●デザインのスマートさでRio 600を購入
年に2回、春と秋に開かれるIDF。今年は秋……といっても8月の下旬に久しぶりにSan Joseで開催された。その折、衝動買いしてしまった? のがダイアモンドマルチメディアのRio 600だ。仕事柄、自宅で作業することの多い筆者は、あまりこうした携帯型のプレーヤーを必要としないのだが、パッと見でわりと格好良かったこと、価格が比較的安かったこと(Fry's San Jose店で$165)から、つい手を出してしまった。せっかく買ったからにはせいぜい使ってみようと思い立ち、ちょっとした外出の際も、極力ポケットにRio 600をしのばせてきた。それからかれこれ1カ月半、概ねこのデバイスの特徴がわかってきたつもりだ。
本機を購入するきっかけにもなったように、Rio 600のデザインはなかなかスマートだと思う。実際にはRio 600はそれほど小型のプレーヤーではなく、このクラスではどちらかといえば大型の部類だと思うが、デザイン処理が優れているためか、あまり大きさが気にならない。手元にはRio 300もあるのだが、デザイン、質感ともにRio 600がはるかに勝っている。32MBのメモリを内蔵したRio 600が、実売価格が国内でも2万円を切る、どちらかといえば低価格のプレーヤーであることを考えれば、デザインや質感は特筆に価するかもしれない(本機より安価なプレーヤーの大半はメモリが別売だ)。
残念なのは、付属の耳懸け式ヘッドフォンの質感が安っぽく(特にケーブル)、本体の質感に追いついていないことだろう。また、音質的にも必ずしもベストとは思えない。できればほかのものに変更したいのだが、サウンドバランスはこの耳懸け式ヘッドフォンを前提にされているようで悩むところである。MDR-D77や、MDR-EX70SLなど手持ちのヘッドフォンをいくつか試したが、サウンドバランスが著しく低音寄りになってしまった。なお、MDR-F1は比較的マッチングが良かったが、Rio 600とでは価格的にも、形状的にもバランスがとれない。
Rio 600が低価格を実現できたポイントの1つは、32MBのメモリを標準内蔵した上で、増設用メモリに汎用モジュール(Compact Flash、Smart Media、MMC等)を用いるのを諦めたことにあるだろう。代わりにバックパックと呼ばれる本体の裏ブタを交換することでメモリの増設を行なう。このバックパックはバッテリホルダも兼ねており、標準では単3乾電池1本を収納可能なものが添付されているが、オプションとして充電池を内蔵した32MB増設のメモリパックが11,000円で別売されることになっている。価格は、充電池込みなので単純にCompact FlashやSmart Mediaとは比較できない。
●デザインはいいが、デバイスとしての完成度は低い
さて、このRio 600を使っての感想だが、実用レベルに達してはいるのだが、デバイスとしての完成度がまだまだ低いということだ。ただし、これはRio 600に限らず、MP3プレーヤー全体に言えることかもしれない。まず不満を感じたのは、バッテリ駆動時間の短さだ。Rio 600のアルカリ単3乾電池1本で約10時間という駆動時間は、MP3プレーヤーとしてはそれほど悪くない。標準バッテリで4~5時間しか駆動できないプレーヤーが多いことを思えば、むしろ長時間再生が可能とさえ言えるかもしれない。また、某プレーヤーのように、再生中に本体がほんのり暖かくなることもなかった。しかし、最大のライバルであろうMDプレーヤーは、アルカリ単3電池1本で20~30時間は楽に駆動できる。リチウムイオン充電池を内蔵するものの中には、それだけで駆動時間が40時間を上回るものさえ存在し、単3乾電池との併用で駆動時間は70時間を突破する。
もう1つ、電源関係で不満なのは、バックパックを取り付けたままの状態にしておくと、かなり早いタイミングで電池が放電してしまうことだ。要するに、Rio 600を使った後、たとえ電源スイッチを切っておいても、そのままの状態で放置しておくだけで、バッテリがなくなってしまうのである。ひょっとすると、充電式のバッテリを完全放電するためなのかもしれない(考え過ぎ?)が、いわゆる家電製品ではあまり考えられないことだ。加えて、海外製品であるため、液晶ディスプレイに日本語を表示できないという問題もあるが、筆者はあまり気にしないことにしている。なお、国内販売される日本語版でもやはり日本語は表示できない。ただし、日本語については将来のアップデートでサポートされる。
