベンダーや、サードパーティのマザーボードベンダーの協力を得られることが確実になったのだろう。もちろん、この方法がより確実であることは間違いないのだが、ユーザーは従来のケースが利用できなくなり、新たな投資が必要になるし、マザーボードメーカーはプロセッサソケットの位置を事実上決められてしまう。ASUSのP4Tのように、別に固定用のボードを用意することも可能だが、これはコスト高に結びつく。デメリットもあるわけだが、ユーザーとしては、事実上Pentium 4には新しいケースと電源が必須、と考えた方が良い。
というわけで、編集部が用意してくれたのが「YCC355」という名前で売られているケースだ。Pentium 4対応をうたうこのケースには、350WのATX12V電源が付属、シャーシにリテンション固定用の穴が用意されている。ただし、初期のものであるせいか、リテンション固定に必要な4個の余分なスペーサーと、リテンションをスペーサーに固定するネジ(リテンションを貫通して止めるため、マザーボード固定用より長いネジが必要になる)が付属していなかった。スペーサーはマザーボード用のものを間引きして使うことで間に合わせるとして、リテンション固定用の長いネジを別途用意する必要があった(筆者は、スペアとして持っているスペーサーを用いた)。そうした問題はあったものの、ケース自体は、シャーシを後部から引き出せる、ケースの開閉にネジ回しが不要、豊富なドライブベイ、増設のディスクコントローラにも対応したLED、電源ユニットのほかに背面と前面に用意された冷却ファンなど、ヘビーユースを前提としたものになっている。比較的大型のケースだけに、作業性も悪くない。
組み上がったPentium 4システム |
●必ずBIOSのアップデートとDirectX 8の使用が必要
Pentium 4のシステムを運用するに際し、Intelが強調していることが2つある。1つは、必ずBIOSの更新をすること、もう1つがDirectX 8をインストールすることだ。通常BIOSの更新をマザーボードベンダが推奨することはあまりない。要するに、動いているものは触るな、ということである。にもかかわらず、今回BIOSの更新を行なうよう強調しているのは、BIOSにプロセッサの不具合(エラッタ)を解消するコードが含まれているからのようだ(リリースノートには、Add processor updateとだけ記載されている)。以前からIntelのプロセッサには、エラッタの対策用にこの機能が用意されていたのだが、Pentium 4ではいきなり役に立った、ということになる。
一方のDirectX 8だが、これはDirectX 8にPentium 4のSSE2に対応したコードが含まれている、ということが理由らしい(つまりDirectX 7が動かないというわけではない)。それではどのくらい効果があるのか、筆者ならずとも気になるところだろう。というわけで、このシステムで最初のテストはDirectX 7とDirectX 8の差を調べる、ということにした。ハードウェアの構成は表1の通りだが、困ったことが1つある。それはDirectX 8に対応したベンチマークプログラム(ゲームも含めて)が、現時点で1つもないことだ。ここでは、やむなくDirextX 7対応のベンチマークプログラムである3DMark 2000を用いた。なお、本来CPUの性能を見るには、3DMark 2000のCPU Optimizationを「Optimized Pentium III」(T&Lの処理をSSEで行なう)にするべきだが、比較のために「D3D Hardware T&L」(T&LをGeForce2 GTSで行なう)の結果もとってみた。用いたディスプレイドライバは、DirectX 7対応で、公式にリリースされているDetonator 6.31で、解像度は1,024×768ドットで16bitカラー、リフレッシュレートは120Hzだ。
【表1:動作環境】
CPU:Pentium 4 1.4GHz
Memory:256MB PC800 RIMM
Motherboard:Intel D850GB
Graphics Card:NVIDIA GeForce2 GTS with 32MB DDR SDRAM
Sound Card:YAMAHA YMF754
LAN Card:Intel PRO/100+
HDD:IBM DTLA-307030
DVD-ROM:Creative PC-DVD 12X
FDD:第2世代SuperDisk(LKM-F934)
その結果が表2だ。ハッキリ言ってDirectX 7とDirectX 8の差は非常に小さい。CPU 3D marksのスコアは、DirectX 8にすることで1.9%向上する(Optimized Pentium III)。確かにD3D Hardware T&Lの場合(DirectX 8にすることで0.8%アップ)よりも向上率は大きいが、あまりにも数字が小さ過ぎて、誤差の影響が無視できず、DirectX 8にすることで性能が上がるとはとても言えない。もしやと思い、Internetで入手可能なリーク版のDetonator 7.17(DirectX 8対応と言われる)も使ってみたが、むしろ結果は悪くなった(このあたりが正式にリリースされない理由の1つなのだろう)。もちろん、この結果はベンチマークプログラムがDirectX 8に対応していない、ということが大きく影響しているハズだ。Pentium 4に対するDirectX 8の効果については、保留ということにしたい。
3DMark Result | 6,224 |
---|---|
6,372 | |
6,290 | |
CPU 3D marks | 413 |
421 | |
415 |
D3D Hardware T&L
3DMark Result | 7,442 |
---|---|
7,491 | |
7,399 | |
CPU 3D marks | 601 |
606 | |
599 |
(2000年11月29日)
[Text by 元麻布春男]