完成度がまだまだと思うのは、ハードウェアだけではない。ソフトウェアも、まだ改善しなければ点がある。付属のRio Audio Managerは、CDのリッピング、リッピングしたデータの管理、Rio 600へのデータ転送をこなすソフトウェアで、CODECとしてはMP3とWMA(Windows Media Audio)の2種をサポートするのだが、どうもネットワークドライブにデータを置いていると、あまり調子がよろしくないようだ。
幸いRio 600は、まだベータ版のドライバではあるものの、Windows Media Player 7のポータブルデバイスに対応しており、Windows Media Player 7から直接データをUSB経由で書き込むことができる。ベータ版ゆえ、容量を越えた時のエラーメッセージがおかしい、といった問題はあるが、こちらはネットワークドライブにデータを置いていても、問題が生じない。ただし、Windows Media Player 7はかなり重いプレーヤーで、WMAを再生中にほかのアプリケーションを利用すると、音楽のテンポが乱れる、というマイナスもある(Rio Auido ManagerでWMAを再生しても、特に問題は感じない)。どちらを常用のプレーヤーにするかは(どちらでライブラリの管理を行なうか)、難しい選択だが、とりあえず現時点ではWindows Media Playerを主力にしている。ちなみに、CODECはWMAをメインにしているが、これはまだメモリ増設用のバックパックが入手できないため、少しでも圧縮効率をかせぎたい、ということが理由だ。
●MDプレーヤーにはかなわないMP3プレーヤー
というわけで、1カ月半あまりRio 600を使ってみて思ったことは、特定の条件を除くと、トータルでMDプレーヤーにはまだかなわないのではないか、ということだ。MDには、一応音楽鑑賞に耐えるレベルで録音ができる、というMP3プレーヤーがまだ実現していない機能があるだけでなく、商品としての高い完成度がある。国内であれば、メディアは安価だし、コンビニで買えるほど入手は容易だ。両方ともCDには音質的に及ばない(特にボリュームを上げていった時に、MP3やWMAはCDより早い段階でうるさく感じ始める)ものの、音楽を楽しめないクオリティでないことはハッキリしている。ただ、安定感という点で、MDの方に一日の長があるように思う。
以前であれば、MP3/WMAのような半導体オーディオには、データレートを下げることでMDにはできない長時間プレイが可能、というメリットがあったのだが、MDLPの登場でそのメリットは怪しくなってきた。ただし、MDLPの音質がどの程度なのかは、筆者はまだ聞いたことがないのでわからない。また、ハードディスクを内蔵したMP3の長長時間再生機は当分MD等では真似できないハズだ。
同様に、MP3/WMAにはCDからのリッピングに要する時間が、等速のダビングより圧倒的に速いというメリットもあったのだが、最近のミニコンポではCDからMDへの4倍速ダビングをサポートしたものが増えており、必ずしもCDからMDへのダビングに時間がかかる、ということはなくなっている。むしろ、メディアを交換する時間は、USBでデータをダウンロードするより短い、という側面もある。
MDより半導体オーディオが勝る1つのポイントは、振動では絶対に音飛びしない、ということだ。たとえば、ジョギングしながら音楽を聴く人(都内の道路では危なくて止めた方が良いと思うが、アメリカの街では結構見かける)には、半導体オーディオの方がベターだろう。
もう1つは、音楽データのダウンロードを行なうユーザーだ。MP3.COMやEMusic.COMのようなサイトあるいは、NapsterのようなPeer to Peerを前提にしたサービスでもよいが、こうしたサービスを利用するユーザーには、現時点ではMDより半導体オーディオが適しているのだろう。だが、それがずっと続くのかというと、よくわからない。ソニーはMDLP、音楽配信に共通のCODECとしてATRAC3を推進している。ソニーのMagicGate/OpenMGによる著作権保護を過剰と感じるユーザーも多いことだろうが、彼らにはコンテンツを持っているという強みがある。決着がつくのは、もう少し先になるのだろう。
(2000年10月11日)
[Text by 元麻布春男]